アメリカの食は決して悪くない、と常々このブログで書いていますが、
旅行者としてアメリカを訪れ、高くてまずいだけのホテルのレストランで
美味しくもないのにウェイターが
「エブリシングイズグッド?」
とか聞いて来るとグッド、とかイエスとか答えてしまい、
チップも置くはめになって忌々しい思いをし、
街中のジャンクなファストフードや空港のサンドイッチで空腹を満たして
「やっぱりアメリカは飯がまずい」
と決めつけて帰ってくる日本人は多いと思われます。
アメリカには美味しいものもたくさんあるのですが、それは
実際ここに長期間住んで、地元の人々の評価するレストランや、
ローカルフードを自分で調理するということでもないとわかりにくいものです。
アメリカの便利な点は、食材を自分の好きな量買えること。
スーパーに行くと、あらゆる食材、調味料やスナックがこのように
「バルク」という量り売りをしています。
写真はナッツなどのコーナーですが、レーズンやカシューなどの他に、
調理に使う豆や米(玄米、胚芽米、白米、ジャスミンライス、その他たくさん)、
カレーパウダーや蜂蜜、紅茶の葉、ピーナツバター、オリーブの身・・・、
これらも全て少しだけ買うことが可能。
さらに、ほとんどのオーガニックスーパー「ホールフーズ」には、
野菜や総菜をバッフェのように好きなだけ取り、その場で食べる
イートインテーブルがかならずこのようにあります。
このホールフーズは、イートインのためにダイニングがあり、
時々はここのキッチンで料理教室も行われています。
掲示板にはヨガ教室などのお知らせも貼られ、大抵は
ちょっとしたコミュニュティとなっているのです。
この日お昼ごはんに買ってみたのは、息子の持っているのがラップ、
わたしはニューイングランド・ターキーサンドウィッチ。
右側の白い飲料は、2年前新発売になったシリーズで、
カシューナッツミルクにアガベシロップでわずかに味を整えたもの。
アメリカには代替ミルクとしての飲み物がたくさんあり、
豆乳以外にもゴートミルク、シープミルク(無茶苦茶まずい)
ライス
ライススプラウト
アーモンド
カシューナッツ
などの種類豊富なドリンクがよりどりみどりです。
何度かこのブログではターキーを話題にしてきましたが、この、
脂肪が少なくあっさりとしてしかも味わいのあるターキーが、
わたしはチキンよりも好きで、とくにターキーハムを、
クランベリーとクルミの入った胚芽パンに挟んだ、このサンドイッチは大好物。
ターキーはどこでも手軽に手に入る肉なのですが、
これではありません。
これはワイルドターキー。
食用の足の短いターキーです。
ワイルドの方が食べられるのかどうかはわかりません。
ターキーを見た日、前にもお伝えしましたが、
学校の近くのアイスクリーム屋に行きました。
持ち帰りが出来ない、その場で食べる昔ながらのアイスクリームショップ。
種類は豊富で、おそらく100種のフレーバーがあるでしょう。
隣の牧場にはニュージャージ種の牛が放牧されています。
去年3頭しかいなかったのですが、今年は増えて8頭になっていました。
遠くにここの子供と牧場主らしい男性が車から降りて来るのが見えています。
向こうに見えているのは芝刈り機で、放牧場以外のところを刈ります。
牧場の方は牛が食べてくれます。
牛も団体行動をするのか、このとき一頭が水を飲みに向かうと、
皆ぞろぞろとついてきて一斉に水を飲み出しました。
牧場主の自宅は、放牧場と同じところにあります。
アイスクリームを食べに来る客のために、このような
ホルスタインの親子を飾っていますが、長年の観察によると、
この牧場主とアイスクリーム屋のウルマンさんは別の人である模様。
アイスクリーム用のミルクはここから購入しているのかもしれません。
ニュージャージー種と同じ柄のセントバーナード。
この犬は牛をバックに何枚も飼い主が写真を撮ってあげていました。
老夫婦の子供がわりのように見えます。
どうも老犬らしく、自力で車に乗ることがなかなか出来ません。
飼い主も巨体の犬を抱えることもままならず、
長い時間かけてやっとのことで座席に上げていました。
夫婦と共に犬も年を取ってきたのでしょう。
さて、今年はボストンにTOが来たので、わたしの恒例である
ボストン美術館見学に二人で行きました。
このカフェは新しく併設された部分で、元々は外でした。
奥に見えているのがかつての外壁です。
明るく天井の高いスペースにある、ちょっとした食事もできるカフェです。
一人で来たときに軽くサラダを食べたことがありますが、
二人なのでちゃんとしたランチを取ることにしました。
前菜とメイン、デザートがついて来るコースを取ってみました。
それぞれいくつかから選べます。
まず冷たいガスパッチョ。
メインはアーティチョークのキッシュ。
アーティチョークも日本ではあまり見ませんが、
こちらではサラダの具やスープに多用されます。
キッシュは絶妙の柔らかさで、しかも暖かく、
外側のパイはサックリとしていながら口の中で
ほろほろとほどけるような食感。
TOの頼んだのはサーモンですが、赤いビーツとレモンの
ストリングのようなトッピング、そしてピスタチオの
ソースが単調なサーモンに味わいを加えてこれも秀逸です。
デザートは「エンジェルケーキ」。
エンジェルケーキとは、たまごの黄身を使わず、
泡立てた白身だけで作ったふわふわのケーキのことで、
大抵はリング型に流し込んで焼くのですが、ここでは一人分ずつ
カップケーキ型で焼いています。
ソースはラズベリーで、ピーチの煮込んだものが添えられています。
さて、ボストン美術館の素晴らしいところは、一度訪れたら
10日以内にもう一度同じ入場券で再入場できることです。
一日目に食事に時間を使ってしまったので、わたしたちはその翌日、
こんどはしっかり鑑賞するつもりで再訪しました。
すると入り口で
「今日はオープンハウスで、入場料無料です。
このチケットは10日以内にもう一度使えますから
取っておいて下さい」
と言われました。
どれくらいの割合かは知りませんが、当美術館では
こうやって時々、全ての人々に開放されるのです。
しかも週末は9時45分まで美術館は開いています。
あまりにも広大で、膨大なコレクションを誇るこの美術館、
いつ来ても全部見られたことはないのですが、
9時半までどう時間を使ってもいいのなら、ゆっくりと
(それでも全部は無理ですが)見て回ることが出来ます。
そして、そんな楽しみに食を提供するため、館内には
先ほどのカフェを含めて4つのレストランが併設されているのです。
この日、TOと、ここで一番グレードの高いレストランを予約し、
鑑賞の合間に夕食を頂くことにしました。
ブラボーというレストラン。
ミュージアムの中なのだから、もう少し凝ればいいのに、
なんだか直球みたいなネーミングですね。
テラス席があったので迷わずそこにテーブルを取ってもらいました。
手すりから下を見ると、美術館の中庭が広がっています。
皆思い思いにテーブルに座って、鑑賞の合間のひとときを楽しんでいます。
手前のお母さんと息子は、キャッチボールをしていました。
こういう時間と空間に余裕のある美術館で、一日過ごす楽しみ。
別に「勉強」のつもりで肩肘はって来る必要などないのです。
鑑賞に飽きたり、疲れたら、ここでずっと座っていてもいいのです。
極端な話、別に鑑賞しなくたっていいのですから。
中庭を囲んでいるので、夕日を受けた背の高い木々から
吹き渡る風が夕方の空気を運んでくれます。
ボストンの夏は夕焼けのときがとても美しいのです。
床にこぼれているパン屑を目当てに、スズメも多数出張。
昨日のお昼、ガスパッチョが美味しかったので、ここでは
別の味が楽しめるかと思って頼んでみました。
どれもガスパッチョですが、違うベースで味が違います。
右からトマト、真ん中はおそらくパプリカ、左はズッキーニ。
日本のレストランのように運んで来るたびに料理の説明をしないので
何か分かりませんでした。
会話しているのを遮ってまで、メニューの説明を何としてでもしようとする
日本のあのサービスも時によりけりだとは思いますが、
こういうところでは少しくらい説明してくれてもいいかなと思います。
わたしの頼んだメインディッシュ。
カモのローストです。
ターキーもそうですが、わたしは日本で食べられないカモのような家禽が好きです。
日本では鴨南蛮とフレンチレストランで食べられるくらいで、
そもそも肉を買うことが出来ないのですが、アメリカでは
このカモのステーキというのもポピュラーです。
ところで皆さん、このカモの下にあるヌードル、何だと思います?
これ、うどんだったんですよ。
ジャパニーズ・ウドン・ヌードル。
ウドン、エダマメ、 ポンズ、フジアップルなど、日本の食材で
そのまま英語になっているものは結構あります。
大根は「ダイコンラディッシュ」。日本のカボチャは「カボチャパンプキン」。
白菜のことは「ナッパキャベッジ」といいます。
この「ナッパ」が「菜っ葉」から来ているのは明白ですが、
それが気に入らないらしい韓国政府が、これを「キムチキャベッジ」
と言う名称にするために頑張っているそうです。(なにを?)
しかし、あまり功を奏していないらしく未だに「キムチキャベッジ」になっていません。
日本海の名称もそうだけど、長年そう言うことになっている名称を
政府や一国が主導したからと言って、そんな簡単には変えられないと思うがどうか。
それはともかく、このうどんですが、オイリーなカモの下に敷いてあり、
どうもホースラディッシュにミソを混ぜたソースで和えているようでした。
添え物としては日本人には思いつかないアイディアですが、
これはこれでなかなか美味しかったです。
シソを乗せたカモの素晴らしかったことはいうまでもありません。
TOはマスを頼みました。
こういう場合、日本の料理人は顔を落とすと思うのですが、
あえておかしら付き(頭だけ)です。
しかも外側を黒こげのように焼いているので、我々日本人には
いまひとつの見かけに思われましたが、これが意外や意外!
マスのお腹をスライスして,中にポテトとリーキのソテー
(うちわのような育ち方をする太いネギの一種)が詰めてあり、
これもマスが淡白であるのを巧くカバーしていました。
さすがはボストン美術館、レストランのシェフも一流のようです。
「美味しいねえ」
「さすがは世界に名だたる美術館だけのことはあるね」
ルーブル美術館がそうであるように、美術館での観覧、
というのをただのお勉強の時間だけに終わらせず、
大人も子供も楽しく過ごせる時間にするための最も効果的な方法は、
美味しい食事を提供することなのです。
そう言えば、ある世界的なジャズミュージシャンが
「いいライブハウス?それはいいキッチンがあるところだよ」
と言ったという話がありました。
見る、聴くという楽しみを最大限に高めるには、「食べる喜び」
が大きな演出となるのです。
五感を全て刺激する美術館、しかも全ての人が訪れることの出来る施設。
こういうのが本当の「文化」だと思うのですが、皆さんどう思われますか。
わたしは、こんなときアメリカ人を心から羨ましく思うのです。