そうりゅう型潜水艦見学、案の定前回では終わらなかったので、
今日が最終回となります。
追加ですが、前回、「89式は深々度魚雷だから深海に鎮座して発射できる」
と書いたところ、詳しい方から
水中で音は屈折するので、海面にいる護衛艦がソーナーを発振しても、
潜水艦がLD(層深、レイヤーディプス)下に潜れば探知しにくくなります。
海面からの音が届きにくくなるということは、潜水艦からすると、
海面にいる水上艦の音も届きにくくなるので、隠れると同時に、
自分もblindになってしまいます。
そのため、潜航中の潜水艦は実はあまり深くは潜らず、ほとんどLD付近にいます。
深々度で魚雷を発射しようと思っても、海面にいる敵艦は見つかりません。
という潜水艦戦のイロハについてレクチャーしていただきました。
そして、層深の屈折率などを変える最も大きなファクターは海水温度なので、
世界の潜水艦隊のルーチンワークとはすなわち
「ひたすら水温を測定してそのデータを蓄積すること」
なんだそうです。
さて、発射管室までやって来たわたしたち、ここから引き返すことになりました。
もう一度区画配置をみてください。
発射管室の下には居住区があります。
乗員のほとんどがそこで寝起きしているのだそうです。
ただし、港に停泊しているときにはここで寝泊まりはしません。
「プライバシーというか、いろいろとお見せにくいものもあるので」
というわけでそこは見学をパス。
先頭にいって発射管室で折り返し、さっきの階下を進んでいき、
またもや分厚い扉を通ってお次は機械室。
図を見ていただくとわかるのですが、機械室や科員食堂には
外から直接出入りすることはできません。
一旦発射管室かAIP室にいって、二つある扉のもう一つをくぐると
そこが自動的に一階下につながっているという不思議な仕組みです。
だから、わたしたちはいつ降りたのか自覚がないままに
発令所と士官室の真下に立っていたのでした。
機械室というのは、文字通り操舵を執り行う席があったり、
ベントを開いたり閉じたりするものがあったり、今どんな状態か
わかるモニターがあったりします。
当然ですが、見学者を迎え入れるにあたってはすべてのモニターの
電源はシャットオフされ、何もわからないようになっていますし、
ソナー室というのはカーテンがかけられて覗くこともできません。
見学が始まる前、注意事項としていわれたのが
「狭くてその辺にレバーやスイッチがいたるところにありますが、
絶対に触ったり操作したりしないでください」
そんなこといわれなくてもしませんが。
「中には、そのスイッチ一つで潜水艦が沈んでしまうというものもあります。
万が一体が当たったとかでスイッチを触ってしまったら」
「触ってしまったら・・・?」
「すぐに!こちらにそのことをいってください」
すぐならまだなんとかなるってことでしょうか。
でもハッチを開けたままいきなり沈んだら、たとえ岸壁でも
下の区画にいる人はまずアウトよね。
さて、そんな危険な可能性のある機械室を通り抜けると、
途端に空気が変わった気がしました。
科員食堂にやってきたのです。
艦艇というのは一般にどこもそうですが、特に潜水艦というのは
食事が他のフネに比べてより大切なイベントとなります。
狭い潜水艦の生活ではストレスが溜まりやすく、なにより
食べることが大きな楽しみになるので、当然ですがキッチンには
腕利きの調理人が配属されてくるのです。
そういえば、ニューロンドンの潜水艦博物館を見学した時、
その健闘を評価されて勲章を授与されたキッチンシェフがいた、
という話が紹介されていましたが、たとえ勲章は出ないとしても、
自衛隊の潜水艦の食事は自他共に認める調理員たちの努力に支えられています。
たとえば艦長が胚芽米をリクエストしたりパン派だったりすると、
艦長絶対の潜水艦ではそういうリクエストにも極力応えるのだとか。
ちょうどわたしたちが食堂にさしかかったとき、テーブルには3〜4人がいて、
食後の休憩時間だったのか、まったりとした雰囲気でした。
「潜水艦では食事は1日4回6時間ごとに出されます」
午前6時の朝食、正午の昼食、午後6時の「中間食」、
そして午前0時の夕食です。
勤務が3交代制で6時間勤務したら12時間の休みをとり、
残りの6時間は寝ているというものなので、この4回のうち
3回の食事をとることになります。
「4回全部食べてしまう人もいますが、そういう人は太ってしまいます」
そらそーだ。
「やっぱり運動不足になりがちなので、筋トレとか、休みの時には
陸を走ったりして体調管理を行います」
ハッチの上り下りだけで運動は十分、と考えるのはわたしだけですか。
キッチンに当潜水艦オリジナルカレーを考案したシェフがいました。
このオリジナルカレーは、呉で実施中のカレースタンプラリーでは
白桃の甘さを隠し味にした、コクの中にもスパイシーな後味の
飽きのこないカレーです。
揚げたジャガイモの香ばしさも絶品です。
という紹介文とともに、ビューポートくれにある
「海軍さんの麦酒館」で紹介されています。
白桃、というのが白い龍である当潜水艦的にはこだわりのポイントでしょうか。
今、海自カレーラリーのガイドブックを見ていたら、
たとえば潜水艦「けんりゅう」カレー(ソードドラゴンカレー)
が食べられるのは、その名も「りゅう」というお店。
そして、「うんりゅう」カレーは呉市役所食堂で提供しています。
日頃カレーを提供していないに違いないお店も幾つか参加しています。
丼&串揚げ「たまや」の呉教育隊ナスとひき肉カレー
お好み焼き「多幸膳」の呉基地業務隊牛すじカレー
焼肉「叙寿苑」しもきたカレー
郷原カントリークラブの潜水艦「みちしお」カレー
などなど。
特記したいのは、中通りにある
瀬戸内屋台 「五十六」
ちうお店(笑)
ここは護衛艦「さざなみ」のオリジナルカレーを提供しているのですが、
なにがなんでもカレーにせっかくの店名をつけたかったらしく、
「五十六さざなみカレー」
と無理やりな名前になっています。
さて、そうりゅう型潜水艦の艦内にもどります。
「やっぱり金曜日はカレー曜日なんですか」
TOがわたしにとっては当たり前すぎて聞くことも思いつかなかったことを聞きます。
「金曜日のお昼ご飯がカレーです。
朝からいい匂いがしてきてたまらないんですよ〜!」
「飽きないんですね」
「ぜんっぜん飽きませんね!楽しみで仕方ありません」
満面の笑みでそう語る隊員さんの口調に、今更ながら
カレーとは海上自衛隊の食の象徴なのだと思い知った次第です。
このとき、キッチンの窓から、もう一人の調理員がものすごい速さで
大量にキャベツの千切りをしているのにわたしは思わず目を見張りました。
「は、早い・・・・」
プロの調理人なら当たり前ですが、おそらく、同じ潜水艦の
調理員でも、こんな技を身につけているのは海自だけだと確信しました。
アメリカの調理人は昔から野菜も全て機械で処理していたみたいですし。
食堂からエンジンルームに移る前に、艦内組織図が貼ってありました。
乗員総数は70名です。
それを見ながらまたもや、
「このたった70名で、2000人の部隊と戦って勝ったことがあります」
模擬戦で優秀な結果をあげた時のことを、解説の方はこのようにおっしゃいました。
もしかしたら機密に抵触するかもしれないので、ここでは詳しく書きませんが。
ついでに、潜水艦の最大の敵はP3Cで、「実に憎たらしい相手」なんだそうです。
いわば天敵ってやつですね。
この後散々対P3C戦のことについてもお聞きしましたが、
「あ・・・・でもこの後呉地方総監とお会いになるんですよね。
(呉地方総監はP3Cのパイロット) ぜひここでのことはご内密に(笑)」
さて、この後後部のスターリングエンジンを見学したのですが、
これら AIPシステムについてはすでにお話ししたので見学記はこれにて終了です。
付け加えれば、後からこのそうりゅう型潜水艦は、AIP室を設けるため
その分他のスペースを削っているのでその分居住区が狭いと聞きました。
艦内に入ってすぐ、わたしたちは
「狭いので歩いていて機材に引っかからないように」
コートを預かってもらっていましたが、 ハッチを登る前に、
ちゃんとハンガーにかけていてくれたらしいそれらを受け取り、
同じラッタルから潜水艦を退去しました。
そして預けていたカメラを受け取り、車に乗って、来た時と同じように
雨の中きっちりと並んで敬礼をする彼らに挨拶をしながら
潜水艦桟橋を後にしたのでした。
潜水艦乗員の皆様、当日はお世話になりました。とても楽しかったです。
この場をお借りしてお礼を申し上げます。
続く。