アメリカ海軍が港湾防御チェックのために開発し、その後は
潜水艦隊に組み込まれて水質調査を行なっていた特殊潜航艇X-1の
手前にあるのは、さらに小型の潜水艇らしきもの。
SDV (Swimer Delivery Vehicle )
といい、文字どおり潜水員を輸送します。
ダイバー・プロプリュージョン・ヴィークル、水中スクーター?
ともいい、水中で特殊任務を行う部隊を運ぶのですが、
このSDVのタイプには二つあって、一つがウェットタイプ。
ここに展示されているのはウェットタイプになりますが、乗る人が
潜水服をつけたダイバーなので、屋根なし窓なし。
乗ったらそのまま車ごと水中にずっずーいと沈んでいって、海中を
目的地まで快適にドライブしていくという仕組みです。
ウェットタイプではないもう一つのSDVはコンパートメントがあって
乗り込むととりあえず濡れずに潜行してくれるというもの。
潜水艦「グリーンヴィル」(えひめ丸事故を起こした原潜)の艦体に
搭載されて運ばれているのが、改良型のSDVです。
ただし、こちらの「S」はスイマーではなく「シール」(SEAL)のこと。
こちら、特殊部隊の「NAVY SEAL」様専用なのです。
ちなみに潜水艇の名前(SEAL DELIVERY VIECLE )が「シール」と単数形なのは、
ネイビーシールズは通常一つの部隊は「シール」と呼ばれ、複数形の総隊を
「シールズ」と呼ぶことになっているからです。
その名の通り「SEA」海、「AIR」空、「LAND」地と、地球上のどこの任務でも
手がける特殊部隊シールズは、空挺作戦もすれば潜水も行うという具合に、
陸自のレンジャーにさらにダイバーの資格をつけたような最強(狂)部隊。
特にその水中での行動能力は、厳選されたメンバーにさらに地獄の特訓を施すことにより、
「たとえ北極の海でも活動可能」
とも言われております。
彼らは地獄のブートキャンプなどよりも過酷な「基礎水中爆破訓練」を経て
ようやく入隊が許されるのですが、この訓練には志願者のうち
15から20パーセントしか合格することができないんだとか。
シールズは9つの部隊である個々の「シール」から成り、
そのうちの一つが、ハワイのパールハーバーに拠点を置くSDV専門部隊。
彼らはウェット&ノンウェットのSDVに乗り、海底までこれで行き、
水中爆破などの任務を行う専門チームです。
シールズのSDV部隊が結成されたのは1962年1月1日ですが、
第二次世界大戦中にも、潜水艇に乗って水中任務を行う部隊が
すでに存在していました。
その時は名称を
UDT (Underwater Demolition Team)=水中爆破チーム
といい、「モーターライズド・サブマージブル・カヌー」、
電気式潜水カヌーという潜水艇で任務を行なっていました。
初代潜水カヌーはイギリスの発明で、あだ名を
「スリーピング・ビューティ」(眠れる森の美女)
といった由。
なんでも発明したヒュー・リーブス自身が、開発中のカヌーの中で
ぐっすり寝ているのを士官が発見したからとかなんとか。
こちらスリーピング・ビューティ使用図。
なるほど、ここで寝ていたお姫様ならぬリーブスが
士官のキスで目覚めたわけか。(適当)
ちょっとスリーピングバッグみたいで寝心地はいいかもしれませんね。
電気潜水カヌーの目的は、爆発物の運搬と設置でした。
同じ爆博物を搭載した潜航艇でそのまま敵艦に体当たりしてしまったのが
我が帝国海軍だったわけですが、イギリスは決してそんなことをせず、
爆弾を重爆撃機の爆撃目標の近くに置いて、誘爆による攻撃効果を
高めるのを目的とした任務を行なっていたのです。
この本の「海の破壊工作に使われたカヌー」のページには、
スリーピングビューティを「SB艇」として、
イギリス、オーストラリア、ニュージランド混成の
「ユニットZ」がシンガポールに停泊していた日本艦船に使用した
と書かれています。
さらに検索したところ、英語の「潜水カヌー」のwikiには、こんな一文が・・・
「攻撃隊の10名は日本軍によって捕虜になり、その後斬首された」
「捕虜になり斬首された」
「斬首」
カヌーによる潜航で港湾内に入ったのであれば、これは諜報活動、
つまり「スパイは処刑」とした国際法には違反していないわけですし、
もし本当ならもう少し詳細に事件として記録されそうなものですが。
ましてや現地での裁判を経て敵国人が処刑されるのは双方に起こったことです。
どうも、「10人が斬首」という書き方に印象操作めいたものを感じますね。
wikiも英語のものにはこのような片方の立場から物事を語った
記述が特に戦争関連については多くて、みていて興味深いです。
さて、このサブマリンミュージアムに展示されているSDVが
いつの時代のものでどんなところで使われていたのかについては
詳しい説明がされていないのですが、とりあえず上から見て
アクリルガラスで覆われた内部の写真を撮ってみることにしました。
ガラスが空を反射してどうしてもちゃんとした写真になりませんでした。
操縦席の部分は当たり前ですが、全て海水に浸かる仕様なので、
潜水艦の内部よりも計器類の防水は厳重で作りが大雑把に見えます。
床には滑車のようなものがありますね。
さらに計器部分を拡大して見ましたが、
例えば「レンジーヤード」と書かれた大きな丸い計器の右下にあるレバーは
「オフ〜テスト〜コンパス〜ドップラー〜セット」
の順番に回すことになっています。
時間の状態を確認するためのインジケーターであることはわかりましたが、
これを海中で、ゴーグル越しに確認するのは結構大変だったような気がします。
SDVは、コンバット・スイマーを母船から海中の現場まで運ぶものですが、
艇長、副艇長(英語ではパイロット、コーパイロットと称す)は
操縦もできるコンバット・スイマーといった役割だったそうです。
ところで、任務のためとはいえこんなものに乗って
(というかこんなものに体を固定して)海の中を進んでいくというのは
あまりに過酷すぎやしないか、と思われたあなた、あなたは正しい。
実際、化け物のような体力と身体能力を持ったシールズをもってしても、
海中での移動の間、海水の冷たさにずっと晒されるというのは大変すぎます。
そこで、先ほどの「グリーンヴィル」が搭載していた「アドバンスド」タイプのように
完全密閉式のものも開発されたわけなのですが、お金がかかりすぎた上、
2008年に試作品が偶発的な事故で火災を起こしたのをきっかけに
開発は途中で放棄されてしまいました。
それではこの改良タイプの開発はもう行われないのでしょうか。
wiki
まあ、こういう写真を見るに、無理してSDVをコンパートメント式にするよりは、
潜水スーツを改良し、体のどこも海水に濡れることのないような
保温性のある装具を開発したうえで、あとはシールズの皆さんに頑張ってもらう、
という路線に落ち着いたのではないかという気がします。
この写真は、原潜「フィラデルフィア」の背面に取り付けられた
SDVに搭乗して、今から発進しようとしているシールの皆さんの姿。
酸素ボンベがスーツと一体化したような形のものを着用ししています。
ちなみにSDV本体にも圧縮空気が備えられていて、非常用の酸素となります。
動力はリチウムイオン二次電池で、それによって推進、ナビゲーション、
通信、そして生命維持の装置を動かしています。
ところで、肝心のここサブマリンミュージアムにあるSDVは
いつのものなのか、なのですが、ここにある写真で似たものを探すと、
どうもマーク9ではないかという気がします。
この薄型設計が、港湾や泊地の攻撃を目標とし、
水路偵察と武器調達を任務としていたMk9に見えます。
貨物のためのコンパートメントは、二人乗りの船体の
パイロットとナビゲーターの足の後ろに大きく取ってありました。
荷物を運ぶという任務のため、通常4人乗りと言われているSDVですが
これは二人乗りであったようです。
ついでにいうと、このネイビーシールミュージアム、フロリダの
フォート・ピアースにあって、シールズの歴史資料の展示だけでなく、
シールズ的イベント(走ったり泳いだりボートを漕いだり)を
市民の皆さんと一緒にやりましょうという企画が盛りだくさんなだけでなく、
ミュージアムには訓練された「シール犬」が常駐していて、子供達の
お相手をしてくれるというようなことが書かれています。
中程にある障害物を訓練士と一緒に超える様子がそれはいじらしいので、
犬好きな方は必見です。
海自には二曹とかの階級を持っている犬がいますが、
(それより下の階級の隊員は非常に微妙な気分になるらしい)
彼も軍犬として曹以上の階級持ちだったりするんでしょうか。
って全然SDVと関係ないですが、わたしも「ネイビーシールズミュージアム」、
つい犬みたさで行きたくなってしまいました。