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Channel: ネイビーブルーに恋をして
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映画「日本破れず」〜”阿南君は暇乞いに来たんだね”

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終戦記念日シリーズ「日本破れず」二日目です。

再び閣議。
この映画、最初から最後まで閣議と御前会議の繰り返しです。

東郷外相は日本側の条件は理解されたとして進めたい考えですが、
阿南は国体の護持は担保されていないとして反発します。

 

この映画は、阿南vs東郷という対立を軸に進めていて、
海軍内の終戦工作などについては一切割愛しているので、
東郷茂徳役を主役級山村聡に持ってきたのだと思われます。

米内大臣も受諾条件を飲むべきと主張し、またも場は険悪に。

鈴木首相も一緒になって大御心を錦の御旗に阿南を攻撃するので阿南はキレて、

「まるで大御心を盾にして陛下のお影に逃げる卑怯な態度」

とまで言い募るのでした。

梅津美治郎参謀総長もどちらかといえば阿南に賛成。
豊田副武軍令部総長も「再交渉すべき」という考えです。

そこに軍務課の荒尾課長以下将校たちが、外務大臣に抗議しにきました。
降伏を撤回せよ、と叛乱の可能性までチラつかせて迫りますが、
東郷はこれをはねのけます。(かっこよくね)

「総理も軍人です!兵隊の気持ちはお分かりのはず」 

「あなた方の考えはわかった。がわしの考えは違う。
わしは、日本は滅亡しないという確信があるのだ」

二・二六事件で叛乱将校たちに命を狙われ、死地から生還した
鈴木首相、もう恐れるものはないとばかりに彼らを睨み据えるのでした。

 

八千万の命を救うには降伏の屈辱も止むを得ない、という考えの外相。
その晩外相邸で謎の爆発事故が起こります。(事実ではない)

「たとえ我々が死んでも、平和のバトンは受け継がれるよ」

と東郷、決め台詞を。
ちなみに実際の東郷は原爆投下について早速外相として世界にこれを訴え、

「非人道的行為においてはナチスの数倍において」 

とキャンペーンを張ることを指示しています。

こちら、蹶起の実力行使に向けて計画を練る陸軍将校たち。
各地から行動を起こす部隊の情報が入ってきていました。

荒尾は阿南陸相にクーデターの承認を迫ります。
その内容は、宮城を占拠し、天皇陛下を首班に立てて新政府を・・・・

・・・あれ?なんかデジャブが・・・・。 

「クーデターに訴えるのは御前会議まで待て」

またしても会議を言い訳に引き延ばしを図ります。(2回目)

阿南は森赳近衛師団長と(劇中では林)田中静壱東部軍管区司令を召喚し、
各部の動きについて意見を聞きました。 

田中静壱大将を演じるのは藤田進です。

オックスフォード大卒で駐米武官だったことからマッカーサーとも親交があり、
知米派軍人だった田中は、結果的に宮城事件の叛乱鎮圧に貢献し、
最後の反乱事件となった川口放送所占拠事件を収束させた夜、
司令官自室で拳銃を用いて自決しました。 

映画では田中(役名は中田)に

「大御心を無視して暴挙を起こし軍内部の内部を画するが如き不逞の輩は
この田中、身命を賭して対処するつもりです」 

と言わせています。

 

ここにも押しかけてきてクーデターの承認を迫る畑中たち。

「陛下を別の場所にご案内し閣僚を拘束すべきです!」

しかしまたしても阿南、

「御前会議が終わるまで待て」 

会議を理由に引き延ばしを図るのでした。(3回目)

そして阿南陸相が戦争継続を訴える陸軍将校たちを待たせる言い訳にしてきた
会議も4度目となりました。

しかも今度は2回目の御前会議です。
日本に突きつけられた降伏条件を飲む飲まないで意見が一致しないので、
畏れ多くも天皇陛下のご聖断を仰ぐことになったのです。

次の瞬間御前会議は終わっておりました。
畏れながらまるで3分間クッキングのような展開です。

陛下は内外の諸情勢を察せられ、外務大臣の意見に賛成され、
降伏を受諾するほか無し、と仰せられたのです。

”このまま戦争が続けば国土は焦土と化し、国民の苦難は続く。
どんな形でも国民が残る限り復興の光明も見えてこよう。
ご自身はいかになろうとも国民の命を救いたい。

国民に呼びかけるのがよければ進んでマイクの前にも立とう。”

そのお言葉を首相の口から聞く閣僚たちの目には涙が・・・。

御前会議は宮中の防空壕ともなっている地下で行われました。
閣僚たちは続いてこれについて話合う会議をもつ予定です。

史実によればこの御前会議が行われたのは8月9日です。

御前会議では滂沱の涙を流した阿南陸相、ゆっくりと窓辺に歩み寄ります。
この一連の早川雪洲の演技は、ある意味多くの俳優が演じてきた
阿南惟幾の原型になっているのではと思われる圧倒的な存在感です。


この映画は、戦後初めて終戦を描いたものであり、阿南が
俳優によって演じられた最初の作品となりました。

わたしは「日本のいちばん長い日」(三船敏郎)「大日本帝国」(近藤弘)、
「日輪の遺産」(柴俊夫)、「日本のいちばん長い日」(役所広司)を観ていますが、
男前すぎて感情移入しにくい三船、左翼映画の添え物だった近藤(だれ?)、
荒唐無稽なトンデモ阿南だった柴、マイホームパパの役所とどれもイマイチなため、
文句なくわたしには早川雪洲の阿南が最も相応しく適役だと思われました。

ついでに、音楽担当は「ハワイ・マレー沖海戦」「加藤隼戦闘機隊」、
「雷撃隊出動」「勝利の日まで」「姿三四郎」を手がけた鈴木誠一で、
声楽的な旋律を重厚な和声の弦楽器が盛り上げ、感動的なシーンを作り上げています。

阿南が涙を浮かべているところに押しかけてきた軍務官一同。

クーデター計画を立案して持ってきたのですが、それを読み上げようとするのを
阿南は、

「待て」

と一言で遮り、

「もう何事も遅い。皇軍はご神裁のもとに進むことを見た」

最も急進的な畑中は、阿南に辞職することを提案します。
そうすれば内閣は瓦解するので、終戦詔書に陸相がサインしなければ
終戦の合議も成立しないと。


この辺りのことを史実に照らして説明しておきましょう。

実際には、阿南は鈴木内閣を支えていく決意をしていたとされ、
6月に和平を望む米内光政が鈴木内閣を辞任しようとした時には、
大嫌いな(はずの)米内に手紙まで送ってこれを翻意させています。

この映画からもうっすら読み取れることですが、阿南惟幾は
陸軍の将という立場から戦争継続を主張していたものの、それは
あくまでも陸軍の暴発を押しとどめるためであり、その真意はむしろ
終戦工作を進めることにあったといわれており、鈴木首相もそのことは
よく理解していたというのです。

もし阿南が表面上そう思われていた通り、継戦を望んでいたのだとしたら、
畑中のいう通り自分が辞職さえすればそれは実現したはずですが、かと言って、
最初から降伏を認めていれば、強硬派が後任の陸軍大臣に取って代わることになり、
やはり鈴木内閣は解散を余儀なくされ、日本は泥沼の戦争になだれ込んだかもしれません。

阿南は全て見通した上で陸相の座に付いたまま陸軍の総意を主張することで
悪役を引き受け、終戦に到るまでの「引き延ばし」をしたのではなかったか、
というのが、迫水久常など近くで見てきた人たちの見立てです。

この「腹芸」こそが、阿南惟幾という軍人が後世に評価されている理由でしょう。

そして追いすがる彼らをまたしても閣議があるからと後にし(4回目)ます。
残された将校たちは口々に

「陸相に裏切られた!」

「もう俺たちだけでやろう!」

といいますが、中でも竹下、稲葉正夫の二人は少しここで思いとどまる様子。

今回の閣議のテーマ、それは玉音放送をいかに行うかの一点です。

深夜に録音した御詔勅を何時に放送するか、外地の将兵に聞かせるための
告知の徹底などが話し合われ、その結果、昭和20年8月15日の正午に
玉音放送が行われることに決定されました。

彼らだけでなく、この時、終戦への動きを受けて各地で反乱の動きがあり、
厚木航空隊が決起したという噂が彼らの耳にも届きます。

今や決起する彼らは、陸相の訓示をブッチします。

阿南の、

「最後の断は降ったのである。
不服の者あればまずこの阿南を斬ってから行動せよ」

という訓示を聞いた軍務官は、荒尾課長、竹下、稲葉の三人のみ。
涙を浮かべる彼ら三人に向かって阿南陸相はいうのでした。

「お前たちは思いとどまれ。思いとどまれ」

そして、南方から来たという珍しい葉巻を持って鈴木首相を訪ねます。
映画では、このとき交わされたという二人の、

「終戦についての議が起こりまして以来、
自分は陸軍を代表して強硬な意見ばかりを言い、
本来お助けしなければいけない総理に対して
ご迷惑をおかけしてしまいました。
ここに謹んでお詫びを申し上げます。
自分の真意は皇室と国体のためを思ってのことで
他意はありませんでしたことをご理解ください」

「それは最初からわかっていました。
私は貴方の真摯な意見に深く感謝しております。
しかし阿南さん、陛下と日本の国体は安泰であり、
私は日本の未来を悲観はしておりません」

「私もそう思います。日本はかならず復興するでしょう」

という会話がほぼそのまま登場します。

また、映画にはありませんが、鈴木は阿南が去った後、彼の決意を察して

「阿南君は暇乞い(いとまごい)に来たんだね」

とつぶやいています。

映画で描かれていたように、東郷茂徳外相は阿南と最も激しく対立しましたが、
最後と思われるときには阿南は東郷に、

「色々と御世話になりました」

と丁寧に挨拶をしています。
しかし、米内海相に対しては、切腹中、

「米内を斬れ」

などと口走っていたそうです。
米内光政の方も、阿南に関しては

「よくわからない人だった」

と言っており、これはもう理屈ではなく、陸海軍の不仲をそのまま
体現し合っていたということなのかなという気がします。

畑中は東部軍司令官田中静壱軍司令官のもとに決起を訴えに来ますが、
田中は彼をにらみすえ、(・∀・)カエレ!! と一言。

さらに彼らは、陛下が終戦の御詔勅を録音することに聞き及び、
これをなんとしてでも奪い取り放送を阻止することにしました。

こちら、14日の深夜、陛下の玉音を録音するのにスタンバイするNHKのみなさん。

日本放送協会国内局長、矢部健次郎を演じるのは佐々木孝丸です。
右側のタキシードは徳川侍従。

こちら近衛師団長執務室。
森赳師団長に畑中らは玉音テープを奪取するため近衛師団を決起させよ、
と迫りました。

それを毅然と跳ね除ける森師団長(高田稔)。

「御聖断はすでに降ったのである」

大変素晴らしい演技ですが、そのことを言うときにそっくり返っているのがアウト。
普通こう言うときには背筋を正しませんかね。

それはともかく。

陛下直属の部隊をご意志に反して決起させるなどとんでもない、
と言うのが真っ当な森師団長の意見ですが、畑中は、陛下の
周りを取り囲んでいる重臣をとりのぞくべき、と言い張り、
またしても(・∀・)カエリナサイ!!と諭され、男泣き。

畑中が泣いていると・・・

さらに血気にはやった航空士官の上原重太郎大尉(宇津井健)が
飛び込んできて、一言交わすや、

たまたまそこにいた第二総軍参謀白石少佐を惨殺。
ほぼ同時に畑中が森師団長を銃で射殺します。

史実では、上原大尉が飛び込んできてから畑中が森を撃ち、
さらにその後上原が森を斬りつけてとどめをさすと言う展開でした。

「貴様ら、軽率に行動して国家を誤るな!」

瀕死で言い残す森。
実際は銃弾を受けた後上原によって肩を斬られているので、
何かを言い遺すということは可能ではなかったと思われます。

無言で武器を収めた畑中らは、

森師団長と白石少佐の遺体に敬礼をし、去って行きました。


続く。

 


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