さて、令和元年度自衛隊音楽まつりに出演する
最後の外国ゲストバンドが入場を始めました。
ピッコロが軽快なメロディを奏でる行進曲に乗って
ドイツ連邦参謀軍軍楽隊
の入場です。
こちらも同じく参謀軍ですが、この参謀軍軍楽隊は
国家儀礼の式典での演奏も担当する、つまりそれだけ
技量があるということなのだろうと思われます。
全体的にガタイのいいおっさん多め、バイキング風髭多め、
制服の色といいこのドラム隊といい、いかにもドイツの楽隊です。
実力も軍楽隊の中ではトップらしく、ベルリンフィルと年次コンサートを
合同で行うほどの実力があるそうです。
昨年、ヨーロッパからの初の参加国となったのはフランスでしたが、
今年はそれに続く2カ国目ということでドイツからの招聘です。
この勢いで来年はぜひイギリスかイタリアから呼んで頂きたいですね。
指揮者は最初の曲「プレゼンティア・マーチ」に合わせて、
ゆったりとした足取りで指揮台に歩みます。
自衛隊音楽まつりでは最初から指揮台に指揮者がいて全員が入場、
というのが通例となっているので、ちょっと珍しいパターンです。
「パンパカパッパ パンパカパッパ パッパッパ!」
でぴたっとゲネラルパウゼ(ドイツ語の全停止)。
そして
「ジャン!」
で恭しく全軍お辞儀(もちろん日本式)。
先ほどのベトナム軍もやっていましたが、この日本式お辞儀、
我々日本人が思っているよりずっと海外の人には特殊な仕草なのです。
だからここは彼らとしてはむしろウケて欲しかったと思うのですが、
観客の日本人たちはお行儀よく拍手を送るのみでした。
きっと彼らは後で、
「あそこで真面目に拍手してくるのがヤパーナーだよな」
と言い合ったに違いありません。
この人は軍楽隊のシンボルである(正式になんというか知りませんが)
重そうなものを持って歩くのがお仕事。
房だけでもかなりの重量がありそうです。
黄色い小旗に描かれた鷲、なんだとおもいます?
これ、実はドイツ連邦の国章で、フィールドは黄色ではなく金色、
黒い鷲は「アドラー」といいます。
鷲はヨーロッパでは強さ、勇気、遠眼、不死の象徴であり、また、
空の王者、最高神の使者と考えられ、キリスト教圏ではよく使われます。
わたしが長らくここでお話ししたオーストリア=ハンガリー帝国や、
ナチスドイツの国章に使われていたことでも有名ですが、現在でも
オーストリア、ポーランド、ルーマニア、チェコ、スペイン、そうそう、
忘れちゃいけないアメリカの国章に鷲があしらわれています。
ドイツの鷲は8世紀なかば、カール大帝のころからも用いられ、
神聖ローマ帝国では「双頭の鷲」が国章と定められました。
ハプスブルグ家の紋章が双頭の鷲なのは、それを引き継いでいるのです。
ベルリンフィルと共演するだけのことはあって、
特に金管セクションの音色は重厚で輝かしく、流石の風格です。
まあただ、言わせて貰えば、うまいのはいいけどゴリゴリの正統派で
しかもドイツドイツした曲ばかりセレクトするものだから、
あれこれと人心の好みに忖度したサービス満点の日米軍と比べると、
初見のとっつきは悪いかなという気はしました。
まあしかし、こう言うのがお好きな方にはたまらないと思います。
二曲目は「ヨルク軍団行進曲」。
German Military March - Yorckscher Marsch ヨルク軍団行進曲
ヨルクってなんぞや?
というところから始めなければいけませんが、これはドイツ人なら
誰でも知っているプロイセンの将軍で、ヨルク・フォン・ヴァルテンブルク伯爵。
冬将軍に負けたナポレオン遠征に多国籍軍として参加していた部隊を
指揮官として早々にロシア側と相談し撤退させた(つまり裏切った)人です。
で、驚くべきことに、この曲を作曲したのは、ベートーヴェン。
海上自衛隊東京音楽隊といい、今回はベートーヴェンづいてますね。
しかし、ベートーヴェンがナポレオンに見切りをつけたから、
同じくナポレオンを裏切った将軍を称えてこの曲を作った、
ということでもなく、作曲したときには全く違う題名(ボヘミア守備隊行進曲)
だったのが、いつの間にか演奏されていくうちにこうなったとか。
余談ですが、リンク先でお分かりのように、フォン・ヴァルテンブルグの子孫、
ペーター・ヨルクは、映画「ワルキューレ」でも描かれた1944年の
ヒトラー暗殺計画の首謀者として人民裁判でナチスに処刑されています。
ドイツでは「独裁者を裏切る家系」と言われているに違いない(確信)
お国柄を表すっていうんでしょうか、行進も正確で狂いなく。
演技支援隊が次の曲のためにセッティングをする中、
「ヨルク軍団行進曲」で全体が形作った人文字は・・・
♡日本
でした。
真面目に演奏しながらしっかりサービス、これがドイツ風。
おう、次はイタリア抜きでやろうぜ!(本気にしないでね♡)
「十字軍ファンファーレ」
ドイツの国章をあしらった太鼓とファンファーレトランペットの演奏。
この曲がもうおもいっきりプロイセ〜ン!なんですわ。
「ドイツの瀬戸口藤吉」とでも呼ぶべきドイツ軍楽隊の父、
リヒャルト・ヘンリオンが作曲した行進曲の数々は、ドイツ人にとって
古き良き皇帝のドイツを懐かしむ心の音楽なのだそうです。
そのうちの有名曲、「十字軍ファンファーレ」は、カラヤンも録音を残しています。
ベルリン・フィルハーモニー・ブラスオルケスターヘルベルト・フォン・カラヤン
交差したサーベルはドイツ軍の印?
太鼓のカバーの房も赤黄黒のフラッグカラーです。
ファンファーレトランペットは式典用で、信号ラッパと同じく
口の形だけで音を吹き分けます。
使用されている楽器は、1980年代にヤマハがザルツブルグ音楽祭に出演する
ウィーンフィルのために制作したタイプであろうかと思われます。
演奏時は足を前後に開いて左手をベルトに差込み、体を斜めが基本形。
指揮はラインハルト・キアウカ中佐。
聴き慣れない名前ですが、ドイツには同名の歌手もいます。
さて、一応演奏は終了をコールされ、隊長が敬礼しましたが、
ここからがちょっとした見ものでした。
退場曲は「ベルリンの風」(ベルリナー・ルフト)。
こちらは「ドイツオペレッタの父」と呼ばれるパウル・リンケの作品で、
ベルリンの非公式の「市歌」というくらい人々に馴染みのある曲です。
先ほど貼ったカラヤンの録音にもありますので、興味のある方はどうぞ。
ベルリンでのコンサートでこれをやるととてもウケるようです。
マーチングの技術もさりげにすごいと思わされたのはこれ。
全員で形作った国章の鷲のシルエットが、
行進しながら羽ばたいているように見えるのです。
羽部分を作っている人たちは一拍につき二歩ずつ、
向きを変えて翼の羽ばたきを表現。
頭と胴体、尾の人たちは一拍につき一歩ずつ。
そして途中でまたもやゲネラルパウゼしたかと思ったら、
「アリガトウ、ニッポン!」
全員で叫んで、万場は拍手喝采。🇯🇵🇩🇪日独友好。
いやー、もうこういうの嬉しいですね。
ぜひ次はイタリア抜きで(もうええ)
そして最終日。
どこで調達してきたのか(多分オフの日の観光中)軍楽隊長が
🎌日の丸の扇子🎌を打ち振りながら退場していくではありませんか。
さすがセンスあるう!
・・・続きます。