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Channel: ネイビーブルーに恋をして
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映画「1941」はスピルバーグの”黒歴史”か その1

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真珠湾攻撃直後、西海岸の住民は一様に、太平洋の向こうから
日本軍が本土に攻めてくるかもしれないと色めきたちました。

ここでもご紹介したことがありますが、サンフランシスコでも
太平洋側に向けて砲台をハリネズミのように設け、
「第二の真珠湾」に備えたものです。

 

本作は、真珠湾攻撃後西海岸に現れ、ハリウッドを攻撃目標にする
帝国海軍の潜水艦、それを迎え撃つ「ごく一部の」アメリカ陸軍、
たった一人の戦闘機パイロット、民間防衛に巻き込まれた人々が
上を下へのてんやわんやになるという、「スクリューボール・コメディ」
(スピンがかかってどこに飛ぶかわからない)です。

 

 

 

さて、とにかく始めましょう。

映画は「北カリフォルニア」とありますが、一眼で
サンフランシスコとわかる海岸から始まります。
この砂浜に、

「ポーラーベア(シロクマ)スイミングクラブ」

と背中に描かれたガウンを着て車で乗り付ける美女。
ガウンを脱ぎ捨て一矢纏わぬ姿で夏でも冷たい海に飛び込み、
泳いでいると、真下から浮上するのが帝国海軍の潜水艦。

 

泳ぐ美女、海底から現れる怪しい何か。スピルバーグ。

このセットで、あなたはあの映画を思い浮かべるでしょう。
そう、「ジョーズ」です。

美女は海中から持ち上がってきた伊19の潜望鏡につかまったまま
宙に押し上げられてしまいました。

「きゃああ〜〜〜!」

この美女を演じているのはスーザン・バックリニー。
何を隠そう、この4年前に大ヒットした「ジョーズ」の冒頭、
最初にサメの犠牲になる女性、クリシー・ワトキンスだった人です。

動物のトレーナーの資格も持っていたという彼女は、
現在はスタント業は引退して、会計士として働いているそうです。

しかし、もう最初っから、自分の作品のパロディを入れ込んでくるなど、
スピルバーグ監督、ノリノリです。

浮上して砲撃の準備までしておきながら、すぐに潜航する潜水艦。
配置についた砲術員たちは口々に、

「なんだ砲撃しないのか」「砲撃しないのか」

兵隊がこんなこと普通いわねーよ。

潜航間際にハッチを閉めようとした航海長は、潜望鏡に抱きついている、
全裸の美女の姿を束の間とはいえしっかり拝んでしまいます。

「ハリウッドー!バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!」

ハッチから引き摺り下ろされ、艦長に頬を殴られても目の焦点が合いません。
なぜハリウッドかというと、艦長の思いつきで、当潜水艦の攻撃目標は、

「攻撃すればアメリカ人の戦闘意欲を削ぐ効果はある」

ハリウッドに決まったばかりだから。

艦長以外の潜水艦乗員役は、何人かを除いて南カリフォルニア在住のアジア系で
ノートによると

「彼らはlaid-back(のんきな、怠け者)で、演技訓練を受けた者は一人もおらず、
軍隊経験のある三船は、とても軍人に見えない彼らの態度に腹を立て、
スピルバーグ監督になんとかしてくれとたのんだ。

そしてその後、かれらは一列に並ばせ、一人を平手打ちにして、
『これが日本人の訓練のやり方だ!』といい、そのあとは問題がなくなった」


今だったら大問題になりそうですが、このとき三船に殴られた人は
結構そのあと自慢できたんではなかろうかと。

 

さて。

これら最初の部分だけ見て、今まで知らなかったけどこりゃ面白そうじゃないか、
と思ったあなた、わたしも確かに導入部の段階ではそう思っていました。

この後の登場人物も、

ガソリンスタンドにウォーホークで乗り付けてきて、
気に入らないことを言われると銃をぶっ放す飛行機乗り(べルーシ)とか。

飛行機に乗ると激しく欲情する女性ジャーナリストとか。

それを利用して彼女とどうにかなりたい元彼とか。

本物そっくりのスティルウェルとか、どう見ても期待できそうです。

 

しかし、皆さん、そもそもこの映画ご存知でした?

わたしは全く知りませんでした。
監督がスティーブン・スピルバーグ、伊号潜水艦の艦長に三船敏郎、
ダン・エイクロイドにジョン・べルーシが出演、それなのに
この映画の無名なことったら・・・・。

なぜなのでしょうか。


綺羅星のような監督とキャスト、権威に弱いわたしは
何も考えずにこれだけでDVDを購入してしまったわけですが、
一度観て、どうしてこの作品が世間的に無名なのか、

よーくわかりました。

最初に言ってしまいますが、まずギャグを盛り込みすぎ。
さらには、エピソードを盛り込みすぎ。モブシーン長すぎ。

全てがツーマッチで、うんざりしてくる、というのが正直な感想です。

 

しかし、純粋なエンターテイメント作品としての評価を抜きにして
細部をじっくりと眺めれば、そこには、スピルバーグの
荒削りな実験や、冒頭の「ジョーズ」のような自作へのパロディを発見し、
彼のそれまでの作品、その後の作品を知るものにとっては、
宝探しのような面白さが見えてくることもわかりました。

つまり「スピルバーグのネタ帳」という位置付けで観るべき映画なのです。
 

まず、はちゃめちゃな展開に見えて、この映画に挿入されているイベントの多くは、
実際に起こった、歴史に基づく事件から採用されています。

たとえばこれ。

サンタモニカの海岸沿いの一軒家に、突然ダン・エイクロイド扮する
陸軍軍曹と彼の率いる戦車師団が現れて、家主に淡々と申し渡します。

「敵を迎撃するのにあなたの所有地を有利地点と認め、
敵機に対する高射砲を設置して陣地にすることになりました」

第二次世界大戦中、アメリカ陸軍は実際に一般住民の庭を接収して
対空砲を設置したことがあります。
実際は西海岸ではなく、メイン州だったらしいので、日本軍ではなく
ドイツ軍が空からくることを想定したのかも知れません。

そして、話の核となっている伊号潜水艦の本土攻撃。

真珠湾以降連戦連勝だった日本軍は、1941年12月から翌年春にかけて、
太平洋のアメリカ沿岸地域に展開していた潜水艦による通商破壊戦で、
タンカーや貨物船を10隻以上撃沈しています。

中にはカリフォルニア州沿岸の住宅街の沖わずか数キロにおいて、
日中多くの市民が見ている目前で貨物船を撃沈したこともあったそうです。

この映画は、真珠湾攻撃後の12月14日から15日までの1日を描いていますが、
同じ頃、日本軍は実際に複数の潜水艦で一斉砲撃作戦を計画していました。

ただし、この作戦は、上層部の

「クリスマスくらい静かに過ごさせてやれ」

との意見で中止されたそうです。

翌年、1942年2月23日午後7時、「伊号第一七潜水艦」が、
サンタバーバラのエルウッド石油製油所への砲撃作戦を行いました。

これはアメリカにとって、1812年戦争以来、30年ぶりに本土に受けた攻撃であり、
住民の受けた衝撃と恐怖は大変なものであったといいます。

高射砲を置かれた家の子供がこんなマスクでスープをすすっていますが、
真珠湾直後のアメリカ人は、子供やペット用のガスマスクまで登場し、
有事に備えたという記録があります。

この頃はまだ第一次世界大戦の記憶が新ただったということでしょう。

それから、前半のデパートのシーンで、警報のような音(何かのモーター音)
が鳴っただけで、一人が

「ジャップス・・・ジャアアアアアアーップッス!」

とパニックを起こすと、デパートの客が騒乱状態になりますが、
これも実際に起こった騒ぎを元にしているということです。

さて、帝国海軍の潜水艦には、なぜかナチスドイツの将校が
見学のために乗り込んでおり、なにかというと口を挟んでくるので、
艦長以下日本人乗員たちに煙たがられております。

この役をしているのがクリストファー・リー。
ドラキュラ伯爵の役で有名になったイギリス出身の俳優ですが、
この映画では全編を通じてドイツ語を喋りまくっています。

90歳まで現役で俳優を続けたリーですが、語学に関しては
ドイツ語、フランス語、スペイン語は非常に堪能、
そのほかにもスェーデン後、ロシア語、ギリシャ語ができたそうです。

字幕ではリーのドイツ語はほとんど翻訳されないのですが、
ミタムラ艦長が「ハリウッドを攻撃する」といったとき、

「ハリウッドは海から遠い」

とドイツ語で言ったあと(ここだけ翻訳される)

「ワカリマシタカ?」

と日本語で付け足しております。

三船とリーの会話はドイツ語と日本語で、三船も同じように
語尾に時々ドイツ語を加えていますが、その会話が
普通に通じているらしいのが実にシュールです。
これは設定として、

「互いの言語を使うと、互いに『面子を失う』から」

ということにしてあったようです。

 

さて、帝国海軍潜水艦、ハリウッド攻撃を決めた途端に
折り悪しくも航法装置が壊れてしまい、水も漏れてきました。

ミタムラ艦長は激昂し、

「キャプテン・クラインシュミット!
貴官の国は一体なんという潜水艦を我々に売りつけたんだ!」

するとクラインシュミット、

「本艦の計器は全部スイス製である。問題は乗組員だ。
ドイツではヒトラーユーゲントでも10歳までに簡単な羅針盤くらい扱える。
諸君は本国に帰って、あとは第三帝国に任せろ」

ミタムラ「アメリカ本土を攻撃するまでは断じて本国へは戻らん!
航海長!上陸班を編成してハリウッドの現在位置を確認せよ!」

クラインシュミット「艦長、頭は大丈夫か?」

「わたしの部下はいずれもサムライとニンジャの子孫だ。
捕まるようなヘマはせん!」(キリッ)

変装して上陸記念に写真撮影。

「チーズ!」「ちいいいいいいーず」

 

アメリカにはクリスマス用にツリーをファームで育て、
シーズンに売る専門のファームがあります。

夏の間通りかかると、30センチくらいの小さいものから
年代物の大きな木まで、各種育てているのを見ることができます。
11月終わりから1ヶ月間の商いで業者が1年食べていけるというくらい、
アメリカでは生木を飾るのが普通の習慣になっています。

 

今回潜水艦乗員が扮したのはツリーファームのもみの木でした。

そこにやってきたのがツリー農場のオーナー、ホリス・’ホリー’・ウッド。
斧で切り倒そうとしたツリーに逆襲され、助手席のラジオもろとも
潜水艦に拉致られてしまいます。

Pine Woodも「ハリウッド」と読んでしまう英語力の日本人乗員は、
Hollis ’Hollie' Woodというトラックの名前を見て

「ハリ・・・・ウッド。ハリウーーーーッド!」

「バンザーイ!バンザーイ!」\( ˆoˆ )/\( ˆoˆ )\( ˆoˆ )/\( ˆoˆ )/

とっつかまったホリー・ウッド氏、一人のアメリカ国民として
敵に情報を一言ももらさじとがんばります。

「ソーシャルセキュリティナンバーなら教える!106・・・」

SSNは事実上の国民総背番号で、身分証明にもなります。
外国人にも与えられるので、うちも滞在中は持っていました。
そんな番号を日本軍が知っても何の意味もないわけですが。

そこでミタムラ艦長がおもむろに英語で、

「Where Hollywood?」

三船はここで簡単な英語をしゃべっていますが、実際には
話すことはまったくできなかったようで、自伝によると
後年、自分が英語を勉強しなかったことを後悔していたそうです。

それに答えて、ウッドが

「 Right here. ここだよ」

「What? 何?」

「You're looking at him. だから俺がそうだ」

「Who? 誰が」

「I'm right here.だからここにいるって。
Shoot, can't ya understand plain English?
チッ、簡単な英語もわからないのかよ」

中略

「Look.  Where Hollywood? South? North?
見ろ。ハリウッドはどこか?北か、南か」

「あーハリウッドか。ハリウッドの場所を知りたいのか。
そりゃ簡単だ、ハリウッドは・・・・いや、教えねえよ!
また真珠湾みたいにやるんだろ?
ジョン・ウェインの家を爆破するつもりか?」

ちなみにジョン・ウェインには最初スティルウェルの役がオファーされ、
特別出演を引き受けていましたが、台本を見せると病気を口実に断ってきました。
そして断りの電話でついでのように、

「この映画はやめておいた方がいいんじゃないか」

と進言したそうです。
そのときスピルバーグは、

「こんなものはアメリカ映画じゃない、作るだけ時間の無駄だ。
真珠湾では何千人も死んでいるのに不謹慎だ」

とまでいわれた、と述懐しています。

ここでセリフに「ジョン・ウェインの家」がでてきたのは、
ちょっとしたスピルバーグの意趣返しだったかもしれません。

 

さて、ヒーロー、ホリー・ウッドが

「拷問するならムチでもローソクでももってこい!」

見栄を切ったそのとき、タワーのラッタルを降りてきたのは
ナチス将校、ヴォルフガング・フォン・クラインシュミットでした。

拷問・ナチス・スピルバーグ。

これらから連想される、ある映画のシーンに思い当たる方はいませんか?
そう、「インディアナ・ジョーンズ・失われたアーク」で、
こんなシーンがありましたでしょ?

「indhiana jhones Nazis  toture」の画像検索結果

シャキーン。

実はこのアイデアの初出は、このときでした。
フォン・クラインシュミットが冷酷な顔つきで取り出した杖。
皆が息を飲むと、彼はそれを引き伸ばしてハンガーにし、
自分の上着をかける・・・・。
こんなシーケンスが撮影されていたのです。

結局ボツになったのですが、スピルバーグはこのギャグを捨て難く、
後年、インディアナ・ジョーンズでお蔵から出してきたというわけです。

 

「ジーザス・パロミノ!ナチだ!わかったぞ!お前らグルだな?」

いや、グルも何も、わたしら同盟国だったりするんですが。
「パロミノ」(Palomino)というのは栗毛の馬のことですが、
よく聞くと何度も言ってますので、このおっさんの口癖なんでしょう。

「ミスター・ハイニ・クラウト!(ドイツ野郎)
前の戦争ではお前らをさんざん痛い目にあわせたった!ざまーみろ」

「ハイニ」はアメリカ人の思うところの典型的なドイツ人の名前、
「クラウト」は「U-571」でも出てきたように「ザウワークラウト」です。

 

続いて行われたウッドの身体検査で、キャラメル味のポッパージャックの箱から
オマケの小さなボタン型磁石がでてきました。

「うむ・・・十分使用に耐えるな」

「これでハリウッドに行けるぞ!」

「バンザーイ!バンザーイ!」

ところが、これはいかん!とウッドさん、隙をついてそれを
飲み込んでしまいました。

乗員はウッドに無理やり下剤を飲ませて強制排除させようとするのですが、
そのとき彼に、

「もしもしかめよ〜かめさんよ〜」

と歌いながら下剤をかける士官が、俳優の六平直政そっくりです。

ね?

でもこの映画のとき六平直政はまだ15歳なのでそんなわけはないか・・。

それからもう一つ。
ホリー・ウッドの車から奪ってきた大きなこのラジオ、
どう頑張っても潜水艦のハッチから中に入りません。

そこでこの乗員が日本語では

「図体もでかいがラジオもでかいなあ。
誰が作ったんだこんなラジオ・・」

といいますが、英語の字幕ではこうなっていたそうです。

”We've got to figure out how to make these things smaller! "
「こういうのを小さくする方法を考えないといかん!」


日本が戦後、世界の市場を席巻することになる、
トランジスタラジオのアイデアが生まれた瞬間であった。

てか?

 

続きます。

 

 


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