横須賀軍港めぐりツアー。
出港してすぐは右手に米海軍基地の岸壁がありますので、
最初はずっと米軍艦艇を見ながら進むことになります。
横須賀湾の入り口を見ながら湾をぐるっと巡るころになると、
米軍でも自衛隊でもない敷地が現れます。
住友重機機械工業工場。
昔ここには浦賀造船所がありました。
日露戦争後、榎本武揚などが中心になって日本は
世界的な海運国になるべく、外国からの指導者を招き
百万円を投じてここ浦賀に造船所を造りました。
ここで戦前から戦後にかけて造られた船は1千隻にのぼります。
日産自動車追浜工場。
追浜というと、ここに海軍技術工廠があり、
あの有人ロケット戦闘機「秋水」が開発されたところです。
また、最初で最後のテスト飛行も、ここ横須賀の
田浦にあった追浜飛行場で行われました。
今ここに見えているのは専用埠頭で、
年間8万台がここから出荷されています。
今、出荷待ちの車が見えていますね。
で、これ。
アイクル、といいます。
リゾートホテル「アイクル」?
いえいえ、これは何を隠そうゴミ処理施設。
正式名称はリサイクルプラザアイクル。
横須賀のシンボル?として市民に愛称を募集したところ、
「リサイクル」と「愛」の造語である「アイクル」が当選。
おそらく日本で一番お洒落なごみ処理施設に違いありません。
このとき、ツアーガイドのお兄さんが
「前の海にたくさん鳥がいるでしょう?あれは餌を求めて・・」
と言うので写真を撮ってみたら・・・
これ、どう見ても鳥じゃなくて、ブイですよね?
今後このツアーに参加する方、もし解説が
「アイクルの前にたくさんの鳥が」と言っても信じないように。
だいたい、ごみ処理施設の前面の海に鳥が餌を求めてきてる、
っていかにもゴミを垂れ流してるみたいに聞こえるじゃないの。
さて、そうこうしているうちに、海自の基地前にやってきました。
5104 ふたみ型海洋観測艦 わかさ
5105 にちなん型海洋観測艦 にちなん
海洋観測艦とは気象・潮流・海底地形など海洋データ収集が任務。
そういうフネだからでしょうか、この「わかさ」は
海上自衛隊初の大型艦女性艦長が勤務したフネです。
この海洋観測船はほかに
「すま」「ふたみ」「しょうなん」の三艦があり、全て湾、海岸。
海洋観測艦のもっとも重要な任務は、
なんといっても海戦の一つの形態である「対潜戦」のために
海底地形や底質、磁気雑音などの自然環境をデータ化すること。
機雷、潜水艦などの戦闘行動の決め手はいかにこのデータを
蓄積しているかにかかってきます。
海底の地形、潮流は勿論ですが、地磁気、そして音響伝播の状況を
把握するために水質(温度・塩分濃度)なども調べるそうです。
軍事目的ですので、魚などの海洋生物については調べません(笑)
補助艦船ですので、通常は武装を持たずに航行します。
この「わかさ」の艦上どこを探してもCIWSや短魚雷などなど、
「飛び道具」はありませんね。
女性が艦長になったというのもこのあたりが考慮されたのかも。
ですから「ひゅうが」のように昨今砲雷長や航海長に女性が進出してきた、
というのは実は画期的なことなのです。
しょうなん型海洋観測艦 「しょうなん」AGS-5106
海洋観測船は基本的に皆横須賀を母港としているようです。
この「しょうなん」は就役3年目。
海洋観測船の中では最も新型の艦となります。
ただ(笑)
ご時世なのかなんなのか、建造の段階で大幅に予算を減らされ、
例えば先ほど停泊していた「にちなん」の半分弱の188億で建造。
日本はこういう「省エネ」「スリム化」は得意なんですが、それにしても
艦を建造するテーマが「節約」というのは・・・・。
これもご時世か、この技術によって静穏化を実現し、さらに
非常に操艦性能が優れているため、海洋観測において
音波の伝播状態をより正確に把握できるようになったのだそうです。
ブラボー日本の技術者たち。
名付け親は当時政務官だった参議院議員岸信夫。
それにしても・・・。護衛艦の名付け親って、
言っちゃなんだけど政務官ごときでなれたりするもんですか?
駆逐艦やヘリ搭載母艦じゃなくて海洋観測艦ぐらいなら、
まあ安倍ちゃんの実の弟だったりするし(!)
やっていただいでも構いませんよということなのかしら。
護衛艦の名付け親・・・・・
うーん、なってみたい(笑)
えのしま型掃海艇「ちちじま」 MSC-605
最初艦番号を調べると1983年、もう30年も前に除籍になった
「しさか」と同じ番号なので混乱しました。
これは我が海自の掃海艇の最新鋭艦。
解説の方が、
掃海艇の艦体はこれまで木造で、昨年竣工した
「えのしま」から、FRP素材(ガラス繊維強化プラスティック)が
日本でも採用されるようになった、という話をし、
「このツヤはプラスティック製だからなんですね〜」
と説明をしていました。
すがしま型掃海艇「つのしま」JDS TSUNOSHIMA MSC-683
桜の花と護衛艦はよく似合います。
「つのしま」型のときにはまだ艦体は木材です。
いまさらですが掃海艇の役目は機雷の敷設と除去、爆破。
重量が軽く、鉄素材を使わない艦体は、
喫水をできるだけ少なくし、かつ機雷に反応しないためにも
必須条件なのです。
「えのしま」型以降はすべてFRPになっていくと思われますが、
この「樹脂で本体を挟み込む」
という工法でつくられています。
簡単に言うと、樹脂で本体をサンドイッチしています。
(簡単すぎ?)
軽さが求められる大型素材、風力発電の羽や航空機の素材に
汎用されている方法です。
木造の艦体より艦の寿命が倍(15年が30年)に伸びるので、
結果からいうとコストパフォーマンスは良いのですが、
これまで木造の掃海艇を造る技術において日本は傑出しており、
その技術がFRP化によって消失することが危惧されているそうです。
「つのしま」艦上。
海中部分だけでなく煙突も非鉄素材。
表面を見てください。
成形した素材の線が浮き上がっていますね。
そんな説明を受けながら「ちちじま」の横を通り過ぎようとしたら、
甲板に当直士官がぶらっと出てきました。
米軍の艦艇では決してやってくれませんが、
(それどころか双眼鏡でこちらをガン見してたし)
基本、自衛艦の乗員は、この軍港めぐりツアーに向かって「帽振れ」してくれます。
ツアーが始まるなりガイドには「帽振れ」の説明を受けるので、
皆、甲板に人がいるとやたら手を振ってアピール。
それに応えて自衛官が帽振れしてくれると大喜びです。
護衛艦の皆さん(とくに士官)には、きっと
「ツアーには任務に差し障り泣ければ帽振れしてやってね」
と通達が出ているに違いありません。
だって、「皆様の自衛隊」ですから。
でも、いくら仕事が忙しくなくても、
一時間に一度来るツアーに毎回毎回楽しそうに帽振れするのは、
結構(気分によっては)面倒なことではなかろうかと
他人事ながらお察ししてしまいます。
ほら、この不承不承な様子・・・。
もしかしたら単なる照れ屋さんなのかもしれませんが。
海洋観測船の「にちなん」「わかさ」、
掃海母艦の「うらが」の艦名が一度に見られた瞬間。
同じ海洋観測船でも搭載設備がずいぶん違います。
「わかさ」の艦尾にはなぜかボートが係留されています。
艦体(『わかさ』と言う字の右側に縄梯子が降ろされていますね。
「にちなん」を通らず、ここからボートで乗り降りしているのでしょうか。
ところで、少し順番を変えて説明しましたが、
この海上自衛隊の基地にやってきてほどなく、
このような不思議な光景が現れました。
あれ?
米軍側岸壁の潜水艦ドックだけでなくここにも潜水艦が?
しかも・・・・・艦船に係留されている。
お母さんと手をつないでる子供、
あるいはペットと一緒?
とにかく、何やら可愛らしさに胸がキュンと萌える眺めです。
しかし・・・・何か変だと思いませんか?
潜水艦ドックでもないところに係留されている
停泊中の護衛艦には必ず揚げられる自衛艦旗がない
そう、この潜水艦はこの3月5日に除籍になったばかりの
はるしお型潜水艦SS587「わかしお」
だったのです。
案内のお兄さんが何度も言うところによると
「このツアーに参加した方はラッキーです。
退役した潜水艦をこのような状態で観られることは
滅多にありませんから!」
このツアーに参加したのが3月17日。
まだ退役して12日しか経っていない状態だったので、
このような状態で係留されていたということのようです。
ここでわかしおの艦体をアップしてみます。
自衛艦旗は付けられていませんが
代わりにこのような黄色いランプがあります。
この同じランプは艦尾にも観ることができます。
これは「退役した艦に付ける標識」。
さらに潜水艦の喫水線を見てください。
本来の喫水線であった部分が、白い線になって残っています。
これはつまり就役していたときの恒常的な喫水線で、
退役が決まり、艦内の「使えるもの」をリサイクルのために
皆持ち出したため重量が軽くなっているということなのです。
退役になった艦は保持されることはありませんから、
「わかしお」はこのあとスクラップにされるのを待っている状態。
しかし、「わかしお」と言えば・・・・・・・。
去年の10月。
エリス中尉が人生で最初の観艦式を見たときに
この「わかしお」はこうやって元気に訓練展示に参加し、
観衆を沸かせていたのです。
このとき「ドルフィン運動」をしなかったということで
やはり観艦式に参加していた読者のさくらさんなどと
この話題について盛り上がったりしたものですが。
(当社比)
掃海艇を見学してから、ツアーの船は少しだけ
来た水路を戻ります。
「わかしお」を係留しているフネは
うらが型掃海母艦「うらが」MST-463
掃海艇のためにヘリを発着させたり、掃海処分具を搭載したり、
掃海員のための減圧室などを装備しているフネです。
つまり、掃海艇たちの「お母さん」。
このお母さんが役目を終えた「わかさ」(よその子だけど)の手をつないで、
最後の日々を一緒に過ごしてやっているように見えて、
ついほろりとしてしまったのは、このツアーの参加者の中でも
おそらくエリス中尉だけではなかったかと思われます。
艦船や飛行機に夢中になる人のほとんどは、
意識するしないにかかわらず、実はこの
「擬人化・萌え」による思い入れが深いということかもしれません。
在りし日の勇姿。
さようなら、「わかしお」。
最後に逢えてよかった。
自衛艦旗のマストにしばし羽を休めていたカモメ。
横須賀軍港めぐりツアー、もうしばらく続きます。