練習艦隊の出航を岸壁から見送っていると、知り合いの元自氏が
「今から車で観音崎まで行って、沖を通過する艦隊を見送る」
とおっしゃったのに触発されて、わたしも車で来ていたのを幸い、
ぜひとも浦賀水道を航行する彼らの勇姿を見届けることを決心しました。
「かしま」がまだ岸壁を離れてからそれほど時間は経っていませんが、
そうと決心したわたしは車に駈けもどり、
「パーカー。観音崎までやってちょうだい。そう、急いでね」
・・じゃなくって、自らハンドルを握り、愛車を駆って観音崎灯台まで
16号線をかっ飛ばし(比喩表現)たのでございます。
教えてくださった方にどこを目指せばいいのか携帯で連絡を取り、
海沿いの道を走ること30分弱。
ここは観音崎海水浴場と呼ばれる浜です。
真夏のようだったこの日、海岸にはシートを敷いて寝ている人や
波打ち際で水遊びしている子供連れなどがいました。
海ぎわから手前はちょうど涼しい日蔭となっており、ここには
練習艦隊の通過を見に来たらしい何人かの姿があります。
教えてくださった方とは駐車場で会いましたが、彼らは
灯台まで登って行ってそこで見るとのこと。
わたしは来賓モードで足元がパンプスだったため、ここから見ることにしました。
「ご安航を祈る」の信号旗を立てて、その下で大きな望遠カメラをのぞいていた
年配の方がいたのですが、尋ねてみると今日のために来たのではなく、
1年のうち360日は、ここで通過する船の写真を撮っているのだそうです。
HPで写真をあげているのかと聞くと、ネットは何もしておらず、
「紙に焼くだけです」
今時こんな上級機種カメラで毎日写真を撮っていながら、ネットにあげてもいないとは・・。
無線からは、この観音崎の真上にある東京湾海上交通センターの交信が
刻々と聞こえて来ていますが、自分が無線や信号で船に絡むというような
ややこしいファン(海上自衛隊の中の人談)でもない様子。
誰もが自己承認欲求の塊のような「マニア」にしてはあまりに無欲というか、
自己完結している様子に、わたしはなぜか好感を持ちました。
思い立ってすぐに行動を起こしたのが幸いしました。
わたしが車を観音崎灯台の駐車場に停め、海岸に向かって歩きながら沖を見やると、
すでにそこには練習艦隊の艦影がもう見えて来ているではありませんか。
艦隊といっても今年は2隻での航海で、「はるさめ」が先導艦で先に行きます。
肉眼ではわかりにくかったのですが、撮った写真をアップしてみて、
登舷礼の列がまだ綺麗に並んでいるのが見えたので驚きました。
出航してから約30分の間、ずっと彼らは舷側に立ち続けていることになります。
プレジャーボートが結構周りをうろうろしているように見えました。
「おおすみ」の時みたいに、釣り客に見せるために前を横切ったりしないでね?
岸壁には、大小の自衛艦旗を持って、ずっと振り続けていた方がいました。
熱心なファンでなければ、家族か親しい人が乗艦しているのでしょうか。
海ぎわには大きなカメラで写真を撮っている人もあり。
「かしま」♪───O(≧∇≦)O────♪キター。
これも遠目にはわからず、写真を拡大して初めて気づいたのですが、
海上で停止して練習艦隊が来るのを待っていたらしい4隻の小型艇がいます。
「あれは防衛大学校の学生たちですよ」
ご安航の旗のおじさんが教えてくれました。
例年、この向こう側にある走水の防大の港から小型艇が出て、
やって来る練習艦隊を待ち構え、そこからからしばらくの間一緒に航行をして
練習艦隊の幹部たちを見送るのが、慣例となっているのだそうです。
ところが・・・
「おかしいな」
呟くおじさん。
「あの船が練習艦隊の後をついていくのに、今日は全然動かない」
「かしま」が通り過ぎた後も、待機していた場所に4隻ともじっとしています。
「ああわかった、あのタンカーのせいだ」
見れば「LNG」(液化天然ガス)と書かれた大きなタンカーが、
悠々といった感じで練習艦隊の後に航行していきます。
港湾交通法か船舶法か何かわかりませんが、危険物タンカーのため、
小さな船が先行する護衛艦の周りにくっついていくのは危険なので、
東京湾交通管制センターの指示によって随行を禁止されたのかもしれません。
4隻の小さな船から (´・ω・`) (´・ω・`) (´・ω・`) (´・ω・`) という雰囲気が
陸上の遠くから見ているこちらにも伝わって来るようです。
折しもCH-47チヌークが上空をなんども旋回しているのが見えました。
陸自あるいは空自も練習艦隊のお見送りに来たのかっ?
とおもたのですが、おじさんによると
「ここは自衛隊ヘリの演習コースなので、しょっちゅうああやって旋回している」
とのことでした。
木更津陸自駐屯地の第1ヘリ部隊の練習機ではないかということです。
「かしま」の舷側にも白い登舷礼がまだ見えます。
後方を航行しているのは曳船のように見えるのですが・・・。
彼らがどこまで登舷礼を続けるのかを注意して見ていたところ、走水、
つまり防衛大学校の港の前を通り過ぎ、防大の小型艇が周りからいなくなると、
人の姿はかき消すように甲板上から姿を消しました。
毎年、防大の前でお見送りの小型艇に挨拶するまで登舷礼に立つことが決まっているのでしょう。
それにちょうど時間もお昼前です。
この後彼らは艦内に戻り、昼ごはんを食べたに違いありません。
白い制服が原則から姿を消し、ようやく観音崎灯台前を「かしま」が通過します。
岸壁で振られている旗を、この人物の家族あるいは知人である自衛官は見ることができたでしょうか。
「はるさめ」艦上にも整列している姿はなくなりました。
「はるさめ」の向こうには東京湾観音の姿が見えています。
この巨大な観音像は東京湾を一望できる南房総国定公園(大坪山)に建ち、
高さは56メートルあります。
観音像の中は塔になっており、登って宝冠の部分から外を見ることもできるとか。
すっかり甲板上から人のいなくなった「かしま」も浦賀水道にさしかかっていきます。
観音崎の岬の崖に姿を消したのはこれからまもなく後でした。
走水の方角を見ると、(´・ω・`)だった防大の船が帰って来ていました。
全員が事業服でなく、白い制服に身を包んでその上から救命胴衣をつけています。
手前には旭日旗をあげた一人乗りのゴムボートがいますがこれは・・・?
この艇の乗員は制服ではないようです。
さすが防大、こんな小型艇を何隻も所有しているんですね。
向こうには住友重機工業のガントリークレーンが見えています。
地図で確認すると住友は八景島の手前、横須賀地方総監部より向こうにあるはずですが、
なんだか妙に近くに見えます。
このテトラポットの向こうが防大の海上訓練場です。
帰りに車を運転しながら入り口を見つけました。
ちょうどこの左手上が小原台の防衛大学校になります。
いつも思うのですが、学生たちは小原台からここまで歩いて来て歩いて戻るのでしょうか。
さて、ちょうど12時になったので、わたしは京急ホテルでご飯を食べることにしました。
初めて来たのですが、眼前に広がる海が素晴らしい眺めです。
レストランはランチビュッフェが行われ、単品を食べたければティールームにいきます。
ここでメニューをもらうと、カレーだけでなんと三種類あることが判明。
よこすか海軍カレーだと、サラダとミルク、なぜかトッピングにポテチが付いていますが、
わたしは「三浦野菜」という名前に惹かれてベジタブルカレーを注文しました。
歯応えのある長い「甘長ししとうがらし」、シャキシャキのカブなど、
食べ応えのある野菜の乗ったカレーでした。
というわけで、平成29年度練習艦隊の艦上レセプション、壮行会、そして
出航までを見送った一連の行事が終了しました。
最近練習艦隊をこうやって見送り、出迎えると、その後もその年の自衛官に対し、
まるで親戚の息子娘のような気持ちを持つようになることに気づきました。
今年の実習幹部に対しても、陰ながら勝手に()その成長を見守っていくことでしょう。
練習艦隊のみなさま、行ってらっしゃい。そして壮途のご安航を心より祈ります。