さて、ウィーンを観光できるのも最後の1日となりました。
わたしたちは今日という日をできるだけ有効に使うべく、
朝からホテルを出て地下鉄に乗ることにしました。
これがホテルの前にあったウィーンミッテ、ウィーン中央駅。
オーストリアは地下鉄が大変発達していて、路線が集まる駅は
地下鉄なのにこんなに立派な駅舎を使っているのです。
地下鉄のチケットシステムはある意味性善説に立ったもので、
チケットを買うと、もうそこで機械式の改札に読ませるだけ。
また、その日一日、何回乗ってもどこまで乗ってもOKの
フリーきっぷを買うと、きっぷさえ持っていたら改札を通らずに
ホームに行って電車に乗ればいいのです。
「しようと思ったらタダ乗りできるってことだよね?」
その辺は時々抜き打ちで検査があって、不正が見つかったらもう
社会生活ができないくらいの罰則が待ち受けているのでは?
と想像してみたのですが、実際どうなのかはわかりませんでした。
駅前のストリートミュージシャンは、さすがウィーン、バスーン奏者です。
そういえばこの近くには名門ウィーン音楽大学もありましたね。
仲間が応援に来ているようですが、なぜ彼は路上で演奏を?
ウィーンには今でもULFという路面電車が活躍しています。
もうすぐ廃止になるという話ですが、現在の車両はポルシェデザインなんだとか。
ウィーンの地下鉄は1976年に開業ということなのでそう古くありませんが、
大阪地下鉄のような古びた感じがあります。
路線は全部で6本、駅は104で、大阪地下鉄が100ですから規模としては
同じくらいの感じでしょうか。
カールスプラッツ駅で降りたら、駅舎前にパトカーが停まっていました。
オーストリアのパトカーはフォルクスワーゲンを採用しています。
さすが国民の(フォルクス)車(ワーゲン)です。
サイレンを鳴らす時には上のライトが点灯するのですが、これが青。
彼の地では、バックミラーで赤ではなく青いランプが点灯したらギョッとして、次に
「やられた・・・・・」
と落胆するというわけですねわかります。
こちらがかのウィーン工科大学でございます。
ドップラー効果のクリスチャン・ドップラー、建築家のオットー・ワーグナー 、
ヨハン・シュトラウス2世 (在籍するも音楽に専念するために中退)
ヨーゼフ・シュトラウス (ヨハンの弟。卒業後に技師になるも、やっぱり音楽家に)、
先日お話しした映画監督、フリッツ・ラング、
シュタイナー式教育のルドルフ・シュタイナー などが在学あるいは卒業しています。
それにしても、シュトラウス兄弟、二人とも何やってんだ・・・。
カールスプラッツで降りたのは、ナッシュマルクト、路上市を見るためです。
露店といってもちゃんと建物が建っていて、普通に商店街な訳ですが。
昔は地元の人が食材を手に入れる文字通りの市場だったそうですが、
今や観光客目当ての店ばかりとなってしまったため、住んでいる人は
滅多に立ち寄ることもないのだとか。
店と店の間の通路を歩くと、商売人たちが試食をさせようと
ショーケースの向こうから盛んに声をかけてきます。
見たところ、お店の人は移民が多いようでした。
このパン屋のケースにもさりげなくバクラヴァが混入していますが、これも
オーストリア人には寿司屋でキムチを出しているようなものなのかもですね。
ちなみにオーストリアに多い移民はトルコ人だそうです。
どうりでケバブの店があっちこっちにあると思った。
マルクトの端っこまで歩いてみましたが、特に買いたい物もなく、
本当に冷やかしだけで通り過ぎてしまいました。
観光客向けということがわかっただけではなく、とにかくこの日は
日差しが暑くて蒸し暑く、外を歩くのがただ辛かったせいもあります。
東京では40度近くに気温が上がったとニュースで見ましたが、
ウィーンもザルツブルグも今いるアメリカも、今年はどこも暑いですよ。
日本で暑さに耐えている皆さん、ご安心ください。
どこも夜と日陰が凌ぎやすいことだけは日本よりマシかもしれませんが。
マルクトの端っこまで来ると、あの歴史的な花柄の建物を見て、
そこから折り返し、カールスプラッツ駅まで戻りました。
暑い中、わたしたちは自然と無口になり、ただ歩いていましたが、
わたしはその上途中でお気に入りの髪留めを落としてもう気分は最悪です。
しかし粛々と次の予定に突入。
先日飛び込みで素敵な朝ごはんを食べたシュタットパーク、市立公園の
「メイエレイ」(乳製品という意味)は、別の名前のレストランを併設しています。
というか、こちらの方がメイン、ウィーンの有名な三つ星レストラン、
「シュタイレレック」、本日のランチを予約しているお店です。
なんでも世界有数のレストランの一つに数えられるといい、
この建築は、これも有名な建築家チームPPAGの手によるものです。
日本語で今回見つかったシュタイレレックの説明には、
開口部を市立公園に向けで設計しました。
メタルでできたファサードには公園が映り、天気のいい日には窓が全開にされ、
まるで緑の中に座っているような気分です。
とあります。
公園に向けてというより、これ、実際に公園のど真ん中にあるんですが。
蒸し暑い炎天下から涼しくひんやりした、しかし明るい世界に入ってホッと一息。
いよいよ楽しくちょっとスリリングな食の体験の始まりです。
飲み物をいただきながらメニューを選び、さっきまでの沈黙が嘘のように
話に花を咲かせながら待っていると、パンのカートがやってきました。
係の人全てのパンを説明し終わるのに1分半くらいかかったかと思います。
どれも美味しそうで迷いますが、そこをなんとか二種類くらい選び、
指差したり、「イチジク入りのパン」などというと、それを
鮮やかな手つきで切ってサーブしてくれます。
聴きものは怒涛のようなその説明トークで、英語がとにかく上手い。
MKによると、彼の英語はネイティブで、スコットランド人だろうということでした。
料理を待つ間に、驚くべき量のアミューズが運ばれてきました。
これを食べているだけで少食な人はお腹が膨れてしまうくらい。
MKの頼んだのは魚だったのですが、この料理のパフォーマンスがまた見ものでした。
日本の組み木のような作りでできたトレイの中央に魚の身が乗っているのですが、
ウェイトレスがわたしたちのみている前でこれに熱い蜜蝋をかけていきます。
見ている間にこれが固まっていきます。
固まっていく間、ずっとこのトレイはわたしたちの横に置いてありました。
そして、完全に固まってから蝋を剥がすと、魚身がこんな感じに。
「これをお出しします」
そして出てきたのがこれ。
蝋を掛けたのは身を蒸し上げるためだったようですね。
食べたMKによると、「とにかく絶品」だったそうです。
ブロッコリというのは生では食べられないし熱を通しすぎると不味くなり、
結構美味しく食べるのが難しい食材だと思うのですが、先の部分だけをフライにして
クリスピーにしてソースを絡めるという方法はこの食材の欠点を補っています。
もらった料理説明カードによると、ソースはアプリコットやヘーゼルナッツオイル、
黒ニンニク、ライムなど、とにかく素材にこだわり抜いたものを使っているとか。
これもMKが食べたものなのでなんだか忘れました<(_ _)>
春巻きのようにした野菜の何かと何かの肉だと思います。
これは・・・・焼き芋ではなくってナスと何か。
(こんな説明したらシェフが激怒しそう)
これはわたしが食べたものなので、ちゃんと説明できます。
ガナッシュしたキャットフィッシュのカラマンジー、メドラーとカムートです。
といわれてもなんのことかさっぱり、という方がわたしを含め多いと思いますので、
cat fish ナマズ
calamansi フィリピンの柑橘類 (ナマズの上に乗ってる)
medlar 西洋カリン
Kamut コーサラン小麦
前方のカムートと混ざっているものもナマズの身の一部分だと思われます。
わたしの記憶ではこの人生でナマズを食べたのは初めての経験ですが、
想像していた通り、少しオイリーな白身魚といったお味だと思いました。
やっぱり海底でじっとしていて、地震の時だけ暴れるような魚なので、
身が締まっていないのかなと思いました。知らんけど。
しかし食べておいてなんですが、普通ナマズなんかわざわざ料理するかねえ。
というわけでメインまで来たわけですが、デザートにあたっては
またまた面白い演出をやってくれました。
この丸い葉っぱ、ナスタチュームといって、昔育てたことがあるので知ってますが、
花も葉も食べられるものですが、これを鉢ごと持ってきて
可愛いハサミでちょきんと切って、デザートにあしらってくれるのです。
これはTOが頼んだアイスクリームだったと思います。
切りたてのナスタチュームの葉ををあしらってございます。
わたしの頼んだシソのソルベ。
上に乗せてあるのはメレンゲで、エルダーフラワーの味です。
ゼラニウムのシトロネラオイルがかかっています。
MKのお皿のこの黄身みたいなの、なんだと思います?
ひっくり返してもらってびっくり、枇杷(ビワ)でした。
日本以外で枇杷のデザートなんてものを見ようとは。
小さなアミューズブッシュも出され、お茶も出ておなかにもう何も入りません、
となってから、ボーイさんが黒い映写機のケースのようなものを
運んできて、中から取り出したのは・・・。
小さなチェリーチョコレートでした。
向こうには金柑、ほおずき、ブラックチェリーなどがあり、どれもデザート。
この入れ物のセンスもそうですが、かなり日本のエッセンスが感じられます。
説明には、
伝統的なレシピーを現代風にアレンジし、今ではほとんど忘れられている
地元の食材を使うことで、シュタイレレックでしか味わえない料理を提供します。
とありますが、ビワなどもその一つなんでしょうか。
画像にもあるカードには、「食のカルチャー」として、
「ウィーン料理は世界でただ一つ、都市名に料理がつく料理です。
それは200年も前に、『ウィーン会議』が行われた頃からあります。
様々な料理が平和的なハーモニーのうちに混じり合い、彼らの味覚や伝統が
ウィーンの料理の栄光をいや増しました」
とあります。
前衛的な手法のように見えましたが、基本はウィーン伝統に則っている、
とシェフは高らかに宣言しております。
ニュースを見ると、日本から有名シェフが表敬訪問していたりするので、
そういった食の異文化をウィーン会議の時の(キッチンの)ように取り入れて、
発展させていくことを目標としているレストランなのに違いありません。
というわけで、世界でも有名な(らしい)三つ星レストラン、シュタイレレックの
食は、知的な興奮を掻き立ててくれる「美味しいカルチャーショック」でした。
続く。