メア・アイランド海軍工廠博物館内にはこんなバナーがありました。
海軍工廠誕生150周年。
メア・アイランドに海軍が造船所を開設したのは1854年のこと。
1854年というと、日本は嘉永6年。
ちょうどこの年の2月、マシュー・ペリー率いるアメリカの艦隊が
浦賀に再来し、江戸湾で威嚇を、それに続く幕府との会談を行なっています。
メア・アイランドにはそれから4年後の万延元年、わが国初の遣米使節が
「咸臨丸」を伴って訪れ、咸臨丸はここで修理を受けるという縁がありました。
それから150年後ですから、2004年に華々しく式典行事が行われたのでしょう。
ただし、海軍工廠そのものは1996年に閉鎖されていますが、
国によって海軍工廠跡は歴史的建築物地区に指定されています。
さて、メア・アイランド海軍工廠跡にある博物館の展示品は、
写真、模型だったり制服だったりという小さなものが多いのですが、
冒頭写真のような大型の展示もあります。
シャークをペイントした小型艇。
途端にわたしはPTボートを思い出してしまったのですが、
こちらの方がふた回りくらい小さなイメージです。
しかし、周りには具体的な説明は何もなく、ただ
ボートの上部にこのスコードロンマークが掲げてあるだけ。
後ろに上がって中を見ることができました。
舞台で使う大道具、と言ってもいいような雑な作り。
一体この船はなんでしょうか。
この「スペシャル・ボート・ユニット」というのが、このボートの所属先のようです。
調べたところ、まずこのユニットは、現在
という組織隷下の、
特別戦闘舟艇乗務員
Special Warfare Combatant-craft Crewmen (SWCC)
というものに変わっています。
見て字の通り、小さなボートを使用してミッションをこなす部隊で、
ネイビーシールズとは似ていますが別の部隊です。
SWCCの特別な任務は大きな艦艇には侵入できない浅く狭い水域での
行動、偵察や巡回、突破などです。
SWCC - Navy's Best Kept Secret -Navy's Special Warfare Combatant-craft Crewmen
歴史を遡ると、ボートによる特殊部隊が組織されたのは第二次世界大戦中で、
ここでもご紹介したPTボート部隊は主に南太平洋に投入されていますが、
ボートを専門とした特殊部隊の効果が発揮されたのはベトナム戦争の
河川地域での展開においてでした。
メア・アイランドには、特別ボート部隊の第11ユニットの基地があり、
これが組織されたのは1972年で、活動地域はナパやサクラメントに至るこの地域の、
デルタ地域で主に警戒に当たりました。
スペシャルボートユニット11のマークですが、この右側、
「リバー・ラッツ」(川のネズミ)
というのが彼らの自称。
さらに
「ブラウン・ウォーター・ネイビー」
という言葉に聞き覚えはありませんか?
昔このブログでも
「人民海軍はブルーウォーター・ネイビーの夢を見るか」
というタイトルで外洋海軍について説明するついでに、
このブラウンウォーターが水が茶色い河川や沿岸部を意味することから
ブラウンウォーター・ネイビーについても触れたことがありますが、
ボートユニットがまさにこれそのものです。
ただし、この言葉は正式なものではなく、どちらかというと
ブルーウォーター・ネイビーに対して自虐的に自称している雰囲気です。
そう考えれば、「リバーラッツ」(川のネズミたち)も自虐的ですよね。
もう少しかっこいい名称としては、
「The Quiet Professionals 」(静かなるプロ集団)
というのがあります。
シールズや他の部隊の足がかりを作るために初動で
静かに現地に潜入する役割であることからです。
ただし、ワッペンにも「コンバット・レディ!」とあるように、
特殊訓練を受けた彼らは体力的にエリートばかりの少数精鋭、
大変士気の高い部隊であったらしいことが残された写真などからわかります。
厳しい資格検査を経てさらにスクリーニングで生き残らねばなりません。 まず、試験資格は 裸眼視力1.0以上、色盲でないこと ASVAB (入隊共通試験)で一定以上の成績である 17歳以上、30歳以下 米国国籍を所有する まあ、この辺は当たり前というか大した問題ではありません。
しかし、クルーマンへの道が開かれるスクリーニングとは、
以下の行程を全て時間以内にこなした者に限られます。 13分で500ヤード(457m)をサイドストローク(横泳ぎ) あるいはブレストストローク(平泳ぎ)で泳ぐ (10分休憩) 2分以内に50回の腕立て伏せ (2分休憩) 2分以内に6回の懸垂(鉄棒) (10分休憩) 12分以内に1.5マイル(2,4 km)ランニング シールズのブートキャンプで行われる水中破壊訓練 あのー、最後でほとんどが落とされるような気が・・。
上級メンバーの資格は以下の通り。 9分30秒以内で500ヤード泳ぐ(50mを約1分のペース) (10分休憩) 2分以内に腕立て伏せ80回 (2分休憩) 2分以内に75回腹筋運動 (2分休憩) 2分以内に15回懸垂 (10分休憩) 10分30秒以内に2,4kmランニング 水中破壊訓練 ただし、このスクリーニングに合格しても、
まだクルーマンになれるわけではありません。 9週間、ランニング、水泳、ボートなどで基礎体力の錬成とともに、 精神力のテストも行われるため、ほとんど寝ることもできない状態の中、
過酷な訓練で訓練生は限界にまで追い詰められるそうです。 SWCC Training Video (2010)
世間ではネイビーシールズばかりが有名で、SWCCの訓練と
スクリーニングの厳しさはあまり知られていない気がします。 わたしが寡聞にして知らなかっただけならすみません。 Navy SEALs & SWCC Training Program
このビデオでボートを漕いだり担いだりしているのが基本SWCCです(多分) 後半、氷の張った川にみんなでせーの!と潜ったりしてます。 こんな訓練を続けているだけで、皆、肩やの筋肉は盛り上がり、
首がほとんど顔と同じくらいの幅に太くなって皆同じ体型になってます。 そして晴れてSWCCとなると、こういうことに・・・ (
(音量注意) ブラウンウォーター・ネイビーそのままですね。 ところで、メア・アイランドのボート・ユニットのアルバムに残るこの写真。
一番右、もしかしてこれは我が海上自衛隊の士官ではございませぬか? そう思ってこのメンバーを見ると、どうも世界各国の海軍軍人の集合みたい。 SBU11の歴史をもう一度見ると、本隊は教育機関でもあり、また "ONE NAVY CONCEPT"
のもと、世界各国の海軍との技術交流を行なっているようです。
それにしてもこの士官さん、どういう立場でここで写真に収まっているのか。
もう退官された方かなあ。
どなたかこの士官をご存知の方がいたらぜひご一報ください。
メア・アイランドに所属していたSWCCの前身であるボートユニットで
使われてきたボートが、保存されることになって搬入されるシーン。
ここの展示のおかげで、ボートユニット、そしてSWCCなる特殊部隊があることを
今回初めて知ることになりました。
続く。