映画「妖星ゴラス」2日目です。
ゴラス衝突回避についての対策会議は国連の場に移されました。
我が日本の代表である河野博士が、先日高校生が出したアイデア、
「回避するにはゴラス爆破か地球の軌道を移動させるしかない」
というのを主張します。
具体的には、地球は今の軌道から41万キロ移動すれば良いと。
この突っ込みどころ満載の理論について、本田監督は1か月近く
東大理学部天文学科へ通い、さらに天文学者堀源一郎に
「地球移動」の科学的考証を依頼しています。
その結果、
大きいとはいえ有限の質量を持つ物体であることに変わりはなく、
非常に大きな力が必要ではあるが、それが必要に見合った十分な力であれば
ニュートンの運動方程式に従って軌道は変わるため、地球の質量の概算値を元に、
必要な力・運動量・エネルギーは算出できる(wiki)
つまり、具体的な数式を得ることができました。
田沢博士の後ろの黒板に書かれた数式は、堀氏が実際に算定したものです。
理論上は地球を動かすことはできるということになります。
理論上は。
それではそのエネルギーはどうするのか、と質問が出ると、すかさず
USSO(仮名)代表が、
当然それは原子力だろう、といいつつ、しかしその核物質はどこにあるのか、
と非常に政治的に微妙なことを言い出すのでした。
田沢博士が、原子力ではなく重水素、三重水素(トリチウム)を使う、というと、
「それでは水爆ではないですか、放射能をどうします」
それに対し我らが田沢博士は、心配ない、とはっきり言い切りました。
しかし、肝心のなぜ心配ないかについて説明しません。最後まで説明しません。
そこで、東京裁判で日本人被告の弁護人を務め、その後日本でバイト俳優をしていた
ジョージ・ファーネス演じるフーバーマン博士が、あの独特のしゃがれ声で、
「国家エゴイズムを捨てて手を握ろうではありませんか」
ときれいごとをぶちあげてごまかすのでした。
そして、逆に質問者に、
「あんたの国は水素イオン高圧放電振動付加装置を持っているから出せ」
というと、相手国(ドイツっぽい名前)は、負けじと、
「おたく(アメリカ)こそすでに重水素原子力工場を持っているではありませんか」
つまりこの際、今までは国家機密であったエネルギー問題について
国家の枠を超え、お互いオープンにし合った上で問題に取り組もう、と。
放射能の処理?
そんなの地球の滅亡の前にはちっちゃい問題だってことですね分かります。
田沢博士はすぐさま日本に戻り、国会でゴラス接近に伴う被害について説明します。
「たとえゴラスが衝突しなかったとしても、接近の際にはゴラスの引力によって
地球の水も空気も吸い寄せられ、太平洋の海底がむきだしになり、
地表から吸い上げられた物体は人工衛星のように永久に宇宙を彷徨うでしょう」
総理らが(´・ω・`)としていると、そこになぜか国連から、
日本の鳳号を派遣するようにと要請がなされてきました。
なんと日本の航空宇宙科学は、あのアメリカより、ソ連より進んでいるってことすか。
感無量ですね。
それを見て、田沢博士はなぜかいつの間にか近くに来ていた美人の女性議員と
頷き合うのですが、この二人、いったいどういう関係?
ちなみにこの女優の出演は後にも先にもこのシーンだけでクレジットもありません。
鳳号の出動に喜んだ乗員たちは、キャバレー?に繰り出し、
バンドに例の裕次郎的テーマソング、
「俺ら(おいら)宇宙のパイロット」を演奏させて
盆踊りのようにグルグル回りながらそれを調子っぱずれにがなりたて、
お姐さんたちと踊るという前時代的パーティ(というより宴会)に興じています。
こんなパーティお座敷でやればいいのに。
調子に乗った一人が床でいきなり前転を始め、背中から床に落ちて苦しむとか、
800倍の倍率を潜り抜けた国家宇宙局のエリート航空士にはとても見えません。
しかも彼らは制服を着ているもので、正体丸バレ。
カウンターにいた客(天本英世)が、
「君たちが宇宙のどこかで生き残って、
俺たちがゴラスとぶつかってお陀仏かもしれないな」
あまりに浮かれすぎてるので嫌味の一つも言いたくなったんでしょう。
わたしもこの場にいたら、別の意味で一言ってやりたいです。
その頃、パーティを抜け出した金井達磨は滝子の部屋に来ていました。
女の一人暮らしの部屋に深夜アポなしでやってくるとは大胆な。
折しも滝子さん、こんな超不自然なポーズで泡風呂に入っています。
1962年当時(設定の1979年でも)泡風呂に浸かる日本人なんてほぼ皆無だったはず。
アメリカでも皆さんたいていはシャワーしか浴びないので、
(そのせいでアメリカのバスタブは大抵異様に浅い)
こういう泡風呂シーンはほぼ映画だけといってもいいでしょう。
(例:スピルバーグ作品「1941」)
バスタイムを邪魔されてプンプンしながら、まるで独房の監視窓のような
(ドアスコープの存在しない時代)ところから来客を確かめ、
相手が金井だったのでさらに不機嫌になった滝子でした。
金井はめげずに相手が出てくるまで、
ブザーでモールス信号(ネタ明かしなし)を押し続けます。
彼氏でもないのに何のつもりだ。
ちなみにこの二人の関係は高校時代の同級生。
金井は滝子にいきなりプレゼントをわたしました。
ちなみにこの時彼は白手袋をしていますが、次のシーンになった途端なくなります。
微妙
滝子は目を輝かせて
「これ本物じゃない!」
・・・いったい何の本物って?
ネックレスなのか懐中時計なのか、いずれにせよ趣味悪すぎ。
「どうせ持ってくるからにはな。
最初で最後のプレゼントかもしれないけど」
金井くん、このためにサンドイッチマンのバイトしてたのかな。
しかし滝子、
「どうして手に入れたの?」
そっち?
「最初で最後」より、入手法に興味があるのか?
明日出発でもう会えないかもしれないから、という金井。
滝子はプレゼントを彼に押し返し、
隼号の遭難で亡くなった真鍋のことが忘れられない、と写真立てを手にとります。
すると金井、うっすらと笑いながら、
「だって死んじゃったんじゃないか」
そして無言のまま滝子から写真立てを取り上げ、ベランダの窓を開けて
下も見ないで外に放り投げます。
「酷いわ!」
ああ酷いさ。通行人に当たったらどうする。
しかも金井、悪びれることなくむしろキリッとして、
「君も高校時代で発育が止まったな」
この一連の行為のどこに、観客を共感させる要素があると思ったのか、
わたしは脚本家にぜひ聞いてみたい。
さて、次の瞬間、鳳号は打ち上げられ、宇宙におります。
通常宇宙飛行士はミッションの何日も前から検査やら検疫のため隔離されるものです。
前日まで盛り場でどんちゃん騒ぎをやっていて、アポロ13号のマッティングリー飛行士みたいに、
病気に感染していたらどうするつもりなんだ(とこまめにつっこんでみる)
ゴラス出現以降、宇宙には各国の有人宇宙ステーションが点在していて、なんでも
宇宙パイロットの仁義なんだかしりませんが、通常なら挨拶のため立ち寄るそうです。
しかし、遠藤隊長(平田昭彦)はノンストップで先を急ぐことを決めました。
さて、こちらは地球移動計画の総本部(たぶん)
何やら未来的な模型の周りには、グレーの事務机が並んでいるのがリアルです。
こんな大変な時に、田沢は園田家の智子と速男に施設の案内をしています。
彼が得意げに見学者に見せているのは、ジェットパイプ基地の模型。
どうやらゴラス破壊ではなく、地球を動かすプランを採用するようです。
南極に広範囲にわたってジェット噴射のできる重水素原子力パイプを1089本設置し、
660億メガトンのエネルギーによって地球の軌道を動かすのだそうです。
しかし、そういう数字、紙の上で出された必要な運動量が正しかったとしても、
この、南極にエンジンを取り付けるという案そのものがダメな気がするけど。
そのパイプ基地建設のため、世界中の艦船が南極に向かっています。
アメリカの砕氷船。かき分けている氷は発泡スチロールです。
クレーンで機材を運搬しているヘリコプター。
この大きさのパイプドームを1089個、1日も早く作り上げなくてはなりません。
従来の特撮映画と大きく違うのは、当作ではこの「建設現場」がメインであることです。
そしてこれが日本の基地。
基地中央のドーム上部に開閉式のバブルウィンドウが設置されています。
そこから出入りするのはVTOL、垂直離着陸ジェット機です。
この時代はイギリスのホーカー社がケストレル・ホーカーの開発を進めていました。
これをみると、翼端にエンジンナセルが設置されているのが分かります。
到着したのは田沢博士とギブソン博士(ロス・ベネット)でした。
ベネットという人は、この時期一連のSFもの(海底軍艦)に顔を出しています。
田沢が進捗状況を尋ねると、技師の真田(三島耕)が、
岩盤に当たって掘削工事が難航していると返事をします。
そのとき落盤事故が起こりました。
パイプ内で伏せの姿勢を取る作業員たちを尻目に、
田沢たちが落盤現場に行ってみると、
こんなことになっていました。
時間にして60日分のロスです。
宇宙の鳳号でも問題が起きていました。
ゴラスの質量が前より増えているのです。
妖星というだけあって、他の星を吸収して大きくなるようです。
そこで、軌道に近づいてさらなるデータを取るためにカプセルを発射しました。
搭乗員は金井、後の二人は収容要員です。
発進
ところがゴラスをスコープで直接覗くや否や、パニックに襲われる金井。
結局カプセルは外にちょろっと出ただけですぐ帰ってくることに。
しかも収容された金井の様子がおかしい。
何と金井、何のデータも取ってこないどころか、自分が誰かもわからない、
ショック性の記憶喪失になっていたのでした。
「あなたは・・・どなたですか?」
うーんこの役立たず。
南極基地ではいよいよジェットパイプの始動時間が近づいていました。
あれだけのダメージを負っても、あっという間に遅れを取り戻したようです。
「地球の運命をかけ、人類の希望をつなぐ一瞬は刻々に迫っております」
秒読みが始まり、アナウンサーが実況中継しております。
今ならインターネットのライブ配信ですね。
お茶の間でテレビを囲む、園田家の人々と滝子。
後ろにいるおばちゃんはお手伝いさんかな。
作業員も今は直立して見守ることしかできません。
テンカウントダウンが始まりました。
「スリー、ツー、ワン、ゼロ、ファイア!」
ふぁ・・・・ファイア・・・?ファイアって言った?
ミサイル発射じゃあないんだから、「点火」(ignition)とか、
エンジンスタートとかじゃないの?
まあいいや(笑)
無事に南極基地の全てのジェットパイプが点火されました。
何しろ地球の軌道を動かすくらいのエネルギーが作り出す熱。
もう南極の氷は溶けるだろうし、たとえゴラスを避けても、
温暖化、熱帯化など環境破壊待ったなしだ。
すると何秒か後、宇宙ステーションから連絡が入ります。
「加速度1.1ゼロ掛ける10のマイナス6乗Gで地球は動き出しました!」
いくらなんでも結果が出るの早すぎ。
全員が歓声を上げ、田沢らを囲んで成功を祝います。
「人類は自らの力で地球を動かしているのです!」
国連ではこの非常時に職員が仕込んだらしいテープと紙吹雪が盛大にが舞います。
田沢の元にはさっそく園田智子から電話がかかってきました。
園田家には当時政府機関も持ち得なかったテレビ電話が設置されているのです。
そして年が明けました。
ゴラスが発見されてからまる1年がたったということになります。
去年は喪中だった園田家も、ことしはジェットパイプの始動もあって、
年明けを祝うという雰囲気になり、お琴の音色などが流れております。
「地球も予定どおり動き出したし、まずまずおめでたい正月だな」
・・・めでたいか?
わたしは環境については素人なのでわかりませんが、
地軸ごと地球が動くことによる環境負荷はないんでしょうか。
彼らが無邪気にめでたがっているのはちょっと違う気がするんですが。
そこに南極からNY経由で帰ったばかりの田沢が顔を出すのですが、
なぜか河野は彼につっけんどんで冷淡です。
「南極の連中はまだぐずぐず言っているのか」
どうもよくわからないのですが、南極チームの、
ゴラスは日に日に大きくなってきており、これ以上になると
多少地球が動いたところで衝突は避けられない、
したがって基地を拡張すべき、という主張に対し、
国連側は、その必要はないと反対しているようなのです。
そして河野は今やその国連側の人間として田沢と対立しています。
あんなに一緒に頑張ってきたのに、なにがあった。
ゴラスの質量が増えているという懸念に関しても、河野は
「いや大丈夫、そんな数字的根拠はない」
ととても学者とは思えない楽観論を口にし、田沢を激昂させます。
「大丈夫という数字的根拠はあるんですか」
「もしものことがあれば国連が責任を持つ」
「もしものことがあってから責任を持ったって、何になるんです」
そのときは人類が滅亡するわけですからね。
するとなぜか智子がしゃしゃり出て、田沢を諫めます。
「いけませんわ。そんな・・河野先生に」
年長者に失礼でしょ、というわけでしょうか。
わたしには田沢の意見の方が正しいと思うけどな。
というか智子、何様のつもりだ。
田沢は小賢しい女など無視して、
「いや、今日は言わせてもらいます。今度だけはわたしのいうことを聞いてください」
「そりゃあ僕の方で言う言葉だ。
今まで一度だって君の意見に反対したことがあるかね」
「まあまあまあまあ」
そこで亀の甲より年の功、園田の爺さんが割って入り、
智子に田沢を別室に連れ出させます。
河野を睨みつけている田沢が智子に促されて出て行った後、
河野は園田翁に向かって、実は自分も田沢が正しいと思っている、と言います。
園田が驚いて、
「じゃあどうして君は田沢くんと一緒に国連で主張しないんだ」
と聞くと、
「国連でも『無い袖は振れない』というのが実情なんだ」
え、お金がないって言う意味なんですか。この非常時に。
「若い連中の言うことは正しいとわかっていながら、それを抑えなければならない。
考えると気が狂いそうだよ」
そういう問題じゃないんじゃない?
「僕は万に一つの不幸を恐れているんですよ。
それを思うと僕は科学者として」
「嫌!先生がメソメソなさるなんて」
そして智子、決めゼリフを。
「たとえ人類が滅亡しても先生に感謝しますわ」
「ありがとう!」
うーん、どうしてこうなる。
続く。