令和2年度、2020年もあとわずかとなりました。
去年の終わりにこの恒例ギャラリーをアップしたとき、まさか一年で
世界がこんな風になってしまうなどとは夢にも思っていませんでした。
昨日の続きで平穏な世界が続くなど、全くの幻想であったということ、
そして「映画のような世界」は映画の中だけにあるのではないことを思い知ったのです。
もしかしたら、日本人の中でも実際に先の戦争を体験した人々は
この世の平和や平穏というものがしょせんうたかたであり、
この状態がいつまでも続くものではないということを身を以て知っていたかもしれません。
しかしそれらの人々が世を去っていくのとほぼ時を同じくするかのように、
平和と繁栄を安逸に貪ってきたこの国にもいまや不穏が忍び寄っています。
今の世界の状況を、単なる歴史の偶然ではなく、巨大な陰謀の結果だと考える人々は、
「日本はすでに戦いに飲み込まれているのだ」ということでしょう。
しかし、そう思わない人ですら、誰一人、今の状況が「平和」であるとは
口が裂けても言えないような状況が現実に、そして着実に広がってきています。
わたしがこれまで毎年取り上げてきた戦争映画に描かれていることだけが
もしかしたら「戦争」ではないのかもしれないということを考えながら、
今年も「年忘れギャラリー」をお送りします。
わたしの知る限り陸軍軍楽隊について描いた唯一の映画です。
日本の軍楽隊の成り立ちについても知ることができました。
当時のトップ俳優を投入しお金をかけた芸術祭参加作品です。
各日のタイトルには劇中演奏された陸軍軍楽隊の曲を挙げましたが、
その多くが現在の自衛隊音楽隊にも受け継がれています。
本作は団伊玖磨の手記による氏本人の体験について
エピソードに挿入されています。
ともに、陸軍外山学校の同級生に、芥川也寸志がいたことを知りました。
本作の監督はともすれば軍楽隊を描きながら当時映画界で主流だった
日本贖罪論に固まった考えの人だったらしく、この「中国大陸編」は
日本悪玉&自虐風味加えて贖罪と反省に満ち満ちています。
中国大陸で戦死した仲間のために礼式曲「命ヲ捨テテ」が演奏されます。
この曲も現在の自衛隊で礼式曲として主に追悼式で演奏されます。
音楽隊は極寒の中国大陸からいきなりフィリピンに移動になるという
アクロバットな場面転換が行われます(笑)
本作のクライマックスは、捕虜になった軍楽隊メンバーが、アメリカ軍楽隊の演奏する
「星条旗を永遠なれ」に惹かれるようにして楽器を手に取り演奏を始めると、
米軍楽隊(座間キャンプ所属部隊特別出演)がそれに和し、日米合同による
「オールドロングサイン」の大合奏が始まるという感動的なものです。
♡ おすすめ 自衛隊音楽隊関係者にぜひ
駆逐艦対潜水艦映画の名作である「眼下の敵」に挑戦しました。
姿を見ずに戦ううち、いつの間にか互いのタフさに驚嘆し、
好敵手として認め合うに至る二人の海軍の男、というのが
この戦争映画のテーマとなっている硬派な映画です。
銃後の女性が一切出てこないあたりもわたし的には高評価でした。
クルト・ユルゲンスと言う名前を、わたしはずっと歌手だと認識していました。
「別れの朝」という曲を歌っていた人だとなんとなく思っていたのです。
でも、今回それは「ウド・ユルゲンス」の間違いだったことを知りました。
本作は「ドイツ軍が歌って元気になるシリーズ」のひとつで、ここで歌われるのは
「デッサウアー」(それが我らの生き方)という曲でした。
映画の結末はモニターによる投票で、沈没したUボートの乗員を駆逐艦が救出する、
というハッピーエンドになりましたが、もう一つの案は
マレル艦長は海に転落した(か飛び込んだ)フォン・シュトルベルクを
救出するために自分も海に飛び込み、二人の指揮官はどちらも死ぬ(-人-)
だったと知って、当時のモニターの良識に感謝した次第です。
♡ おすすめ スポーツ観戦後のような爽快さを味わいたい方に
スピルバーグの快作、「1941」を頑張って取り上げました。
最初に観たときにはとてもここで取り上げる気にならず、
すっかりあきらめていたのですが、まあなんとなくなりゆきです。
展開は無茶苦茶で荒唐無稽ですが、取り上げられている出来事は
全て史実をベースにしているという、ある意味恐ろしい映画。
ところどころに自分の作品のパロディや、この作品をもとに
「インディージョーンズ」のシーンを作ってしまっているので、
わたしは「スピルバーグのネタ帳」と位置づけしてみました。
映画に詳しければ詳しいほど楽しめるという凝った映画です。
本作で描かれている実在のイベントは「ズートスーツ騒乱」「ロスアンジェルスの戦い」など。
これも歴史に詳しければ詳しいほど面白くかんじるかもしれません。
ただ、劇中描かれた恋の鞘当てのドタバタはどうにもいただけないと思いました。
出演したジョン・べルーシには徹底的に嫌われていたらしい作品ですが、
わたしの感想は畏れ多くもスタンリー・キューブリックのいうところの
「Great, but not funny」(素晴らしいが、つまらない)
と同じであるといっておきます。
♡ おすすめ ロスアンゼルス在住の郷土史愛好家の方、
あるいはつまらんギャグにたいし寛容または耐性のある方に
新東宝のいわゆるエログロの延長上にある「憲兵三部作」のひとつです。
ちなみに当ブログではこの三部作を全て紹介済みです(笑)
「憲兵とバラバラ死美人」で優しい憲兵を演じ、「憲兵と幽霊」で憲兵に貶められ
幽霊になって出てくる役を演じた沼田曜一が、こんどは拷問潜入捜査なんでもありの
「オーソドックスな」憲兵を演じています。
わたしがこういう映画を好きなのは、当時の街の様相がニュース映像などより
はるかに高画質で残されていて見ることができるからです。
この映画では富士屋ホテルなども登場します。
海軍の最高機密である大和砲塔部の設計図を盗みだす組織の元締めが、
日本語ペラペラの謎の中国人であった、というシーケンスは、
おそらく今ならポリコレ的にタブーすぎてとても採用できないでしょう。
しかし、「王機関」なる怪しい組織、という設定が映画として「ありがち」というか、
自然に思えるのは、そういう”イメージ”が当時世間一般に流布していたからというのも現実です。
♡ おすすめ 戦後昭和の空気を感じたい人、東宝の怪しげな空気が好きな人に
第二次世界大戦博物館シリーズで、バトル・オブ・ブリテン関連の
展示をご紹介しているとき、ドイツの国民的英雄となったエースパイロット、
ハンス=ヨアヒム・ヴァルター・ルドルフ・ジークフリート・マルセイ
Hans-Joachim "Jochen" Walter Rudolf Siegfried Marseille(1919−1942)
の名前を知り、さらにこの人のことを調べてみると、
その伝記映画までが戦後になって制作されていたことを知り、取り上げました。
実在の人物で、しかも当時のドイツでは国民的英雄だったので
残された映像や資料は多く、映画と実際を比較しながら進めることができました。
映画の作り方としては、ロマンスを軸に据え、さらに当時のドイツにも蔓延していた
戦争嫌悪の雰囲気を色濃く反映させているというかんじです。
映画そのものとしては、一般受けを狙い、撃墜王の影の部分を描くことを放棄して
品行方正な青年のように作り上げてしまったことから、評価が低くなったと思われました。
実在のルフトバッフェのエースで映画にまでなっているのはいろいろ調べたのですが彼だけです。
素行が悪く反抗的で権威に臆しない技量抜群の美青年パイロット、という素材が
のちの創作者の意欲をかき立てたにちがいありません。
そして彼が若くして戦死したという悲劇もまた。
当ブログでは、後世の伝記作家がナチス空軍という組織に属した彼の
「アリバイ」を探して後付けの解釈で彼をナチス嫌いに仕立てようとしているのに対し、
彼は政治的に無定見でただそこで己の理想を追求する自由な魂の持ち主だった、
と独断と偏見において仮定してみました。
♡ おすすめ マルセイユのファンでない人に
というわけで明日に続きます。