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「祖国」〜平成30年度 自衛隊音楽まつり

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海兵隊に続いて登場したのは米陸軍軍楽隊です。

彼らが所属する神奈川県キャンプ座間には、在日米陸軍司令部、
「リトル・ペンタゴン」、またの名を「ワンオーワン(101)」
が存在します。

音楽まつりの常連で、防衛大臣(と副大臣)の挨拶によると、
彼らの出演は今年で連続18回目になるということでした。

去年、一昨年とマケインに似た管楽器奏者が達者すぎる歌を披露しましたが、
今年はマケインが亡くなったこととは多分関係なく(そらそうだ)
新しいボーカリストを立ててきたアメリカ陸軍。

この歌手、プロ並みに上手いかというと決してそこまでではないですが、
何と言っても英語の発音が上手いんですよ。

え?アメリカ人なんだから当たり前だ!って?

ノンノン、英語が喋れるからって英語の歌が上手いとは限らないのよ。
上手くないアメリカ人の歌を何度も聴いたことのあるわたしに言わせると。

ネイティブの英語でも、フレーズに「音楽的に」はまらなくては
英語そのものすら上手に聞こえない、というのが歌の怖いところなのです。

その点日本人の発音は壊滅的に英語に向いていないので、
どんなに声がよく音程が良くても、英語の歌を歌うと、
あら残念、となってしまう人が多い気がします。

今回、

「テーマはChallenge ってことでよろしく」

と自衛隊から伝達されたアメリカ陸軍音楽隊は、

「チャレンジ?だったらやっぱりロッキーじゃね?」

という安易な考えで、映画「ロッキー」のテーマだった

Eye Of The Tiger

を歌手に歌わせることにしました。(多分ね)

ワンコーラス終わってすぐ、歌はディズニー映画「ヘラクレス」のテーマ、

Go The Distance(オリジナル歌:マイケル・ボルトン)

へと代わりました。
なぜヘラクレスのテーマなのかはよくわかりませんが、おそらく、

「挑戦」→ロッキー・バルボア=ヒーロー→ヘラクレス

と解釈が移り変わっていった結果ではないかと想像されます。

続いて待ってましたの「ロッキーのテーマ」。
この曲が

Gonna Fly Now

という題であることを初めて知りました。

ところで米陸軍音楽隊が演奏中のスクリーンには、次々と
このような胸にくる映像が流されて目を引きました。

日米合同訓練の様子などです。

メディックの腕章を付けたのは自衛隊ですね。

東日本大震災で被災地の子供たちのために慰問演奏を行なっているらしい
日米陸軍合同音楽隊。(ってあえて言い切っちゃう)

あのトモダチ作戦では音楽隊もまたこのような活動をしてくれていたのですね。

「U・S・A! U・S・A !」(AA略)

ロッキーのテーマでインタープレイを行うギターとサックス。
このギターがビル・エヴァンスに見えてしょうがなかったわたしでした。

ギターは通常マーチングに加わることはなく、常日頃ステージ隅で
ドラムやキーボードと一緒に地道に演奏しているのが身上なので、
この機会はビル・エヴァンスに取って千載一遇の
「チャレンジ」だったに違いありません。

アフリカ系がサックスを吹いていると、それだけで上手く見える(笑)
ちなみに彼は入隊して15〜7年といったところです。

階級はサージャント・ファーストクラス、1等軍曹。
陸上自衛隊だと2等陸曹に相当します。

フィナーレは皆が富士山のシルエットを囲んでぐるぐる回り、
ヴォーカルのエドワーズ軍曹(名札が読めた)がシャウトすると、
日本とアメリカの旗が陸軍の星を挟んで浮かび上がるという仕掛け。

ちなみに、エドワーズ軍曹の名札には

EDWARDS エドワードス

と書いてありました。ドンマイ。

 

 

続いてはわたしが個人的に待ち望んでいた、陸自中央音楽隊と
陸自第302保安警務中隊の合同演奏です。

中央音楽隊と特別儀仗隊の組み合わせ、これをわたしは
かつて、

「ただ儀仗隊を華として行う質実剛健のマーチング」

と評したことがありますが、この日のナレーションで、
この恒例のコラボレーションのことを

「挑戦するのは、ミリタリーバンドとしてのミリタリースタイルの追求」

「飾らない動きの中にある格式と伝統の音」

と解説していたので我が意を得たりの感を抱きました。

 

最初に聴いたとき、スネアドラムの「タン・タン・タンタンタン」で
わたしはゾワゾワ〜っと全身に鳥肌が立ちました。

この段階でこの曲が黛敏郎の作曲であることがわかったのは、
自慢ではないですが、この武道館の中でもブラバン関係者以外では
わたしだけだったのではないかと思っています。

祖国(March "SOCOKU")

そういえば、国賓が訪れる時には中央音楽隊の演奏によって
栄誉礼が行われますが、あの

「♪ソ ドッドドドッドッソ〜〜〜〜(ソ ドッドドドッドッソ〜〜〜〜)」

で始まる栄誉礼の曲を作曲したのはまさにこの黛敏郎。
栄誉礼の曲が、正式には

栄誉礼「冠譜」及び「祖国」

というタイトルであることを知る人は多くありません。

「祖国」の最初の部分を聴いた方は、この写真の

「膝を曲げずにつま先までまっすぐに歩を進める」

という歩き方がなんと相応しいのかと思われることでしょう。

ニ短調の民族音楽的な冒頭部分が終わるまで、待機している保安警務中隊。

曲が変ロ長調に転調し、明るい曲調に転じると同時に、
保安警務中隊が倍速で行進を始めました。

原曲のA-B-A'-C-A''という構成部分でいうとCの部分。
Bを抜き、一気にCに進んでステージ用に短くアレンジしてあります。

銃を地面と平行にしての行進ですが、M1銃の白く見える部分は
銃のストラップ(というのかどうか知りませんが)です。

ある時期までは特別儀仗隊は「サイレントドリル」という
音無の演技をマーチングとは別に披露していたと記憶します。

わたしも音楽まつりに参加するようになって一、二度見たような
記憶がありますが、最近はサイレントドリルは行わず、
中央音楽隊との共演の中でドリル中心の見せ場を与えられる、
といった形式が続いているようです。

前回、

「一人一人の容貌体型にはよく見ると差異があるのに、儀仗隊として
行進や儀仗を行なっている時には全員同じ人間に見える」

と書きましたが、選び抜かれた候補者からさらに選抜されて
競争率6倍をくぐり抜けた、

身長170〜180cm

端正な容貌であること

骨格も規格に外れていないこと

という条件の超エリート隊員は、そこから先、精神的にも肉体的にも
ミリ単位の違いも細かく調整していくような厳しい訓練を受け、
容姿の個人差などは全く目に見えないレベルにまで所作を磨き上げて
この完璧な統制美を作り上げていくのです。

観閲式などの行進は見ていると完全に同じ動作をしているように見えますが、
写真に撮ってみると必ず手の上げ方や首の向きに狂いがあります。

しかし、第302保安警務中隊の特別儀仗隊はどんな動きを写真に撮っても
恐ろしいほどに全員の姿勢がシンクロしているのです。

 

 

保安警務中隊は英語で

スリーハンドレッドセカンド・ミリタリーポリス・カンパニー

と紹介されていました。
この日音楽まつりに「MP」という腕章を付けて警備を行っていたのと
同じ警察任務が彼らの本来の存在意義です。

ちなみに「MP」の腕章を見て、わたしが

「ミリタリー・ポリスのことですよ」

というと、連れは知らなかったのか大いに驚いて、

「そんなこと言ってもいいんですか」

いいも悪いも、じゃなんていうんだよ。
「ディフェンスフォース・ポリス」か?

そうなると腕章は「DFP」・・それは広告サーバーや。
「DP」だと、さらにここにはとても書けない意味もありますし。

だいたいそれじゃ海外から来た人には理解してもらえませんよね。

保安警務中隊がまだ保安中隊であったときには、ファンシードリルも
広報活動の一環として行っていたそうですが、保安警務中隊になってからは
おそらく、この音楽まつりが唯一の音楽に乗せてのドリルの披露の場でしょう。

曲のクライマックスには、他の音楽隊のようにカンパニーフロントではなく
儀仗隊のドリルが行われます。

ウェーブのように滑らかな動きは列の右から左、そして左から右へ
連続して行われ、まるで一つの生き物の動作のようです。

常日頃、自衛隊の、というか日本国の代表として、この国が
いかに精強な軍隊を持っているかを海外にアピールするために、
彼らが行っているのはただの捧げ銃や行進の練習ではないといいます。

体力錬成に加え警察組織としての武道、銃剣術など。
おそらくは座学もみっちり行われるのでしょう。

しかも今日出演しステージに上っているのは全隊員101名のうち
5分の1の22名だけ。

ここにいる隊員こそが精強オブ精強のつわものなのです。

中国軍のマニアックなまでの統率された行進は、膨大な人数の中から選ばれた
同じ身長、容姿端麗(特に女性)な者だけで行われているようですが、
今日のメンバーも身長をかなり厳密に規定しているらしいことがわかります。

誤差せいぜい2センチくらいでしょうか。

ところでこれを書くためにあだちビデオ制作の密着番組を見たとき、
一番不条理だと思ったのは、新入隊員8名くらい?の研修期間がすみ、
最終試験を経て本採用される際、

「そのうち一人でも不合格なら全員不合格」

であると言い渡されているところでした。

そうすれば全員が緊張し助け合うだろうという親心?でしょうが、
もし万が一、本当に誰か一人のせいで全員不合格になったら、
その原因となった人は自衛隊をやめてしまうのではないか?
いや、生きていけるのだろうか?

と心から心配になりました。

ついでに言えば、儀仗隊を写真に撮った時に目をつぶっている人も滅多にいません。
これは本番儀仗の時には

「瞬きはするな」

と言われているからです。
生理的現象ですら訓練でコントロールしてしまう部隊。

やっぱり不条理だ。

「祖国」のエンディングは「右へ倣え」で隊列を整え、捧げ銃をして顔をあげます。

必ず演奏することになっている「陸軍分列行進曲」は、今回
「祖国」のあと、

「我は官軍我敵は 天地容れざる朝敵ぞ」

で始まる「抜刀隊」の部分から導入を行いました。
なるほど、ここから始めれば、「分列行進曲」で終わることができます。

哀愁を帯びた短調の行進曲、「祖国」と「陸軍分列行進曲」、
この二曲の選択そのものに、中央音楽隊と第302警務中隊の
自らの任務への強い自覚を見たような思いがします。

今回、昔の音楽まつりを知っている方が、

ふた昔前の音楽祭りは、「またスーザかい」なんて
🎶ブンチャカの行進曲パレードだったのに隔世の感があります。

とメールを下さったものです。

女性専用歌手の投入、カラーガードに工夫を凝らした演出、と、
年々ショウアップされてわたしたちを楽しませてくれる音楽まつりですが、
おそらく中央音楽隊と特別儀仗隊のステージは、その頃から
基本的な構成はほとんど変わっていないのではないかと思われました。

しかし、外国軍音楽隊を含め、ひらひら&キラキラした華やかなステージの中にあって、
日本で唯一特別儀仗を行う中央音楽隊と第302保安警務中隊だけは、
自らも標榜するようにこの質実剛健なスタイルをどこまでも貫いていってほしい、
とわたしは切望してやみません。

 

続く。

 

ところで最後に超余談ですが、これを製作している時、軽い地震がありました。
地震発生から20分後、窓の外の空を二機の陸自ヘリコプターが
通り過ぎていくのを初めて目撃しました。

地震発生に伴う警戒偵察のようです。
自衛隊の皆さん、いつも本当にありがとうございます。

 

 


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