先週末、今週末と続けて不幸があり、告別式に参列しました。
ピアノの恩師の本葬に出席するために関西に出向き、
日帰りで帰ってきた同じ週に義母が逝き、こちらは嫁として
知らせを受けて直ぐにまた関西に飛ぶことになったわけです。
10年以上無沙汰していた恩師との無言の対面に、わたしは
自分で思っている以上に落ち込んでしまいました。
夜中に目が冴えてそのまま寝られない日があったかと思うと、
目が覚めたらいつもの起床時間を二時間オーバーしていたりの繰り返し。
当ブログのアップやコメント管理にも影響は少なからずあったようで、
自分が思っていたよりずっと「死」に不慣れだと実感したものです。
恩師の死でただでさえ鬱々としていたところに、なんと身内が亡くなり、
一連の死者を送るための儀式あれこれに参加することになると知った時、
メンタルダウンどころか崩壊するのではないかと我ながら危惧したのですが、
意外なことに、救いは、会場のスタッフはもちろん、湯灌師から隠亡まで、
葬祭業界で働く人たちのプロフェッショナルな仕事ぶりでした。
彼らが職業的な慇懃さのうちに実にてきぱきと物事を進めていくのを
茫然と見るうち、人の死もまた世の常というありふれた真実に気付き、
受け入れる心の準備ができていった気がします。
そんなとき、知人からこのコンサートのチケットをいただきました。
なんと、自衛隊音楽隊で初めてのビッグバンドジャズコンサートです。
場所は渋谷区の文化総合センター大和田、さくらホール。
陸上自衛隊中央音楽隊内にジャズバンドが存在すると知ったのは初めてです。
おそらく、選抜されるか志望者によるジャズの素養のある隊員によって結成されて、
「本隊」とは別に活動しているのだと思われます。
プログラムによると、1951年に陸自中央音楽隊が警察予備隊音楽隊として結成されて
間もなく創設されたのがこの
「サージャント・エース・ジャズオーケストラ」
で、なんと65年の歴史を誇っているのだそうです。
サージャントというネーミングが陸自ですね。
その長い歴史において、
サックスのリー・コニッツ、ツゥーツ・シールマンス(ハーモニカ)
森寿男率いるジャズバンド、ブルー・コーツ、世良譲、笈田敏夫、
日野皓正、歌手は大野えり、チャリート、ケイコ・リー
などそうそうたるメンバーとの共演歴もあります。
♫ Take The A Train
ビッグジャズといえばこれ、という「A列車で行こう」。
カウント・ベイシーのおなじみのイントロから始まるあれです。
ニューヨークは地下鉄の路線にABCと名付けていますが、
「Aラインに乗らないとハーレムに行けないよ」
というのが曲の大意で、なぜハーレムに行くかというと、
そこは「heaven」=ジャズの天国だから、というわけです。
ちなみに「ヘブン」を発車時刻の「セブン」と韻を踏んでいます。
♫ Seven Steps To Heaven
会場のPA担当が出動してきて、トラブルを解決し、ようやく始まった二曲目は、
マイルス・デイビス以外で聴いたことがないこのbebopの名曲です。
Miles Davis - Seven Steps to Heaven (Original) HQ 1963
「ソ・ド・ミ・レ・ドードード」
というAリフだけが耳に残りあとは全部アドリブというこの曲、
上島珈琲店にいくとよくかかっていますよね。
ジャズバンドの恒例として、各パートが順番にソロを取るのですが、
短いパートでも実力とセンスがあらわになってしまうので
奏者にとっては腕の発揮しどころであると同時に怖い瞬間でもあります。
わたしが最初から「おお!」と注目していたのは、この日
サージャント・エースと合同演奏をしていた、アメリカ空軍の
パシフィック・ショウケースのサックス奏者、ジェイコブ・ライト上級空兵でした。
「オール・オブ・ミー」を歌った歌手が「陸自のシナトラ」と呼ばれている、
と紹介されていましたが、このライト上級空兵は見た目がシナトラの若い頃と
フレッド・アステアを足して2で割った感じの小柄なタイプで、
演奏以外の時も雑事に全く心動かさないマイペースな雰囲気の人でしたが、
もともとジャズ畑の奏者なんだろうなと思わせる練れた巧みさがありました。
自信もたっぷりという感じで、かっこよかったです。
♫ エミリー
女性の名前をタイトルにしたバラードでは、わたしの一番好きな曲です。
多くの名曲と同じくブロードウェイのミュージカル挿入歌で、
「ムーン・リバー」「酒とバラの日々」を世に出したマンデルとマーサー、
二人の「ジョニー」によって書かれました。
Bill Evans "Emily"
「エミリー、エミリー、エミリー」
という名前の連呼に
「ミ↑シ↓ソ〜 ミ↑シ↓ソ〜 ミ↑シ↓ソ〜」
というメロディを持つ歌バージョンも素敵です。
中間二曹がメロディを取ったトランペット奏者に
「奥さんの名前を♫なおみ〜なおみ〜なおみ〜と♫心の中で呼びながら
演奏してたんじゃないですか」
と会場を笑わせていました。
昔トリオで仕事をしていたとき、必ずこの曲をリクエストしてくる男性がいて、
みんなでその人のことを
「エミリーおじさん」
と呼んでいたのを思い出した(笑)
みなさん、「常連」のあなたをスタッフは大抵あだ名で呼んでいます。
♫ A Flower Is A lovesome Thing
「花はすてきなもの」とでも訳したらいいでしょうか。
パシフィック・ショウケースからの参加者は全部で6名、
そのうちの一人はなんと女性歌手でした。
アリシア・キャンセル上級空兵は、ニューヨーク出身、
父や兄もエアフォースという空軍一家で、本人は
歌手として空軍に奉職することを志したということです。
"A Flower is a Lovesome Thing" -Ella Fitzgerald
この曲は、「A列車」の作曲者、ビリー・ストレイホーン(P)の手によるもので、
非常に複雑で高度なメロディラインを持っており、
「ラッシュライフ」とか「チュニジアの夜」がそうであるように、
一度聴いただけでは鼻歌で繰り返せるような曲ではないのですが、
歌手はこの曲をドラマティックに、かつメロディアスに歌いこなしていました。
ところでこの曲のときバンドの演奏が混乱して?思ったのですが、気のせいでしょうか。
♫ ALL OF ME
「一度心を奪ったのだから私の全てを奪ってちょうだい!」
と迫る、まるで映画「海軍」の三田佳子が演じた女性のセリフみたいな歌ですが、
シナトラのバージョンが有名です。
ジャズ歌詞で英語学習 01 "All Of Me" フランク・シナトラ 英語日本語訳
和訳付きを見つけました。
この曲を歌ったのが、バンドのトランペット奏者で、この方も見覚えがあると思ったら、
音楽まつりで歌手を務めた右側の方でした。
で、「陸自のシナトラ」と紹介されていたのですが、
メロディにコブシ風ビブラートが効いていて、シナトラというよりは
「ジャズを歌う陸自の五木ひろし」が近いのではないかと思われました。
(ほめてますよ?)
♫ Pomp And Circumstance(威風堂々)
これをジャズで一体どうやって、と興味津々です。
と思ったら、同じバージョンの演奏が見つかりました。
威風堂々第1番 武蔵野ビッグバンド・ジャズ・フェスティバル2013~SPJO
なるほどそうきたか、という納得のアレンジ。
各奏者のソロも堪能できて無茶苦茶楽しかったです。
この曲を知ることができたのは今回の大きな収穫でした。
♫ JAZZ POLICE(ジャズ・ポリス)
前半にプログラムされていたのですが、「かっこいいから」という理由で
後回しになっていたこの曲、ジャズポリスって聴いたことあります?
アメリカで正しい寿司を出しているかどうかチェックする機関、
「寿司ポリス」を作ろうという話が昔あったじゃないですか。
コリアンやチャイニーズのインチキすし屋が猛反対して立ち消えになりましたが、
こちらのポリスは、
「ジャズはこうあるべき」
という根拠のない(たいていそう)教条というかドグマに基づき、
巷のジャズシーンを「パトロール」して、演奏スタイルにケチをつけたり、
ライブハウスで奏者をいじめたり文句を言ったりする人のことです。
あーいるよねそんな人。
目の前の演奏者に向かって、マイルスはどーの、エバンスはどーの言ったり、
わかったようでわけのわからないジャズ論をぶってみたり、
相手が絶対できないであろうリクエストをして、できないと馬鹿にしたり。
作曲者のゴードン・グッドウィンは、おそらくそんな人たちを皮肉って
こんなタイトルをつけたんだと思います。
The Jazz Police / Gordon Goodwin
この曲が4ビートではなくジャズロックで書かれているあたりに、
その皮肉が現れているとわたしは思うのですが。
長いと怒られてしまったので二日に分けます。
後半に続く。