わたしが最初に東京音楽隊の定期演奏会を聴かせていただいたのも
ここすみだトリフォニーホールで、音楽隊長は河邉和彦二佐でした。
ピアノの太田沙和子二曹がソロを務めるプロコフィエフのピアノ協奏曲、
という意欲的な前半に対し、後半はトランペットのエリック宮城氏を迎え、
ビッグバンド風を前面に出したエンターテイメント性あふれる後半、と
一回で普通のコンサートの3倍分の充実した内容に驚いたものです。
そして、河邉隊長の後任となった手塚裕之二佐による前回定演。
戦前の軍楽隊によって演奏された行進曲など、自衛隊以外の演奏では
まず聴けないような貴重な歴史的楽曲が取り上げられ、
多角なアプローチの試みに、これも心から驚嘆させられました。
今回は、新隊長樋口好雄二佐が着任して最初の定期演奏会となるわけで、
新隊長のもとでどんなカラーを打ち出した演奏会なるのか、
楽しみにしつつ、すみだトリフォニーホールに向かいました。
ロビーにはクリスマスツリーが飾られています。
ピアノを弾いている人の像の前には以前ピアノがあったような気がしますが、
今日はどこかにピアノだけ出払っているようでした。
並んだ段ボール箱の中身は特製東京音楽隊カレンダーです。
この前を通り過ぎたところ、ホルンの川上一曹が前に立っていたので、
ご挨拶をさせていただきました。
「音楽まつり、聴かせていただきました。素晴らしかったです」
三宅三曹とともに「われは海の子」の幻の7番を歌い上げた
川上一曹の朗々たる声はまだありありと心に残っています。
「今日は(歌は歌わず)ホルンだけですが」
「それは残念です」
カレンダーお持ちにならないんですか、と聞かれ、
「終わってから取って帰るつもりだったんですが、なくなっちゃいますか」
「大丈夫とは思いますが・・・わかりません」
なくなってはいけないので、2本いただきました。
ロビーには東京音楽隊のポスター各種が飾ってありました。
前々回はロビーでCDを販売していたので、もし今回も売っていれば
買って帰ろうと思っていたのですが、最近は販売そのものをしないようです。
自衛隊という組織ゆえ「いろいろと」あるんだろうなと勝手に解釈しました。
2014年のミリタリー・タトゥーの時の写真。
三宅三曹が美しい着物姿で確か「ふるさと」を歌ったときですね。
東京音楽隊のお仕事紹介。
晴海埠頭からの練習艦隊出港、「しらせ」のときも演奏したようです。
今回の演奏会は、全席指定方式になっていました。
わたしのチケットは3階だったので階段をひたすら上っていったのですが、
途中で中を覗いてみますと、すでに演奏が行われています。
開演前にもかかわらず、ステージでは小編成でミニコンサートが行われていました。
わたしが聴いたときにはくるみ割り人形の「トレパック」をやっていましたが、
演奏は1830頃から始まっていて、これが最後だったようです。
ちなみにこのミニコンサートの内容は
モーツァルト「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」より第一楽章
バッハ「小フーガト短調」
チャイコフスキー「バレエ組曲 くるみ割り人形」より小序曲
同じくトレパック
もう少し早く来ていたら小フーガが聴けたのにな。
金夜で高速を降りてからがすごい渋滞だったのだけど、
ナビが幹線道路を避けて変な道を案内するもので、それに逆らっていたら
1時間前に着くはずが遅くなってしまったのです。
さて、自衛隊の演奏会というと、関係者・来賓に配られる席以外は
当日並んで窓口で座席券と引き替えるか、自由席になっているのが普通です。
そのため、何時間も前から座り込んで順番を待ったり、
このあいだの横須賀音楽隊のふれあいコンサートのように、
開場と同時に人々が血相変えて席取りを行い、酷い場合は
目標をどけてまで人の席を横取りする人が現れたりするわけです(笑)
今回は送られてきたチケットには最初から座席が振ってありました。
開演は7時、開場は6時だったのですが、チケットをよく見ると、
「 6時より前には来ないでください」
と書いてあります。
もしかしたら、ホール側から
「自衛隊の催しは早くからコンコースに人がたくさん並ぶので困る」
とか言われて全席指定になったという経緯でもあったのではないかと
疑われる書き方です。
3階に登っていく階段の踊り場に展示してあったワーグナーチューバ。
大変エレガントで華奢なチューバといった印象です。
名前はチューバですが、ホルン奏者によって演奏されるもので、
ワーグナーが「ニーベルングの指環」のためにわざわざ取り入れた楽器です。
ホルン奏者が吹けるチューバ、というのがコンセプトだったようですね。
というわけで指定席にたどり着きました。
まるで谷底を覗き込んでいるみたいです。
奏者の顔までははっきり見えませんが、音響はさすがによく計算されていて、
ブラスの響きが心地よく耳に届く好席でした。
2階3階の両袖には一列に椅子が並んでいます。
わたしの横に入場口から降りてくる階段があったのですが、
降りきったところにこんな柵が設けてありました。
階段を降りていて、万が一つんのめって転げたらここから落ちるからです(笑)
実際この部分は視界を確保するために柵が大変低く、
前列に立ったら高所恐怖症の人なら戦慄してしまうくらいでした。
この柵はたためるようになっていて、開演直前に会場の案内係が
ちゃんと収納して行ったので安心しました。
さて、そしていよいよ開演です。
冬至のためのモーニング・アレルヤ〜 R・ネルソン
表題からは全く内容が想像できませんが、スコアには
「広島の人々のために」と添え書きされているそうです。
日本のトップブラスバンドでもある東京佼成ウィンドオーケストラの
指揮者であったフレデリック・フェネルが公演のために訪れた広島で
原爆資料館を見て衝撃を受け、この曲を知人の作曲家、ネルソンに依頼しました。
現代的な手法でありながら特に前半のコラールを思わせる多声部からなる旋律は、
そうと思って聞けば鎮魂と祈りの「人間の声」そのものです。
原題は「Morning Alleluias for the Winter Solstice」といい、
Winter Solstice を「冬至」と翻訳してあるのですが、音楽ライターの
富樫鉄火氏の解釈によると、これは「冬至」という前に
「太陽が止まった日」と解釈するべきだということです。
まさに1945年8月6日、広島では「太陽が止まった」のではなかったか。
それは、長く、恐ろしく、暗い、「冬」の始まりでもあったのだ。
これほどふさわしい曲名はないかもしれない。 (吹奏楽マガジン)
クライマックスのうちに曲は終わりますが、それは「アレルヤ」
という表題の通り、主を讃える祈りの声にも似た力強さを感じさせます。
ロシアのクリスマス音楽(アルフレッド・リード)
わたしはYouTubeで吹奏楽を鳴らしながら作業することがあって、
「吹奏楽の父」ともいわれているリードの作品は
「エル・カミーノ・レアル」「アルメニアン・ダンス」
など、有名どころはよく知っているのですが、これは初めて聴きました。
リードはニューヨーク生まれでロシア系というわけでもないですが、
この曲からは「ロシア」が色濃く匂い立っています。
彼のイメージするところのロシアは、やはり5人組やロマン派、
そして何と言っても「鐘」ですかね(笑)
「花のワルツ」バレエ組曲「くるみ割り人形より」〜チャイコフスキー
司会の女性隊員がこの曲名を紹介したとき、後ろのハープに人が座っていないので
あれっと思ったら、すぐに彼女がハープ奏者だったことが判明しました。
どんな曲でもブラスで再現、という難題に挑むべく?
このいかにもなワルツも難なく弦抜きでやってしまう東京音楽隊ですが、
さすがにハープは必須です。
ハープという楽器は大変特殊なので、大抵のプロオケは団員として雇わず、
必要な曲の時にエキストラを呼んでくるというのが常態なのですが、
東京音楽隊のハープ奏者(荒木美佳三曹)はトラではなく隊員です。
専門のハープ奏者、歌手、ピアニストを団員として抱えるプロ音楽団体は
もしかしたら世界でも自衛隊音楽隊だけかもしれません。
ドラゴンクエストによるコンサート・セレクション〜すぎやまこういち
今日ミッドタウンで見たのですが、ドラゴンクエストは今年発売30周年で、
記念大吟醸が発売されたようです。(升にはスライムの絵入り)
わたしはせいぜい6までくらいしかゲームはしていませんが、
(それだけやれば十分という説も)
このセレクションに出てくる音楽は全部よく知った曲ばかり。
そういえば、都内オケの木管バンドのために何曲かアレンジしたこともありましたっけ。
セレブレイション〜クール&ザ・ギャングKool & The Gang - Celebration
休憩に続いて後半はポピュラー中心のプログラムとなりました。
セレブレイションをブラスで思いっきりファンキーにアレンジ。
ところで、わたしはクール&ザ・ギャングの「クール」が「cool」
ではなく「Kool」であることをいま初めて知ったのだった。
バンマスがクールさんだったんですね。
この曲は5名の奏者によるパーカッションで始まりましたが、
そのうち一人、赤いスティックでかっこよくドラム乱れ打ちをしていたのは
新音楽隊長の樋口2佐(打楽器出身)でした。
もしかしたら観客の中には曲が終わってパーカッションセクションが
紹介されるまで気がつかなかった人もいたかもしれません。
樋口隊長にとって今定演は「お披露目」ということになるのですが、
東京音楽隊がどんな新隊長を得たかは、ある意味この一曲だけで
どんな紹介よりも強烈に皆に伝えることができたのではないかと思います。
後半に続く。