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Channel: ネイビーブルーに恋をして
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V.J-DAYの勝利のキス@タイムズスクエア〜空母「ミッドウェイ」博物館

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空母「ミッドウェイ」博物館のハンガーデッキは、皆が最初に足を踏み入れるところなので、
案内所があったり、ショップがあったり、いろんな情報が掲示されています。

ボランティア募集の看板。

「メイク・ザ・ミッドウェイ・マジック」

とありますが、ミッドウェイマジックとは彼女のあだ名?です。

艦内にはウィングを利用したカフェがあり、スターバックスが参入しています。

売店では「チョコレートアーモ」という商品名の弾薬型チョコを売っていました。
陸自の知人にお土産にしようと買って帰ったのですが、嫌な予感がして食べてみると、
チョコレートが壮絶にまずかったので、あげなくてよかったと胸をなでおろしました。

  さて、冒頭写真です。

空母「ミッドウェイ」が展示されている岸壁の向こうには、隣の岸壁にある
「ツナ・ハーバーパーク」に立つ巨大な「勝利のキス」像があり、
「ミッドウェイ」の甲板からよく見えます。

このモニュメントは言わずと知れた、アルフレッド・アイゼンスタットの写真、

V-J Day in Times Square

を表したもので、現地では

”Embracing Peace" Statue

と呼ばれています。

割と最近だった記憶がありますが、このキスされている女性、
イーディス・シェインさんが91歳で亡くなったというニュースが流れたとき、
あのキスは恋人同士のものではなく、通りすがり同士だったということを知り
ちょっと驚いたのはわたしだけではなかったのではないでしょうか。

日本との戦争が終わり、喜びに沸くタイムズスクエアに友人と共に向かった彼女は
地下鉄を出たところで、いきなり見知らぬ水兵に抱きしめられ、キスされます。

この水兵は、グレン・マクダフィであるという説が現在最も有力です。

ガールフレンドに会うためにタイムズスクエアにきていた彼は、
戦争終結の報に接し、捕虜になっている兄弟が解放されることに喜び興奮し、
近くにいる看護師を抱き寄せてあの歴史に残るキスをしたといわれます。

その時に、それもたまたま近くにいて民衆の様子を撮っていた写真家が、
すかさず二人を撮りだしました。

その写真が有名なアルフレッド・アイゼンシュタットのものです。

この二人を撮ったカメラマンはもう一人いて、違うアングルの写真が残されています。

ただし、同じ人物の同じキスの瞬間でありながら、撮る場所の違いで、
ヴィクター・ヨルゲンセン(海軍写真班)のこの写真は、残念ながら
ドラマチックさや構図においてアイゼンシュタットのに見劣りします。

この二人の写真を比べてみると、いかに写真は撮る場所と構図であるかがわかり、
自衛隊イベントで場所取りに躍起になって我を忘れる
大人気ないおじさんの気持ちが理解できるような気がしますね。

共感はしませんが。

ここで注目すべきはアイゼンシュタットがプロのフォトジャーナリストであり、
ヨルゲンセンは、プロといっても海軍所属カメラマンであったことです。

この写真の違いは、偶然ではなく、実はプロとセミプロの違いであった、
とわたしは思わずにいられないのですが、いかがでしょうか。

ちなみに、この写真で後ろにいる驚いた顔のおばちゃんも特定されていて、
ユタ州のケイ・ヒュージス・ドリウスさんというそうです。

 

さて、この時のアイゼンシュタットの追想は次のようなものです。

「V-Jデイにタイムズスクエアで、わたしは一人の水兵が通りに沿って走ってきて
片っ端から女性という女性を抱き寄せてキスしている光景を目にした。
お婆さん、太ったの、痩せてるの、若かろうが年食ってようがおかまいなし。
わたしはチャンスとばかりライカを持ったまま走って彼に近づき、振り返って
後ろを見回したんだが、他にはわたしを喜ばせるような絵になる被写体がいなくてね」

失礼なやつだな(笑)

「その時だ。突然わたしの視界に飛び込んできた白い塊が彼に捕まえられた。
わたしは振り向くと同時に水兵と看護師にシャッターを切った。
もし彼女がダークな色のドレスを着ていたら、わたしはシャッターを押さなかったよ。
逆に、もし水兵が白いユニフォームを着ていても同じだ。撮らなかったと思う」

ほうほう、ネイビー×ホワイトの二人であるから撮ったのだと。
白×白、ダーク×ダークでは絵にならないから撮らなかったというわけね。

面白いことに、別の媒体ではアイゼンシュタット氏、こういっています。

「VJ-デイの日、わたしは撮るものを探しながら群衆の中を歩いていた。
水兵がこちらに歩いてくるのをみた。
彼は手当たり次第に老若構わず女性をひっつかんでみんなにキスしていた。

その時わたしは群衆の中に看護師が立っているのに気がついた。
わたしは彼女に意識をフォーカスしながら、水兵が彼女に近づいて、
体を曲げてキスすることを期待した。

今にして思えば、もし彼女が看護師でなければ、さらにダークな色の服を着ていたら、
わたしは写真を撮っていなかったかもしれない。

彼女の白いユニフォームと水兵のダークな軍服の色のコントラストが、
写真に特別なインパクトを与えたのだ」

気がついた時には白いものが目に入ったのでシャッターを切った、というのと
看護師に気がついて水兵がキスすることを期待していた、というのでは
全く状況が違いますが、どちらも本人の記憶によるものです。

あまりにも有名な写真の作者として、いろんなところで何回も喋っているうちに、
当人の記憶でありながら、微妙に書き換えがおこなわれてきたのかもしれません。

 

さて、この時、水兵のグレン・マクダフィは、自分たちが撮られていることを察知して、
カメラマンが何枚もシャッターを切るまでずっとキスを続け、
方やイーディスの方は、キスされながら

「彼ら(水兵)は自分たちのために戦ってくれたのだから
(好きなだけ)キスさせてあげよう」

と思っていた、と述べているそうです。

アイゼンシュタットの写真の背景には、イーディスが一緒に来たという
看護師の同僚の姿が写っていますし、水兵の姿も多数見えます。

 

ところで、こういう話になるとありがちなことなのかも知りませんが、
彼らの素性が明らかになる過程がなかなか面白かったので、書いておきます。


ながらく特定されずにきたこの二人の素性がわかるきっかけになったのは、
イーディス本人が写真家にあの看護師は自分であると連絡したことからです。

見知らぬ水兵にキスされたことを、花も恥じらう乙女であった彼女は、
(自分がタイムズの紙面を飾ったのを見てびっくりしたものの)
それが自分であることを長らく口外しなかったのですが、70年代後半になって、
「若い日の思い出」としてそれを人に何気なく話をしたところ、相手に
写真をもらっておけば?といわれ、ついその気になったのでした。

アイゼンシュタット氏は彼女を見るなり、まずその脚を見て

「あの時の看護師だ!」

と叫んだのだそうですが、その連絡を氏から受けたタイムズ紙は、
彼女が本物であるかどうかを確かめるために、紙面で情報提供を呼びかけました。

ところが驚いたことに、それに対して、なんと

11人の男性と3人の女性が

わたしがあの当事者である、と名乗りを上げたというのです。

ジョン・エドモンソン、ウォレス・ファウラー、クラレンス・ハーディング、
ウォーカー・アーヴィング、ジェームズ・カーニー、マービン・キングズバーグ、
アーサー・リークス、ジョージ・メンドーサ、ジャック・ラッセル、ビル・スウィースグッド。

マクダフィ以外の10名、彼らは全員が元水兵で、全員が自分があの写真の人物だ、
と名乗り出たと言いますからちょっとしたホラーです。

写真でもわかるように、水兵はタイムズスクエアにたくさんいたわけですし、
看護師とキスした覚えのある人も本当に何人かはいたのかもしれません。

そうでない人は一体何を目的に?と少し暗澹たる気持ちになってしまいますが、
あの水兵であるということになれば、老後はイージーモード、
注目を集め有名人となり、下手したら財産を残せるかも、と
虫のいいことを考え、何十年も前の出来事で裏が取りにくいのをいいことに、
ちゃっかり名乗りを上げた不届きな男もいたのかも・・・・・

とここは控えめに勘ぐっておきます。

 

というわけで、「自称水兵イレブン」からの特定は困難を極め、
写真の男の正体は、長らくわからないままでした。

 

その後2005年になって、11人のうち一人、ジョージ・メンドーサが、
海軍の写真解析によって、キスする水兵といったん認定されました。

当時メンドーサは駆逐艦「サリバン」勤務の水兵でした。
休暇で一緒に映画を見ていたフィアンセと外に出た時、終戦の知らせを聞きました。
そのあと戦勝を祝う人波を歩いていた彼は、

「酔っ払っていたので通りがかりの看護婦にキスした。
写真の後ろには許嫁のリタも写っている」

と主張したのです。
そうだとすれば、もしかしたらこれが原因で彼女が機嫌を悪くし、
それを記憶していたため、彼は水兵は自分だと確信したのではないでしょうか。

しかし、フィアンセがいるのに他の女性にキスするかねえ。

ところが、この説には科学的な見地から物言いがつきました。
テキサス州立大学の学者の説で、(学者がこんなことを真面目に検証)

「メンドーサの説明によると、キスをしたのは午後2時ごろだったが、
写真の影の位置は、午後5時以降に撮影されたものである。

ヨルゲンセンの写真に写っている時計(どこにあるかわかりませんでしたが)
は分針が10時近く、時針がほぼ垂直に下向きに向いており、約5:50を指している。

∴ 水兵はメンドーサではない」


名乗りを上げたべつの一人、カール・マスカレッロさんの

「俺が自分をあの水兵であると思う理由」は?

「あの時たくさんの女性とキスした覚えがあり、水兵には自分と同じ手に傷がある。
母親も写真を見て自分だといっている。
ただ、酔っ払っていてその時の正確な記憶はない」

うーん・・・メンドーサさんもそうですが、酔ってて記憶がないので、
自分じゃないかと思うってことですか・・・。

さて、それから時は過ぎ、2007年になって、グレン・マクダフィは

「自分があのキスの水兵である」

ということを訴える裁判を起こします。
おそらくですが、こうすれば科学的に検査をしてもらえると思ったのでしょう。
そしてそれだけ自分だということに自信があったのではないかと思われます。

法医学的分析によって水兵の写真ととマクダーフィの現在の写真とが比較され、
そしてマクダーフィはポリグラフ検査を5回受けて全てパスしました。

(はっきりいって数十年後で自分が堅くそう思い込んでいる場合、
ポリグラフの結果というのはまっったくあてにならないと思いますが)

彼の場合、当初の問題は年齢でした。
1928年生まれの彼は、あのキスの時まだ18歳だったことになり、
海軍では当時水兵への応募資格が18歳と決まっていたことから、
彼が駆逐艦に勤務していたという経歴は辻褄が合わないとされたのです。

これは本人が、15歳の時に18歳だと偽って入隊した、と説明したそうですが、
いくら何でも15歳が18歳だといって受け入れられるってのはおかしくないか?

まあ、海軍としても戦争中だったし来るものは拒まずウェルカム、ということで、
明らかに嘘を言っていると思っても見て見ないふりをしたのかもしれませんが。

本人は、

「普通にあの写真の水兵は自分だ、と言えますよ。あれは私です。
他の(名乗り出た)皆さんには、自分こそがあのポーズを再現することができる!
とお伝えしたいですね」

「あの日、わたしがキスをしようと彼女に近づいた時、
男が猛然と走ってこちらに来るのが見えました。
目の端で彼を見ながら、嫉妬深い彼女の夫か彼氏が殴りに来るのかな、
と思っていたんですが、次にキスしながらちらっと見たら、
彼はわたしたちの写真を熱心に撮っていました」

と述べています。

それにしても18歳で誰彼構わず女性にキスって、おませさんだったのか、
それともこの年代の若者にありがちなお調子ものだったのか・・・。


というわけで、女性も男性もめでたく特定できた

・・・・・・・と思いきや、ありがちな話ですが、未だに彼らにも疑義
(イーディスの身長は低く、グレンと抱き合った時にああはならないといった)
が未だ百出している状態で、必ずしも「最終決定」ではないそうです。

しかし、本人たち(水兵イレブンも含め)が死んでしまった以上、これ以上
真実に近づくことはもはやできなくなり、疑義は残るがここで打ち止め、
となっているというのが現状です。

キスのカップルと一応最終認定された彼らは、それぞれ91歳と86歳で亡くなるまで、
様々な媒体に露出し、各種の追悼イベントやパレードに引っ張りだこの余生を送りました。

本人たちも、自分たちが”本物”だと認められたことで満足しながら、
あの世に旅立ったのではないでしょうか。


「ミッドウェイ」のスーベニアショップで見つけた「勝利のキス」
ポパイとオリーブバージョン。

そう言えばポパイって海軍の水兵さんだったんですよね。

最後に。

写真は、1995年8月23日、マーサスビンヤードに浮かべた船の上における
写真家アイゼンシュタット氏の姿です。

被写体と違って、彼がこの写真を撮ったのは動かしようのない事実なので、
彼はその後も「V.J-DAYのキス写真を取ったフォトグラファー」として生き、
事実一生それにまつわる仕事で過ごしたようです。

この時も、来客に所望されたのか、サイン会でもあったのか、
彼の人生そのものとなった作品にサインをしようとしているところです。

おそらくその人生で最後のサインを。

この8時間後、彼は終生愛したこの島のコテージのベッドで眠りにつき、
そのまま2度と目覚めませんでした。

96歳の穏やかな最後でした。

合掌。

 

ところで、最後に念のために説明しておきますと、「V.J-DAY」のV.Jとは
「ヴィクトリー」「ジャパン」で、つまり対日戦争勝利の日です。

 

 

 

 


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