ボストン美術館、というのは正式名が
Museum Of Fine Arts, Boston
というので、カーナビに「Boston Museum」と入れてもでてきません。
このことをすっかり忘れていて今回も戸惑ってしまいました。
世に言う世界の四大(なぜ4なのかわかりませんが)美術館とは
「ルーブル美術館」
「大英博物館」
「エルミタージュ美術館」
「メトロポリタン美術館」
ということになっているようです。
勿論、この「●大」は何を以てそういっているのかは曖昧で、
4大の中に故宮博物館やプラド、ウフィツィなどが入ってくる場合もあります。
どんな収集品があって、それが人類の遺産として貴重であるかということを
厳密に鑑定し、それによって順位を付けることなど不可能であるとは思いますが、
取りあえず「入場者の数ランキング」などを見ると、アジアのトップになぜか
「韓国国立美術館」(12位)「朝鮮民族博物館」(15位)が、
ウフィツィやオルセー、エルミタージュすら抑えてランキング・インしてきてます。
まあ、いいんですけど・・・・・ところでここにはいったい何がありましたっけ?(笑)
このボストン美術館は、そういう「何大」や、ましてや入場者数ランキングには
ほとんど入ってくることはありませんが、非常に専門的な評価の高い美術館です。
門外不出のゴーギャン作
「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」
あるいはミレーの「種まく人」、モネの「ラ・ジャポネーズ(日本娘)」のほかは
海外ではもっとも日本美術の収集が優れているとされています。
前回ご紹介した「サムライ!」もその一環です。
そしてそれ以外でとくに充実していると言われるのがご当地アメリカ美術と
このエジプト美術。
何しろここは、見学を始めると最初にこの古代コーナーから始まるので、
時間配分を考えないと、肝心のヨーロッパ、アメリカ美術を見ずに終わってしまいます。
でも、どうしても食い入るように見てしまうんですよね・・・・。
よく見るこの三人単位の彫像ですが、このころの肖像画みたいなものでしょうか。
出土された副葬品。
左が「パンを焼く女」
右が、洗濯をしているのかと思ったら「小麦を挽く女」だそうです。
毎日こんなことをエジプトの主婦はしないといけなかったんですね。
このころは家事労働だけで一日が終わってしまっていたんだろうなあ。
古代エジプトに生まれなくて本当によかった。(真剣)
ついでに「パンのマーチ」という歌を思い出してしまいました。
♪パンパンパンパンパンパンパンパンパン パン パンパカパンパンパン
昔 パンを焼いたのは 6000年も前のこと
小麦を粉にして こねあげて こねあげて
エジプトの母さんたちが おいしいパンを焼きあげた♪
というあれ。
今調べてみたら、歌っているのはペギー葉山だったんですね。
左は陶器製の棺。
その右側奥は実在の人物の「フィギュア」だそうです。
仰臥するミイラの奥に並んでいる動物を模した「内臓入れ」。
内臓は麻布に包まれてここに収納されたそうですが、個人が亡くなると、
まずミイラ製造者は内臓を取りだし、ナトロンという水分吸収剤に包み、
乾燥させてからこの壺に納めたのだそうです。
実際には遺体の中で一番腐敗の原因になるのが内臓だから、という理由です。
因みに、一番右の人間の顔のツボに入っているのが肝臓、
マントヒヒに入れるのが肺。
ジャッカルのツボはドゥアムテフといい、胃を収納、
ケベフセネエフという鷹のツボには、腸を入れることが決まっています。
古代エジプト人がミイラとともにこういう臓器をも保存したのには、
彼らが来世を信じていたからで、そのために体を保存しておく必要があるとしたからですが、
他の臓器と違って心臓は摘出されず、それだけが体に残されました。
来世にも死者に必要な重要な臓器だとみなしていたから、ということですが、
他の臓器を取りだして心臓だけを残す理由はいまいちこの説明ではわかりませんでした。
その他、脳も他の内臓と同じくダメージを受けやすいので、摘出していました。
鼻から鉤を入れて、内容物を掻き出したそうです。
今はエックス線だけでなくMRIのシステムで内容が調査できますが、
こういうのを見ていつも思うのは、発掘当時の学者たちが中身を見るために
これらの外側をよく壊してしまわなかったなあということ。
ツタンカーメンのDNAを調査することによって、他のミイラとの関係、
家系図などもほぼ完ぺきに突き止めることができ、さらには出土された香水壺から
当時の香水を再現するなど、科学の進歩によって新たに分かったことが多くありますが、
発掘した当時の研究者たちが「いつか科学が発達したらわかることもあろう」
とあえて封印したこともたくさんあるのだろうなあ、と・・・・・・・。
ボストン美術館は収集物の保存に適した空調によって各部屋ごとに
体感温度が全く違うのですが、この部屋は特に寒かったです。
ミイラだし、これ以上劣化しようがないような気も素人にはするのですが、
やはり湿度というのは保存の敵なのかもしれませんね。
大英博物館やルーブルのミイラ・コレクションも見たことがあるのですが、
ツタンカーメンのような王家のミイラだけでなくいわゆる庶民のミイラになると
はた目にも実にぞんざいに包帯が巻かれていて、よくこんなので何千年も残っていたなあ
と感心してしまうくらい雑な作りだったりします。
これもおそらく庶民の(といっても裕福な家ではあったのでしょうが)ミイラで、
顔のところにご本人の似顔がはめ込んであるのが珍しいですね。
ところで、ある「見える方」が大英博物館でミイラのコレクションを見たとき、
「ミイラの主がいろいろ自分の生前の『自分語り』をする気配が実に騒がしかった」
とおっしゃっていましたが、そういうのを感じてしまう能力も全く考えものですね。
本当でも嘘でも別に構いませんが、少なくとも自分に備わっていなくてよかった、
とこのひんやりと人気のないコーナーでミイラを見ていてつくづく思いました。
最初に来たときにはこの肖像をまじまじと見てしまいました。
かなり若くして亡くなった人にも見えます。
包帯の巻方が非常にアーティスティックなので、かなりの名士であったのかもしれません。
こんなことを夢想しながら佇んでいると、このコーナーであっという間に時間が過ぎてしまいます。
このタイプのミイラは同じエジプトのものでもすべてA.Dのもので、紀元前のものとは
かなりミイラの在り様も変遷していると言った感があります。
やはり「流行」というのがあったのでしょうね。
ここで心温まるアニマルミイラコーナー。
ちうか、何でもかんでもミイラにするんじゃねーよ、と思わず突っ込んでしまう品揃え。
シルエットクイズです。これらは何のミイラでしょうか。
右のコケシ上のミイラはネコ。
左上、犬。下がキジ(だったかな)で、
三日月型のジョエルロビュションの食事パンみたいなとんがっているのが
トキ(鳥の)の頭部。
左奥、やたら目つきが悪いですがこれはわかる。ワニ。
手前は・・・・なんだっけ。トカゲかな?
右、ネコ耳を付けているのが子ネコ。
わざわざ生きてる子ネコをミイラにするな!動物愛護協会に言うぞ。
左は・・・確かお猿さんだったような。
ところで、この古代エジプトの収集が最も充実しているのは言わずと知れた
カイロのエジプト考古学博物館であるわけですが、ここが、大英博物館始め海外の
博物館に
「もともとエジプトにあったものだから、ミイラとか返せ」
と主張していたんだそうです。
ところが、2011年にエジプト争乱が起こった際、略奪者が侵入し、
収集品が奪われる、という騒ぎが起こりました。
その後盗品は発見されたものの、騒乱の影響で博物館は一時閉館されており、
返還を要求していた国からは
「ほれみろ。政情不安な国にあるよりイギリスやフランスにある方がずっと安心だろ」
と言われてしまうことになったという話です。
民主政権時代に朝鮮王室儀軌(ちょうせんおうしつぎき)を、韓国の返還要求に応じて
とっとと返してしまったという話がありましたが、同じように韓国政府は
フランスにも返還を要求、フランスはこれを拒否しています。
まあ、世界でも有数の入場者数を誇る美術館を持つような文化的な国ですから、
まさか修復と称して上から全く違うものを描いてしまうようなことはしないですよね?
自分たちの主張する歴史と違うことが書いてあっても、抹殺したりしませんよね?
・・・・・あ、漢字が読めないんでしたっけ。
なら安心。ってちょっと違うか。
もともとどこにあったという「所有権」にこだわるより、人類共通の遺産として、
恒久的に保存するだけの技術文化がある国がこれを次世代に伝えたほうが、
ずっと後世のためになるとわたしは考えます。
こうやって守られ保存されている大量のエジプト美術品やミイラコレクションを見ると、
人類の遺産に対して国だの所有だのを主張することがいかに愚かしいことかと思わずにいられません。
それにしても、そういう技術も文化も、安定した経済も持てない国に限って、
こういう主張を声高にするというのはいったいどういうことなのでしょうか。