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映画「Uボート 最後の決断」〜”In Enemy Hands ”

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     「Uボート最後の決断」後編です。

原題の”In Enemy Hands"は、「敵の手(で)」と訳せばいいでしょうか。
今までのところ話を4文字熟語で表すならば、「呉越同舟」だと思いますが。
さて、ヘルト艦長がトラヴァース先任を呼んで依頼したこと。
それこそがタイトルの「猫の手も借りたい」(意訳)そのもの、
つまり敵である君らの手を借りて操艦したい、ということでした。

「アメリカ沿岸で艦を始末してから投降する。君らは帰国しろ。
その代わり、我々を寛大に扱い帰国させるよう取り計らえ」

なんと思い切った決断をしたものです。ヘルト艦長は乗員の命と引き換えにアメリカ軍に投降することにしたのでした。

しかし、彼らの乗っているのは他でもないUボート。
東海岸に到着するまでに米艦艇と出会ったらどうするの?
相手を攻撃する?
そんなことが「敵の手を借りて」できるとでも?
わたしですら、すぐさまここまで考えるのに、艦長もチーフも、
全くそのことを想定しないし、考えのすり合わせもしないんですよ。



もちろんこの案に対しては、アメリカ側乗員も拒否反応しかないのですが、
生きて帰ろうとすればそれしかない、とチーフは彼らを説得します。



というわけで話はあっさりとまとまりましたが(まとまるなよ)、
米独の乗員たちはキャビンの右と左に分かれて睨み合い。



そこにチーフと艦長がやってきて、それぞれの「対番」を選びました。
まず、ミラーが組むのはクレマー副長。



機関のオックス(牡牛の意)にはUボートの機関兵曹ハンス。
この二人、見事に雰囲気がそっくりで笑えます。
彼らに与えられたのは残された1基のエンジンで究極の省エネ航行をする任務です。



記念すべき彼らの初の共同作業、それは遺体を艦から出すことでした。
布に包まれた遺体はとても軽そうで、中身はまるでダンボールのようです。



さあ、そして艦長とチーフが二重に発令する指示を受け、敵と肩を寄せ合い、
あるいは狭い機関室で向かい合っての操艦作業が始まりました。



そしてそれぞれの場所では「生還する」という一つの目的のために働く敵同士が
その専門作業を通じて互いを次第に理解し合う姿が・・・。




作業がうまくいくとサムズアップしたり、
身振り手振りで意思疎通したりとだんだん調子が出てきました。


( ;∀;)イイシーンダナー



クレマー副長は吸わないといっているチーフにタバコを勧め、
アメリカ人乗員の優秀さを言葉少なに褒めます。
艦内は禁煙が普通だったというのに、相変わらずこの映画は
みんながタバコを吸いまくります。

そして「計画は成功するだろう」「多分」と言い合います。
しつこいようですが、どうして米艦に攻撃された時の話が全く出ないんでしょうか。



しかしヘルト艦長はふとチーフにこんな本音を漏らすのでした。

「部下の尊敬を失った」
まあ、生きて帰るためとはいえ、降伏する決定をした艦長に
Uボート乗員が失望するのは当たり前というものでしょう。

もし自分が艦長だったらどうしたか、と問われ、チーフは
「1隻潜水艦が抜けたからといって大した問題ではない」
と、間接的に艦長の決断を肯定する返事をします。


この映画における米潜水艦の呉越同舟の相手が、日本の潜水艦でなかったのは、
もちろん英語で会話するという設定が使いにくいこともあったでしょうが、
この頃の日本軍人のメンタルがあまりにもアメリカ人と違いすぎて、
(決して敵に降伏せず、そうなったら迷わず死を選ぶという)
本作品の意図する流れに結びつけにくかったからに違いありません。
 
「1隻抜けたからと言って大した問題ではない」という考えについては、
どこの国も海軍軍人ならちょっとないかなという気がしますが。

そして、この時、二人は初めて(!)
互いの国の艦船と出会ったらどうするかを話し合うんですよ。
しかもその会話というのが、

ヘルト「もしドイツの船と出会ったら計画を捨て、
君たちを逮捕して突き出すとでも思っているのか?」

トラヴァース「それはあるかもしれないと思った」

ヘルト「こちらこそアメリカの船と出会った時、我々を殺すか心配だ」

これで終わり。全く具体的な話に至りません(´・ω・`)

そしてヘルト艦長は、ここでついに核心に迫ってきました。

「なぜ君らを助けたと思う?」

そうそう、それ、わたしたちもぜひ知りたいところですよね。
ところが驚くことに、こんなことを言い出します。

「潜水艦の艦長は、敵艦を沈めたら艦長と副長だけ救えと
ヒトラーが決めた」

これが前回お話しした「ラコニア令」のことであるのはもうおわかりですね。
なんだー、ラコニア令のこと、映画製作は知ってたのか。
てっきり知らないで脚本書いていたのかと思った。

だとしたら、ラコニア令を発令したのはカール・デーニッツなのに、
なぜここで「ヒトラーが」とわざわざ言い換えたのでしょうか。

わたしはこのセリフに、アメリカ制作の映画にありがちな
「悪いことは皆ヒトラーのせい」というあの法則を見ます。

前回の解説でお分かりになったと思いますが、
ラコニア令発令の原因となったのは、アメリカ側の一般人殺害事件でした。
現在の米軍にとってもあまり触れられたくはないであろう「黒い過去」です。

これは想像ですが、制作側は、軍と当局者の機嫌を悪くしてまで
この事件にスポットライトを当てたくなかったのでしょう。
(ニュールンベルグ裁判では『恥をかく』結果だったわけですから)

だからここで「艦長と副長以外は助けるなとヒトラーが非情な命令を出した」
という嘘情報をサラリと流したのです。

しかもこの後艦長が説明する、なぜ助けたかという肝心の理由ですが、

「今回君たちを助けて、その強さを知った。
艦長は強くあるべきだと思っている。
命を奪うのではなく、助けることが強さだ」

これ、変じゃないですか?

そもそも捕虜にした=Uボートに収容し助けた段階では
「君たちの強さ」なんてこれっぽっちもわかってませんよね?

知りたいのは、どうして沈没した潜水艦乗員全員を助けたかなんですよ。
これでは全く理由になっていません。
まさかこの説明で全てを終わらすつもりなのか?

さらに、もし呉越ならぬ米独同船のこのUボートがアメリカ軍艦に会ったら?
ドイツ軍艦に会ったら?という仮定についても驚くことにこんな調子です。

「ドイツの船と会ったらどうするんだ」
「みんなが生還することを一番に考えよう」

だから具体的にどうするんだよおおお!



しかしそのとき、クラウズなどの不満分子が暴発し、いきなりあちこちで
殴り合いが始まってしまいました。
最初にやられたのはエンジン室のオックスでしたが、
なんと!彼を助けたのは「Uボートのオックス」、機関のハンスでした。
どうもハンス、前々からその男を嫌っていた模様。
無骨な男同士に、敵味方を超えた不思議な連帯が生まれた瞬間です。


 
しかしクラウズの勢いは止まらず、魚雷を装填させてから味方に銃を突きつけ

「降伏なんかさせないぞ!」

魚雷を暴発させ、艦もろとも自爆するつもりです。



そしてついにもみ合いになって、倒れた艦長の背中に
ナイフをぐりぐりぐりーっと・・!



詳細は省きますが、クラウズはチーフが後ろから鎖をぶつけ、
何と首の骨を折ってあっさりと片付けました。

しかしもうすでに艦長は瀕死です。

「ヨナス!」



クレマー副長は、艦長命令が下された時には多少の皮肉も込めて、
「ヤボール・ヘア・カピタン」などと答えていましたが、
もともとヘルト艦長と同期であり、友人でもあったのです。

「ヨナス」(ヘルト)は「友人ルードウィッヒ」(クレマー)に苦しい息の下から、

「艦を頼む・・・皆を祖国へ」



この瞬間、クレマーが艦を率いることになりました。
「本来艦長になるべき」という前半の伏線が回収されたのです。

艦長代理となったクレマーが最初に発した命令は「潜望鏡深度」でした。
潜望鏡で外が確認できる深度、12mといったところです。



そのとき距離2,300メートルにアメリカの駆逐艦を認めました。
トラヴァースチーフは、ここで「手を上げる」ことを提案しました。
つまり、本艦はアメリカ人が制圧したUボートである、と知らせるのです。



無線通信でトラヴァースが呼びかけを行います。
相手はなんという偶然、まさかのUSS「ローガン」アゲインでした。

さすがにもう一隻駆逐艦を用意する制作予算はなかったようです。

「合衆国海軍のトラヴァースだといってます」

しかし、通信士が艦長にヘッドフォンを渡した途端電波障害に。
艦長は通信士が聞き取った情報をなぜか無視して切り捨ててしまいました。



そこに第3のUボート、U−1221が現れました。
U-429の現状、現在位置と降伏しようとしていること、
クラウズの一味である通信士が混乱に乗じて発信したこれらの情報を受け取り、
裏切り者を殲滅するためにやってきたのです。


艦長がUー821の艦長と同じ人に見える



この展開に驚いたのは駆逐艦艦長。
Uボートがもう一隻現れたと思ったら、同士撃ちが始まったのですから。

「魚雷が発射されました!」
「誰が誰を撃ったんだ!」



なんかわからんけど、とりあえずこっちも総員配置。



U-429が撃ち返してこないのをいいことに、U-1221 は
いかにもドイツ人らしい律儀さで魚雷を撃ち込んできます。

ちなみにこれらも当時使用されていない近接起爆式です。



USS「ローガン」、高みの見物。



クレマー艦長代理は必死で無線を通じてUボートに

「撃つな!味方が乗ってる」

と呼びかけ、U-1221はその無線を受け取るのですが、
艦長は裏切り者め、とばかり通信のラインを引きちぎってしまいます。

おいおい。機材を壊すなよ。

ただしこの時代、潜水艦は海中からは無線の送受信できませんでした。
いちいち浮上か潜望鏡深度で行っていたといいますから、
この潜水艦同士の無線も、軍事考証的にアウトです。



この状況から逃れるには反撃するしかありません。
今度はUボート乗員たちが艦長代理に攻撃を嘆願し始めました。



決断できない艦長代理に、アメリカ軍乗員代表としてエイバースが説得を試みます。



「向こうはこっちを攻撃してるじゃないか!」

DD理論ですねわかります。



チーフは、

「決断しろ。君が艦長だ」

絶対これ、自分が判断する立場じゃなくてよかったとか思ってるよね。



そして艦長代理は決心しました。
一度だけ反撃することを。

その理由は簡単で、後一発しか魚雷が残っていなかったからです。



相手の上部をすれ違い通過、そして後部魚雷を発射。



しかし、その魚雷は艦体を斜めにかすっただけでした。
言っちゃーなんだが、当たり前です。

「潜水艦同士の水中での一騎討ちは当時あり得なかった」

ということを初回に書きましたが、すれ違った潜水艦の後尾に目視もせず
魚雷を当てるのは、二階から目薬をさすより難しいと思います。

しかもこんな時だけ史実通りで、魚雷は近接爆破方式ではなく、
接触起爆式なので、艦体に斜めに当たっても爆発しません。



そのとき、空気読まない海上の駆逐艦「ローガン」が高射砲を撃ってきました。



U-1221、裏切り者より先に、米駆逐艦をなんとかするべきだったと思うがどうか。
魚雷発射とほぼ同時に爆雷の爆発で轟沈を遂げました。(-人-)
ちなみに爆雷は深度爆弾なので、設定した深度に達すると爆発します。



向かってきたUボートからの魚雷はまたしても近接起爆装置搭載タイプ。

爆発のダメージを総員必死でダメコンしていると、
駆逐艦が発するソナーの反響音が聞こえてきました。
このままだと駆逐艦が次の攻撃を仕掛けてきます。



その瞬間、都合よく通信が駆逐艦とつながりました。
(だから海底からの通信は当時できなかったと何度言ったら)

すかさずチーフがUボートには自分たちが乗っていると通信します。



艦長リトルマンは、トラヴァースにエニグマ暗号機と書類の確保を命じました。
そして今から駆逐艦の乗員をそちらに乗り込ませる、と息まきます。
するとチーフはしれっと聞こえないふりして、

「本艦は浸水が激しくもう沈没寸前です。総員退艦します!」

それを聞いていた乗員一同、「へ?」



「ほらー、あっちこっち亀裂が入ってるからもう沈むぞおお」(棒)

唖然としているクレマー艦長代理に、チーフは男前な一言を決めるのでした。

「Promise is promise.(約束は約束だ)」


そして一致協力して吸気口を全開し、退艦してしまいましたとさ。
艦長代理は、Uボートの中を一瞥し、一番最後にラッタルをのぼっていきます。



さて、無事に陸に上がったトラヴァースは、ドイツ人捕虜の扱いについて
冒頭に出てきた提督に直接請願していました。
我々6人の命を救った彼らは、国に帰されるべきであると。

しかし提督は、今は戦争中で、彼らはドイツ人だからどうしようもない、
と苦々しげに繰り返します。

「ただ、彼らがいい待遇を受けられるように計らう」

ようやくトラヴァースの顔が和らぎました。



そしてお約束。
妄想ではない、現実の妻に苦しかった思い出を涙ながらに語ります。

この映画にトラヴァースの妻はうんざりするほど出てきますが、
はっきりいってこれらは戦争映画の「セーム・クリシェ」以外の何ものでもなく、
画面にちょっと華やかさが欲しい程度の理由でこの女優を出すなら、
もう少しヘルト艦長の娘との思い出とか、クレマーと艦長の若い頃の逸話とか、
機関室のオックスとハンスのその後とかに費やして欲しいものだと思います。

ローレン・ホリーが悪いとは思いませんが、口の悪い批評者は
「馬鹿げたヴェロニカ・レイクヘアはロジャーラビットのジェシカみたいだ」
などと痛烈です><
これね

メイシー・H・ウィリアムズの演技もなかなか軍事的には不評で、

「彼はファーゴではなく海軍のチーフである必要がある」

などと英語のサイトでは言われておりました。
まあ、アメリカ人の目にも軍人らしくないってことなんだと思います。



そして車の中でいちゃいちゃしながら着いたのはドイツ人捕虜収容所。



金網越しに捕虜と面会できるものなのでしょうか。
チーフはクレマー艦長代理を呼び出しました。



そして別嬪の妻を、囚われの身となっている男に見せびらかすのでした。



妻はクレマーに夫が生きて帰れたことのお礼を言いたかったようです。
チーフは彼にドイツのタバコをこっそりわたし、
クレマーはそれを嬉しそうに受け取るのでした。

そして、収監生活の待遇の良さに部下たちは皆満足しており、
投降を決断した艦長もここまでは予想していなかっただろう、
生きて帰ることが目的ならば、艦長はそれをやり遂げた、と語ります。

そして、

「もしあのとき撃った魚雷が(味方のUボートに)当たっていたら
今どんな気持ちだっただろう」

と付け加えます。
重い選択でしたが、結果として運命は彼に十字架を負わせることなく終わりました。



金網越しに相手の手に自分の手を重ね(なるほど、ここにもタイトルの暗喩が)、
それから去っていくチーフを見送りながら、
クレマーは柔らかい表情でタバコを取り出して咥えるのでした。



皆さん、いかがだったでしょうか。
わたしがこの映画に冠したい評価は、ただ一言。

「エンターテイメントとしては最高、
しかし歴史的価値はなし」

戦争映画、潜水艦映画としてはともかく、やたら後味のいい作品です。


終わり。





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