以前、この日本海海戦における戦艦「三笠」の図から、
測距儀や望遠鏡などの「光学機器」についてお話ししました。
その後、今現在の護衛艦における測距儀についてのいろいろを、
現役自衛官の方からレクチャーしていただく機会がありましたので、
それを中心にお送りします。
現在護衛艦等に搭載している測距儀は
「六六測距儀(ろくろくそっきょぎ)」
と呼ばれています。
左右のレンズ間隔が66cmであることから、そう呼ぶのだそうです。
ちなみに六六測距儀が比較的正確に測距可能な範囲は約100m〜1000m。
それ以遠、それ 以内の距離は不正確、測距不能距離となります。
ところで精度の良いレーダーがある今の時代、明治時代から使っていたのと
同じ仕組みである測距儀がなぜ必要なのだろうと思ったことのある方はいませんか?
わたしもその一人ですが、測距儀の方が、というより測距儀でないとダメ、という場面が
現在もあるということなんですね。
たとえば、
●入港で岸 壁に横付けする
●洋上で艦を近距離で平行して走らせながら給油する
●ハイラインと呼ぶロープを艦の間に渡して人や物を授受する
●基準となる艦に、相方の艦が近接する
このような場合です。
最近ではレーザー測距儀というレーザー光を使った測距儀が導入されつつあります。
この光学式測距儀の計測可能距離は測距儀や反射プリズムの性能に左右されるのですが、
大略 1 - 2 キロメートルが限界なので、まさに「近いところだけ用」ということですね。
なかには 5 - 6 キロメートル計測可能な測距儀も存在することはするそうなので、
もしかしたら近い将来に六六測距儀は姿を消すのかもしれないということです。
私事ですが、エリス中尉、新車で購入して5年目にもかかわらず、
走行距離がすでに8万キロを超してしまって、水回り関係がおそらくこの夏の暑さで持つまい、
とアブラゼミレベルの余命宣告されてしまった愛車を買い替えることになってしまいました。
先日、担当セールスが自宅に「おすすめ」を乗り付けてきたので試乗し、
その際いろいろ搭載されているモニター設備の説明を受けたのですが、
いやー、すごいね。この5年間の光学機器の進歩。
バーズアイ、つまり真上から車を見ている画像がモニターに映るのですが、
それは実際はドアミラーの下にあるカメラ映像を合成しているもの。
また、オプションではありますが、
「この車が駐車可能かどうか空いているスペースを測定し、スイッチを入れると
あとはアクセルを踏むだけで勝手に縦列駐車してくれる」
という、とんでもない装置も搭載することができるんですよ。
自家用車でこうですから、軍仕様の機器はもっとすごいことになっているのだろうなと。
さて。
測距儀は三角測量の原理で距離を測っていますので、
より遠方の距離を測る測距儀は、左右の対物レンズ間の幅、
すなわち三角形の一辺の長さをより長く(逆の場合は短く)する必要があります。
戦艦大和の第一艦橋の上に、巨大な測距儀があるのは、長距離の射撃に備えたものです。
ところで、この説明をしてくださった自衛官によると、
この絵で長谷川少尉候補生が(覚えてしまった///)一生懸命測距儀を覗き込んでいるのですが、
このあたりに若干の疑問が生じるのだそうです。
日本海海戦で、東郷司令長官が大回頭を命じた距離が約8000。
5000から10000という
長距離をあの小さな測距儀で正確に測るのは無理
ではないか、というのがその方の「素朴な疑問」であるというのです。
ええっ!それは(笑)
「三笠の艦橋やマストに、大和のように巨大な測距儀があったような記憶はない」
とその方はおっしゃるのですが、記憶も何も、長谷川候補生がこうやって測って、
全てをその情報から把握していたと我々は信じて疑っていませんからね。
フネに関してはプロ中のプロである現役自衛官にこのようなことを言いだされると、
さらに、
「当時、どうやって距離を測ったのか、ご存じでしょうか?
これまで考えても みなかったことです」
などと言われると、思わず動揺してしまいます。
本当に・・・・どうやって測っていたんでしょうね。
今の測距儀より当時の方が正確だった、という事実でもない限り、
ありえないことですからね。
まさか「5000以上は大体のカンで」とかだったら・・・・・・。
うーん。「ニコン」の方、なにかご存知ないかしら。
日清日露戦争を専門に研究し博士号を取得した同僚に聞いてみます、
ともおっしゃっていましたが、もし真相が判明していましたら、
ぜひ教えていただきたく存じます。
さて、次に、「現役自衛官のレクチャーによる測距号令」をご紹介しましょう。
護衛艦では測距が必要な場合には、
副直士官が測距員(海曹または海士)に次のように 命じます。
副直士官
「測距よーい、右(左)」
「測距目標、○○」
測距員
「目標よし、測距用意よし」
副直士官
「測距始め」
測距員
「ふたてんまるまるー」(200m)
「ひとてんきゅうごー」(195m)
もし、もっと頻繁に測距させたいときは
「測距間隔詰め」
その逆の場合は
「測距間隔開け」
測距する目標を変更する場合は
「測距目標変え、新たな目標△△」
測距をやめさせる時は
「測距やめぇ」
測距員
「測距やめよし、最後の測距ひとてんまるまるぅ」
というような具合です。
この絵では士官が測距儀を操作していますが、昔は士官の役割で、
そこでは、同じではないにしても、似たような号令が行き交っていたかもしれない、
とはその方のお話ですが、この時は
「天気晴朗なれど浪高し」
であったわけで、肉声はほとんど聞こえない状態であったこともあり得ます。
長谷川候補生も右手に通信機器(簡易無線のようなもの)
を握りしめ、距離を全て無線で艦橋に送り、そこから文字板と伝令の兵によって
全艦通達をしていたくらいですから、ここでも何か言うたびに周りが何度となく
それを繰り返し、司令部に伝える必要があったのではないでしょうか。
このお話を伺った方によると、戦艦をテーマにした映画などで違和感を感じるところは、
操舵号令を発する基本中の基本である「面舵」「取舵」の抑揚を
正しく再現しているものがあまりない、だそうです。
「面舵」は
「おもーかーじ(“も”にアクセントがあり、 音程も一番高い)」、
「楽譜にしたいところですが」
ということでございますので、ご要望にお応えして(?)
作成してみました。
こんな感じでよろしいでしょうか?
「取舵」は「とーりかぁじ(“と”にアクセントがあり、やはり音程も一番高い)」
これも、こんな感じでしょうか。
これらの号令のかけ方は乗艦実習でしつけられるイロハのイ、ということです。
「これが間違っている映画などを見せられるのが、一番気持ち悪く、
また残念なところでもあります」
ということですが最近の映画では、あの荒唐無稽潜水艦過去SF映画
(好きですけど)の「ローレライ」で柳葉敏郎演じる「木崎大尉」が、
この発音でやっていたという記憶があります。
「聯合艦隊」はたしか間違っていたような。
敬礼の仕方なんかは役者相手なら一言いえばわかるんだから、
「軍事指導」の方、まずこういうところをちゃんとしていただきたいですね。