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9月11日公開 映画「ミッドウェイ」試写会 4日目

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さて、9月11日公開の映画「ミッドウェイ」の試写会を観て、
例によって重箱の隅を突き中国資本の影響とみられる部分を暴き、
あれこれ物申してきましたが、何はともあれこの映画は
エンターテイメントとして見応えのある力作であること、
そして当ブログに来られるような方にはいろんな意味で
見逃せない映画であることは太鼓判を押します。

ですから、ぜひ公開時には映画館でソーシャルディスタンスを保ちながら
鑑賞してくださることをお願いしておきたいと思います。

 

ところでこのときお話しした配給会社の方が、去年は「空母いぶき」、
「アルキメデスの大戦」などがあったものの、今年は「ミッドウェイ」くらいしか
戦争ものがない、とおっしゃっていたのですが、実は決してそんなことはありません。

オンラインではちょうど今日22日、第一次世界大戦を描いた「1917」が公開されます。

劇場公開は2月ごろだったと記憶しますが、コロナ禍の混乱の中、
やったのかやらなかったのかわからんうちに見過ごしてしまったので
わたしとしてはこの早いネット公開を大変嬉しく思っております。

予告になりますが、当ブログではまたしても第一次世界大戦について集中して
航空を中心に語るシリーズを予定しておりますので、皆様、もしよろしければ
「1917」とこちらも合わせてご覧いただけますと幸いです。


さて、映画「ミッドウェイ」2019年版の続きと参りましょう。

左が本作での主人公として語られているディック・ベスト大尉です。

このスティール写真一枚から伝わってくる雰囲気通りのキャラクターで、
パンフレットの紹介にはこのように書かれています。

「親友を真珠湾攻撃で亡くし、
仇討ちに燃えるカリスマパイロット」

まず、前回説明したように、ベストの親友で戦死したという人物は実在せず、
劇中創作された架空の存在であることから、この説明の半分は
全くのフィクションです。

後半の「カリスマパイロット」が本当だったかについては、
彼のバイオグラフィを読んでみましたが、優秀であったことはともかく、
「カリスマ」であったかについては甚だ疑問です。

しかも映画では反抗的でアナーキーな態度を取る一匹狼のようなパイロット、
というキャラクター付けがされているのですが、実際のベストが
そのような軍人であった可能性は「カリスマ」であった可能性より低いと思われます。

今でさえどうかと思いますが、ことにここは1940年代の軍隊で、
彼はウェストポイント出の航空士官であり、こんな反抗的な人間が
そもそも当時の(今もですが)海軍兵学校に入れるはずがありません。

くどいようですが説明しておくと、兵学校に入るには成績もさることながら
人品骨柄について確かな人物であるという推薦を地元の議員か、あるいは
メダル・オブ・オナー受賞者の息子から受けなくてはなりませんでした。

しかもこの頃の米海軍航空隊は、ルフトバッフェのエースハンス・マルセイユみたいに、
操縦の腕さえ良ければ反抗的で怠惰でも多めにみてもらえるような世界ではなく、
秩序に少しでも乱れがあるとそれは全員の生命を脅かす事態に直結するとして
上官への少しの反抗的な態度すら許容されるものではありませんでした。

ネットでは、映画のベストのような士官が現実にいようはずもなく、もしいても
彼はアカデミーで1年を終えることもできないだろうと断言されていました。

ただし、後述しますが、彼と上司であるマクラスキーとの間に
当初摩擦があったというのは事実です。

Richard Halsey Best.jpg

ベストが実際にどんな人物であったかはどこにも詳しいことは書かれておらず、
Wikipediaを読んだだけではその戦歴と退役後の人生しかわかりませんが、
この写真から受ける印象は映画の彼とは正反対の素直で穏やかな好青年という感じ。

わかっていることは、空母撃沈の功績により彼は殊勲飛行十字章ならびに
海軍十字章を与えられたものの、2001年に彼が92歳で死去した時、
当時のある米海軍提督が「一日に2隻の日本軍の空母を攻撃した」として
改めて栄誉メダルの授与のための運動を起こすもうまくいかなかったことです。

彼はミッドウェイ戦闘中に苛性ソーダを吸引したことから誤嚥性肺炎を起こし、
潜在性結核を併発して海軍の任務が続けられなくなり退役しました。

ミッドウェイものにはその存在がかかせないアメリカ軍人のひとりが、
ウェイド・マクラスキーでしょう。

彼はこの戦いにおいて、日本海軍の航空母艦4隻のうち3隻を沈没させた
功労者として、海軍十字章を授与されました。

つまり実働部隊の最高殊勲賞といった評価です。

まず、自分自身の率いる隊が「加賀」にダメージを与えると同時に、
映画でも強調されていたように彼の部下であるリチャード・ベストが
「赤城」をたった4機で攻撃して沈没させ、

一人が統率した1回の攻撃で敵航空母艦を2隻同時に沈没させる

というこれだけでも珍しい戦果をあげ、自身は零戦隊の追撃による負傷後、
「エンタープライズ」に帰還してから指揮を執り続け、この後に出撃させた
「エンタープライズ」及び「ヨークタウン」艦爆隊が「飛龍」を屠ったことで
3隻沈没は全て彼の采配によるもの、とカウントされたのです。

実際彼は作戦の2週間前に「エンタープライズ」の分隊長に着任したばかりで、
前任者は彼のアナポリスのルームメイトであったことがわかっています。

そして、この分隊長交代により、ベストは新分隊長マクラスキーが自分を
「bypassed」(迂回・無視の意味か)していると考え不満を持っていたそうです。

しかし、人間ができているというのか、指揮官として大物というのか、
マクラスキーは自分とうまくいっていない部下にもかかわらずベストを重用し、
高く評価して、結果としては彼に大戦果を挙げさせることに成功しました。

映画ではなぜかベストの嫁にまで食ってかかられ、オタオタする
どちらかというと人の良さそうな?上司として描かれていましたが、
たまたまベストの小隊との連携に失敗した結果が戦果に繋がるなど
その幸運は、辿っていけば、彼自身の指揮官の器の大きさが生んだもの、
と解釈できる内容となっていたと思います。

ちなみにミッドウェイ海戦を勝利に導いたのは、

ウェイド・マクラスキー

リチャード・ベスト

そして、「蒼龍」を沈めたと言われる「ヨークタウン」の
マックス・レスリー中尉の三人の男であると言われています。

映画が終わって外に出ながら、

「あれはないんじゃないか」

とunknownさんと「言い合ったシーンがあります。

それはアメリカ人パイロットが駆逐艦「巻雲」艦上で処刑されるという
ショッキングなシーンで、つまりわたしもunknownさんもこういうことがあった、
という史実をそのときまで知らなかったのですが、実はこの「処刑」、
「艦これ」などをする人たちには結構有名な話で、このせいで「秋風」とともに
「巻雲」は「虐殺艦」と呼ばれることもあるんだとか。


当ブログでは、映画を観て、わたしたちのように「創作にしても酷すぎる!」
などと製作陣に対して怒りの矛先を向ける人がいるかもしれないので、
前もって誤解のないように書いておきますが、このことは防衛省所蔵の
当時の第一航空隊詳報にも記載されている事実なんだそうです。

そこで今回わたしもとりあえず第一航空隊詳報をアジ暦で読んでみました。
しかしながらいつまで経っても当確箇所にたどり着かないので諦め、
英語情報をまず収集してみたところ、以下のようなことがわかりました。

●パイロットであったフランク・オフラハティ少尉( Frank O'Flaherty)は
彼の銃撃手であるブルーノ・ガイド(Bruno Gaido )とともに、
錘を付けられて海に投下されて死んだ。

●ブルーノ・ガイドの最後を含む彼の行動はわずかの違いを除き
映画で正確に描かれている。

映画では彼は日本軍に対し情報の協力を拒む。
実際、日本側の記録によると、彼とフランク・オフラハティは
ミッドウェイの防衛についていくつかの情報を提供したが、
空母については何も喋らなかった。

ガイドとオフラハティはミッドウェイ環礁に行ったことがなかったので、
おそらく彼らは伝わっている情報をもとに適当に供述したのであろう。

●歴史家のステファン・ムーアによると、日本軍の士官である
ヒラヤマ・シレオが彼らが処刑されたことを報告しており、
彼らの最後はその運命を受け入れたかのように落ち着いて
恐れる様子も見られなかったということを書き遺している。

「ヒラヤマ・シレオ」はおそらく「巻雲」航海長だった平山茂男中尉のことでしょう。
兵学校66期で少佐の時終戦を迎えていますから、これらの記述を行なったのは
戦後のことだったかもしれません。

なお、このことは、千早正隆海軍中佐が翻訳を行なった
ゴードン・プランゲ『ミッドウェーの奇跡』にも書かれているそうなので、
とりあえず澤地久枝の『蒼海(うみ)よ眠れ』とともに注文しました。

届きましたらここでお伝えできることもあろうかと思います。

●オフラハティの処刑は彼らの捕獲から実行までかなり迅速に行われているが、
オフラハティ、ガイド共にどちらも数日間艦上で拘束された後に処刑された。

おそらくその数日間、情報を聞き出すための尋問に費やされたのでしょう。
このことからわかるのは、「巻雲」が彼らを処刑したのは、
ミッドウェイ開戦の数日後であったという事実です。


この間何があったか、というか、「巻雲」が何をしたかについて書いておきます。

ミッドウェイ海戦は「巻雲」に取って初陣でした。
戦闘後、彼女は激しく炎上する「蒼龍」の側で乗員救助を行っています。

映画ではミッドウェイ海戦には珍しく?潜水艦「ノーチラス」の攻撃について
言及されていますが、このとき「ノーチラス」に対して爆雷投下したのが
ほかでもないこの「巻雲」でした。

その後大破した「飛龍」のもとに「風雲」とともに駆けつけて
消火活動を行うも、「飛龍」は回航が不可能となり、総員退艦。
「巻雲」は「飛龍」に接舷して生存者と御真影を収容後、

「飛龍を巻雲の雷撃で処分せよ」

という山口多聞司令自らの命令が伝えられます。

「巻雲」は「飛龍」に対し手旗信号で雷撃を伝え、そののち
2発の魚雷を発射し、2発目が命中して「飛龍」は沈みました。

「巻雲」「風雲」は共に最後を見届けることなくその場を退却しています。

 

続いて、日本語での検索による情報を書き留めていきます。

●「エンタープライズ」の雷撃機搭乗員は日本駆逐艦『巻雲』に
救助されたものの、ミッドウェー海戦後海水を入れたドラム缶に
束縛され海に突き落とす形で処刑された。

●「ヨークタウン」のパイロットと無線手は両手両足に石油缶を縛り付けて
海に投棄された。

●敗戦と分かった時、捕虜たちを甲板に引っ張り出して
頭をピストルで打ち抜いたり、空き缶に水を入れて重しにして
手足にくくり付け、海に放り込んだりして殺した。

最後はかなり感情移入しすぎていますが、微妙に間違っていますね。
「敗戦とわかったとき」というのは、前述の「巻雲」の行動から考えて
時系列が全く一致しません。


また、「巻雲」は救助の段階で敵兵をオフラーティら以外にももう一人収容しており、
英語サイトの情報によるとこれはウェズリー・オスムス少尉というパイロットで、
彼もまた錘をつけて海に落とされて死亡したそうです。

 

そこでもう一度拿捕した二人の捕虜のことを考えてみましょう。

誤解を恐れずにいうならば、初陣でこのような凄絶な体験をした「巻雲」乗員が、
全てが終わったあと、目の前の敵捕虜に対し冷静さなど保てなかったというのは、
当然とまでは言いませんが、無理のないことだったような気がします。

映画では真珠湾攻撃で黒焦げになった親友の死体を見て
敵への復讐心に燃えるベスト大尉が描かれていましたが、
戦争というものが憎しみの連鎖というメカニズム製造装置である以上、
味方をやられた復讐心に駆られて相手を人道的に扱わなかったからと言って、
そのことをもってどちらかだけを一方的に責める資格など誰にだってありはしません。

「雷」の敵兵救助は、それが稀なことであったから神話となったので、
日本だろうがアメリカだろうが、同じ立場になったら同じことをするでしょう。
然もなくば自分が死ぬ、それが戦争というものです。

「巻雲」で起こったことはあの戦争で敵味方双方にいくらでもあった
「戦場の日常の一つ」にすぎないのです。


しかしながらこのシーンは、おそらくこれを初めて知ったほとんどの日本人に
ショックを与えるでしょう。

もちろん、あまり知られていないこの事実を、わざわざエピソードとして選んだことと、
この映画が中国資本であるということの間に何の関係もないはずがない、という
苦々しい感情が湧いてくることは否定できないわけですが(笑)
今となってはむしろこれを奇貨として、日米彼我の如何にかかわらず、
観る人全てにこれこそが直視すべき戦争の現実であると捉える
ちょっとした機会になればいい、くらいに考えるようにしています。

(日本側だけにそれを負わせて描くという不公平さには若干もやっとしますが)

今のハリウッドには特に中国資本の影響を受けてあからさまな「日本下げ」、
「日米離反」の意図を隠さない作品がいくらでもあるのですから、
逆にいうと中国資本が絡んでいながらこの映画が「この程度で済んだ」のは
エメリッヒ始め当映画製作フタッフが、日米双方の戦った人々を
敬意を払って描くという志を高くもってくれていたからだろう、
とわたしは(何の根拠もありませんが)そう思い、感謝しています。


というわけで、色々と物を考えさせてくれるというだけでもこの大作、お勧めです。

最後に英語サイトで拾ってきたCGへのツッコミを一つ挙げて終わります。

いくつかのシーンで空母のデッキに駐機されている全ての航空機が
プロペラを一斉にまわしているが、これはおそらく低予算のCGのせいでしょう。

プロペラを回すのはせいぜい先頭から1、2機だけです。
残りが全部回しているのはガソリンの無駄でしかなく、しかも
そんなことをしたらデッキのクルーが危険です!

 

それでは9月11日、是非劇場で「ミッドウェイ」ご覧ください。

 

終わり。

 


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