令和2年2月22日という綺麗に2が並んだこの日、呉音楽隊の演奏会が
呉信用金庫ホールにおいて行われました。
タイトルにあるように、去年、平成元年に、呉地方総監部庁舎は、
呉鎮守府として開庁してから130年目を迎え、それにともなう
記念イベントなども去年の秋に行われていたと記憶します。
しかも、令和2年は、呉音楽隊創設以来50年というきりの良さ。
今回のコンサートはそんな節目を記念するため、
特別な企画もあるということで、楽しみにその日を迎えました。
今回の懸念は、新型肺炎の流行にともなうイベントの自粛でしたが、
まだ広島地方では一人も発症が見られなかったこともあり、
無事に当日を迎え、開催されることになりました。
その前日、わたしは横須賀音楽隊の定演中止のお知らせを受けていましたし、
そのほかにも幹部学校での海軍大学セミナーの一般聴講、
東部部方面音楽まつりの中止などが伝えられており、
伝わってくるニュースが日々深刻さを増してくるのも相まって
気持ちが暗くなりがちだったので、これは本当に喜ばしいことでした。
しかし、コロナ騒動は悪いことばかりでもありません。
今回、ぎりぎりだったにもかかわらず、ホテルズドットコムで
今まで画面にすらでてきたことのないクレイトンベイホテルが取れました。
しかも記憶に残るここの従来の価格よりずっと安価です。
何度も呉にきていながら今までご縁がありませんでしたが、
初めて泊まることができたクレイトンベイホテルは、他の宿泊客も少なかったらしく、
部屋はエグゼブティブフロアの一階下でこの眺望の良さ。
自衛隊基地を含む呉の港が一望できます。
手前は造船所の「パーツ置き場」となっている浮き桟橋。
奥にいるのは輸送艦「しもきた」で、今お食事中です。
支援艦「くろべ」と「てんりゅう」が仲良く並んでいます。
甲板に無人標的機などの道具はどちらも積んでいません。
江田島との間を結ぶ連絡線「古鷹」の乗客も少なそうです。
沖に投錨して停泊しているのは掃海母艦「うらが」でした。
その日の夜は、館内の和食レストランで穴子の御膳を頂いてみました。
クレイトンベイホテルには、温泉風のスパが併設されており、
行ってみたところ、どうも地元の常連らしき人たちが利用しているようでした。
リラクゼーションルームには最新式のマッサージ機があって、
全く待たずに使用できましたが、マッサージチェアというものが
今時の技術ですごいものに進化しているのに驚かされたり。
地元の人たちもきっと空いていて快適だわなどと思っていたでしょう。
もともと呉はそれほど多くの外国人観光客がいたとも思えませんが、
これはつまり流行のフェーズが上がり、この日あたりから
週末にもかかわらず日本人も不要不急の外出を控えた結果だったのでしょう。
帰りに乗った広島発羽田便も怖いくらいガラガラで、
ダイヤモンドクラス(最初に乗れる人たち)が3人、
プレミアムクラスも全部で10人足らずで、わたしの取った席は
横並び三列の通路側で、予約の時にはすべて満席だったのに
乗ってみると横二つ空いたまま。乗機率は10%くらいでした。
演奏会は翌日1400からのスタートでした。
気がついたのは、会場のホールの名前が呉文化センターから
企業名を冠した呉信用金庫ホールに変わっていたことです。
昨年の三月末から呉信用金庫がネーミングライツ(命名権)を得て
この名前に(呉文化ホール)をつけることにしたのだとか。
看板や入り口のプレート以外特に変わったところはありませんでしたが、
ただ、館内では携帯電話の電波が強制的にカットされる仕組みで、
間違っても携帯を鳴らしてしまう事故が起こらないようになっていました。
この仕組みは最近音楽ホールなどで増えている
「携帯電話抑制装置」
でエリア内の携帯電話の電波をあえて“圏外”にさせるものです。
専用の機械を設置すると携帯電話の基地局と同じ周波数の電波を
基地局よりも強く出すことで、そのエリア内の携帯電話が
基地局と通信することができなくなるという仕組みのようです。
つまり、空っぽの強い電波を出し基地局になりすまして
強引に圏外にしてしまう、というわけですね。
さて、コンサートが始まりました。
いつからでしょうか、コンサートマスターが「コンサートミストレス」、
つまり女性に変わっています。
コンマス(コンミス)はオーケストラなら左側の最前列舞台寄りに座っている
第一バイオリン奏者が務めますが、吹奏楽ではクラリネットです。
またプログラムを見て気がついたのは、今回
「呉造修補給所員」「呉基地業務隊員」
いうメンバーが加わっていたことです。
呉基地業務隊は、呉地方隊の敷地内にあり、厚生、会計、給養、
車両、施設及び海上予備員の収容その他の業務をおこなうところです。
楽器の素養のある隊員が特別出演していたのでしょうか。
さあ、それでは一曲目からです。
♫ セレモニアル・マーチ 酒井貴祐
ものすごく聞き覚えのある曲だと思ったのですが、
持っている自衛隊のアルバムに入っていたかもしれません。
本日の記念すべきコンサートの幕開けに相応しく、きらびやかな
ファンファーレから始まるテンポのいいマーチです。
吹奏楽 セレモニアル・マーチ 坂井 貴祐作曲 陸上自衛隊第1音楽隊 Ceremonial March
一曲目が終わって、もう呉のコンサートでは「顔」といってもいい、
司会の丸子ようこさんが出てこられました。
前回のコンサートで、音楽童話「ごんぎつね」の
語りを聞かせてくれた記憶はまだ新しいところです。
♫ 風の谷のナウシカ Highlights 久石譲
統計的に?呉音楽隊はアニメ、特にジブリ作品をよく取り上げている気がします。
ところでこの「ハイライト」がなぜわざわざ英語なんだろうとおもったら、
どの演奏でもそうなっているようで、これがオリジナルなのだとわかりました。
風の谷のナウシカ / arr. 真島俊夫
イントロの後ピアノソロで「風の谷」から始まるメドレー、
編曲は吹奏楽曲作曲家の真島俊夫氏が手掛けました。
クシャナの侵略〜メーヴェとコルベットの戦い〜ナウシカ・レクイエム〜
鳥の人(エンディング)
という内容です。
どの曲もすっかり聴き慣れてしまっていて、もはや久石のジブリナンバーは
映画音楽に止まらないスタンダードだと思わされます。
こういう機会でもなければ吹奏楽の生演奏でジブリを聴くこともないので、
心ゆくまで楽しんで聴きました。
♫ 稲穂の波 福島弘和
福島弘和氏は日本の吹奏楽曲作曲家の第一人者の一人ですが、
その数あるナンバーの中から今日選ばれたのは、
群馬県の田園地帯を音で描写したこの曲でした。
今調べてみたら福島氏は群馬県出身で、幼き日にみた稲穂の実る
黄金の田園風景を表したのだと知れます。
年表の一番最初にあり、最初に吹奏楽コンクールで入賞したときの
作品のようですね。
【吹奏楽名演】福島弘和「稲穂の波」〔常総学院:1998年度全日本吹奏楽コンクール〕
そして、その翌年の吹奏楽コンクールの課題曲となり、
優勝したのがこの常総学院の演奏というわけです。
♫ 生業(なりわい)宮川彬良
忘れもしない、昔横須賀音楽隊の演奏会で聴いた曲。
ああー、横音の演奏会、中止になってしまったんだよなあ・・・。
としみじみ思い出しながら聴きました。
宮川彬良氏はご存知宮川泰氏の御子息でおられます。
わたしの息子くらいの年のお子様をお持ちの方でしたら、
「クインテット」というNHK教育の人形劇で、
スコア、フラット、アリア、シャープという四人組のパペットと
ピアノの「アキラ」として共演していたのをご存知かも知れません。
この曲は、
I . 上昇志向
II. 発明の母
III. 易〜生業
から成っていて、見ていてとても楽しいのは第三楽章。
パーカッション奏者が、なんと易者が使う筮竹を使って演奏します。
占う前に、両手でじゃらじゃらと筮竹を鳴らすでしょう?あれです。
というところで、第一部は終了。
この日の観客は、招待客も一般応募客も欠席はなく、
会場はほぼ満席となっていたのではないかと思われます。
ファンファーレ「天と大地からの恵み」八木澤教司
この日の特別企画というのは、外でもないこの八木澤氏に
呉音楽隊が委嘱した作品の初演だったわけですが、第二部の最初は
同氏のファンファーレで幕を開けました。
FANFARE - The Benefaction from Sky and Mother Earth
2019年11月9日、天皇陛下ご即位奉祝式典の国民祭典で、
天皇皇后両陛下をお出迎えするときに演奏されたというおめでたい曲です。
組曲「宇宙戦艦ヤマト」宮川泰
組曲『宇宙戦艦ヤマト』 Space Battleship YAMATO
前半では息子さんの、後半ではお父さんの世界的名曲が演奏されました。
このビデオは、指揮者の衣装といい楽団員のネクタイといい、
何かと頑張っているのでそれに免じて挙げておきます。
わたしはこのバージョンを生で聴くのは初めてでした。
いわゆる皆が「宇宙戦艦ヤマト」だと認識しているところの歌が
あまりに早めに出てくるので、どう盛り上がるのか心配でしたが、
後半はゆったりと壮大なエンディングに繋がってさすがの宮川泰でした。
ところで、2007年に宮川氏が逝去した時、本人の遺言によって葬儀には
「ヤマト」が吹奏楽で演奏されたそうですね。
つい先日の話なのでついわたくしごとを話してしまいますが、
先日の親族の葬儀会場では、到着直後から終了までずっと、
アンドレ・ギャニオンの「めぐり逢い」がエンドレスで流れていました。
故人と家族からなんのリクエストもない場合、その会場では
これが自動的に流れるらしいのです。
めぐり逢い-アンドレ・ギャニオン
こだわりのない人には受け入れられやすい妥当な選曲だと思いますが、
こと音楽に関しては同じ曲を繰り返されるのが何よりも苦痛に感じるわたしは、
今後人生で何かのはずみでこの曲を聴いたら、自動的にこのときの気持ちを
思い出してしまうんだろうなあと思うと、それだけで気が重くなりました。
その点、ピアノの恩師の葬儀では、バッハの平均律クラヴィーア曲集の第1巻が
最初から流れていて、それは介護施設に愛用のグランドピアノを寄付した彼女が、
まだ元気な頃はロビーで平均律を弾いていたという理由で、遺族が選んだものでした。
宮川泰氏もまた知人の葬式の帰りに、何かを思ったらしく、息子彬良氏に
「俺の時は”ヤマト”な」
と言い遺したそうです。
音楽にこだわりのある人は、自分の葬式に何を流すか、
さりげなく周りに伝えておくというのも終活の一つかもしれません。
余談ですが、何かと不幸の際に登場する名曲のひとつに、
バーバーの「弦楽のためのアダージオ」というのがあります。
サミュエル・バーバー本人は、
「わたしは葬式のためにあの曲を書いたのではない!」
と常日頃ぼやいて?いたそうですが、彼が亡くなったときには
やっぱりこの曲で送られたということでした。
弦楽のためのアダージョ / Adagio for Strings Op.11 / Samuel Barber
大正義サイモン・ラトルとベルリンフィルでどうぞ。
曙光の波をきって 八木澤教司
お待たせしました。
本日最後に演奏されたのは、
日本遺産「呉鎮守府」開庁130周年記念
海上自衛隊呉音楽隊委嘱作品
世界初演となったこの曲は、呉音楽隊長石田敬和一尉から
コンセプトが作曲者に提出され、それをもとに作曲されたそうです。
曲の中には朝夕の自衛艦旗掲揚降下の際に吹鳴される
喇叭譜「君が代」がモチーフとして挿入されそこここに顔を出します。
喇叭譜がモチーフとして使われている曲は今までいくつかありましたが、
今回は「君が代」だけが使われていました。
第1章 街のいしずえ
明治時代の穏やかな海辺、のどかな田園地帯だった呉が、
鎮守府を開くために集まってきた人によって姿を変えていく様子、
そしてその後が描かれています。
石田隊長の
「戦争で破壊され産業も経済も大きな被害が出ましたが、
呉の人たちの弛まぬ努力と助けあいで瀕死の街から活気ある街へと発展しました。
海軍から自衛隊へと変わり、国民を守る防人が住む街になりました」
という言葉から受けたインスピレーションによって作曲されたそうです。
第2章「渚のひかり」は瀬戸内の情景の描写、そして
第3章「造船と職人」では、石田隊長と八木澤氏が実際に
呉の造船所を見学し、間近でみた造船の作業にインスパイアされたものですが、
圧巻はラストに響く「二十一発の礼砲」でした。
八木澤氏の織りなすメロディは、ちょっとだけ専門的に言えば、
係留音とその解決を実に気持ちの良いところで使ってくれるというか、
聴いていてそれが非常な快感なのですが、この曲のクライマックスも
誰が聴いても理解できる安易さを持ちながら、それでいて、
心に食い込んでくるような「八木澤節」が炸裂しておりました。
そして、礼砲を模した太鼓の連打が始まりました。
拍の頭をときどきわざと外し、半拍遅らすことによって、
より一層本物らしさを表すという心憎い演出です。
二十一発の礼砲は、等級で言うと最高級にあたり、
国旗、元首、そして天皇、国王、大統領、皇族にしか用いられません。
曲が終わった後、会場にいらしていた八木澤氏がコールされましたが、
二階からは全く見えなかったので、二つ隣の女性が
「あら、どんな人か顔を見てみたかったのに残念」
と本当に残念そうに言っておられました。
ステージに上がっていただいても良かったかも知れません。
♫ 行進曲「軍艦」瀬戸口藤吉
海自音楽隊の演奏会では必ずアンコールにこの曲が演奏されますが、
ここ何回か、呉音楽隊に限りそうではないので、このあとにも
何か「しかけ」があるのではないかと期待していたら・・・
♫「パプリカ」米津玄師
わたしは知りませんでしたが、この曲は2年ほど前、ダンスと相まって
「社会現象」になったのだそうです。
「軍艦」が終わると、会場の前2列を締めていた女子高生が
舞台に上がり、袖で楽器を持って登場してきました。
去年は高校生軍団と「宝島」をやったと記憶しますが、
ことしは、この「パプリカ」を、呉高等学校の生徒たちと
一緒に演奏してくれました。
米津玄師 MV「パプリカ」Kenshi Yonezu / Paprika
PVの最初のイラストはまるで昔の呉のようですね。
社会現象になったというダンスは、高校生たちと
音楽隊から有志が前で踊って会場を沸かせてくれました。
会場の出口ではいつものように音楽隊のみなさんが
この日ホールにやってきた人たちを見送ってくれ、
楽しかったコンサートも終了しました。
最後に、今回呉地方隊訪問の記念にいただいた
開庁130周年の記念品です。
ボールペンの柄に海上自衛隊のマークと、呉鎮守府庁舎が
蒔絵風に描かれた大変美しいものです。
最後に、今回の演奏会参加に際してお心遣いをくださった
海上自衛隊呉地方隊の皆様方に心からお礼を申し上げて終わります。
ありがとうございました。