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SS X-1( 特殊潜航艇)と”海洋調査”〜グロトン サブマリンミュージアム

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グロトンにある海軍潜水艦基地付属ミュージアムには
海軍の施設ならではの珍しい潜水艦が展示されています。

前回お話ししたNR-1もその一つですが、ミュージアム前の広場には

SS X-1

という潜航艇が展示されています。

NR-1は解体されてそのセイルとマニュピュレートアームズ、
スクリューだけが記念に残されたのですが、X-1は全部が保存されました。

特殊潜航艇、と聞くと、わたしたち日本人は真珠湾の時に突撃した
5隻の二人乗り潜航艇や、シドニー軍港に侵入したものを想像しますが、
これらの潜航艇も、英語では

midget submarine

となっています。
日本では「ミゼット」と発音して三輪自動車の名前ですが、
「ミジェット」が正確な発音に近い表記かと思われます。

で、「midget」でもし画像検索をされれば、この意味が「dwarf」、
つまり小人症の人たちであることがお分かりいただけるでしょう。

ただし、これを車や船に当てはめると、「ミゼット」のような
小型の、ミニチュアの、という意味になります。

飛行機ではスポーツ用の「ミジェット・マスタング」、
ミニゴルフのことを「ミジェット・ゴルフ」、ディズニーランドにある
ミニカーのラウンドを「ミジェット・オートピア」という具合に。
(これ、この間廃止になってしまったんですよね。
アナハイムのディズニーでは古き良きアメリカ!みたいでとても良いので、
日本で失くなってもこちらに乗ればいいかと思います) 


そこでこの「ちび潜水艦」の全体像を見ていただきたいのですが、
戦時中のものとは大きく違っており、1955年当時には近未来的なもので、
そう、現在の潜水艦に近い形をしていますね。 

1955年というと、アメリカ海軍の潜水艦はちょうど原子力潜水艦
「ノーチラス」を就役させ、初めてその原子炉が臨界に達し、
全力での運転を可能とした時期です。

この時期、なぜ彼らは小型潜水艇を必要としたのでしょうか。

目的は、軍港を突っ切って繋留された艦艇や施設などに
攻撃を加えんとする敵に対抗するためでした。

ただし、この潜水艇が入り込んできた敵を攻撃するのではなく、
港湾に侵入する敵潜水艇になりきる、つまりアグレッサーというか
一人アドヴァーサリー部隊となって軍港に潜入し、
防御の穴がないかとか狙われやすいポイントとか、
そういうデータを洗い出すためのテスト艇だったのです。

おそらく冷戦を睨んでの港湾防御のためだったと思われますが、
その武力(つまり仮想攻撃)の一つには

「水中作業員が吸着爆弾を装着して爆破する」

というものもあったそうです。
日本のそれとは全く違いますが、ある意味こちらの方が
「特殊潜航艇」的な任務を背負わされていたようにも見えますね。

 

 

X-1はポーツマス海軍工廠で最初に建造されたディーゼルバッテリーの船です。

その艦体に、水中発射のためのロックアウト機能と、
海中の爆破チームを再び回収する機能が備わっていました。

動力は過酸化水素を推進剤とするディーゼルで、
クローズドサイクルによるエンジン。

これは触媒によって過酸化水素が分解されタービンを駆動する"前"に
ケロシンと燃焼室内で燃焼する、という仕組みのものでした。

しかし、1957年5月、このシステムは、過酸化水素の倉庫が
爆発するという事故が起きて廃止になってしまいます。 

後ろから見たX-1は、まるでヒレの長い金魚のよう。
プロペラの後ろに舵がついているのがユニークです。

その後、航空機メーカーのフェアチャイルドがエンジンを
ディーゼル・エレクトリックに換装しました。

 

過酸化水素というのは、以前日本海軍の「秋水」について
取り上げた時にも話したことがありますが、
非大気依存推進システムのエンジンの酸素源として
ドイツが「ヴァルター機関」にも使用していました。

すでに一方では原子力潜水艦を完成させていたアメリカが、
なぜこの時期にわざわざ過酸化水素を用いたシステムを
導入したかというと、これはわたしの想像に過ぎませんが、
対戦中U-ボートに苦しめられたアメリカ軍が、戦後、
ドイツからヴァルター機関の情報を戦果として持ち帰り、
小型潜水艇に試験的に取り入れたのではないでしょうか。

そして結果として失敗したのでは・・・・?

メッサーシュミットのコメートも、秋水も、過酸化水素による
事故(人間が触れると 、脂肪酸、生体膜、DNA等を酸化損傷する)
が大きな問題でしたし、あの有名な2000年のロシア海軍における

「潜水艦クルスク沈没事故」

では、魚雷の推進剤である過酸化水素が、不完全な溶接箇所から漏れ、
爆発したのが原因で魚雷の弾頭が誘爆したのが原因でした。

 

エンジンを電気式に換装されてから後のX-1は、海軍の
海洋学調査艇としてとても「ユースフルな」(現地の説明による)
生涯を送ったということです。

そこでちょっと思い出すのが、このX-1の子孫にあたる

海洋調査ドローンを中国がお持ち帰りしてしまった事件。

アメリカも別にドローンだからほったらかしにしていたのではなく、
フィリピンのルソン島のスービック湾からおよそ50海里の場所で、
海中の塩分濃度、温度、透明度などを計測した後、
回収しようと思ったら、一足先に中国海軍に見つけられてしまったと。

 

このドローンの窃盗事件については、以前ならわたしも

「塩分濃度、温度、透明度の計測」

なら単なる水質調査なんだから、そのデータには軍事的価値はなく、
むしろドローンそのものを中国は欲しかったんだろうなと
思ったかもしれませんが、ちっちっち、違ったんだなこれが。

呉で潜水艦を見学した後、教えていただいたのですが、
この水質計測は、実は潜水艦にとって大事な軍事資料なのです。

この教えていただいたお話が面白かったので、そのまま掲載しますね。


水中では音は屈折します。

スネルの法則によって、空気中と水という、密度の異なる媒質を音や光が通過する時には、
境界層で屈折率が違って来ます。

水中は一見、等質のように思えますが、実はそうではなく、ある深さ
(英語でLayer Depth。日本語は直訳で層深)で密度が変わって来ます。
そのため、LD下では、音は海底に向かって屈折するので、
海面にいる護衛艦がソーナーを発振しても、潜水艦がLD下に潜れば探知しにくくなります。

ただ、海面からの音が届きにくくなるということは、潜水艦からすると、
海面にいる水上艦の音も届きにくくなるので、隠れると同時に、
自分もブラインドになってしまいます。

そのため潜航中の潜水艦は、実はあまり深くは潜らず、ほとんどLD付近にいます。
深々度で魚雷を発射しようと思っても、海面にいる敵艦は見つかりません。

LDは海水温度、塩分濃度や底質で決まりますが、最も影響が大きいのは海水温度です。
そのため、潜水艦を捜索する際にはまず水温測定から始まります。

今回盗まれたドローンが何をしていたかというと、
太平洋をひたすら走って、水温測定をやっていたのです。
海上自衛隊の海洋観測艦の主任務も「ひたすら水温を測定すること」です。


こうしてデータを蓄積して

「どこどこの海域でいついつはLDはどれくらい」

というデータを積み上げ、その結果は潜水艦や護衛艦、哨戒機に共有されます。
LDが分かれば、ソーナーの探知距離も予測出来ます。

米軍のすごいところは、これを全世界で行っていることです。

 

中国が第一列島線を超えてこれをやりだすと、自衛隊の潜水艦も危ないので、
おそらくそれだけはアメリカが阻止するだろう、ということでした。

 

おそらく、このX-1も、世界中の海で海水の調査を行なっていたのでしょう。

ところで、冒頭写真にはっきりと写っている、艦体に書かれた
上から「7 5 3」の数字、現地で見た時、
これは艦番号だと思っていたのですが、なんでしょうか。

もしかしたら喫水位置の目盛りかな?

 

SS X-1は1957年に一度引退して不活性化されたのですが、
3年後にアナポリスに引き取られ、チェサピーク湾で
第6潜水艦隊に加えられて調査潜行を行っていました。

この時彼女は軍港でのアグレッサーから、海水調査という
潜水艦部隊のための「本来の軍事行動」を行う調査艇になったというわけです。 

1973年に任務を終え、その後歴史的な展示艦になることが
取り決められ、ずっとアナポリスの艦艇研究開発センターにいましたが、
2001年に「潜水艦のふるさと」であるグロトンにやってきて、
サブマリンミュージアムの前庭でその余生を送っています。

 

 

 

 

 


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