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大戦最初と最後に火を噴いた主砲〜戦艦「マサチューセッツ」

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マサチューセッツ、フォールウォーターに博物館展示されている
戦艦「マサチューセッツ」に乗艦して艦尾を右舷から回ることにしました。



後方に向けた主砲、45口径40.6cm砲のうちの3門を横から。
一番こちら側の砲身の根元には弾薬が展示されています。

わたしはこの日を入れて3日間ここに通いましたが、2日目に
とんでもなく細いラッタルを登っていったところに、ずらりとこの砲弾が
格納してある弾薬庫に侵入することができました。
今まで見たいかなる展示も、こんなところに入ることは決して許されなかったので、
改めて「マサチューセッツ」が全米一の船舶展示だと言われるわけがわかりました。



艦艇の見学で最も活躍してくれるのが広角レンズだと実感する写真。
他のレンズではどんなに頑張ってもこのように全体を収めることはできません。

この写真で右舷から6門突き出している砲は、

Mk 12 5インチ砲。(Mk.28 mod.0)

1938年に制式になった艦載砲で、戦艦ではこの「サウスダコタ級」のほか、
「ノースカロライナ級」「アイオワ級」が搭載しています。



発射速度は、1分間に12-15発ですから、オトーメララの約3分の1。

かつては海上自衛隊の「あさかぜ型」「ありあけ型」にもこれが搭載されていました。
というのも、もともと両タイプは「エリソン」(あさかぜ)「マコーム」(はたかぜ)
などというリヴァモア型の、つまり貸与された米軍艦で、なんと彼女らは
第二次世界大戦ではUボートと戦ったりしてたんだそうです。

(さすがに海軍艦船を沈めたことがあるなんていう船を自衛隊によこすほど、
アメリカさんも無神経ではなかった模様)

戦後初めての国産艦である「はるかぜ型」にもこれが搭載されていました。
戦後は武器システムのほとんどをアメリカに頼っていたということですね。



右舷側から艦首を望むと、主砲とボフォース機関砲の競演。



ボフォース40mm機関砲の砲身内部を覗いてみると、なんと赤でした。



"paravane"

というのも初めて見る単語で、どう読むのかもわかりませんが(パラベーンかな?)
直訳すると「防雷具」「防電具」とでてきます。
じつはこれ、わたし的にもうすっかりおなじみとなった「掃海具」なんですよ。

戦艦の役目はもちろん掃海ではありませんが、現地の説明によると、
当時は戦闘艦にも機雷を掃討する用具は必須であった、と書いてあります。

この写真で見るとロケットの上に羽のようなものがありますが、
パラベンの形はグライダーのような形をしています。
通常、艦首から両側に2つのパラベンが長い索で曳航されます。

wiki

口で説明するより、この図を見てもらったほうが早そうですね。

海に浮かび上がらせ、しかるのち銃で掃討するという方式は
自衛隊で現在使用している「オロペサ型」掃海具と全く同じです。

パラベーンを発明したのはイギリスのサー・デニストン・バーニー(中尉)。
バーニーは、同じ原理で、「対潜パラベーン」、つまり爆薬を曳航し、
潜水艦を掃討するという武器も開発していたそうです。

この方式で掃討された潜水艦があったかどうかまではわかりませんでした。



艦首側甲板に3門ずつ、2座ある主砲の手前からの写真。

この日のボストンはとにかく蒸し暑くて日差しが強く、
日本にいるのとほとんど変わらない不快指数満点の天候で、
この時点でわたしは甲板の暑さにまるで蒸し焼きになりそうでした。

ここでお見せする写真を撮るという目的がなければ、
とっくにギブアップして早々に切り上げていたことでしょう。

入場料を払ったレジの若い男性が、わたしが日本から来たというと

「そうなんですか。僕日本に行きたいんですよー。
どんな気候ですか」

と聞くので、

「夏場は今日のここよりずっとひどい暑さだから来ないほうがいいです」

というと、

「でも、北の地方(北海道のこと)は夏でも涼しいですよね」

そんなによく知っているのならなぜ気候について聞く。



えっと、アンカーチェーンはわかるとして、錨って、
普通こういうところにあるものなんでしたっけ?

「マサチューセッツ」の錨は、一つの重さが2万5千パウンド、つまり11.3 トンです。



艦首には(まさかとは思いますが、間違えてませんよね?)
一般的に海軍艦船は「国籍旗」を揚げます。
自衛隊だと「日本の国旗にそっくりな国籍旗」、アメリカだと
ネイビーブルーにアメリカの州の数だけ白い星が穿たれたもの、
つまり「マサチューセッツ」の艦首に揚がっているこの旗です。


ただし先日観た現役帆船の「コンスティチューション」のように、

「海軍で最も古い現役艦艇」

は、蛇に赤い横線の「ファースト・ネイビー・ジャック」
を揚げる、というルールがありました。

しかし、2001年の同時多発テロの日を境に、すべての海軍艦が
「わたしを踏みつけるな」の「ファースト・ネイビー・ジャック」
を艦首に揚げていたということです。
(”ジャック”だけで”海軍旗”の意)

今では海軍以外の船、海軍でも輸送艦艇以外の船は元の艦首旗ですが、
海軍ではいまだに艦首旗としてこの旗を揚げているということです。




艦首側の甲板というのは思っているよりずっと高い位置にあります。
艦首旗の下に立って艦橋側を見るとこのような眺め。
ある元海将もおっしゃっていましたが、軍艦とは実に美しい造形物だと思います。




戦艦「マサチューセッツ」は1942年11月8日、カサブランカ沖合で
フランスの艦船から攻撃を受けたためこれに応戦し、この瞬間をもって

「この大戦でヨーロッパの枢軸勢力に対して砲撃を行った初のアメリカ軍艦艇」

となりました。
このとき交戦したフランス軍艦「ジャン・バール」のwikiページを見ると、
「ジャン・バール」は

「マサチューセッツ」の40.6cm砲による砲撃を受けた本艦は艦首に浸水、
電気系統に障害が発生し砲塔の旋回が不可能となった

とあります。
つまり、まさにこの主砲が「ジャン・バール」を沈黙させたということです。





その後、「マサチューセッツ」は、

10月 レイテ沖海戦に参加

12月30日〜1945年1月23日 台湾を攻撃

4月 沖縄戦に参加

6月10日 南大東島に砲撃を実施

7月 東京空襲に向かう空母部隊の護衛

7月14日 釜石(製鉄所)を砲撃

7月28日 浜松を砲撃(石油コンビナートを破壊)

8月9日  再び釜石を砲撃


8月9日の釜石砲撃は、日本が受けた、というよりこの世界大戦で
最後に発射された16インチ砲による砲撃となりました。

これももちろん、今見ているこの主砲から放たれたものです。 
つまりこれは、第二次世界大戦においてヨーロッパ戦線で最初に、
そして日本で最後に火を噴いた主砲であるということなのです。 

ちなみに前回、「この主砲が日本を攻撃したかと思うと不思議な気持ちに云々」
と書いたところ、

「そこはのんきに不思議がってないで怒れ!」(意訳)

という裏コメントをいただきました。
まあでも民間施設とはいえ攻撃したのは製鉄所や石油コンビナートだし、
真珠湾攻撃した奴らがどの口で言うか、とか言われそうだし・・・。
 



艦首近くにも1門、エリコンFF20mm対空砲があります。
同型の対空砲は全部で35門が配備されています。

くまなく張り巡らせた守りはどこにも「死角」というものがないように思われます。



どこの部分だったか忘れましたが、壁面にこのような部分を見つけました。
ペイントを取り去ったところに謎の記号が浮かび上がっています。




ここには多分かつてこの「ジョージ」が描かれていたんだと思われます。
犬だかネズミだかわからない不気味なキャラクターが、
帝国海軍旗とナチスドイツの旗の描かれた砲弾にまたがって飛んでいく図。

絵の下にはなぜか、蓋の開いていないビール瓶が「おそなえ」してありました。



遠くから見て「ポンツーン」だとおもったのですが、
三箇所もチェーンをかけているところを見ると、
展示をするために海中に固定されているのではないかと思われました。

「マサチューセッツ」のアンカーは、一つは陸に、そしてもう一つは
甲板にあるわけですから、左舷を繋留するのに岸壁が必要なのです。
ちなみに右舷側は河で繋留されていません。



ここまで、艦尾から左舷側の舷側を通って、艦首を通り、
右舷側に到達しました。
一周したことになるので、艦橋に入っていきたいと思います。



鉄の部分の経年劣化は塗装を塗ればなんとかなりますが、
甲板の木材だけは傷むに任せたままの状態です。
結構あちこちに雑草が育っていたりして、

「夏草や 兵どもの 夢の跡」

という句をついつい米海軍戦艦の甲板で思い出すことになりました。

 

「マサチューセッツ」が浮かんでいるのは、「トーントン」という河です。
マウント・ホープ湾につながる河口で、入り組んだ港は波が全く起こらないため、
一帯がウォータースポーツが自由に行える場となっており、この日も
蒸し暑い甲板から見ると羨ましく思うくらい豪快なスピードで水上バイクを駆る
人々の歓声が、「マサチューセッツ」の甲板にまで聞こえてきました。



続く。



 


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