映画「海底軍艦」三日目です。
突っ込みだしたらきりがないので、少しテンポを早めます。
この映画の設定によると、ムウ帝国は米原子力潜水艦が圧力で潰されるくらい
深海に沈んでしまったということになりますが、そんな深海に人類が都市を築き、
高度な文明社会を営むことができたなど、誰が想像できたでしょうか。
まあ想像した人がいるからこんな映画ができてしまったわけですが、
それ以前にじゃあムー大陸って何なのよ、ということからいうと、
ムー大陸は、元イギリス陸軍大佐を自称していたジェームス・チャーチワードが、
今から約1万2000年前に太平洋にあった大陸とその文明であるとしたものです。
しかし、決定的な証拠となる遺跡遺物などは存在せず、海底調査でも
巨大大陸が海没したといういかなる証拠も今のところ見つかっていません。
それどころかチャーチワードの陸軍大佐という経歴も詐称であることがわかっており、
(インターネッツがない時代なのでこういうハッタリがある程度通用したんですね)
つまり一人の詐話師の作り話、ということに今では落ち着いているようです。
が、ウェーゲナーの大陸移動説のように、多くの人々が信じたい、
まあなんというかロマンみたいなものが受け入れられてきた結果、
これだけ有名になってしまったということろかもしれません。
そのトンデモ話を、さらに文字通り深化させてしまったのがこの映画というわけです。
ムウ帝国では日本人が要職に就いているらしく、 公用語は日本語。
皇帝が日本人なら、長老(天本英世)も日本人。
ちなみに天本英世、映画撮影時38歳。
しかし印象に残るおじいさんのイメージと寸分違わず。
長老を警衛する兵士も茶髪の日本人の兄ちゃんです。
1962年当時は奇抜だった茶髪ですが、その50年後、日本が
こんな色の髪の毛の日本人だらけになっていようとは誰に想像できたでしょうか。
「ハーイ」
そこに帰国してきた工作員23号。インディアンのノリですか?
エジプト王朝の人みたいに半裸によだれかけ。
・・・もうね。
わたしこれを見た瞬間、平田昭彦に様をつける気がなくなりました。
「キスカ」や「潜水艦イー57降伏せず」での海軍軍医役、「さらばラバウル」での
若き戦闘機搭乗員役、「太平洋の翼」「太平洋の嵐」での飛行長役があんなに似合っていた、
陸軍士官学校在籍、東京大学法学部卒のインテリ俳優にこんな役をさせるんじゃない!
今にして思えば、「地球防衛軍」で、地球外生物のミステリアンの手先となり
地球侵略を幇助していた科学者の役をした頃から、東宝映画は平田昭彦に
妙な役割をさせるようになっていたような気がしますが、それが高じて結局
特撮映画の怪しげな博士役ばかりが晩年のイメージになってしまいました。
いかに本人が望んだこととはいえ、もう少し別の方向はなかったのか。
ちなみに工作員23号がご機嫌なのは、楠見少将たちが神宮寺大佐の元に行くことになり、
これで轟天号の根拠地が割れる!という目処が立ったためです。
「我らの苦しみを地上の奴隷どもに降らせ給え~」
何かと集まってはみんなで変なダンスをするムウ帝国の皆さん。
なんと、よく見たらウェーブになっています。
ちなみにここで歌われる歌は、なんと音楽担当をした伊福部昭本人によって
太平洋諸島の言語で歌詞がつけられたということです。
ありがたや~。
ところで、海運会社の重役である元海軍少将の楠見。
冒頭挿絵でも突っ込ませていただきましたが、そこここで
「敬礼はいいよ、軍隊じゃないんだから」
とかいった端から
「安藤兵曹!」「頑固だな貴様」
などと海軍軍人モード全開です。
戦後、元軍人たちは軍人であるということだけで「戦犯」と言われたり、
公職追放にあったりしてそのことに対し複雑な思いを持って生きてきましたが、
反面、「戦記ブーム」などもあって、多くの人々が媒体で体験を語ってきました。
特に海軍は「サイレントネイビー」が美徳とされる戦前からの風潮ゆえ、
戦中の体験について何も語らない人の方が評価されたりしています。
しかし中には
「サイレントネイビーとして語らない」
と当初いいながら、色々なしがらみで結局あっちこっちでしゃべったことになって、
それなら最初からサイレントネイビーなどと公言しなきゃよかったのに、という人もいます。
本当のサイレントネイビーとは、死ぬまで自分の敵兵救助を誰にも話さなかった駆逐艦「嵐」の
工藤艦長や木村昌福(まさとみ)少将なんかのことを言うんじゃないでしょうか。
だいたい自分で「サイレントネイビー」ということ自体が考えればすごい矛盾よね。
話が逸れましたが、この楠見少将もまた、サイレントネイビーとして戦後20年、
自分が海軍軍人であることすら公言せず生きてきたわけですが(たぶんね)、
どういうわけか未だに海軍組織として機能しているらしい神宮寺大佐とその一派と
繋がりができた途端、すっかり”気分は少将”に戻ってしまったようです。
海軍軍人としての誇りはいっときも忘れたことがなかった、ってところでしょうか。(適当)
島に向かう船の上でも真琴にまとわりつくカメラマン旗中。
この男がカメラマンとして仕事をしていたのは最初のうちだけ。
国費で神宮寺大佐捜索隊に加えてもらい、そこで何をしているかというと、
こうやって暇さえあれば彼女にちょっかいをかけるだけ。
いったいこの男はなんなんだ~!なんのためにいるんだ~!
(えー、わたしは某所でやらかした高島忠夫とその嫁の悪行を、関係者から
昔聞いたことがあって、それ以来俳優としても大っ嫌いであることをお断りしておきます)
「どうして父はわたしに生きていることを言ってくれなかったんでしょう」
「それは古い愛国心、家庭を顧みるのは女々しきふるまいというわけですよ」
・・・・・違うと思う。
古かろうが新しかろうが、愛国心と家庭を顧みることは両立するぞ高島。
というか、何かにつけて愛国心愛国心とディスるために愛国心言うんじゃねーよ高島。
この船に乗っているメンバーの中で、さらになんのためにいるのかわからない
週刊誌記者の海野は、皆の隙を見つけてピンポン球を海中に投入。
その海面下にはムウ帝国の潜水艦が・・。
工作員として連絡を取っているんですねわかります。
そして島に到着し、密林をカヌーで下って行くとあら不思議。
そこはすっかり昭和20年以前の南洋の海軍根拠地。
下士官兵に誰何されながら天野兵曹の後をついていくと、
なんと岩に作られた司令室。
「轟天建武隊」
となにやら陸軍ちっくな部隊名が看板に書かれ、出てきたのは副長。
おおこれは紛れもなく帝国海軍。
舞台裏を明かすと、東宝ではこの時、同時にあの戦争映画「太平洋の嵐」、
そして「青島要塞爆撃命令」が制作されていたと言います。
この映画に出ている平田昭彦、田崎潤、藤田進、は「太平洋の翼」に、平田と田崎は
この三つのどれにも出演しており、さらに田崎はそのどれもが軍人役でした。
この「海底軍艦」の原作には海軍が海底軍艦を作るというストーリーはないそうです。
東宝の「海底軍艦」スタッフは、ちょうど撮影が行われている別の戦争映画の
ファシリティとか衣装とかが流用できるから、という理由でこの設定にしたのでは?
と今ふと思ってしまったのですが、実際のところはもう誰にもわかりません。
副長登場。
「お待たせしました。司令であります」
はっと緊張する一同。
特に真琴は写真以外で見たこともない父との初めての対面なのです。
神宮寺大佐、初登場。
安藤兵曹を日本に派遣して娘の様子を窺わせていたはずなのに、
娘を凝視するなり目をそらして楠見少将に敬礼。
「少将、お久しぶりです」
楠見はすっかりこのころにはその気になっていたので、
神宮寺大佐の敬礼も「少将」も否定せず、鷹揚に頷いてみせます。
「神宮寺の反乱行動を穏便に処置いただきまして感謝しております」
相変わらずなんのことだかわからない反乱とやらのことを言っておりますが、
ここでも全く説明がないのでなんのことだかわかりません。
さらに神宮寺大佐、娘を紹介されているのにガン無視。
ショックでふらつく真琴を待ってましたと旗中が抱きとめます。
なんだかアットホームな雰囲気の司令室だこと。
この和気藹々とした空間で神宮寺が重大発言を。
「明日海底軍艦『轟天号』の試運転をします。
我々が日本海軍のために立ち上がる時が来たのです」
ん?どこの国と交戦しようとしているのかなこの人は。
楠見少将はムウ帝国との戦いに海底戦艦を使わせてくれと頼みますが、
大佐はすげなくおことわりします。
この海底戦艦をもって、神宮寺は日本を、いや海軍を再興させるべく、
今日まで執念を注ぎ込んで建造に当たってきたのでした。
こんな南洋の島でどうやって?と思うわけですが、それより、
神宮寺は海軍を再興させるためにとりあえず何がしたいのでしょうか。
アメリカともう一度交戦?ソ連をやっつける?
「戦争は20年前に終わったんだ」
しかしこの当たり前のことを神宮寺大佐は受け入れません。
戦後ブラジルに移民していた日本人たちの間では、戦争に負けたことを
認める派(負け組)と認めない派(勝ち組)に分かれて激しく対立し、
ついには殺人事件まで起こるという騒ぎがあったのですが、
神宮寺大佐も頭では認めているがその信念が認めないという状態です。
たとえそうだったとしても、今から我々が何とかしてみせるという勢い。
そこでしゃしゃりでてくるこのでしゃばり男。
「せっかく訪ねてきた娘に優しい言葉一つかけない
戦争基地外とは話したくありません!」
おっと、決め台詞のつもりだろうがその言葉は放送禁止用語だ。
神宮寺「少将、あの男は?」
楠見「真琴を不幸にするような男でないことはわしが保証する!」
ちょ、なに言ってんですか少将。この男の何を知ってるんです少将。
街で見かけて車のナンバーを突き止めて追い回し、することといったら
ずっとお嬢さんの横にスタンバイしてベタベタ体を触っているだけなんですけど。
今から試運転が始まるそうです。
地下ドックの入り口を入っていくと、
合成画像丸出しの海底戦艦環境に立つ神宮寺大佐が。
これも合成画像丸出し。
海底軍艦のハッチに海軍式駆け足で入っていく乗員たち。
これが海底軍艦でーす。
掘削機が付いていてモグラを彷彿とさせます。
円谷英二は、このころ先ほども言ったように東宝で戦争映画が同時進行しており、
そのため特撮の撮影時間を通常3ヶ月のところ2ヶ月で仕上げたそうです。
道理で・・・・いや何でもない。
ドック内に注水され、海底軍艦「轟天号」は発進します。
そして浮上!
糸で吊られているのが丸見えの海底戦艦が浮上どころか空中に浮揚。
水陸どころか水陸空両用、じゃなくて水陸空鼎用?
しかし円谷くん、仕事が荒いよ仕事が。
試運転成功で宴会してるし(笑)
ここで少将が真面目に見ている観客に成り代わり、各種疑問を大佐にぶつけます。
それによると、
反乱の後基地を求めて逃走していた伊403はムウ帝国潜水艦に攻撃を受けた
神宮寺大佐ら乗員は伊号を囮にして脱出した
ムウ帝国潜水艦は誰も乗っていない伊号を拿捕したが、艦内に残された
海底軍艦の設計図を見て、その性能に驚きマークするようになった
つまり、伊号乗員は着の身着のままでジャングルに逃げ込み、そこで
海底軍艦のドックやら海底軍艦やらを裸一貫から造り上げたわけですか。
それはすごい。
しかし、自分たちを襲ってきた新型潜水艦がムウ帝国軍のものだと
神宮寺大佐はいつ、どうやって知ったのだろうか。
ここでまたもや二人の間に海底軍艦を使わせる使わせないの争いが起きます。
「神宮寺は悠久の大義に生きる信念です!」
「馬鹿っ!」
ここに来てやっと娘と話し合う気になった大佐。
しかし真琴は
「夢で見ていた時の方が幸せでした。お会いしないほうがよかったわ」
と父を責めるのでした。
「この20年お前を人に預けてまで日本再興を考え続けた、その気持ちがわからんか」
「じゃお父様は私の気持ちがおわかりですか?
親に捨てられた子供の気持ちがわかっていれば世界のために働いてくれるはずです!」
ん?なんでそうなるの?
日本のために子供を捨てるのは許さないけど、世界のために働くなら許すってか?
とにかく真琴は
「お父様のお考えはムウ人と同じです。嫌いです、嫌い嫌い、大っ嫌いです!」
と叫んで行ってしまいました。
ムウ人と同じ考え、とは自分たち(日本)だけがよければいいという考えかな?
そこで集団的自衛権の行使ですよ。(以下略)
そこに真琴をつけてきて二人の話を立ち聞きしていたお節介正義面ストーカー男登場。
「海底軍艦は気違いに刃物です!
あなたは愛国心という錆び付いた鎧をつけている亡霊です」
この映画は全体的に戦後左翼や特に日教組のような戦後史観に貫かれており、
「国を守るために戦うという考えは間違いであり、愛国心というものは唾棄すべきである」
という意見を刷り込むため盛んに「愛国心」を俳優に連発させていますが、
その反面、武力が「日本」という国単位ではなく「地球」と「地球人」を守るためなら行使されるべき、
とどうも言いたいようなのです。
これってなんか変じゃないですか?
なぜ日本を守るとか日本を愛するはダメで、地球を守るとか地球を愛するならいいのか。
地球を侵略されるから戦うのはよくて、国を侵略される(つまり国益を侵される)はダメ?
襲ってくるのが地球外(地球内か)生物であるムウ人だからやっつけてもいい?
なんだか、牛や馬は食べてもいいけど鯨はダメとかいっている人たちの考えみたいです。
基地外と言われても神宮寺大佐はなぜか怒ろうともせず、
いきなり20年間肌身離さず持っていた娘の写真を、この何処の馬の骨ともわからぬ男に渡し、
「真琴をよろしく頼む」
と結婚を認めるかのような発言までするのでした。
うーん、神宮寺大佐、人を見る目なさすぎ。
続く。