食堂でそれはそれは美味しい「かがカレー」を堪能し、一旦待機所となった
士官室に帰る前、少し甲板を案内の方と話しながら歩きました。
「かが」の甲板。
そこにいるときには特になんの感慨もなかったのですが、
これが今現在日本でもっとも大きな軍艦の甲板です。
全長248m、幅38mの甲板は「ひゅうが」型と比べて縦50m、横5m大きくなっています。
自衛艦旗のはるか手前に立ち入り禁止の柵が張られています。
カレーを食べていてわかりませんでしたが、どうやらいつの間にか
「かが」はJMUのドックに入港を済ませたようです。
車両やヘリなどを繫ぎ止めるための◯に十字の装置、
航空機静止索孔のことを「眼環」と言いますが、この眼環、
帝国海軍の空母にはだいたい1.5m間隔に空けられていたとか。
「かが」の眼環もだいたいそんな間隔で穿ってあるように見えます。
ヘリコプターや車両などを固定する索をここに繋ぎ、固定します。
そのときあらためてTOのネクタイの柄に気がつきました。
うーん、狙ってきたね。
柵のギリギリまで行けばキャットウォークを見ることができたのか・・・。
1時間航海して帰って来れば、朝向かいに見えていた補給艦「とわだ」と
輸送艦「おおすみ」が左舷側になっているのでした。
隣には「せとゆき」がいます。
東良子一等海佐が艦長就任中、遠洋航海に出たのを見送った覚えがあります。
士官室に帰ると、またしても時間調整のためか、一連のニュースが放映されました。
これ、ご存知でした?
wikiには艦歴としてこのように書かれている事案です。
2018年8月26日から10月30日まで行われるインド太平洋方面派遣訓練に
護衛艦「いなづま」、「すずつき」とともに参加し、インド、インドネシア共和国、
シンガポール共和国、スリランカ民主社会主義共和国、フィリピン共和国を訪問する。
9月13日には南シナ海で潜水艦「くろしお」と合流し、対潜戦の訓練を実施した。
9月26日にはスマトラ島西方海空域において「いなづま」とともに
南シナ海へ向かうイギリス海軍フリゲート艦「アーガイル」と日英共同訓練を実施した。
10月11日〜10月15日にかけてインド海軍との共同訓練「JIMEX 18」を実施した。
同月18日、訓練最後の寄港地となるシンガポールに入港、
シンガポール海軍と訓練を行う。
その後は再び南シナ海に入り、
中国人民解放軍海軍の駆逐艦「蘭州」の追尾を受けつつ行動。
米海軍補給艦「ペコス」から10月25日に、「いなづま」とともに海上給油を受けた。
このときたまたま?「かが」にNHKのスタッフが取材で乗り込んでいたことから
ニュースで報じられたようです。
ご覧になった方も多いかと思いますが、映像では「かが」の通信士が
「蘭州」と通信を行う様子が一部紹介されました。
中国が領有主張をますます強めつつある南シナ海に日本の軍艦が現れたので、
向こうとしても任務として監視を行ったというところなのですが、
このことを、香港の新聞サウスチャイナ・モーニングポストは、
NHKの報道を引用する形で次のように伝えました。
「事件は先月末、中国のリューヤンII級ミサイル駆逐艦『蘭州』が、
日本の駆逐艦『かが』を発見した時に起きた」
「発見後、蘭州の乗員は無線で
『おはよう。お会いできてうれしいです』
という内容のメッセージを送った」
「中国軍が8月、南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島の上空で
米海軍の対潜哨戒機P-8Aポセイドンに対し、
『すぐに立ち去れ』と警告したのとは対照的だ」
お会いできて嬉しいです、ってつまり
"Good morning. Nice to see you."
って英語で言っただけの話だと思うんですが、日本語でいうと
なんかものすごく好意が溢れている印象ですよね。
この報道がネットに流れたとき、わたしも見ていましたが、コメントの中には
「かがの通信士が女性だったから」
という穿った(笑)ものもありました。
もちろん動画を見るまでもなく、「かが」通信士は男性です。
さらに記事では香港のテレビ局の軍事評論家(日本の伊藤提督のような立場の人?)
が、日中の軍艦の遭遇についてこんなことを言ってるらしい。
「中日関係が全面的に回復し、両国の軍隊が仲良くできることを示している」
いやいやいやいや(笑)
中日関係回復してないよ?全くしてませんよ?
強いて言えばトランプにボコられた分、日本に諂ってきているだけ。
あの国はその点、背中で匕首を抜きながら平気で笑顔で握手してくるからね。
それにしても、この香港の伊藤提督(宗さんといいます)、
軍事評論家のくせに全く海軍軍人同士の独特の連帯感をわかっとらん。
軍隊というものは、国同士が仲良くしているから仲良くするのではなく、
互いに干戈を交えるその瞬間までは友好的であるのがスタンダードなんですね。
佐藤正久議員が今回、
「韓国海軍のレーダー照射とは対照的に思えるのは佐藤だけではないだろう。
外交関係の影響もあろうが、南シナ海という敏感な海域でも
無線での挨拶はシーマンシップ」
とツィートしておられますが、「蘭州」乗組員が海軍軍人だったというだけのこと。
それに、香港の伊藤提督(宗さんだってば)は、その次の瞬間、
「中国海軍は、日本の艦艇が敏感な地域になく挑発的でもなかったので、
友好的なメッセージを送ったにすぎない」
と、前言と矛盾することを言っています。
まあ、こちらが考察としては真っ当だと思われますがね。
日本の排他的経済水域で哨戒に来た軍用機にレーダーを照射し、
佐藤正久議員に中国軍とさえ比べられてしまった韓国海軍ですが、
今回の事件まで、自衛隊でははっきりと
「国同士はともかく我々は韓国海軍と非常に仲がいいんですよ」
と宣言しており、わたしも何人もの自衛官の口からそう伺いました。
練習艦隊で韓国に寄港したときに、現地の海軍軍人が岸壁で
両手を振って自衛隊を歓迎している写真を見たことがありますし、
前回の観艦式で横須賀に寄港した軍艦の乗員たちなどは、非常に友好的だったと聞きます。
仲が良かったはずの韓国海軍が今回このような暴挙に及んだことを、
「北の抑えがなくなった」
賀詞交換会では、現役の海上自衛官からも同じようなことを聞いたのですが、
つまり、南朝鮮は、もう北は南に責めて来ることはないのだから、
今の敵ははっきりと日本であるという認識でいる、というのです。
つまり国がそう(日本を敵だと)定めたからには、
当然のことながらそれに呼応するべく行動するのが軍というものだからです。
世界の海軍では、
海上衝突回避規範
(CUES:Code for Unplanned Encounter at Sea)
という不測の事態から衝突を防ぐための規範に合意しています。
その主な内容は、
他国船と予期せぬ遭遇をした場合、無線で行動目的を伝え合う
射撃管制用レーダーを相手艦船に一方的に照射しない
などの取り決めで、世界の21カ国が同意表明しています。
今回の中国軍と自衛隊の通信は前者に則り正しく行動した例で、
後者を破ったのが先日の韓国海軍ですね。
もちろん韓国海軍はこのキューズに合意していますよ。
さらにこのニュースにある海空連絡メカニズムとは、キューズに加え、
日中防衛当局間で
(1)日中両国の相互理解及び相互信頼を増進し、防衛協力を強化するとともに
(2)不測の衝突を回避し
(3)海空域における不測の事態が軍事衝突または政治外交問題に発展することの防止
のために昨年覚書が交わされたもので、条約を昔から愚直に遵守する
自衛隊は当然として、今回は中国人民軍も、普通にその合意に則る行動をとった、
ということになります。
ところで、韓国海軍の照射について、元自衛官の中には
「皆が思っているほど軍隊は統制が取れていないので、あれは
”韓国のアスロック米倉”が勝手にやったんではないか」
と言っている人もいるようです。
もしそうだとすれば、軍の統制という点で彼の国は
中国人民軍にも劣っているということになりますね。
ところで、乗艦してすぐ、本日昇任した海曹・海士がそれを認証される式、
昇任伝達が行われることをわたしたちは聞いていました。
士官室で中国軍とコンタクトする「かが」のニュースがすんだあと、
ハンガーデッキでその式が行われるので移動しましょう、ということになり、
その階にいる人たちが一斉に左舷側の通路に移動を始めました。
全員が一列で進んでいくので案の定すぐ渋滞になっています。
この分ではいつハンガーデッキに到達することやら、と思ったら、
案内の自衛官がこちらから行きましょう、と右舷側の通路に
エスコートしてくださったため、誰も来ていないうちに現場到着。
まだ昇任を認証される海曹と海士しか来ていません。
真後ろに出てきてしまったのでこの時間に前に移動すればよかったのですが、
なんとなくこの場から見学することになりました。
「今日昇任認証される人たちはギャラリーが多くていいですね」
「家族の方にも見てもらえますしね」
今列の右側に見えている女性はおそらくどなたかの家族だと思われます。
「かが」も気を遣って、認証される隊員の家族が前で見られるように
呼び寄せていましたが、結局この一人だけでした。
体験航海に家族の職場を見たくとも、あまりに遠方だったり
仕事があったり(この日は金曜日)で、中々叶わないものかもしれません。
結局この位置から昇任伝達とやらを見守ることになりました。
昇任する隊員とその階級を呼び、呼ばれた人は「はい!」と返事します。
女性の自衛官も二人か三人いたようでした。
続いて、全員が手にした「服務の宣誓」を一斉に朗読します。
「宣誓!
私は、わが国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、
日本国憲法及び法令を遵守し、一致団結、厳正な規律を保持し、
常に徳操を養い、人格を尊重し、心身をきたえ、技能をみがき、
政治的活動に関与せず、強い責任感をもつて専心職務の遂行にあたり、
事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、
もつて国民の負託にこたえることを誓います。」
自衛官はその自衛官人生で、何度この宣誓を行うことになっているのでしょうか。
unknownさんにあとで伺うと、この服務の宣誓には驚いたとのことです。
ご一緒されていた先輩自衛官も「前はやっていなかった」とおっしゃったとか。
そもそも「日本国憲法を遵守し」という言葉は、あの三島事件が起きてから
宣誓文に付け加えられているそうですし、
どういう時に宣誓を行うかは時とともに変わっているのでしょう。
昇任の宣誓を終えてホッとした風の皆さん。
昇任伝達を行う隊員だけが白手袋まではめた儀礼用の制服です。
そしてほとんどすぐ、退艦が始まりました。
乗組員と家族はここで最後に別れを惜しみます。
艦を一歩降りればそこはもうJMUのドック内。
ということで、退艦者にはもれなく安全のためのヘルメットが渡されます。
そして、ドック内では写真撮影は行わないでください、という注意事項が伝達され、
この日の体験航海は終了です。
ところで、奥の壁にこんなものが貼ってあるのをわたしは見逃さなかったのだった。
DDH-184 KAGA
航空母艦「加賀」
よく見ると加賀さんの前垂れがさりげなく「84」に・・・。
1日も早く空母「かが」の勇姿を見たいものです。
最後になりましたが、今回の体験航海で終始丁寧に案内をしてくださった
呉地方総監部の皆様、「かが」乗員の皆様に心からお礼を申し上げます。
体験航海シリーズ終わり。