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進水台の仕組み〜潜水艦救難艦「ちよだ」進水式

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さて、平成28年10月17日に三井造船玉野で行われた
潜水艦救難艦「ちよだ」の進水式。
ウルトラ離れ業で無理くり出席させていただいたまでは良かったのですが、
式典前に言われたのは

「内部での写真はご遠慮ください」

という非情のお達し。

それにもかかわらずこの写真は何事か!?
と色をなす人がいるかもしれないので、なぜわたしが
岸壁から飛び降りる思いで撮ったこのたった一枚の写真を
挑戦的にもここに発表することにしたのか、説明いたしましょう。

控え室からバスで現地に向かう間にエスコートの1佐から聞いた

「工場内に入った瞬間から撮影禁止」

という無情のお言葉。
工場敷地の写真は「いずも」の引き渡し式が行われた
横浜のJMUでも禁止されていたのでそれはわかるとしても、
一般に許されている進水式の撮影までがなぜ?

あとから思い当たった理由があります。

お節介船屋さんの送ってくださった産経のニュース写真には、
玉野市が一般に広報して当日集まった市民の姿が写っていますが、
わたしたちの席は船を挟んで彼らの反対側にありました。

まず艦首の正面には執行者(この場合呉地方総監)始め、命名者、
テープカットを行うための台がビルの三階くらいの高さに設えられており、
右舷側が別の門から入ってきた一般客、そして左舷側にはテントが並び、
執行台に近い方から音楽隊、自衛隊・防衛省関係者、そして三番目が
わたしたちの見学場所となっていました。

周りにはこれまで防衛団体関係の会合でお会いしたことのある方、
それからやはり防衛団関係でご挨拶させていただいた顔見知りの
元将官の方々などもおられました。

(その中のお一人に、『いやー、どこにでも出没しますねえ』
とからかわれて顔を赤らめたのははここだけの話)

つまり、ぶっちゃけ(ぶっちゃけなくても)我々は賓客です。
要は、賓客が来賓席から身を乗り出して、あまつさえ大きなカメラで
写真を撮りまくるのは式典の格というか見た目にいかがなものか?
ということで敢えて「禁止」となっていたのではないでしょうか。

わたしがこれを確信したのは、周りの人たちが小さなデジカメや携帯で
艦の写真を撮っていても、全く制止されないのを見た時でした。



実は招待客の中に、これまで何度か自衛隊のイベントで見かけた、
いつも馬鹿でかいカメラ持参のアマチュアカメラマンがおられました。
この人はどうしていたのだろうと思っていたら、どうやら彼はなんと、
紅白の台の下に降りて進水式の一部始終を独自に撮影していたようです。

おそらく参加目的が撮影ということで独自に交渉したのでしょう。
この方が撮影を許されていたからには、進水式そのものが
撮影禁止の特定秘密事案でもなんでもなかったってことです。よね?

というわけで、皆がカメラを出して撮り始めた時に、わたしは
スパイがマイクロフィルムにこっそり資料を収めているときも
かくやというくらい緊張しながら、たった一枚写真を撮りました。

それがこれです。 


さて、皆が定位置に着き、周りの人たちと名刺交換などしていると、
顔見知りの元自衛官(偉い人)が話しかけてこられました。

「今日の進水式が見られるのはラッキーですよ」

なぜなら今日は進水台から滑り落とす本来の方法で行われるから、
ということなのですが、進水式ってそんなもんなんじゃないのかしら。
しかしながら地元経済界の重鎮氏によるとそうとも限らないようです。

「今は進水台から落とすのではなく、ドックに注水して浮かべるのとか、
簡単なのになるとくす玉が割れて終わり、というのもありますからね」



ちなみにこの日の進水式について説明しながらまいりましょう。
これは「ふゆづき」ですが、進水は同じ仕組みで行われます。

式典そのものは大変短いものです。
艦を引き渡ししたり、旗を艦長が受け取って全員が艦に乗り込み、
さらには防衛省関係者の訓示があったりその後出航したり、
という作業が全部行われる引き渡し式などと違い、進水式というのは

「艦名が発表される」

「支綱切断する」

「船が進水する」

これだけの式典です。
この三つを続けてやったとしたら正味3分もかかりません。 



呉音楽隊の演奏が場を華やかに盛り上げる中、
人々が日の丸と自衛隊旗を一旒ずつ渡されて席に着きます。
席といっても、時間が短いのでパイプ椅子はほんの少しあるだけで、
皆立ったままの見学となります。
 
式典はまず君が代の奏楽が行われます。
日本の国旗はすでに掲揚されています。
式台の上に立って、海上自衛隊東京音楽隊の歌手である
三宅由佳莉三等海曹がアカペラでの独唱を行いました。

彼女が岡山県出身なので参加していたのか、それとも
先日の神戸、この日の岡山、20日(あ、今日だ)の長崎と、
進水式の君が代独唱のために「君が代特別ツァー」
を行っているのかはわかりませんでした。

ちなみに、三宅三曹の君が代を聴くのは二回目ですが、確か2年前、
空自主催の観閲式のとき歌ったときとは段違いに声量も増え、
声に深みが出ており、さらにはフレーズとフレーズの間の間合いに
絶妙とも言える巧みさが聴いていて感じられました。

東京オリンピックでの彼女の君が代独唱も決してありえないことではない、
とわたしは実は思ったりしたのですが、さてどうなるでしょうか。


続いて、玉野市の市長(たしか)が挨拶し、その後、支綱切断を行う
防衛政務官の宮沢博行氏による挨拶が行われました。

わたしがこの日ご一緒した重鎮氏によると、進水式の支綱切断は、
慣例的に女性が行うことが多く、

出資銀行頭取や関係企業CEOのの姪か令室

などだそうです。
これを聞いたとき、わたしが進水式のテープカットをする可能性は
今生ではまずないものと思い知ったわけですが(泣)

ちなみに重鎮氏は”そういう立場の方”なので、奥方は何本もの「槌持ち」。

「夫婦げんかになった時にはかなり不利な状況です」

「それは凶器的な意味で__?」

「はっはっは」

あー、こんな冗談を言える(言わせる?)立場になってみたかった。



艦番号の「404」の上には紅白の幕で隠されている艦名が。
艦名は宮沢防衛政務官が

「ちよだと命名します」

と言った瞬間にするすると幕が上がりお披露目となります。
(ン?ということは誰か乗ってたってことか・・・)

それまで雑談していた元自衛官に

「艦名ご存知なんですか」

と聞いたところ、あっさりと

「知ってます。ちよだです」

とおっしゃったので、わたしは内心

(またまた〜、”ちよだ”ってもうあるじゃないー。
きっと勘違いしておられるんだわ)

とツッコミを入れていたのですが、元自衛官は間違っておらず、
つまり今回の救難艦は「ちよだ2号」であったことが次の瞬間わかりました。
 



会場に着くと、胸まである防水ゴムを着た造船会社の社員が
4人から6人くらい艦体の横の波打ち際に立っていました。

一連の作業を行うための係です。

挨拶が終わった後、巨大な艦隊を支えているのが「支綱だけ」
という状態にまで持っていくための作業が行われます。

まず、ピンを抜くとその上の砂が下に落ち、盤木が船底から離れます。
艦の重量は全て滑走台にかかっている状態。



滑走台の行き脚を止めるための支柱が
ジャッキを下ろして外されると、いよいよ艦体を止めているのは
トリガーだけ、という状態になります。
トリガーを固定しているのは安全ピンです。

ちなみに滑走台は鑑底にくっついたままボールの上を転がり落ちます。

 

そのトリガーを止めている安全ピン(本当にピンという感じ)を
外すと、艦体を支えているのは今やトリガーを固定している
支綱一本、という状態になります。

準備の段階でここまで行うので、式典の時間の半分がこれに費やされました。

しかるのち、宮沢政務官が合図とともに式台の中央に設けられた
テーブルのようなものを槌で叩きます。

 

すると、紅白のくす玉が割れ、中空からシャンパンの瓶が
艦体に叩きつけられ、失敗なく割れます。
同時に支綱が切断される、といった具合にまるでピタゴラスイッチ状態。 


支綱が切られると、支えていたトリガーが、この図によると、
「青」「赤」「黄色」の順番で下に落ちて外れ、これによって
支えるものがなくなった滑走台ごと艦体は重力に従い、
スロープを海に向かって滑り降りていくというわけ。 


 

実際は紙テープとともに紙吹雪が舞い、大変華やかです。

ところでですね。

写真が撮れないということでこの瞬間を見逃すまいと、
息を詰めてみていたところ、船台から船が滑り落ちる瞬間に
後ろから

「こっちみてくださーい!」

という声が。
そう、進水していくフネをバックにみなさんの記念写真を、
と気を利かせてくださったらしいアテンド係の自衛官が
カメラをまさにこちらに向けているではありませんか。


いや、はっきり言ってわたし、自分の写真なんてどうでもいいんですけど。
写真に撮れないのならせめてその瞬間をこの目で見たいんですけど。

そんな内心の叫びとは裏腹に、おそらくカメラを見ない人がいると
彼もシャッターが押せないであろうと、無理してそちらを向くわたし。
しかし、ああっ、後ろが、後ろが気になるうううう! 

誰かが

「早く見ないと行ってしまいますよ」

といい、次に振り向いた時には、艦首から色とりどりのテープを靡かせ、
「ちよだ」は埠頭から思いがけない速さで遠ざかっていくところでした。



続く(泣) 


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