本日挿絵を見るなり「何じゃあこりゃあ」と思われた方、
おそらくあなたの嫌な予感は当たっています。
戦争映画をウォッチングしてきて幾星霜、エリス中尉とんでもない映画を見つけてしまいました。
おそらくここでネタにするという下心がなければ購入はもちろん、レンタルすら
もったいなくて躊躇われるレベルの映画であることは、
「戦後20年、未だ存在していた帝国海軍部隊が、ムウ帝国に立ち向かう」
という内容を見ただけで察しがついてしまったのですが、ポイントは「帝国海軍」。
「太平洋の嵐」など海軍ものを手がけた本多猪四郎(変換してみて”いしろう”と読むことを知りました。
今の今まで”ちょしろう”だと思っていて本田監督ごめんなさい)の作品で、
しかも藤田進、平田昭彦、そして主役に田崎潤が出る?それなら観るしかない!と
ほとんど怖いもの見たさでDVDをしかも購入してしまいましたorz
原作は1900年に発表された押川春浪の「海底軍艦」なのですが、
「孤島で海底軍艦を作る」
という発想以外はまったくつながりはなく、オリジナルのストーリーだそうです。
で、観ました。
途中で何度「なんでそうなるかな」「いやいやいやいや」を思わず口にし、
何度モニターにお茶を噴きそうになるのをすんでのところで堪えたことか。
というわけで、ここでツッコむ以外にこの映画の存在価値は全くない、
くらいの勢いでエントリ登場となったわけです。本田監督ごめんなさい。
さて、押川春浪の原作では、海底軍艦「轟天号」はロシアと戦うことになっているそうです。
ロシア・・・・・だと・・・?
1900年といえば、あの栄光の日本海海戦の4年前、つまりこのころは
仮想敵国としてロシアがすでに認識されていたということもあったんでしょうね。
「少年小説の先駆け」とされるこの小説で、当時早稲田大学(の前身の東京専門学校)
学生だった押川春浪は、はたして「国威発揚」を意図していたのか・・・・?
その後帝国海軍は、ちうか日本はロシアに勝ち、アメリカに負けて終戦となったわけですが、
それから戦後さらに20年を経て、このころは再びロシアが「仮想敵国」になっていました。
なんたる偶然。
なら原作のままロシアと戦うことにしても良さそうな気もしますが、
撮影のために必要な大量のロシア人だとか、当時の世界情勢とかがネックになり、
(たぶん)映画スタッフは、ここで思い切って敵を「ムー帝国」にしてしまったというわけです。
もうこの時点でキワモノ決定となったことは否めないのですが、
かてて加えて、帝国海軍の軍人が総出演するというトンデモ設定にしてしまいました。
ちなみに当時はまだまだ社会の構成員のほとんどが戦争を知っている世代で、
実際に脚本を手がけた関沢新一は海軍軍人として南方に出征しています。
ムー帝国と海軍軍人と海底軍艦。
この三題噺のテーマのような要素を組み合わせていったいどのように辻褄を合わせるのだろう、
とわたしは見る前から不安でたまらなかったのですが(嘘)、ご安心ください。
本映画は、つじつま合わせなし、伏線回収なし、オチなし含みなしついでに意味もなし、
すべてのそんな瑣末なことは、ムー帝国の皇帝の化粧の濃さを始めあまりのインパクトに
消し飛んでしまったという意味で、大変大胆かつダイナミックな作品となっています。
それでは登場人物を紹介していきましょうかね。
こ、このお方は・・・っ!
わたしが軍人役の時のみファンの、平田昭彦様!
ん~?
なんだってグラサンして運転なんぞしているんだ?
しかも後ろの人は苦しんでる様子。
拉致か?ラチズムか?
あ~びっくりした(笑)
皆さん、北あけみという女優さんご存知でした?
フランスの女優パスカル・プティに似ているということで、モデルから
女優になった当時の「お色気担当女優」的な存在だった模様。
で、本編では夜中の埠頭でヒョウ柄のビキニを着て写真撮影をするモデルの役。
一瞬出てきて服を脱ぎ、海の中から不意に現れるムウ帝国人にキャーと驚く、
というだけのチョイ役ですが、これが見たくて映画を見たという人もいたようです(笑)
北あけみ扮するモデルのリマコ(なんちゅう名前だ)を撮影していたのは
本編の主人公、というかなんでいるのか最後までわからないカメラマン、旗中(高島忠夫)。
助手の西部(藤木悠)。お調子者担当。
旗中が偶然見かけてモデルにするために追いかけ回す美女、神宮寺真琴(藤山陽子)。
彼女が秘書として仕えているのは・・・・、
そう、上原謙演じる、楠見元海軍技術少将。
今は海軍ととりあえずちょっと関係ある海運会社の専務。
海軍会社の名前は「光国海運」といいます。「こうこくかいうん」ですね。
帝国海軍では艦政本部特別設計班班長をやっていたという設定。
そのことは楠見元中将を訪ねてくる週刊誌記者海野魚人(佐原健)によって明らかにされます。
もうこの名前で怪しい人決定なのですが、それはともかく、楠見は
「戦記物ブームのネタになるようなものは何もないね」
とつれなく追い返そうとします。
戦記物ブームは、1952年に「大空のサムライ」の元になった「坂井三郎空戦記録」が
出版されて以降の現象ですから、このころ(1962年)はブームが一般に膾炙し終わったくらい?
海野が出したのは伊号四〇〇型潜水艦の写真でした。
・・・じゃなくて、四〇〇、四〇一、四〇二に続いて建造されるはずだった
幻の潜水艦、伊号四〇三潜が存在するはずだというネタを持ってきたのです。
「伊403の艦長だった神宮寺八郎大佐の行方はどこなんでしょうね」
神宮寺大佐ならサイパン沖で終戦前に戦死した、と記者に言い放つ楠見。
秘書の神宮寺真琴は大佐の娘で、楠見が面倒を見ていますが、真琴に対しても
神宮寺は死んだということで押しとおしています。
20年前の出撃前夜、神宮寺が娘を頼むといって楠見に託した写真。
妻がいないという設定のようです。
戦争ゆえ娘を一人置いて出撃しなければならなかった父。
しかし真琴はそんな父の軍人としての行動が全く理解できません。
それもこれも大佐の愛国心のなせることだという楠見の説明に、
「愛国心?」
まるで外国語を聞くように、問い返す真琴。
その後二人で会社の車に乗って何処かへ出かけていくのですが、
運転手はどんどんと違う方向へ車を走らせます。
ありがちな話ですが、運転手はムウ帝国人でした。
二人をムウ帝国に連れて行って皇帝に忠誠を誓わせるそうです。
どうしてこの二人を連れて行くかというと、それは・・・・
・・・・・・う~~ん・・・・。
なんでだろう?
最初に拉致られた人も技術者だったというし、楠見が技術少将だったから?
この二人がどうしてここにいるかというと、それは旗中が
真琴をモデルにしようとしてしつこく後を追ってきたからでした。
通りがかりの女性の車のナンバーを割り出して相手を特定し、
追いかけてくるというのはかなり問題のある行動で、今なら
ストーカー防止法かなんかに引っかかりそうです。
というか、最初から最後までこの旗中という男にわたしは好意が持てないんだが。
二人が楠見と真琴を奪い返すために男に飛びかかると、男は
持った金属を真っ赤に熱してしまいました。
革の手袋はどうして燃えないのだろう。
しかし、案外弱っちくて、すぐに旗中に銃を奪われてしまい、
スーツのまま海に飛び込んで逃げてしまいます。
鉄を熱したり水に飛び込んだり忙しい奴だな。
体が火傷するほど熱いというのが目撃者の証言なのに、どうして
彼らは水に飛び込んでも湯気一つ出さないのか。
そしてムウ帝国人というのはかつて人間だったはずだが、いまはなぜ半魚人なのか。
それにしても寒そうな海にサングラスをしたまま飛び込む平田昭彦。
役者も大変です。
そして、半魚人、じゃなくて諜報員23号から取り上げた銃を
楠見は何のためらいもなく23号に向かって何発もぶっ放します。
ところでこの写真、当時の桜田門の警視庁ですね。びっくりしますね。
当時はこんなに周りがスカスカだったんですね。
周りに何もないのはピンポイントで米軍が建物を残したからなんですね。
ムウ帝国人に襲われたメンバーで警察に被害届を出しにきたのです。
刑事の伊藤(小泉博)は、銃を点検しながら
「発砲したのは楠見さんですね」
正当防衛でもないのに発砲したらこういうときには銃刀法違反?
でも映画だから普通にいいことになっています。
「しかも問題はこの物騒な人間が世界中に派遣されているってことですよ」
なんでそんなことを知っているのか旗中。
そこに送られてきた小さな包み。
宛先は楠見閣下で、送り人はムウ帝国工作員23号。
中から出てきたのは、おしゃれなプラスチックリールの8ミリフィルムでした。
早速関係者一同で鑑賞会。
前の方には防衛庁長官はじめ自衛隊の幕僚長、後ろの段には
陸上自衛隊の戦闘服を着た一団がいます。
で、真ん中に一介の警視庁刑事である伊藤がいるのも不思議ですが、
もっとわからないのは一介のカメラマンにすぎない高島がでしゃばって、
しかもいつの間にか彼氏づらして神宮寺真琴の横に席を占めていることです。
あんたなんでここにいるの?
始まり始まり。
ムー大陸は昔ここにありました。ってか?
でも今は地下に沈んだので、そこで文明を発展させてきたのです。
というわけで、東京ビックサイトで見たホビーショーのジオラマよりもチャチな、
ムウ帝国の高度な発展を遂げた文明が、これでもかと映し出されます。
ちょっとわかりにくいですが、カプセルのようなものは彼らの乗り物で、
空中だか海中だか知りませんが、ふわふわと移動しております。すげー!
「楠見さん見てください!」
と叫ぶ藤田進海上幕僚長・・・・じゃなくて役名は「防衛庁長官」、つまり今でいう
防衛大臣のはずなんですが、これどう見ても「制服組」だろっていう。
防衛庁長官は制服は着ませんのよ。
おそらく藤田幕僚長も海軍出身の海上幕僚長に違いありません。
なぜ彼が激しく反応したかというと、画面には、
これが写っていたからです。
伊号403潜水艦。
伊号400型というのは、小型の航空機「晴嵐」を搭載し、洋上で組み立てて
カタパルトで飛ばすことができたというくらい大きくて、カテゴリとしては
『潜水空母』というべきものでした。
大きさは全長122m、幅12m。
アメリカのガトー級の大きさを27m上回るもので、世界最高の航続距離を誇り、
理論的には、地球を一周半航行可能で、日本の内地から地球上のどこへでも
任意に攻撃を行い、そのまま日本へ帰投可能であったというものです。
いずれも十分な戦果を上げる前に終戦を迎えたため、連合軍は敗戦まで
その存在すら全く察知していなかったということです。
戦後になってこの艦体を見たアメリカ軍人は一様にその大きさに驚き、
「Wonderful! Bigone!」
と喜んじゃったりしたそうです。
さすがアメリカ人、大きいことはいいことだったのね。
さて、なんでムウ帝国に伊号403が飾ってあるのでしょうか。
それは、ムウ帝国人が放置してある伊号403を見つけて取得したのです。
ちなみに(ちなみにじゃねーw)伊号400は2003年8月、伊402は2005年に
投棄された海底が特定されているそうです。
神宮寺大佐が伊403を乗り捨てたのは、ムウ帝国の調べによると、
伊403に代わる強力な潜水艦、いや、海底戦艦を作っているからであり、
ムウ帝国としてはそれを
「中止させろ」
と言いたいわけです。
しかし、神宮寺大佐が海底戦艦を作ったって、ムウ帝国を侵略するどころか、
多分その存在も知らないんだし、なぜ海底戦艦を危険視するのか?
ふむ、これはつまり「いずも」が空母じゃないか!日本は軍拡している!
といって日本の防衛力増加を嫌がるどこぞの国とおなじような理由?
この国もそうですが、別に侵略したりどこかの島を盗ろうとか思っていないのなら、
日本がどんな武器を持っても何も心配することはないと思うんですよね。
はっ!
ということは、ムウ帝国も何か、地球に強力な防衛力を備えられては
都合の悪いことを計画しているっていうわけかな?
「ムウ帝国の地上復活のため、全世界をムウ帝国皇帝陛下に献上するのだ」
やっぱり・・。
つまり地下生活が窮屈になったので、地上で暮らしたいから場所を提供しろと。
んーと、まずね、高度な文明を持っていると自称するのならば、
伊403をただ飾っておかないで、自分たちでリフォームして強力な対抗武器を
作ってしまえばいいと思うの。提案だけど。
何人かの日本人技師を襲ったのは、多分拉致してそれをさせるつもりだと思うけど、
一人二人の技術者をさらってなんとかなることなら、おそらくムー帝国にも
頑張ればきっとできないことではないと思うのよ。
「みよ。我が民族の喜びの声だ」
人の話聞いとらんなこの23号は。
しかしこの、古代ローマとかアステカとか、そういう雰囲気の帝国、
やっぱり文明が高度だというのはハッタリかしら。
さて、この脅迫フィルムは世界中に出回っていて、ムウ帝国が
脅かしていたのは日本だけではなかったことがわかりました。
どうなる世界!
続く。