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Channel: ネイビーブルーに恋をして
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呉海軍工廠の街と鎮守府長官庁舎

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艦船めぐりで呉の自衛艦を堪能したわたしたちは、そのあと
当初の予定通り入船山にタクシーで向かいました。

鎮守府庁舎のある坂の上で降ろしてもらうと、ボランティアの男性が二人、
そこで観光客をキャッチしているらしく?近づいてきて

「45秒だけお時間いただけますか」

うーん、声のかけ方もいわゆるキャッチセールス、いや何でもない。

その解説によると、国立病院前から鎮守府庁舎のある入船山記念館の横の坂道は、
戦艦大和と同じ長さ(269m)あり、この道は「美術館通り」として
「日本の道百選」の一つに選ばれているという話でした。

このモニュメントの左上の「道」というのが「日本の道百選」の印。

ボランティアは、今観光するなら音戸の瀬戸のツツジが見頃、とか、
音戸の渡し船が120mという「日本一短い航路」であることを教えてくれました。

時刻表はなく、そこに行って乗り込むだけ。
対岸から乗るにはただ「呼んで来てもらう」そうです。

ここが入船山記念館入り口。
昔ここに来た時にも写真をあげましたが、何しろ前回から今日までに
カメラもレンズも変わりましたからね。

鎮守府庁舎時代にはここを黒塗りの車が出入りしたと思われる門。
車が通るには狭いですが、昔の車なら通れたのでしょう。

大正三年秋の彼岸、という彫り込みがある門柱には、
できたひびを補強するために金属プレートが貼ってあります。

清心院、玉泉院の菩提の為に、という寄贈。
この意味が前回もわからなかったのですが、どちらもが徳川家の正室であることから、
昔この地にあった亀山神社と関係あるのかと予想します。

神社があったところを帝国海軍が接収し(江田島の海軍兵学校もそうでしたね)、
そこに水交社など建てたのを手始めに、明治25年には鎮守府庁舎が建つことになり、
清心院と玉泉院の菩提を大正年間に弔わなければならない事情が後から生じた、
ということになるわけですが、インターネットではそれ以上のことはわかりません。

入ってすぐ左に、呉市宮原通りから移設した「東郷家の離れ」があります。

東郷平八郎が参謀長だった頃住んでいた家の「離れ」。
宮原の母屋が火事で焼けてしまい、この離れも移築されたものの
放置されて荒廃していたのを地元ロータリークラブの尽力で保存が決まりました。

たった1年7ヶ月、鎮守府の参謀だった頃の東郷平八郎が住んだだけですが、
海軍の街呉にとって東郷さんは「神様」だったわけですからね。

ともかく昔の建物がいろんな意味で残りにくいこの日本においては、
よくやってくれたとロータリークラブの英断には感謝したい気持ちです。

現地にあった看板によると、この離れには東郷元帥の呉勤務時代、
昔は「下女」といったところのメイドである水野たみさんが住んでいました。

現代の日本では下女も女中も禁止用語になってしまっているので、
水野さんのことは「お仕えした」としか説明されていません。

明治頃には接客や雇用者の世話を直接する「上女中」に対し、炊事、掃除、
水回りの仕事をする「下女中」という使い分けはなくなっていましたが、
「坊ちゃん」の「清」のように、女中のことを「下女」という言い方は残っており、

住み込みで家事をする女性=下女

という認識であったことからいうと、たみさんは下女ということになります。

門から続く石畳は、これも移設してきたもので、昭和42年まで
呉市内を通っていた路面電車の敷石です。

右側の大時計は、かつて海軍工廠造機部の屋上に設置されていたもの。
国産初の“電動親子式衝動時計”で、(内部に”親時計”がある)歯車に
ネーバル黄銅(naval、海軍黄銅とも)という耐海水性に優れた材質を用いています。

写真を撮った時がちょうど11時だったので自分の時計を見て初めて
時計が動いていることに気がついたのですが、さすが海軍工廠が作っただけあって、
艦艇兵器用の機械構造を採用した画期的な時計は、
堅牢で現在も定時には地元の小学生が作曲したメロディが流れる仕掛けです。

当時としては画期的な時計であり、呉工廠のシンボルでもありました。

この奥の爆薬庫はギャラリーになっていますが、そこにあった呉海軍工廠通勤時の様子。
いかにも活気にあふれた朝の一コマです。

終戦時には42万人を数えていた全国7位の都市、呉の人口は、
母体となる海軍の消滅により10万人強となり、 その後の進駐軍占領もあって
戦後、色々な意味で呉は苦難の道を歩むことになりました。

長官庁舎の警衛が立っていた番兵塔。

昼夜を問わず立ち続けていた石畳にはくっきりと足の跡が。
前日の雨が窪みに水たまりを作っています。

後ろの塔の床には全く劣化がないので、おそらく警衛が
塔の中に入るということは全くなかったのではないかと思われます。

 

ギャラリーとなっている爆薬庫の絵から、右上、呉軍港の満艦飾。
連合艦隊が入港した時など、このような光景が見られたそうです。

前に来た時も驚いた陶器製の手榴弾。
鉄不足を補うための苦肉の策でした。

外側、内側にも釉薬がかけられ、凝った作りだったようです。
口からはマッチ組成の点火プラグ?が突き出ていてゴムキャップがかけられており、
使用時にはそれを外して添加して投げると数秒後に爆発するという仕組み。

問題はその点火方法なんですが、それもマッチで火をつけるのかなあ。

何れにしても切羽詰まって作られた悠長な武器という気がします。

昭和56(1981)年、呉工廠の砲火工場の跡地の土中から発見された

四十五口型10年式十二糎高角砲

の砲身。
艦砲として妙高型の重巡洋艦「妙高」「那智」「羽黒」「足柄」などに
搭載されていたのと同じ型です。


余談ですが、自衛隊の所有するイージス艦は妙高型から「みょうこう」「あしがら」、
金剛型戦艦から「こんごう」「きりしま」、高雄型重巡から
「ちょうかい」「あたご」を綺麗に?二隻ずつ受け継いでいます。

少なくともこの10年以内に自衛隊はイージス艦を二隻導入する、という話が
少し前に軍事評論家から出ていましたが、そうなった時には艦名は
今まで採用されなかった他の型になることでしょう。

つまり、控えめにいうと、「長門」型の「ながと」と「扶桑」型の「ふそう」。
あるいはもしかしたらもしかして、「大和」型の二隻・・・?

「やまと」型イージス艦「やまと」と「むさし」。

→海自の志望者殺到?

・・・・・。

前回入船山に見学に来た時には、数年後の自分が高角砲一つで、ここまで
妄想を展開させる立派なヲタに成長しているとは想像もしていませんでした。

高角砲が展示してある横で入館料250円を支払い、進んでいくと、
石畳の向こうに車寄せのロータリーを儲けた道の奥、
旧鎮守府長官庁舎が姿を現します。

呉のシンボルともなっている現呉地方総監部庁舎、旧呉鎮守府庁舎を設計した
櫻井小太郎の設計によるもので、正面に洋風の公館、奥に和風の居住区を持つ構造です。

国の重要文化財となっており、呉市ではこれを焼失などから守るため、
頻繁に火災を想定した訓練を行なっているということです。

呉鎮守府庁舎の住人となったのは第7代長官となった有馬新一中将から
第33代の金沢正夫中将までの31人です。

金沢中将は5月に呉鎮守府長官に着任し、わずか2ヶ月後にあの呉大空襲で
軍港呉市が壊滅的被害を受けるのを目の当たりにし、さらには
日本の敗戦を受け入れた最後の呉鎮守府長官になりました。

錨と桜のモチーフを取り入れた優美なすりガラス。

内側から見るとステンドグラスは淡いパステルカラーの光を通します。
明治38年に芸予地震で倒壊した長官庁舎を建て直して以来、エントランスのガラスは
一度も破損することなく、今日までこうして変わらぬままです。

見学は洋館をこのように見ながら歩いていき、後ろに接続している和風建築の、
かつてお勝手口であった使用人の出入り口から入ることになります。

途中に屋根付きのこのようなものがありますが、
当時防空壕であったところを埋めたのか、それとも防火用水だったのか・・。

見学者はここで靴を脱ぎ、順路に従って見学していきます。
建物の保存のためには靴を脱がせたいが、正面の洋風建築の方から入ると、
靴脱ぎも下駄箱の設置場所もないし、出入りがあればガラス等に破損の恐れがでる。

ということで、こちらを入り口にすることになったのでしょう。

お勝手だったので、流しとかまどの跡がそのまま残っています。
かまどの跡の上には靴脱ぎと下駄箱を乗せてしまいました。

入ってすぐのところに、1mもない奥行きのスペースとその引き戸がありました。

「こんなところに何を入れたんだろう」

ナチュラルに奥に顔を突っ込んだところ、

「『あきづき』の海曹室で、自衛艦旗の箱をいきなり開けたのを思い出しました」

と鉄火お嬢さん。
そこに何かがあれば、興味から首を突っ込まずにいられない。

この性癖が災いをもたらしたという経験は今のところ幸いにしてありませんが、

好奇心は猫をも殺す。"Curiosity killed the cat" 。

ということわざもあることですし、そろそろ自戒するに越したことはないかもしれません。

 

続く。

 

 



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