平成30年度音楽まつりはここでだいたい約半分が終了し、
「繋がる、希望の海」と名付けられた第2章は、外国招待バンドに続き
愈々海上自衛隊東京音楽隊の出演となりました。
朝、外で列に並んでいたとき、後ろの中年女性が、
「今日もほら、あの歌の人出るの?」
と話していました。
早くから並んでいる割に音楽隊のことについて何も知らない風でしたが、
そういうレベルの人でも存在くらいは知っているのが、
三宅由佳莉三等海曹です。
彼女が前代未聞の自衛隊音楽隊専属歌手として活躍を始めてから、
メディアが一時大きく扱ったこともあり有名になって以降、
自衛隊音楽隊の歴史は彼女の存在によって大きく変わることになります。
専属歌手としての彼女の好評を受けて、いくつかの音楽隊が専属歌手を採用し
コンサートやイベント、自衛隊の儀式などにも歌を披露することになったのです。
今回三宅三曹と共演した横須賀音楽隊所属の中川麻梨子三等海曹も、
そのようなムーブメントの中で採用されたヴォーカリストでした。
海上自衛隊に存在する二人の歌手の初共演。
曲は「この星のどこかで」。
今回音楽まつりでこの曲を聴かれた方、これが
この映画のテーマソングだということをご存知でしたか。
映画ドラえもんのび太の太陽王伝説 主題歌「この星のどこかで」
作曲は今ニューヨークでジャズピアニストになってしまった
大江千里、歌っているのは由紀さおりと祥子姉妹です。
歌い方も発声も全く違う二人の歌手の共演。
選曲の妙もあって、うっとりするようなデュエットです。
ただあえて言わせていただければ、三宅三曹が本格的に
クラシックの声楽を学んだ中川三曹との違いを明確に出そうとしたのか、
声を可愛らしく作りすぎているようだったのが残念でした。
個人的には2年前の「アフリカン・シンフォニー」の時のような、
ああいうまっすぐな歌い方でもいいような気がするのですが。
ただそれは瑣末なことで、二人の声は完璧に溶け合い、
素晴らしいハーモニーとなって会場を魅了しました。
(ここだけの話ですがオリジナルの二人より良かったと思います)
二人の歌はプロローグで、ここからが海自のマーチング開始です。
「海峡の護り〜吹奏楽のために」
この曲は今年の二月に行われた東京音楽隊の定期公演でも行われました。
現音楽隊長の樋口好雄二等海佐が横須賀音楽隊の隊長だった頃、
作曲された委嘱作品だということです。
いつものカラーガード隊が東京音楽隊のバナーを先頭に行進を行い、
総員が敬礼をしてからいよいよマーチング開始。
演奏の間、会場スクリーンにはこのような映像も現れました。
海の上で見る旭日旗、こんな美しい軍旗は世界のどこを探してもありません。
海上自衛隊の音楽まつりでの「定番」に、ドラムラインのソロがあります。
例年音楽まつりの後に「東京音楽隊のドラムラインが神!」とかいうタイトルで
動画が上がるおなじみのシーン。
今年もご覧のようなかっこいいセッションが聞けました。
バッテリーはバスドラムとシンバルそれぞれ1、スネアドラム6という陣容です。
スネアドラムの真ん中の人が掛け声をかけているっぽい。
曲が終了したとき、人文字で「SEA」が描かれました。
これにはちょっと深い意味があって、演奏した「海の護り」という曲は
海を意味する「SEA」の綴りを音名にした、
S(Es)=ミ♭
E =ミ
A =ラ
という連続音が音群として表れ、曲のモチーフになっているのです。
海上自衛隊の委嘱作品ならではの「仕掛け」なんですが、
ここまで知っていると、より一層演奏が楽しめるというわけです。
ドラムで隊列を組み替えると、いつもの錨のマークが現れました。
行進曲「軍艦」です。
錨の頭の丸い部分を形作るのはカラーガード隊です。
ステージの最後の錨が半回転するこのステージは、おそらく
これも昔から変わらず引き継がれてきたものではないでしょうか。
20年前の音楽まつりをご存知の方にぜひ聞いてみたいものです。
本日の指揮は副長(さすが海自、副隊長じゃないんだ)、
石塚崇三等海佐。
ドラムメジャーは田村二朗一等海曹でした。
東京音楽隊が退場するとき、退場する隊員に帽子を渡して
無帽になったトランペット奏者が一人、会場に残りました。
ソロで次の曲「なんでもないや」のアカペラ部分を演奏します。
「なんでもないや」は映画「君の名は。」の劇中歌でRADWIMPSの曲です。
ところで今回冒頭に「シン・ゴジラ」の曲が演奏されていたので思い出したのですが、
この両映画は同時期に封切られ、興行成績は「君の名は。」が少し上でした。
かつて岸恵子&佐田啓二の「君の名は」が昭和28年に公開され、
この時も同時に初代「ゴジラ」が上映にされていたそうですが、
「ゴジラ」は「君の名は」の集客数にはやはり及ばなかったという話です。
もっとも当時の「君の名は」の人気は凄まじいもので、三部作目は
黒沢の「七人の侍」をぶつけても勝てなかったとか・・・・・。
現在の映画そのものの評価が当時の人気の通りではないことは
後世の知るところですが、半世紀後、「君の名は。」と「シン・ゴジラ」、
どちらが歴史の評価に耐える作品として残っているでしょうか。
という話はともかく、トランペットソロにシンガポール軍楽隊が加わります。
そこにバガドウ・ラン=ビウエのバグパイプソロとドラムがソロで。
なんとバグパイプで演奏する「なんでもないや」です(笑)
バグパイプの仕組みは簡単にいうと袋に溜めた空気を押し出して音を出すもので、
息継ぎのために音が途切れることがありません。
この演奏を聴いていた方は、ずっとメロディの他に下の方で音が鳴っている
(通奏低音・オルゲルプンクト)のを覚えておられるかもしれません。
これもまたバグパイプらしさですが、バグパイプの何本かあるパイプのうち、
この通奏低音を奏でるパイプを「ドローン」といいます。
メロディの他に通奏低音も鳴らすためには、
常にバッグの中を息で満たしている必要があるので、
バグパイプの演奏にはそれはそれは大変な肺活量を必要とします。
全出演部隊の合同演奏を指揮するのは東京音楽隊隊長、
相変わらずかっこいい指揮を見せてくれる樋口好雄二等海佐。
ドラムのブレイクの後曲調はアップテンポに転じ、
まず陸自合同部隊が参加します。
曲はやはり「君の名は。」から「前前前世」。
ワンコーラス終わったとことで、在日米軍グループが舞台右袖から登場。
左からはまだ出演していませんが、空自中央音楽隊が。
先頭を歩いているクラリネット奏者はこの後ソロを取る予定です。
その音の性質上他の楽器と一緒に演奏できないバガドウにも
ちゃんと単独で演奏して活躍させてあげるという配慮に満ちたアレンジです。
樋口隊長は指揮台を降りてバガドウの指揮者と日仏友好状態。
指揮をしていた人はジェローム・アラニックPO3(三等兵曹)。
プログラムには「ペン・ソノール」と紹介されていましたが、
ブルターニュオーボエ「ボンバール」奏者のことをソノールというからです。
もう演奏者が国境をこえて友好しまくり。
東京音楽隊とシンガポール軍楽隊が入り乱れております。
会場はリズムに合わせて手拍子を取り、楽しさ最高潮。
いつの間にか、ステージ両側には東北方面音楽隊のカラーガードと
ステージを影で支える演技支援隊の迷彩服の隊員たちまでいます。
ステージ奥のピットには東京音楽隊の打楽器セクションが、
よくよく見ると一部ノリノリで演奏しているではないですか。
マリンバと鉄筋奏者が特にハジけておられました。
楽しそうで何より。
エンディングにはバガドウに最終音を取らせるという気遣い。
アレンジをした人は、この特殊な楽器を演奏するバンドに配慮をして
彼らが空手にならないように、花を持たせるように気を遣っています。
ラン=ビウエの隊員たちは、おそらくそんな気遣いを含め、
音楽まつりを、日本のステージを楽しんでくれたのではないでしょうか。
第二章、「海の挑戦」はこのステージをもって終了。
続いて、お待ちかね、防衛大学校儀仗隊、そして自衛太皷のステージです。
続く。