今年の夏、ついに三年連続3度目の「ミッドウェイ」見学を果たしました。
当ブログでは3年前に始まった「ミッドウェイシリーズ」がいまだに
だらだらと続いているのを幸い(笑)以前の訪問から製作したエントリに、
今年の新しい写真と情報を付け加えながらお話ししていこうと思います。
「ミッドウェイ」左舷から艦首方向を見るとこんな風に見えます。
これが「ミッドウェイ」最終形、つまり現在と同じ形となりますが、
上の写真はミッドウェイを右向きのイルカのシェイプに喩えると、
おでこのあたりに立って嘴をのぞいていることになります。
航空機が発着する甲板の脇にあり、待機したり避難するための
この部分をキャットウォークCat walk と呼びますが、軍事用語ではなく、
単に機関室や橋の片方にある細い通路のことを意味する言葉です。
ファッションショーでモデルが歩く通路のこともキャットウォークと言いますね。
先日トルコで行われたファッションショーで本当にキャットがウォークしていましたが。
Cat crashes runway at Turkey fashion show, goes viral on Instagram
観客が平然と観ているのが何やらシュールです。
それはともかく、「ミッドウェイ」の方のキャットウォークに
緑のジャージを着た人が立っていますが、彼はLSE、つまり
Landing Signal Man Enlisted
の一員で、兵隊としてのランクはE-4かE-5です。
アメリカ軍では「スペシャリスト」と呼ばれる階級で、
E-4から始まって最高はE-9です。
彼は甲板に着陸する航空機に信号を送るメンバーの一人です。
キャットウォークは平坦でなく、船の構造によっては途中にこのような階段があり、
舷側に沿ってくねくねと曲がっています。
見た所そんなに高さもありませんし、手すりもいい加減なので、
階段の上から落っこちるなんてこともたまーにありそうです。(これ伏線)
キャットウォークには各種長いモノ巻き取りのための
リールがこんな風に設置されています。
さらに歩いていくと、カタパルトの延長を示す白い線に合わせて、
甲板の「ツノ」が海面に向かって突き出しています。
上の甲板の間取り図?を見ても、
この艦首から突き出した部分が
カタパルトの軌道延長線上にあることがお分かりかと思います。
これが「ブライドル・レトリーバー」。
または「ブライドル・アレスト・スポンソン」
通称「ホーン」(ツノ)。
かつて、
「このツノが何かわからない」
とつぶやいて、お節介船屋さんにそれはもう説明ずみだ!馬鹿者!
(脚色しています)と怒られたわけですが、念の為もう一度調べました。
航空機射出機、カタパルトの実用化初期には、それを利用する航空機に
専用の牽引装置が備わっていなかったため、カタパルトのシャトルと
航空機の主翼基部や胴体とを連結する
「ブライドル」「ブライドル・ワイヤー」
と呼ばれる装具が使用されていました。
そして最初の頃、ブライドルは航空機の離艦のたびに海に投棄していました。
いくらアメリカが金持ち国でも、それはあまりに勿体無い、ということになり、
カタパルトの延長線上、フライト・デッキの端から突き出す形をした
「ブライドル・レトリーバー」
と呼ばれるブライドル回収用の網が取り付けられるようになった、
というのが存在理由その1。
ちなみにそのブライドルですが、検索したら自分のブログが出てきました。
「ホーネット」で元パイロットのヴェテラン・ボランティアが、
空母から飛行機をカタパルトで射出する仕組みを説明してくれた時の記事です。
ブライドルはカタパルトのレールと航空機の機体とに引っ掛け、
飛行機を引っ張ってぶん投げるように射出し、
飛行機に引っかかったまま一瞬宙を飛ぶのが普通だったようです。
この写真をご覧ください。
折しも航空機がこのホーンの上を飛び立とうとしています。
この説明も翻訳しておきます。
これによると「ブライドルが勿体無い」という理由より、
より切実な事情があったらしいことがわかります。
1980年代までの艦載機は、機体をカタパルトの軌道上で牽引する
ワイヤケーブルまたはブライドルを伴って空母から発艦していました。
軌道の終わるところに来ると、機体からブライドルは離れ、
それは空中を飛来して艦首部分に落下します。
機体から離れたブライドルが振り落とされて飛行甲板に跳ね、
それが機体に当たるのを防ぐため、
「ブライドル-アレスト・スポンソン」
という各カタパルト軌道の終点、甲板の延長に下向きに角度をつけたものを
航空機が落としたブライドルがちょうど当たるように設置しました。
今日、空母の艦載機が発進するのには機首の「ノーズギア」で牽引され、
ブライドル−アレスティング・スポンソンは不要になっています。
しかしながら「ミッドウェイ」では空母艦載機の創成期の名残として
いまだにこの「ツノ」を目の当たりにすることができます。
今は展示用に柵がつけられていますが、写真にも見られるように
昔はもちろんブライドルを受けるためのネット以外はありませんでした。
もしかしたら蛮勇を競う乗組員たちが肝試しで飛び込むこともあったかも・・。
と思ったら、流石にそんな人はいませんでしたが、この時
初めて聴いたオーディオツァーでやっていた、
「人が落ちた時」Man Overboard
によると、このブライドルシステムができた当初は
結構ここから人がよく落ちたのだそうです。
海上自衛隊では、自衛艦から人が落ちた時には
「人が落ちた、実際」
というとかなんとか聴いたことがありますが、
(自衛隊の人ではなかったので確かな情報ではありません)
アメリカ海軍では、
「Man Overboard!」
がその際全艦に直ちに布告されます。
Man Overboard
これはアメリカ海軍の人が落ちた時のための訓練ですが、
"This is the true, true, ture, man overboard、
man overboard、man overboard、port side!"
左舷から人が落ちた、と言っています。
大事なことだから3回ずついうんですね。
別のビデオでは
”This is the true."
を三回繰り返していましたし、ロイヤルネイビーのドリルでは
繰り返していなかったので、決まった形はないのかもしれませんが。
人が落ちたコールがあるとすぐさま赤い紙風船みたいなバルーンが落とされ、
荒波になれた乗員たちが何かに捕まらなければいけないほど急激に
左に舵を切り、Uターンを行なっています。
NAVY: Man Overboard Drill
こちら、無駄に高画質なFOXのニュース映像。
取材されているのは「エイブラハム・リンカーン」で、艦長は
「冷たい海の中で耐えられる時間は決して長くないので
15分以内に助けることを目標としている」
と言い切っています。
空母の場合、ボートとヘリコプターのどちらもが出動し、
艦もUターンを行います。
U.S. NAVY MAN OVERBOARD PROCEDURE FROM SUBMARINE TRAINING FILM
ついでにこちら1953年の潜水艦による訓練の映像。
海軍内で観る教育用に制作されたようです。
無駄に男前な艦長は乗員の報告にニッコリと微笑んでます(笑)
ここで映像に写っているのはガトー級の「デイス」です。
「落ちる役」の水兵は、艦載砲の手入れをしていて不自然に柵の間から
海に落っこちてしまい、さあ大変。
"Man overboard!"
もしそれが右舷からなら、艦長は浮き輪を落ちた乗員に向かって投げ、
「ストレイト・バッキング・メソッド」
と呼ばれる航法で落水者に近づきます。(3:32から)
映像を観てもらうとわかりやすいですが、右舷から人が落ちたとすると、
面舵に転舵し、少し行き足で進んでからバックで戻ると、
ちょうど要救助者の手前で潜水艦が止められるというわけ。
左舷から落ちた場合には
「プライマリー・サークル・メソッド」
といって円を描くように、とか、とにかくターンのやり方がたくさんあり、
観ているだけで楽しめます。(流石に最後は飽きましたが)
潜水艦は救助艇がないので、艦体をとにかく救助者のところまで
いかに早く持っていくかが勝負なんですね。
ところで今の潜水艦でも同じようなメソッドで救助するのかしら。
え?
そもそも今の潜水艦は航行中デッキに出ないから大丈夫?
さて、その「人が落ちる」元凶になっていたホーン部分。
皆このように甲板の先に来ると必ずここでこの妙なステイを楽しみます。
これは今年の写真。
ホーンの根元をふさいでしまえば楽なのに、わざわざこうやって
先まで行けるような展示の仕方をしているあたりがさすがです。
向かいに停泊している空母をちょっとでも近くから撮ろうとしている人。
これが今年の「セオドア・ルーズベルト」。
給油艦を真横から見ると、朝よりスッキリした印象なので、
何が違うのかと思ったら、給油のホースが収納されている状態でした。
それはともかく、向こう岸の艦であれば、艦尾から撮っても
スポンソンの先っちょで撮ってもあまり変わらないような・・。
まあ、気持ちはわかります(笑)
それにしてもこのセーフティネットをつける工事、
どのようにして行われたのでしょう。
レトリーバーを受けていたネットとは全く違う形なので、
展示が決まってから設置されたものだと思われます。
ちなみに今年は何があったのか、左舷側のホーンは閉鎖されていました。
これが去年の左側ホーンの写真。
先っちょで写真を撮る人が列を作って順番を待っていました。
今写真を撮ってもらっている親子ですが、このしっかりした体つきの息子、
もしかしたら海軍志望だったりするのかな。
続く。