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「あなたの犬軍隊に預けませんか」軍用犬供出と今日のMWD~フライングレザーネック航空博物館

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サンディエゴのミラマー基地におけるMWD、
又の名をK-9、海兵隊使役犬の訓練について前回お話ししました。

ミラマー基地のケンネルで行われたデモンストレーションでは、
探査訓練とともに攻撃の訓練成果が発表されたわけですが、
少しこの「攻撃犬」(アタックドッグ)について書いておきます。
■ アタック・ドッグ
犬を訓練して標的を襲わせることは古代から行われていました。
古代ローマが犬を武器として使うようになったのは、
ベルセラの戦いで敵が投入した犬に苦しめられたことがきっかけでした。

その後彼らは犬を明確に武器として、獰猛に飼育し始めたのです。
ローマの博物学者・作家である長老プリニウスは、その訓練の結果、
犬たちは剣を突きつけられても全く怯まなかった、と記しています。ローマの攻撃犬は、敵の陣形を崩させるために、
鋭利なスパイクで覆われた金属製の鎧を装着していました。


着用例
●アメリカで最初に攻撃犬を使用したのは、
ベンジャミン・フランクリンの提案でした。
フランクリンは、
「犬と一緒に寝るものはノミと一緒に目覚める」
と言う名言?を残しています。

実体験だったのね。

●独立戦争の英雄チャールズ・リー将軍は、
犬が好きすぎてどこに行くにも連れ歩き、
食事の席にも同席させ椅子に座らせたりして周囲に嫌がられていたそうです。


スクロールして最後にびっくり、リー将軍と犬

●アパルトヘイト下の南アフリカで、国防軍は
狼と犬のハイブリッドを実験的に攻撃犬とし、ゲリラと戦っていました。


■攻撃犬の訓練とその用途

攻撃犬は、敵とされるターゲットを追いかけ、噛みつき、
怪我をさせ、場合によっては殺すように訓練されます。
その際、犬には状況を判断し、それに応じて反応するスキルが求められます。

正式な訓練では、犬は訓練の効果を高めるために銃声や騒音、
その他障害にさらされることになります。

攻撃犬になるための訓練は犬の凶暴性を助長するとして非難されたりします。
現に、人を噛んだ犬の10%が攻撃犬の訓練を受けていたという報告もあり、
それは一種の「職業病」として動物愛護の観点から問題視されているのだとか。

現代の軍隊でも、主に見張りのために攻撃犬を使用しています。
犬は自分の持ち場を守り、侵入者を攻撃するように訓練されています。
また軍犬が捕虜に対する心理的拷問に使われ問題になったことがありました。

これな

軍用と警察でのK-9の使い方が少し違うとすれば、
警察犬は、人間が危険にさらされている状況を識別し、
それに応じて反応するように訓練されていることです。

警察の攻撃犬は一般的に、怪我をさせるというよりは
ターゲットを取り押さえることを目標に訓練されています。
軍隊レベルの訓練を受けた犬を一般人が手に入れることはできますが、
これらの犬は「エリート」であるので、価格は跳ね上がり、
中には数十万ドルもする元K-9もいるそうです。


■あなたの犬を軍隊に預けませんか?
この誘い文句で犬の供出要請がアメリカ政府から国民に対して出されたのは、
真珠湾攻撃が起こった直後の1942年のことでした。

アメリカ軍は、第一次世界大戦の時にすでに軍隊に
犬がその価値を証明したのを知りながら、自分たちが
その後何も具体的な行動をとらなかったことに気づいたのです。
ヨーロッパ戦線で、犬たちは歩哨任務に立ち、メッセージを運び、
塹壕にいるネズミを軍隊が到着する前に退治しました。

この政府要請を受けたアメリカ国民は、その後2年間で、
4万匹以上の犬をUSMCに送ることでそれに応えました。
(中にはあの『チップス』のように、行儀が悪くて持て余した犬を
処分かたがた軍送りする家庭が結構あったということです)

そして、犬のハンドラーとして1万人が従事しました。

1943年12月20日付でアールビンという人物に
USMCの司令官が送った手紙には、彼が犬を供出したことに対して
その奉仕を称賛する内容が書かれています。

翻訳しておきましょう。
親愛なるアールビン氏:

アメリカ海兵隊と日本との戦争のためにあなたから寄贈された
ドーベルマン・ピンシャー「レックス」が、英領ソロモン諸島の
ブーゲンビルにおいて最近行われた水陸両用作戦で
卓越した戦闘能力を発揮したことをお知らせします。

偵察犬「レックス」は、作戦7日目の夜、海兵隊駐屯地の近くに
日本兵がいることを警告しました。
夜明け、日本軍は我々の駐留していた場所を攻撃しましたが、
「レックス」が警告してくれた結果、海兵隊は攻撃に備え、
撃退することに成功したものです。
「レックス」の行動は、間違いなく
多くの海兵隊員の命を救うのに役立ちました。

敬具

T. ホルコム
USMC少将 アメリカ海兵隊司令


レックスとハンドラー(とレックスの餌入れ)
ただし、アメリカが犬を敵(つまり人間)に対する攻撃用として使役したのは、
第二次世界大戦まで、厳密に言うと沖縄戦まででした。
沖縄戦以降、アメリカは犬の主たる使用目的を、
偵察や探索に変えることになります。
その理由は、沖縄戦に投入された日本の軍用犬の末路だった、
と言う話があります。

■ 日本の軍用犬出征式

朝日新聞社のアーカイブスから、「軍犬の出征式」です。
幟に書かれた犬の名前を見ると、
いわゆる和名より洋式の名前がほとんどなのに気がつきます。

「ドリー」「ガルボ」「ベラ」「ダイア」、
そしてこちら(日本側)にも「レックス」がいるではありませんか。
当時の日本ではどちらかというと犬の名前は西洋風が流行っていたようです。
アメリカからも日本からも、同じような名前の犬が出征し、
そして同じように戦火に斃れていったのでしょう。
何も知らずに歩いている犬たちの映像を見ているだけで胸が痛くなります。
日本で本格的に軍犬が使われるようになったのは第一次大戦以降で、
陸軍歩兵学校にシェパード、ドーベルマンなど大型犬の軍犬育成機関ができ、
それに伴い、軍用犬を供出する民間の組織も誕生しました。

陸軍の軍用犬は中国戦線で伝令や警備の任務に派遣されました。
このニュースに見られるような犬の出征壮行も行われるようになります。

満州国の成立以降は、関東軍、大日本帝国海軍も
警備犬として軍用犬の導入を開始しましたが、
太平洋戦線では連合軍側の軍用犬戦術が向上したことや、
兵站の関係で人間の食料すら確保が困難になってきたこともあり、
日本側の軍用犬の配備は急激に数を減らして行きました。
沖縄戦は日本軍にとっても軍用犬を「攻撃犬」として投入した最後の戦闘でした。
このとき沖縄に投入された軍用犬は勇敢に戦いましたが、
近代兵器の前にはあまりにも無力であり、そのほとんど全てが
ハンドラーとともに戦死することになりました。
アメリカ側の、沖縄戦についてのある資料によると、皮肉にもこの事実が
アメリカ軍を始めとする近代軍隊に軍犬を攻撃用として運用することを
廃止させるきっかけになった、と書かれています。


■ウォー・ダーグ(War DAWG)ウィークエンド

前回書きましたが、ミラマーでMDWプログラムを受けることのできるハンドラーは
海兵隊エリートであると同時にハンドラー界のエリートと目されています。

まず、プログラムを受ける全ての海兵隊員、そして警察官は、
彼らが派遣される基地で担当の犬とマッチングされます。
ミラマーで訓練を受けた犬は2009年に配備を完了し、
彼らはハンドラーと共に大統領就任式、共和党大会、民主党大会などの
全国的なイベントなどに駆り出され、警備チームの一翼を担うのです。
また、彼らはキャンプ・ペンデルトンで毎年開催される
「War DAWG」
と言う大会に出場します。

「ダーグ(ドッグと発音は同じ)」というのは、
「the men and women who team up with dogs in combat」
つまり軍用犬ハンドラーと同義ですが、このイベントは、
もともと三人の「Nam Dawg」
がペンデルトン基地のMWDケンネルで、過去のハンドラーと
K9たちに敬意を評してバーベキュー大会を始めた(アメリカらしい)
ことから始まっています。
まずこのダーグとはなんぞや、というと、
普通に「犬」のスラングで「ダーグ」と発音します。
そして、同時に「ブラザー」みたいなノリの「友達」という意味でもあります。
それから「ナム」はベトナムという意味なので、つまり
「ナム・ドーグ」=ベトナム退役軍人の元ハンドラーとなります。
ペンドルトンでは、毎年ベトナム退役軍人のグループが主導する
MWDとハンドラーを称える追悼イベントが開催され、
同時にK-9の技量を競う競技会(とバーベキュー大会)が行われるのです。

式典では、ベトナムで戦死した300名以上のハンドラーとMWD、
イラクとアフガニスタンで戦死した約30名の名前が読み上げられるならわしです。

「ウォー・ダーグ」で行われるコンテスト、
「Iron Dawg Competition」
は、軍部隊や法執行機関のK9チームのスキルを披露するもので、参加者は、
戦術/服従 薬物/爆発物探知 噛みつき/攻撃 耐久走
の4つの種目で競い合います。



「アイアン・ダーグ」競技参加中のフィッシュバウ伍長とMWDワンドゥ。
これもしかしたらしんどいのは人だけなんじゃ・・・。



フィッシュバウ伍長(左)は、MWDワンドゥと出場し優勝。
なんと全部で三つのアワードを獲得しました。
盾を渡しているのはミラマー基地のダニエル軍曹です。
フィッシュバウ伍長の上腕二頭筋の太さとお揃いの刺青をご覧ください。
何をすれば女性の筋肉がこんなに発達するのかわかりませんが、
つまり一流のハンドラーというのは犬と一緒に走り回り、
筋肉を鍛え上げているということなのでしょう。
自衛隊のハンドラーを見る限り、こういうゴリマッチョな感じは受けないのですが、
この辺がアメリカ軍、海兵隊のハンドラーの文化なのかもしれません。
決して酸素マスクと耐Gスーツをつけないブルーエンジェルスのように、
アメリカ軍って時々「何と戦っているのか」という無謀なところ、ありますよね。


三つもの盾をもらって得意そうなワンドゥMWD。
ミラマーの彼の犬舎前でポーズ。

■MWDの訓練用ギア


噛みつき訓練(bite-work)で使用する防御ギアのご紹介です。
こちらは革製の保護用ヘルメット。
空中を高速で激しくぶつかってくる犬にノックダウンされたときに
彼らの鋭い牙から身を守るためのガジェットです。

革製とワイヤ、2種類のマズル(口輪のようなマスク)
もちろん犬用です。

マズルは安全上の理由からハンドラーの判断で状況によって使用されます。
たとえばMWDの周りに一般の人がいっぱいいるとき。
中には犬が大好きで、つい撫でたくなってしまう人もいるわけです。

しかしほとんどのMWD、軍用犬は、その任務、
「探索すること」「噛むこと」にのみ忠実です。
通常はコマンドが与えられた時のみ噛みつきますが、
非常事態には命令がなくても攻撃を行います。
なぜなら、彼らはハンドラーに対して忠実、
かつその身を守ることを第一の使命と心得ているので、
そのほかの人々をハンドラーに対する脅威と見なし、
これを排除すべく、問答無用で攻撃してくるものなのです。
たとえ相手が小さな子供であっても。

ミラマー基地で使用されている犬舎のネームタグです。
エルトロ(牡牛の意)の犬舎は1999年に廃止されました。
フリッツくんもマーツォくんも、退役済みでしょう。
■MWD退役後の養子縁組制度
ところで、退役といえば、現役引退したMWDはどうなるのでしょうか。
2000年に引退した軍用犬と養子縁組を結ぶことができる
『ロビー法』が可決され、これによって毎年、
テキサスのラックランド海兵隊航空基地からは
数百匹単位の犬が養子縁組されるようになりました。
年齢や健康上の理由で引退する犬もいれば、資格を取得できなかった、
または維持できなかったために退職する犬もいます。軍用犬の任務には95%の精度が求められるのでしかたありません。
(軍人の退役年齢が早いのと同じ理由ですね)
犬の養子縁組が最初にオファーされるのは、その犬の元ハンドラーです。
ほとんどのハンドラーがそのオファーを受けますが、
もし不可能な場合は、次に法執行機関が検討され、
そのどちらもご縁がなかった場合は、民間に引き取り手を募集します。
軍用犬は訓練されているから扱いやすいというのは大きな間違いです。
訓練やその仕事の性質上、犬とはいえ
PTSDを含む健康や行動上の問題を抱えているのが普通です。

一般家庭に飼われている元K-9に、何かのはずみで「スイッチ」が入り、
通行人を噛んでしまって大ごとになった、
という例を、わたしも実際に見聞きしたことがあります。

これはその犬が「ダメ犬」だからではなく、前職のトラウマや残渣からくる
一種の「バグ」であり、そのことも可能性として十分起こりうることを
予想・理解しながら飼ってやる必要があるのです。

そのため、アメリカでは民間の申請者は、受入環境や
犬の取り扱いについての知識、経験を慎重に審査されます。
しかし、住宅事情一つとっても犬を飼いやすい環境にあるアメリカでは、
退役した犬の養子縁組を打診された場合、
ほぼ100%のハンドラーが犬を自身が引き取ることを申し出るそうです。

任務中犬との間に培われた固い絆が、一生を共にしようと思わせるのでしょう。
余生を、信頼できるハンドラーとのんびり過ごせる犬は、幸せです。

続く。


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