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「ヨークタウン」に描かれた「赤城」の航空標識〜エンパイアステート航空科学博物館

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いよいよESAMの「赤城」模型シリーズ最終回です。

「赤城」ルームのガラスケース展示をまずご紹介していきます。
これは状況的にどうみても真珠湾攻撃真っ最中ではないでしょうか。

こういうシーンを第二次世界大戦50周年記念のポスターにする、
というセンスはいかがなものかという気もしますが、
まあ要するにリメンバーパールハーバーってことなんだと思います。

右側にチラッと見える解説によると、炎上しているのは
「ウェストバージニア」と「テネシー」ということです。

ということはその前に展示してある模型はそのどちらかだと思うのですが、
わたしには見分けがつかないので鑑定はあきらめます<(_ _)>

絵の両側に祀られている砲弾形状のものは、

エアクラフト・フロートライトMk.4

第二次世界大戦中に使われていた水上用の信号ミサイルです。
軍用機などから投下され、位置を知らせるための
フレア&スモークシグナルです。

この写真ではわかりにくいですが、素材は先端がメタル、ボディは木製です。

説明がないのでわからないのですが、迷彩塗装の日本機があることから
どこか南方の日本軍基地(小屋の前には国旗が揚っている)でしょう。

なかなか力作ですが、なんのために作られたのでしょうか。

ボーイングB-29スーパーフォートレスです。

「太平洋戦にはテニアン、サイパン、グアムから出撃し、
低空から焼夷弾を落とすなどの戦略に用いられた。
B-29は広島と長崎に原子爆弾を落とすことで
都市と産業に壊滅的な打撃を与え、そのことが
1945年8月に戦争を終わらせることになった」

その夜間攻撃と2都市への原爆投下で失われた民間人の命については
全くなかったかのようなこのシラの切り方、いや淡々とした記述。

スミソニアン博物館で起こったB-29「エノラ・ゲイ」の展示をめぐる騒動で、
こと原子爆弾についてはどこの博物館も異様なくらいディフェンシブになり、
このような態度に終始するしかないのも、またアメリカという国の一面です。

そしてなぜか唐突に現れる日本降伏調印の後の記事。
1945年9月2日付けサンフランシスコエグザミナーという新聞のものでもので、
まずヘッドラインは

「日本降伏調印;
マッカーサー指揮を執り完全なる応諾を要求」

その下に、

「裕仁正式に我が国のルールに屈する」

左の写真は、捕虜になっていた痩せさらばえたアメリカ軍人を
カメラの前で抱擁して見せるマッカーサー。

捕虜の名前はジョナサン・ウェインライト中将。
タイトルに「リユニオン」(同窓会)とありますが、
彼はウェストポイント出の将官でフィリピンにおけるマッカーサー将軍の
補佐を行っていた人物です。

1941年12月に始まった日本のフィリピン侵攻に対し、連合軍は、
バターン半島とコレヒドール島に撤退することになりました。

その後マッカーサーが敵前逃亡し、 オーストラリアで

"I shall return." 私は必ず帰ってくる

という有名な負け惜しみを言ったわけですが、マッカーサーの後を
引き継いでフィリピンの連合軍司令官になったのがこの人でした。

 5月5日、バターンに続き日本軍はコレヒドールを攻撃したため、
ウェインライトは人員の損失を防ぐため日本軍に降伏します。

このときの彼の選択は、もしマッカーサーが敵前逃亡しなければ
彼に委ねられていたはずのものだったってことですわね。(ここ注意)
もしかして、その後のウェンライトの運命もまた、
マッカーサーが負うものであったかもしれないと言うことでもあります。

 

コレヒドールで降伏後、ウェインライトは日本軍の捕虜となります。

アメリカ人は彼の痩せ細った姿から、日本軍が将軍すら(中将)
ちゃんとした扱いをしなかったということで、もう怒り心頭でした。
この新聞の記事でも、

「ジャップはアメリカ軍の将軍を拷問した」

という見出しになっています。
トーチャーといっても、「幽霊とバラバラ死美人」の憲兵隊みたいに、
逆さ吊りにして水責めというようなものではなかったはずですが、
アメリカ人はウェンライトがこれだけ痩せてしまったことをもって

「拷問されたも同じだ!将軍なのにろくに食べ物も与えずに」

と怒っている訳です。

しかし、わたしがここで言い訳してもしょうがないのですが、
ただでさえ食料がなかった太平洋の基地で、日本軍の捕虜になっていた人が、
これだけ痩せていたってなんの不思議があろうか、って思いません?

だいたいウェンライトの元々のあだ名って「スキニー」ですよ?
もちろん中将ともあろう人に、ろくな食料も(出したとしても日本食なので
あまり太れなかったと思うけど)与えなかったことはお詫びするしかないですが、
この人、もともとこんなあだ名がつくくらい痩せていたってことですよね。

 

さて、「ミズーリ」における降伏調印式では、誰が仕組んだのか
(わたしはアメリカのマスコミだと思う)ウェインライトを連れてきて
わざわざマッカーサーと対面させたわけですが、これだって、
両者の因縁関係を考えればどうなのよという気がしないでもありません。

だいたいがマッカーサー自身、敵前逃亡についてはウェンライトに対して
かなり疚しく思っていたはずなのです。
「アイシャルリターン」も結局口だけ番長になってしまったわけですし。
ましてやウェインライト中将の方が、内心

「おめーがオーストラリアに逃げたおかげで俺は酷い目に」

と恨み骨髄であったとしてもなんの不思議がありましょうか。

周りの人間が何を期待してこの二人を会わせたのかわかりませんが、
(おそらくヘッドラインの写真を撮るためだけだったと思う)
それでも記事に残されているこのときの二人の会話からは、
これらの邪推が当たらずとも遠からずではないかと思えてきます。

”Hello, Jim, I'm grad to see you."

”Good to see you,too."

なんですかこの英語教科書のの最初のページみたいな会話は。

 

ウェインライト中将は自分が降伏したことをずっと恥じていたそうです。
(ね?こんな人がマッカーサーの敵前逃亡をよく思う訳ないですよ)
そして「国民を失望させた」と、捕虜生活中忸怩としていたのに、
ここにきて、あなたはアメリカの英雄だと言われてもうびっくりですよ。

マッカーサーもまたそんなウェインライトを英雄として称えるかのように
彼を抱き抱えているわけですが、こういう事情を踏まえたうえでもう一度見ると、
ウェインライトはどちらかというとマッカーサーの態度に戸惑っているようです。

古狸の彼はおくびにも出さなかったでしょうが、マッカーサー、
実はウェインライトが捕虜になった1942年、

彼に捕虜のまま叙勲するという案に、激しく反対

しているのです。

なぜか。

反対の理由は、コレヒドール降伏は失敗であり、その責任は
全て指揮官が負わねばならないのだから、叙勲などとんでもないというわけです。

こうして叙勲案はマッカーサーその人の拒否が理由で中止になりました。

 

おそらく救出された後、ろくに栄養状態も回復しないまま
「ミズーリ」艦上の調印式にに引っ張り出されていたウェインライトは、
マッカーサーが自分の失敗を詰り、叙勲を握り潰したことも知っていたはずです。

それならば、そもそも早々に敵前逃亡したくせに、とか、
フィリピンの責任を押し付けてきた張本人がどの面下げて、
ぐらいのことは目の前の男に対して思ったに違いありません。

終戦後、ウェインライト中将にもう一度叙勲の案が持ち上がります。
マッカーサーは当然ながらこれに反対せず、
何食わぬ顔でウェインライトを祝福しました。

 

真珠湾関係の展示が中心のはずのこの部屋に、なぜか
朝鮮戦争で名誉の戦死を遂げたアフリカ系航空士官、

Jesse Leroy Brown (ジェシー・リロイ・ブラウン)
1926-1950 

を顕彰するケースがあったりします。
ブラウンはアフリカ系とチカソー、チョクトーを祖先に持つ、
紛れもないマイノリティであり、そんな中から初めて誕生した
近代プログラムによる訓練を受けたパイロットでした。

苦学しながらオハイオ州立大学で優秀な成績を収めたかれは、
米海軍航空隊に入隊し、訓練を受けて航空士官の道を掴みます。

朝鮮戦争開始後、コルセアのパイロットであった彼は、
中国軍に捕虜になっていた米海兵隊を救出する作戦に投入され、
6機編隊でチョシン貯水池に出撃しました。

任務は3時間にわたるサーチ・アンド・デストロイです。

任務中、彼のコルセアは地上からの小火器の攻撃を受け、
機を制御できなくなった彼の機は谷に激突しました。
機体は衝撃で破壊され、彼は脚を機体の一部に挟まれて動けなくなりました。

上空を旋回してその様子を見ていた彼の列機のうち、
トーマス・ハドナー・Jr.は、自分の機をあえて激突地点に墜落させ、
戦友の体を機体から引き出そうと試みました。

そのうち連絡を受けた救助ヘリが到着し、痛みで意識の朦朧とした
ブラウンの「脚を切ってくれ」という頼みを実行しようとさえしましたが、
ハドナーとヘリパイが45分にわたって行った救助活動も虚しく、
日没になり、現地に彼を置いていくしか方法はありませんでした。

意識を失う前に彼が最後に言った言葉は、

「デイジー(妻)に愛していると伝えてくれ」

だったそうです。

現地を引きあげたハドナーは、ブラウンの救出の継続を
上司に頼みますが、ヘリの不安定さを理由に許可されませんでした。

零下9度の山頂では生存している可能性もなかったからです。

彼が確実に死んだとされる二日後、米軍は機体が敵の手に渡ることを
防ぐために、彼の体ごと上空からヘリをナパーム弾で焼却しました。

パイロットは上空からブラウンの身体が炎に包まれるのを報告し、
主の祈りを無線で唱えたといわれています。

その後、彼の遺体も、機体も、回収されないまま現地に残されました。

仲間を救うために現場にコルセアで勇気ある着陸を行った
列機のハドナーは、ブラウンの遺骨を墜落現場から回収するために
2013年になって平壌を訪問しています。

(交渉中のハドナー:右)

驚いたことに、北朝鮮当局はこれを許したそうです。
その際彼は、天気が予測可能な9月に行うようにと言われています。

 

さて、それでは「赤城」模型の残りの写真をご紹介していきましょう。
展示は「真珠湾攻撃に向かう途中」という設定なので、
艦尾には深夜につける赤灯と、グリーンのライトも見えています。

プールを実際に航行させて撮影をしているので、これは模型でありながら
実際の船と同じ機能を持っているのがすごいところです。

小さな船を糸で引っ張って特撮するなんてのと訳が違います。
言うてみれば10mのフルハルバージョンですな。

流石に喫水線の下までは映らないので、
微妙に(というかコメント欄によるとだいぶ)
本物とは違うようですが、結構いい線いってますよね。

ちなみに黄色いのは電気コードです。

はえ〜こんなところまで。
艦尾下甲板の銃マウントはもちろん、舫杭など
細部まで抜かりなく再現されています。

これは艦尾側に立って航空甲板の高さから撮ってみました。
「赤城」航空甲板は後部で下に向かってカーブを描いています。

そのままカメラを下に向けるとこのような眺めが広がっています。
一番左のボートがデリックにかけられているんでしょうか。

小さな階段まで再現されています。

この写真を点検し、以前いただいたコメント欄での御指南により、
あらためて空母の作業艇の運用についてわかりました。

制作には当時のお金で1000万円かかったということですが、
総製作費が25億円のなかでまあなんてことはないかなと(笑)

ちなみに興行収入は14億5千万くらいだったそうで、完全に赤字です。

そしてさすが、視覚効果賞でアカデミー賞を獲得しています。
完全に模型と特撮チームの獅子奮迅の努力に対する評価です。

ところで、映画劇中でもアップになっていたこの艦橋ですが、
最初の段階で何かおかしいと思ったあなた、あなたは素晴らしい。

実は模型ファンであればとっくにお気づきだと思いますが、
「赤城」の艦橋は左舷側にあるはずなのに、この模型では
堂々と右舷側に存在しているのです。

その理由は、フォックスが聯合艦隊の航空母艦上の撮影に、
なんと退役直前の本物の空母「ヨークタウン」を
「赤城」と、ついでに「エンタープライズ」に使い回ししたからです。

「ヨークタウン」の艦橋が右舷にあったため、模型も
同じようにするしかない、とフォックス制作部では考えたらしいのです。

しかしそんなところで整合性を取る必要って果たしてあったのかな。

世の中に、果たして「赤城」甲板でのシーンでは右に艦橋があるけど、
聯合艦隊航行のシーンでは左に変わっている!と気づく人って
どれくらいいると思います?(多分わたしも初見では気づかないと思う)

そもそも映画のこのレベルの矛盾シーンなんていくらでもあるんだから、
それなら模型を史実通りに作った方が良かったんじゃないかって気がします。

ちなみにこちらが映画出演時「赤城」に扮した「ヨークタウン」。
みなさん、甲板に描かれた「線」をよく見てください。

飛行甲板の前部に、日本海軍空母の特徴の一つである風向標識が
映画撮影のために同じように描かれたときにとられた写真です。

しかし、実際の空母と比べるとなんだか飛行機のアス比が随分違うような・・・。

模型展示でも探照灯が点いています。
これは艦橋のシーンで探照灯をつける瞬間があったからで、
映画では艦橋にちゃんと人が並んでいました。

ここでは誰もいないのに探照灯だけが点いているという
怖い状態になっています。((((;゚Д゚)))))))

というわけで、お話ししてきた模型「赤城」のシリーズは終わりです。
熱烈な模型ファンの方、ニューヨーク北部にいくことがあれば、
ぜひこの航空博物館に脚を伸ばして実物を見てください。

オルバニー国際空港からなら車で20分くらい、
ニューヨークJFK、ボストンからはどちらも3時間くらいです。

ちょっと現地まで大変ですが、実際に行ってみる価値は大いにあると思います。

 

続く。

 


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