平成30年度自衛隊音楽まつり、オープニングセレモニーが終わりました。
退場時に演奏されたのは「君が代行進曲」。
この曲を作曲した吉本光藏はいずれも政府の音楽お雇い外人だった
エッケルト(君が代に和声をつけた)とフェントン(初代君が代を作曲)に
学んでいて、ある意味君が代を知り尽くした男です。
ゆえに君が代のメロディーに「つなぎ」を加えて行進曲にする、という
誰がやってもうまくいきそうにない難題をクリアし、
そこそこまともな曲にしてしまうこともできたのでしょう。(適当)
そういえば小学校5年生のとき、運動会か何か忘れましたが、
鼓笛隊行進で不肖このわたくしもベルリラ(縦型鉄琴)を演奏し、
この「君が代行進曲」の演奏に加わったことがあります。
あの時は子供ながらにつまらん曲だなあと思ったものですが、
自衛隊音楽隊が合同で演奏すると、あれと同じ曲とは全く思えないほど
格調高く立派な曲に聴こえるから不思議です。
小学校の時の演奏が多分ひどかっただけで元々格調高く立派な曲なんですけどね。
ここからが第1章です。
陸の挑戦〜芽生える、大地からの鼓動〜
つまり日米陸軍が結集するわけですねわかります。
まず最初は陸上自衛隊東北方面音楽隊。
陸上自衛隊東北方面隊は所在地が宮城県仙台市です。
仙台といえば?そう、七夕です。
伊達政宗公の時代に、
「婦女に対する文化向上の目的で」
奨励されたことからこの地での盛んな年中行事となったわけですが、
あの時代「女性の文化向上」を施策として謳った為政者伊達政宗は
もしかしたらものすごい先取的なフェミニストだったのでは・・。
というわけで東北方面音楽隊のテーマはがっつりと「七夕」にフォーカス。
まず「お星様」つながりでモーツァルトも変奏曲にした「きらきら星」が
童謡「たなばたさま」に変わると・・・、
ここから音楽は吹奏楽経験者なら知らぬものはない名曲、
「Seventh Night Of July〜たなばた〜」酒井格
につながって盛り上がっていきます。
斬新なデザインのコスチュームに身を包んだカラーガードの女性隊員が、
最初から最後まで鮮やかな旗で演奏をより一層華やかに彩ります。
間に「ささのはさらさら〜」のメロディを盛り込み、
フラッグを高く投げ上げて対面で受け取るとき、ブルーの旗が
宙を舞いますが、当たり前のようにカラーガードは全員ノーミスでした。
と言っても今まで音楽まつりでカラーガードが旗を落としたのを
一度も見たことがありません。
開演前の紹介ビデオでは練習中の様子も紹介されていましたが、
まだ暑い頃からかなりの訓練を行うようです。
しかも皆さん何と言ってもこう見えて自衛官ですので、その辺の女の子とは
元々体力とか体幹とかが基礎から出来が違うのかも。
七夕祭りらしく浴衣の女の子が二人登場してきました。
もしかしたらこちらは男の子という設定かもしれません。
会場の隅には彼女らが頻繁に取り替える旗各種が用意されており、
迷彩服の自衛官が手渡したり回収したりして支援を行っていました。
ブラスバンドのクライマックスにはカンパニー・フロントといって、
最大の見せ場に全員で一列に並び前進して歩いてきますが、
この時カラーガードは仙台七夕でいうところの七夕「七つ飾り」の一つ、
吹き流しを振りながら一緒に行進を行いました。
この時の曲は壮大に?アレンジされた「たなばたさま」。
吹き流し飾りは、七夕のヒロイン、織姫の織り糸を象徴しているのです。
そしてその織姫様が登場。
「たなばた」でエンディングを迎え、人の列が二列に「川」を形作ると、
その川に投影された橋を、織姫さまがひらひらと舞いながら渡ってくるのです。
皆がペンライトでとりどりの星を表す七夕の夜、織姫と彦星は
天の川を渡り、一年に一度の逢瀬をするのでした。
めでたしめでたし。
つまりこれ、彦星は自衛隊音楽隊に所属するユーフォニアム奏者として
日々忙しく、しかも単身赴任で織姫とは一年に一度七夕の夜にしか会えない、と。
そういうことなんですね(涙)
北に続いては南から参加の陸上自衛隊西部方面隊。
九州と沖縄の守りを担う部隊です。
こちらは
「西郷どん」、「軍師官兵衛」、「武蔵 MUSASHI」
のテーマ、とNHK大河ドラマシリーズで。
トロンボーン奏者がソロで「西郷どん」のテーマを演奏しています。
わたしは大河ドラマそのものを全く観ていないのですが、
「八重の桜」のOPテーマのように自衛隊音楽まつりで初めて聴いて
好きになる曲もあります。
今回三曲聴いてみて、特に良いと思ったのが「軍師官兵衛」でした。
「西郷どん」のテーマに乗ってカンパニーフロントを行う西部方面音楽隊。
ところで、この日気が付いたのですが、東部西部共に、
各陸自音楽隊はまだ新制服ではなく旧型を着用しています。
もしかしたらまだ調達が日本列島の端まで行き届いていないのかもしれません。
しかしあらためて最後かもしれないとなると、この背中に羽のついた
従来の制服が無くなってしまうのはなんとも惜しいと思わずにはいられません。
演奏が終わった西部方面音楽隊の一人が両手両足で
「どんどんパン、どんどんパーン」
というリズムを刻みました。
といえばもうクィーンの「We Will Rock You」しかありませんよね。
「どんどんぱーん」に乗って次の演者米海兵隊音楽隊が登場。
非常にラフな感じで演奏しながら入場です。
ところでこの中心になっているアフリカ系のクラリネット奏者ですが・・・、
別角度から撮った回にもちゃんと狙っていました。
撮っているときは何も考えていないのですが、なんとなく一団の中で
「絵になりやすい人」
というのをいつの間にか選別していたんだなあと感心した次第です。
曲が終わると呼び込んだ西部方面音楽隊は彼らとハイファイブしながら退場。
米海兵隊の軍服は創立時から全く変わっておらず、アメリカの軍博物館でも
この制服で日本軍と戦ったという歴史的資料によくお目にかかります。
それだけに、わたしはこういう光景を見たり、何年か前のように海兵隊が
沖縄の「島唄」を取り上げたりするようなシーンに遭遇すると、
両国の現在に至るまでの相剋から宥恕、和解に至る歴史を思い、
つくづくいい時代に生まれたとあらためて思わずにいられません。
このユーフォニアム奏者もなかなか絵になる人。
彼らは正確には米海兵隊第3海兵機動展開部隊音楽隊です。
沖縄県うるま市のキャンプ・コートニーに駐留しており、
海兵隊所属の12の部隊の中で唯一アメリカ以外に根拠地を置く音楽隊です。
先ほどの話でないですが、彼らの所属する第3海兵遠征軍の前身は
かつてサイパン、そして硫黄島、沖縄で日本軍と激戦を繰り広げました。
海兵隊軍服がデザインされたのは南北戦争のときです。
当初は知名度がなく、誰も入隊してくれないので、酒場で若者を酔い潰し、
その場で契約書にサインさせて強制的に入営、ということをしていたくらいで、
ほどんどがなんの技能もない移民だったり、士官も酒場の経営者だったりと
まるではぐれ軍隊(おまけにブラック)のようだったということですが、
軍服だけは当時からイケてるデザインだったんですね。
海兵隊の制服はアメリカでもスーツ型デザインが主流となっている中で
唯一の詰襟ですが、その部分の素材は昔防護上の理由で革製でした。
今でも海兵隊のことを別名「レザーネック」というのはそこから来ています。
打楽器隊のことをマーチングバンド用語で「ドラムライン」、
あるいは「バッテリー」ということもあるそうです。
海兵隊のドラムラインはいつも卓越した腕を披露するパートを持ちます。
本日の演奏曲は「エスコーピオン」(Escorpion )。
今回この曲についての詳細はわかりませんでした。
ラテン系のリズムでとにかく派手というか、テーマ通り海兵隊が
この曲に「挑戦」しているらしいのはよくわかりましたが。
ギターとサックスのインタープレイ。
奏者が互いにインプロビゼーションを繰り返し、触発しあったり
フレーズを受け継いだりして緊張感のあるセッションを行うことをいいます。
後半はリフ(決められたメロディ」をユニゾンで。
いつの間にか全員がそれに加わります。
アメリカ人もステージの上では普通にお辞儀をしますが、
ここまで深くすることはまずありません。
ここはやはり日本の観客ということで最敬礼をしているのでしょう。
海兵隊バンドで目を引いたのがこの女性のドラムメジャー。
帽子を深々とかぶり目元を隠しているのが彼女をよりクールに見せています。
長いメジャーバトンを扱うドラムメジャーは上背を必要とするせいか、
男女混合のバンドで女性が選ばれることは滅多にないように思いますが、
彼女の場合はアメリカ男性と比しても遜色ないのでこの役を任されたのでしょう。
わたしももし彼女がシニヨンを結い、女性マリーンの軍服を着ていなければ
女性とは気がつかなかったかもしれません。
フィナーレの部分でこの女性ドラムメジャーはメジャーバトンを高速回しし、
エンディングと同時にピタリ!と止めて、それはそれはかっこよかったのですが、
なぜか最後に名前をコールされたのは、前で微動だにせず立っていただけの、
「バンドマスター」という仕事してない人だったのがわたしには納得いきませんでした。
そこでプログラムで確認したところ、ドラムメジャーは
ケイディ・A・ミラー2等軍曹という名前であることがわかりました。
ちなみに指揮者は上級准尉、その仕事しないバンドマスターは上級曹長です。
調べてみるとこの海兵隊における上級曹長とは、
Master Gunnery Sergeant (MGySgt)
といい、海軍で言うところのMACPO。(つまりえらい)
下士官の中では最上級のE-9ランクじゃないですか。
つまり二等軍曹であるミラーさんより三階級も上なわけです。
なるほど・・・それで、普通ならドラムメジャーが紹介されるところ、
しかもプログラムにもミラー軍曹の名前が書いてあるのにも関わらず、
この何もしとらんおっさんの名前が優先的に紹介されたわけか・・・。
ていうかバンドマスターってなにする人?
何れにせよやっぱり軍隊というのは階級至上主義ってことなんだと思いました。
さて、続いて登場するのはアメリカ陸軍音楽隊です。
ちなみに海兵隊は水陸両用部隊というその性質上、当音楽まつりにおいて、
プログラムの構成によっては「海」のパートに入れられることもあるのですが、
今回は陸にカテゴライズされていたってことになりますね。
コウモリは鳥か獣か?の話をなぜか思い出してしまいました(笑)
続く。