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Channel: ネイビーブルーに恋をして
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スキッパー(艦長)は眠らない〜空母「ミッドウェイ」博物館

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前回、伝説の艦長ラリー・チェンバースについて話をしましたが、
今日はその艦長室からご案内します。


ブルーを基調というのは全世界の海軍の標準仕様。
ベッドの枠が真鍮なのと、サイズがクィーンという豪華なものです。
(微妙に艦隊司令室のより小さいところが海軍的年功序列)

足元のマットには燦然とマークがありますが、
自衛隊でも隊のマークをあしらったマットを見たことがあるので、
海軍的にはマークを踏むことはあまり問題にはならないようです。

壁には艦長とその家族の写真がいまだに飾られています。
どの艦長の写真かはわかりませんが、女性の服装と髪型から
1980年代ではないかと想像されます。

 

艦長のベッド、いかにも寝心地が良さそうですが、
実は空母にはこんな伝説?というか神話があるのです。

「艦長は寝ない」

いつ寝ているかわからない、ではなく艦長は本当に寝ないのだそうです。

我が海上自衛隊潜水艦の現役艦長とお話しした時、この
「艦長は寝ない」という噂について伺ってみたところ、

「寝ないというより寝ていられません」

とおっしゃっていました。
一つの艦、総員の命を預かる責任者ともなると、乗艦中は
気が張って一瞬たりとも緊張が解けないのに違いありません。

たとえ仮眠を取っても夢の中で艦を指揮しているのかもしれません。


ちなみに、空母におけるフライト・オペレーションの責任者で、
艦長と同位のエアボスも、「寝ない」そうです。

特権階級の艦長室といえどもシャワー室しかないのがアメリカ式。
かろうじて洗面台はデコラの大理石風だったりしますが、
あとはパイプむき出しで艦位を示すペイントがあって何だか殺伐としています。

黄色いペイントはここが艦のどこに当たるのかを示す「地図」ですが、
これについてはまた後ほど詳しくお話しするとして、注目して欲しいのは
この最後に「HEAD104」とあることです。

なんども申し上げているようにヘッドとは海軍用語のトイレ。
このトイレの番号は104番です、と書いてあるのです。

考えたことはなかったですが、空母にトイレはいくつくらいあるんでしょうね。


ところで、これもなんども書いていますが、日本人ほどお風呂フリークで
かつ「お湯に浸かる」ことを重視する国民はいないでしょう。

アメリカのバスはお湯を溜めてもほとんど真横に寝なければ全身が浸からず、
非常にフラストレーションのたまるものなのですが、そもそも
アメリカ人はお湯に浸かるということを基本しない民族なので、
一流ホテルでも普通にシャワーブースしかなかったり、
バスタブの栓がなくお湯が貯められなかったりはしょっちゅうです。

ちなみに今サンディエゴに滞在していますが、今の部屋
(去年来たと言ったらフロントの人がアップグレードしてくれた)
にも当たり前のようにシャワーしかありません。

ただ、こちらのお風呂には洗い場というものがないので、
結局お湯を落としてしまわなければ体を洗うことができず、
そんなのなら別に無くてもいいや、とわたしは割り切っています。


我が海上自衛隊自衛艦の特権階級である艦長室にも、特権として
艦長だけが使える一人用のバスタブが備えられているのですが、

「ゆっくり湯船につかったことなど一度もない」

と現役護衛艦艦長が証言しておられました。

世界で最も民主的な海軍である海上自衛隊には、従兵などいないので、
艦長もお風呂に入りたければ自分でお湯を入れるようですね。

艦長の「ポートキャビン」と書かれ、その説明として、

「ミッドウェイの艦長は、艦内でも
最も居心地のいい艦上生活をエンジョイしていました。
独立したバス、書斎、そして特別応接室での食事は、
彼自身のためだけのギャレーで専用シェフが調理しました」

とあります。

まあ、その「エンジョイ」と差し引きしても決してお釣りが来ないほど
重い責任と重圧が、艦長一人の肩にのしかかっているわけですが。

ところでこの部分、ドアがまんま和風の引き戸なんですよ。

温泉旅館によくある外側の引き戸とか、うどん屋ののれんの内側とか・・・。
まさにあれと同じものがなぜか「ミッドウェイ」の艦長室の入り口に!

なんかここだけが人んちの玄関ぽくて、和むわー。

日本に配備されていた時代に現地施工者にやってもらったのかもしれません。

革張りのソファーに高い腰板をあしらったオーセンティックな応接室。
ソファの後ろの絵は・・・えーと、えふはちえふ?(小声で)

ホワイトドレスがガラスケース入りで飾ってありました。
おそらく大佐職である艦長かXO(副長)のものだと思われます。

XOはもちろん、空母艦長は航空出身なのでウィングマークをつけています。

ソファを挟んで反対側には対のようにブルードレスも飾ってありました。
おや、カウンターの向こうに誰か偉そうな人がいるぞ。

テーブルの向こうまで行くと急におじさん、喋り始めました。
どうも人が近づくとスイッチが入るセンサーが仕掛けてあるようです。

このカウンターの中にいる偉そうな人はラリー・エルンスト艦長。

若き日はトップガンで、なぜかハーバード大学にも行っており、
92年から3年の4月まで「ミッドウェイ」艦長を務めた・・・
ということは「ミッドウェイ」の最後の艦長ということになります。

Captain Larry L. Ernst of The USS Midway - The USS Midway Museum sits proudly in San Diego Bay

右向きに何か書いていたかと思うといきなりこちらを振り向いて「ミッドウェイ」の
艦長職について一言で言うと過酷な仕事である、というようなことを言っております。

これがなんかものすごくリアル。
どれくらいリアルかというと・・・、

シワとか産毛とか、首のイボまで再現されているんです。(襟の上)
これは本人的にどうなんだろうという気がしないでもありません。

とはいえラリー、若い時はなかなかかっこいいので、ぜひ見てあげてください。
その割にあだ名が「パピー」(子犬)って、可愛らしいじゃないですか。

Captain Larry L. Ernst 

このページの奥さんと娘たちの写真から、寝室の家族写真はエルンスト艦長のだとわかりました。

毎日の艦長の食事を作るギャレー。
たった一人のためのキッチンって、いくら空母でもすごいですね。

もちろん艦長がゲストを呼ぶときにはその分もここで賄うのでしょう。


ただし、艦長という職は決して「孤高の人」でばかりいるわけにいきません。
たまに天上界から下界、つまり兵員のギャレーにふらっと降りていき、
下々の連中と一緒に食事を取ることがあるのも前に書いた通り。

これは、シーマンの士気を高めるため、相互理解を深めるため、
そして彼らの食事の状況を自ら体験して把握するという目的で行われます。

もちろん前もって予告などないので(多分艦長がその気になれば行われる)
ふと見たら隣に艦長が!みたいなことになるのですね。

しかしそこはアメリカ、こういうときにはどちらも弁えていて、
基本無礼講で話に花が咲いたりするそうです。

この「下々の連中との交流タイム」は初級士官にも半ば強制されていて、
時々彼らは報告も兼ねて水兵たちの食堂で食事を取るのですが、
若い士官はあくまでも「ノルマ」としてしろと言われているからしているので、
水兵たちと会話をするでもなく、報告のシートにあれこれとコメントを書いて
はい終わり、という事務的に終わらせることが多いそうです。

士官の方も、自分よりベテランの下士官に話しかけるのは気が重いでしょうし、
話しかけられた方の水兵の煩わしさを思うと遠慮してしまうのでしょう。

アメリカ海軍の(心理的)階級差というのは、もしかしたら
我が海上自衛隊より大きいものなのかもしれません。

食器棚の扉がガラスのスライド式で、お皿を留めるための
ストッパーらしいものもありませんが、こんなのであの
伝説の傾斜角(Tシャツができたという)を体験したとき
一枚も割れることはなかったのでしょうか。

お皿にはミックズベジタブルとポテトが乗せられ、今
調理員が料理しているメインを乗せれば出来上がりです。

ステーキソースが載っているので、多分お肉ですね。

と思ったらその近くにいきなり艦内監獄?のような扉が。

独房に収監されるための条件?は

「脱柵」「上官への不敬罪」「窃盗」「暴行」(体罰含む)
そして

「AWOL」(Absent Without Official Leave )
公的な理由のない欠席、つまり船に乗り遅れる

となります。
収監されたらもれなく階級はBUST(バスト)、降格となります。

士官はブリッグスに入れられることはありませんが、その代わり監督者の元、
一挙一投足を監視されて区画から出られないという罰を受けます。

しかし、「ミッドウェイ」の本当のブリッグスはもっと下の方にありましたし、
これはもしかしたら高官待遇の収監者ってことは・・・。ないか(笑)

この写真があったのは、赤で矢印がある部分の甲板下になります。

実は「ミッドウェイ」の艦体は黄色い線の部分で連結されているのです。
この繋げている部分は「エクスパンション・ジョイント」というのですが、
このボードの左右には、ジョイントが走っているのが確認できます。

右側。床のラインがそのジョイント部分です。

左にも。
万が一の時にはここで艦体がポッキリと・・・となるわけですかい。


最後に余談ですが、「ミッドウェイ」艦長の仕事でもっとも粋だと思ったのは、
ペルシャ湾への任務で度々、

「今日は気象条件がいいからGreen Flashが見えるぞ。
手の空いているものはフライトデッキから観察することを勧める」

などと艦長自らアナウンスしたという話です。

Green Flashとは、太陽が水平線に沈む瞬間、ほんの一瞬
ピカーっと緑色を放つ現象で、よく見ていないとわかりませんが、
この時の航海では合計38回、これが観測できたそうです。

我が自衛隊の艦乗りの皆さんはGreen Flash、ご覧になったことはありますか?



続く。

 

 

 


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