さて、潜水艦「せいりゅう」の入港式についてお話しするのも最後になりました。
ラインを岸壁と艦の間に渡し、係留して固定する作業が終わり、続いては
全員が上陸する準備にかかります。
艦橋の艦長以下青いストラップの幹部は、一人ずつハッチに消えました。
潜舵の上からどうやって下に降りるかというと・・・、
潜舵横に付けられた足場を降りていくことができます。
潜舵の横から降りていくと、こんなところを通って行かねばなりません。
手すりもついているし床は滑らない素材だとは思いますが・・・。
潜舵に出入りするドアはどちらも解放されていたので、下からは
向こうがドア越しに見えるというなかなか珍しい光景が見られました。
自衛隊の潜水艦は川崎重工と三菱重工で交互に作っていますが、両社の製品は
同じ規格でも微妙に違うのだそうで、例えばこのドアの形状、
「四角ければ三菱製、丸いのが川重製」
と見分けることができるのだそうです。
ちなみに川崎重工業製の「せきりゅう」が呉に入港したとき。
ちょうどここのドアが開いていて、形状が丸いのが確認できますね。
三菱重工業神戸造船所は、商船建造を2012年6月に撤退ており、
同造船所にとって「せいりゅう」は「じんりゅう」進水以降、
2年ぶりの進水式を行った船ということになりました。
作業中に着ていたオレンジの救命胴衣を脱ぎ、全員が艦尾甲板に整列を行います。
入港してくるときに行進曲「軍艦」の演奏を行った横須賀音楽隊、
乗員の上陸にのために演奏したのは自衛隊公式歌「海をゆく」でした。
艦長を除く幹部を先頭に、上陸が始まります。
わたしはてっきり「初入港」というのは形だけのことで、「せいりゅう」は
昨日のうちに一度入港して、いわゆる「立て付け」を行っているはず、と
思い込んでいたのですが、本当のところはどうだったのでしょうか。
乗員の総数は65名と公表されています。
この日の見学者は招待客、隊員の家族や関係者、水交会などの団体、
防衛モニターといったところだったと思います。
彼らの行進が終わったとき、近くにいた防衛モニターらしい女性が
「あー、鼻血出そうになった」
となかなか斬新な感想を述べていました。
幹部は艦長を入れて5名。
副長、航海長、船務長、水雷長、それから機関長かな?
あれ?さっきラインを岸壁で引いていた人が行進いるような気がするぞ。
ということは、やっぱり事前に立て付けのために上陸していたのかも?
海士の皆さんの帽子の真新しいリボンには
「第6潜水隊」
の金文字が眩しく光っています。
水兵さんの帽子に所属を記すのは帝国海軍からの伝統ですが、
この漢字表記って、外人さんからは結構クールに見えると思うんだな。
第6潜水隊が所属する第2潜水隊群は、先日就役した潜水艦救難艦の
「ちよだ」を直轄艦とし、
第2潜水隊「うずしお」「なるしお」「たかしお」
第4潜水隊 「ずいりゅう」「やえしお」「せとしお」
第6潜水隊「こくりゅう」「せいりゅう」
という編成です。
川崎重工で行われた「しょうりゅう」の進水式の時、新造艦の艤装艦長は、
必ずどこかの艦長を経験していなければいけない、と聴きました。
「せいりゅう」艦長の平間武彦二佐の前職は、奇しくも?同じ第6潜水隊の
「こくりゅう」艦長であったということです。
艦長が横須賀地方総監に着任の報告を行います。
わたしは3月12日、神戸でこの「せいりゅう」の引渡と就役を見届けましたが、
その後、「せいりゅう」は約三週間呉で習熟訓練を行ったのち、
ここ横須賀に着任してきました。
入港式典は非常にシンプルで、総監に挨拶の後は、
横須賀の議員が艦長に花束を贈呈、花を抱いたまま艦長挨拶、
その後は、横須賀市長代理が市長の激励の言葉を代読、というものでした。
それが終わると、岸壁に乗員が整列したまま、式典も終了となります。
終わって、なんとなく自分の家族や関係者をその場で待っている乗員の皆さん。
ここから先はプライベートの時間なので、顔にマスクをします。
わたしが今回初めて入港式典に参加して何よりよかったと思ったのは、
進水式、引渡式では決して見ることのできない、乗組員たちの
久々の家族との再会シーンを実際に見ることができたことです。
制服姿の乗員が久しぶりに会う我が子を愛おしそうに抱く姿は、
こういうことに極めて弱いわたしの涙腺を刺激せずにはいられません。
海士の皆さんはまだ独身が多いので、再会するといっても地元のご両親や
あるいは友達や兄弟が多いようでしたが、中には若いパパもいます。
潜水艦をバックに家族で写真。
「せいりゅう」乗員は艤装中は神戸にいたと思われますし、その後は呉。
家族の顔を見るのは果たしてどれくらいぶりなのでしょうか。
お父さんの帽子を被って敬礼。
将来の海上要員だ。
この男の子は、お父さんの首に手を回してしがみついていたと思うと、
小さな手と顔を制服の胸にしっかりと押し当てたままじっとしていました。
入港作業中艦内の配置で、家族と会うために(多分)いそいそと降りていく
乗員がいれば、かたや当直で、ずっと舷門に立っていなければならない人たちも。
できたばかりとはいえ、進水以来二年間ずっと海に浸かっていたわけですから、
それなりに水垢のようなものが付着しています。
艦首部分にあるこのコブのようなものは、ソナーシステムのうちの一つで、
魚雷警報装置(逆探ソナー)だそうです。
艦体には色々と貼られていますが、これらはターゲット・ストレングス
(TS; レーダーでのRCSに相当する概念)低減のため、入射音を
音源と異なる方向に全反射させる反射材や水中吸音材です。
そして乗員はほとんどが岸壁に出ていってしまいました。
なんども言っていますが、潜水艦は外殻の厚みを知られないように、
ハッチにカバーをかけて隠してしまいます。
任務に就くときには消されてしまいますが、この日は艦体に
「せいりゅう」
と文字が書かれていました。
この日も来賓で来ておられた女性書家が、自衛隊内で
書道を教えたり、看板などの揮毫をされていると伺いましたが、
この「せいりゅう」もその方が書かれたのかもしれません。
自衛艦に入ると必ず艦名が書かれた木のプレートがありますね。
例えば「いずも」「いせ」はその名前の神社の宮司の揮毫が使われましたが、
横須賀のフネはこの女流書家が引き受けることが多いという話でした。
「そうりゅう」型から採用されたX舵。
それにしても、艦体に付着した藻がすごい・・・・。
まあ、新造艦とはいえ進水して2年経っているので無理もありません。
艦体の素材も反射やら吸収やらでデリケートだからゴリゴリ削るわけにいかないし、
いくら取ってもすぐに付いてしまうので、速力に影響が出るレベルまで放置なのかも。
この「せいりゅう」の文字、それにしてもどうやって書いたのでしょう。
家庭持ちの乗員はずっと家族と一緒に岸壁にいましたが、海士クラスの若い人は
誰も家族が来ていなければ、とっとと艦に戻って行きます。
給汽、というのは気体を供給することで、航空自衛隊には
「給汽員」というボイラー関係の資格職があるそうですが、ここにあるのは
どう見ても船に給気する装置です。
Mpa は空気の圧力の単位で「パスカル」ですね。
でも、具体的にどんな船にどういう目的で給気するものかはわかりませんでした。
程なく、わたしたちは横須賀地方総監部を後にし、メルキュールホテルの一階で
お約束の「ゆうぎりカレー」を早めのお昼にいただいて帰りました。
さて、というわけで、わたしは潜水艦「せいりゅう」の引渡式とその出航、
そしてこの日に配備された横須賀への入港を見届けたことになります。
新鋭艦が生まれ、命を得て、新たな任務に就く瞬間に立ち会えた喜びもさることながら、
何より久しぶりの家族と邂逅する父親、あるいは夫であり子である
乗員たちの素顔を垣間見たことで、自衛官と彼らを支える家族に対する
感謝の想いが一層深まるのを感じました。
今回、直前にも関わらず入港式典参加をお取り計らいくださった皆さま、
この場をお借りして心から厚くお礼を申し上げます。
どうもありがとうございました。