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甲板とユニオンジャック〜潜水艦「ライオンフィッシュ」

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さて、場つなぎで取り上げた映画「ヘルキャット・オブ・ザ・ネイビー」
は、これから取り上げるシリーズのいわば前座となりました。
(そういうつもりはなかったのですが、気づけばそうなっていたという感じ)

 

シリーズ前回お話ししたミサイルコルベット艦「ヒデンゼー」と、
これからお話しするつもりの「ジョセフ・P・ケネディ・ジュニア」の間に
係留してあるこの潜水艦SS-298「ライオンフィッシュ」についてです。


ところでこの潜水艦について調べていて、「USSライオンフィッシュ」
という映画があることを知り、なにっ!と検索してみたら、

「2013年、ニューヨーク大学で歴史を教える、アル中男ウィリアムズは(笑)
世界大戦で活躍したUSSライオンフィッシュの研究に憑りつかれていた。
1943年に何故か強制引退となり、ハッチは溶接・密封され、桟橋に固定されていた
この潜水艦の引退の謎を解くべく、アル中男はその他大勢と艦に乗り込んだ。

すると、昔この艦に起きたように、艦が突如ロックされ、
調査チームは中に閉じ込められてしまったのである」

で、潜水艦はそのまま時空を超えて1943年に行くというストーリーですが、
映画評がどれも散々なので、多分しょうもない映画なんだと思います。
でも、そんな映画ほど、このブログ的には突っ込みどころが盛りだくさんの
ネタ映画となりうるので、機会があったら観てみようと思います。

というわけで、映画はまったくここにあるバラオ級潜水艦とは関係ない
(バラお灸潜水艦という誤変換に少しウケた)らしいことが、
ハッチが溶接・密封されていなかったことで明らかになりました。

こちらが艦首部分。
水圧で取れてしまいそうな鉄板がぶら下がっていますが、
これはバウプレーンといって、潜水艦には艦尾のスターンプレーンと
前後の2対が装備されて、潜水をコントロールするものです、

 

バラオ級潜水艦という名称は、大東亜戦争中の当方の艦艇の
被害を調べていてやたら目につくのですが、これもよく見る
「ガトー級」(GATO=正確にはゲイトー。『グリーンホーネット』
のKATOをケイトーと発音するようなもの)を改良したもので、
当時アメリカの潜水艦の中では最も出来の良い潜水艦と言われ、
計120隻と大量生産されたからなのです。

ちなみに先日お話しした「勝利への潜行」で扱われた潜水艦は
「ガトー級」であり、実写の部分にも本物のガトー級が使われていました。 


アメリカ海軍の潜水艦には魚の名がつけられますが、 
一度ここでもお話ししたバラオ級である「パンパニト」はアジ科のパンパニト、
「ライオンフィッシュ」はミノカサゴのことです。

1942年12月に起工し、1944年に就役した「ライオンフィッシュ」最初の艦長は
スプルーアンス提督の息子、エドモンド・スプルーアンス少佐でした。 

建造されたのはフィラデルフィアのクランプ造船所。
バラオ級潜水艦のほとんどはカリフォルニアのメア・アイランド、
(今回ここも見学してきました。いつお話しできるか全くわかりませんが)
あるいはエレクトリック・ボート社などで建造されましたが、
大量生産で工場が間に合わなくなってクランプに製作を任せたところ、
納期は伸びるし不具合が多く、何隻かは注文を取り消されているのです。

 「CRAMP」には「痙攣」という意味があるので、きっと海軍では

「あいつらボルトを打つときに痙攣起こしてんじゃないのか」

などという悪口が叩かれたんじゃないでしょうか(想像) 


それがこの「ライオンフィッシュ」、その評判の悪かった
クランプ造船所の出身なのです。

そう言われて工期を見てみると、

起工から進水まで11ヶ月
さらにそれから就役まで12ヶ月

何が遅いのかと言われそうですが、例えば前述の「パンパニト」は

起工から進水まで4ヶ月弱
進水から就役まで3ヶ月3週間


であり、これがバラオ級の平均建造日数だったといいますから、
この「ライオンフィッシュ」は、海軍がクランプ社の
納期の遅さに見切りをつける前になんとか完成した
最後の発注分だったということになりますね。

さあ、それではその評判の悪いクランプ社で、時間をかけて
ゆっくりと作られた潜水艦に乗り込んでみます。

このころの潜水艦というのは今と違って「沈む船」みたいな感じで、
甲板も狭いながら全部を歩き回れたりします。

名前こそ魚類ですが、形態は最近の潜水艦の方が圧倒的に魚類です。
艦腹に、海水を流入させる小さな窓がいっぱい空いているなんて、
さぞ航行していてもうるさかったんだろうなという気がしますし、
こんな風に甲板に砲があったりするんですね。

潜水艦は沈みますから(そらそーだ)砲口に蓋つき。
スペックには5インチ砲とありますが、5インチ25口径単装砲のことのようです。

写真で検索したら、何年か前見学した人の写真では砲が
全く別の砲口を向いていました。
どうもまだ動かすことくらいはできるようです。 

コニングタワーの下から見あげてみると、左から

1番潜望鏡

2番潜望鏡

レーダーSDアンテナ(棒の先のコの字型アンテナ)

が確認できます。 



また詳しくお話ししますが、昭和19年の11月に就役した当艦は
終戦までを対日本戦にのみ投入されました。

つまり、この潜望鏡から、ある時は日本近海で、ある時は東シナ海で、
虎視眈々と日本の船を屠るべく監視をしていたのです。

本体ごと海に沈んでしまう対空見張り用の双眼鏡。
レンズが片方破損してしまっていますね。

こんなところからアメリカ人男性が出入りできるのか?

と思うくらい小さなハッチ。
まあ、脱出用のトランクとハッチであると思われます。


ところで、今現在も潜水艦乗りになるのは身体条件が厳しく、
航空よりもはねられる志望者が多いと聞いたことがありますが、
(聴力とか耳鼻咽喉に問題があるとまずダメだとか) 
アメリカの場合はこれに「ハッチを潜れること」という条件が加わります。
今ほどデブの多くなかった当時のアメリカでも結構狭き門だったでしょう。

そういえば、サンディエゴでも幾つか潜水艦見学をしましたが、
見学の前に地上に丸い穴を穿ったボードが置いてあり、

「これを潜れない人は見学をご遠慮ください」

と警告してあるのには笑いました。
中でつっかえると、後ろの人が全部外に出ないと
後戻りすることができないからですが、これ、過去何度か
中でつっかえて動けなくなる人がいたんだろうな・・。

昔の潜水艦はこんな上部構造物を乗っけていたんですね。
これはいかにも水の抵抗が大きそうだ。
階段があって制止されていないので上に登ってみました。

 

これがいわゆる甲板の2階部分。
架台だけが残っていますが、機関砲があったのでしょう。

潜望鏡などが立っている部分。
謎の装備が据え付けてあります。

向こう側に説明があって、

TBT(Target Bearing Transmitter)

大戦前半頃まで潜水艦に装備された魚雷統制システムとあるので、
これがそうなのかもしれません。
(ライオンフィッシュが配備されたのは1944年ですが・・・)

戦争後半(つまり43年以降?)のほとんどの潜水艦の魚雷攻撃は
夜間浮上して行われました。

TBTにはトルピードデータコンピュータ、つまりTDCと呼ばれる
アナログコンピュータの魚雷管制装置から情報が送られました。

TDCは標的と自分の艦の現在位置、速度、進路などのデータを
入力すると、標的の将来の位置が割り出され、
計算によって魚雷の発射角などを導き出すことができました。


目標に肉薄すると、オペレーターはグリップを握るだけ。
TDCの情報をもとに目的に対する発射角はもう決められています。 


最小限の双眼鏡を使ったトレーニングでの習得が可能で、
さらに光源の弱いところでも使用することができたので、
ほとんどの潜水艦は当初TBTを搭載していました。
 

 

もう一度下に降りて臨む艦首部分。
ここにも前方の脱出用ハッチが見えます。

というわけであんがい甲板がだだっ広かったりするわけですが、
バラオ級の全長は95mと、そうりゅう型よりも11mも長いのです。
ただし幅はそうりゅう型は1m近く広く、昔より丸っこくなっています。

ちなみに原潜バージニア級は全長約115m、最大幅10.4mだとか。

なお、見学用に安全柵が取り付けられていますが、
戦闘時の写真をみると、手すりは全くありません。

酔っ払った伊潜水艦の艦長が小用を足していて落っこち、
気がついたら甲板でマグロのように転がされていた、という話を
昔漫画にしたことがありますが、

記念漫画ギャラリー

手すりが甲板にあるならこんなことにはならないよねってことで。

さらに艦首部分。
柵がなかったころにはこのキャプスタンが使われていたのでしょうか。
今回見たほとんどの艦首旗は「私を踏みつけるな」でおなじみ?
紅白のストライプに蛇がいるファーストネイビージャックというものでしたが、
ここのは珍しくブルーに白い星の「ユニオンジャック」です。

星の数はアメリカの州の数によって変わりましたが、
右端に星が5つ縦に並んでいることから考えて、これは
2002年9月11日以降、海軍艦艇が「私を踏むな」の旗を揚げているのに対し、
非海軍艦艇が揚げているユニオンジャックであろうと思われます。

かつての海軍艦ですが、もう海軍に籍がないので一般艦艇と
同じ扱いになっているわけですね。
 

甲板に2本立っている黒い柱はデリックだったりします?

 

同じバラオ級の「パンパニート」も、艦首と艦尾に入り口と階段を作り、
一方通行で客を誘導するようになっており、ドアの部分には屋根をつけるなど、
改造してありましたが、これも見学用の改造である可能性高し。

いくら昔の潜水艦でも、悠長に階段をおりて入るなんてありえませんし、
ガトー級の図面を見ても、階段などどこをさがしてもありませんから。


扉の上には目立つ青い看板があり、そこに

「天井が低いので頭上に気をつけてください」

とあります。
さあ、それでは艦内に入っていきましょう。
頭上に気をつけながらね。 

続く。



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