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Channel: ネイビーブルーに恋をして
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映画「MORITURI」死に往く闘士の敬礼(前編)

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英国諜報部に脅迫されて、偽のナチス党員になりすまし、
日本から出港するドイツ輸送船に乗り込んで
連合国に物資を奪わせる工作を行う男と、輸送船長。

そんな二人のドイツ人を主人公とする、アメリカ映画です。

船にはゴリゴリ党員の副長、護送される囚人船員、
撃沈された米船の捕虜たち(ユダヤ人の娘含む)が乗っており、
それぞれの人物とその事情が絡み合い、海の上でドラマが展開します。
世間的にはほぼ無名と言っていいこの戦争関連映画「MORITURI」は、じっくり観れば観るほどにその真価が光ってくる、
喩えて言えば古道具屋の隅で埃をかぶっていた宝物のような映画でした。

最近当ブログが扱った戦争関係映画でも群を抜いて独創的。
そのスクリプトは適度に複雑で、そして全ての登場人物には、深みと
人間らしいリアリズムが与えられており、中でも演技が光るのは
マーロン・ブラントとユル・ブリンナーという超大物です。

どうしてこの映画が世間にあまり認知されていないのかが謎ですが、
思い当たる理由は、公開当時はベトナム戦争の最中だったということです。

戦争を扱っていながら、軍人が主人公というわけでもない、
軍艦での戦いが描かれるわけでもない地味〜な反戦映画は、
ジョン・ウェインの海兵隊映画が最高の売り上げを記録するご時世ではあまりにインパクトに欠けていたのかもしれません。

しかし、それから半世紀が経ったこんにち、両者を鑑賞してみると、
興行的な売上は、必ずしも作品の志とは比例しないという
当たり前のことにあらためて認識させられたわたしでした。



邦題は「モリツリ〜南太平洋爆破作戦」となっていますが、
後半は日本の配給会社の「良かれと思って」説明をタイトルに加えた結果、
原作の雰囲気を台無しにしているおなじみのお節介サブタイトルです。

ついでに言えば、ラテン語のMORITURIの発音は「モリトゥリ」が正確です。

MORITURIは「死ぬことについて」(about die)という
ラテン語の複数形で、「皇帝伝」を書いたローマ帝国時代の歴史家、
スエトニウスの用いたフレーズから取られた
「MORITURI TE SALUTANT」
からきており、全文は(画面にも表れます)次の通り。


Ave Imperator, morituri te salutant
(皇帝万歳、死のうとする者たちがあなたに敬礼します)

であり、この「皇帝」とはカエサルを意味しています。
この映画における「死に往く闘士」とは何を表しているのでしょうか。




舞台は1942年の日本から始まります。

往く人々の服装や、浴衣専門店の入り口に掲げられた国旗と店の旗とか、
そこここに見える旭日旗は紛れもなく実際の戦前の日本の映像です。


東京のドイツ大使館にメルセデスで乗り付けてきたのは、
クルーゼという特務船の航海士です。



航海士のクルーゼは、ドイツ海軍ウェンデル提督の命を受けて
日本からボルドーにゴムを輸送する特務船の乗り組みを命じられました。

しかし彼は、今度の航海では自分が特務艦の指揮を執れると信じていたのに、
ベテランのミュラー船長の補佐だったとわかり不満の意を隠しません。

そこにそのミュラー(ユル・ブリンナー)が乱入してきました。
こちらはこちらで今回の任務に大いに不満があります。

今回彼の輸送船にはドイツに送還して処刑する予定の殺人犯2名、
殺人未遂2名、窃盗犯、政治犯1名ずつが乗せられる予定でした。

ミュラーの不満は、本来収監しておくべき囚人を、あろうことか
「船員として」自分の船で使役しなければならなくなったことです。
船員として使い物にならないばかりか、処刑予定の囚人となれば、
海の上で何をやらかすか判ったものではありません。

そんなのミュラーでなくともまともな船長なら誰だってお断りです。

しかし、そんなミュラーに向かって、ウェンデル提督という偉い人は、
やんわりと、これは、船員の人手不足を補うことの他に、
当のミュラー船長への「懲罰任務」であると宣言しました。
ミュラーは腕利きでしたが、どうも酒癖が悪いのか、
前回の輸送任務で自分の指揮する船が魚雷を喰らった時、
運悪く酒を飲んで寝ていたことを当局に握られていました。
しかもウェンデル提督、ミュラーの息子が海軍士官であることを盾に、

「父親の今回の働きいかんで、息子さんの将来もどうなるかわからないよ」

と暗に脅迫してまで、今回の輸送任務を押し付けてきます。

海軍がそこまでしてミュラーにこの仕事をやらせたい理由は、
それだけ彼の腕を勝っているということなのでしょうけど。



さて、場面は変わってここはインド。



イギリス情報部のスタッター大佐も、一人のドイツ人を脅迫していました。
この老獪な大佐を演じるのはイギリスの名優、トレバー・ハワード。

脅迫されているのは本作品主人公で、
クレイン(マーロン・ブラント)という爆破専門技師だった男です。

彼は兵役を逃れるため身分証を偽造し、全財産を持ってドイツを脱出後、
中立国スイス人のふりをしてインドにもう三年住んでいました。

イギリス情報部は当初から彼の身分を突き止めていたのですが、
ここぞというところで利用するため情報を温存していました。

そして、今回それをネタに、ある協力を要請(強要)してきたのです。

「断ってもいいが、それならゲシュタポに身分を密告されるのと、
イギリス上空で飛行機から突き落とされるのと、どちらかを選びたまえ」

それはどっちも嫌かも

イギリス側が今回彼の「利用」を思いついたのは、爆発物のプロである彼が、
ドイツの輸送船の自爆装置を止める技術を持っているからでした。

イギリスの思いついたその作戦とは。

1、ナチス党員に成り済ました彼がドイツの輸送船に潜り込む
2、船内の自爆装置を全て切断して無効化する
3、そこに連合軍が船を急襲!!!!
4、積荷である資源の生ゴムをまるっと頂く(゚д゚)ウマー
というものです。



そうと決まれば(クラインに選ぶ権利はないんですが)早速準備です。

とても日本とは思えない(香港映画で見た感じの)娼館の一室で、
クレインは、彼のために用意されたガジェット一式を渡されました。


妻と家族の写真、ドイツ紙幣、結婚指輪にベルリンのバーのマッチ、
日常生活についてのメモ各種、愛犬のダックスフントの写真(笑)
そしてナチス親衛隊幹部大佐の徽章まで。
「ザワークラウトは入ってないのか」

「あります」

家政婦の三田さんなら言うところですが、流石にそれはない。
しかし、クレインの皮肉はもう止まりません。

「ホルスト・ヴェッセルソングを歌えば完璧だな」
(日本語字幕は『ナチス党歌を歌うのか』になっている)
ホルスト・ヴェッセルというのは、ナチスのでっちあげた英雄で、
家賃の支払いをめぐって共産党員に射殺されただけの男ですが、
宣伝効果を狙って神格化され、中でも彼を讃えて作られた
「ホルスト・ヴェッセルの歌」は、その後ナチス党の党歌、
「畑を高く掲げよ」の元歌になっています。
この時、スタッター大佐は、クレインに作戦を具体的に指示しました。

クレインが爆破装置の解除を終了する。
その後太平洋の某地点でアメリカ海軍の船が
彼の乗り込む「インゴ」号を拿捕する予定であると。
そして彼には新しい仮の名前も与えられました。

作戦名の「カイル海域」から、「ハンス・カイル」。
身分はナチス党の大佐で極東地区保安機関勤務という設定です。


さて、ここは横須賀か横浜。
ドイツの輸送船、「インゴ」出発の日になりました。



噂の「囚人船員」たちも乗船を始めました。
流石は囚人というだけあって、態度が悪い。
中には口笛を吹きながら歩いている囚人もいます。

その様子を見ていたクレインは、冷酷な副船長のクルーゼが
目の前で囚人をいきなり殴りつけるのにドン引きします。
殴りつけられた男の怪我の心配をしたのは囚人を乗せるのを嫌がっていたはずのミュラーでした。

クレインは、船長ミュラーが「まとも」な男であるのに早速気がつきます。



「インゴ」には途中まで日本海軍が護衛につくという設定なので、
所々に日本の海軍士官が登場します。



岸壁の鉄柱に、縦に倒された横書きで
「注意深い」とあるのがツッコミどころ。


ミュラー船長は、「カイル」=クレインに警戒感を露わにします。
ナチスから派遣されて自分の監視をする保安局の犬と思っているからです。

船長権限で船内の立ち入り区間を制限するとまで言い出すミュラーに、クレインは内心慌てて、表向きやんわりと釘を刺します。

「私の地位と私の組織にもう少し敬意を払っていただきたい」

クレインは精一杯冷酷なナチス親衛隊員を演じようとしているようです。
行動範囲を制限されたら本来の仕事もやりにくくなっちゃうからね。


そしてカイルとなったクレインは、早速本来の仕事に取り掛かりました。

機関室で船内に仕掛けてある自爆装置を不発化していくシーンで
撮影に使われたのは、スコットランドの貨物船MVケープロドニーです。

自爆装置は船内にいくつかありますが、カイルはここで
二つの爆破装置を切断することに成功しました。


一生懸命お仕事していると、突然荷積係の政治犯、
不気味な「ドンキー」に声をかけられます。

彼は機関室でけたたましく鳴く鳥を飼っているという設定ですが、
囚人である彼がどうやって鳥を持ち込んだのか謎です。
まだ出航したばかりで鳥を餌付けする時間などなかったはずですが・・。

「政治犯か・・それなら冤罪じゃないのか」

「いや、冤罪じゃありませんよ」
ニヤリと笑うドンキー。
ドンキーは船員の俗語で荷積係のことですが、彼の名前になっています。



その後もチャンスを見つけてはこまめに仕事に励むカイル。
非常時想定訓練の間は、絶好の内職タイムです。

ミュラーには訓練に参加していなかったようだが、と怪しまれますが、
しれっと嘘をつき、うまく乗り切って誤魔化します。


情報収集も怠りません。ドンキーから、さりげなく船倉への入り方を聞き出します。



しかしさすがは政治犯、ドンキーは何事かをカイルから感じ取りました。
そして、同胞にこんなことを言います。

「約束する。この船は港に着くまでに親衛隊野郎の死体を載せてる」

”I promise you: before this ship reaches port, 
there is going to be one dead SS bastard on it.”

しかしなかなかことは面倒で、このままでは効率が悪いとわかったため、カイルはクルーゼの懐柔に取り掛かりました。

彼のミュラー船長への不満を利用して、同調し、煽てながら、
船内への立ち入りをもっと自由にできるように計らわせるのです。



歯の浮くようなお世辞に嫌らしい脅迫、褒美をちらつかせるやり方。
ほとほと自分のやっていることが嫌になったカイルは、
一人になると、力任せに飾り棚を叩き落して鬱憤晴らしせずにいられません。



その時、東京から敵艦隊接近中の知らせが入りました。
「インゴ」はペイントを消して英貨物船に偽装を行います。



しかし、カイルの爆弾不活性化は遅々として進んでいません。
こうなれば最後の手段です。

カイルはクルーゼに、
「自分の本当の任務は自爆用の爆発物を点検することだ」

と、(ある意味本当の)嘘を言い、
堂々と彼から爆弾の設置場所を聞き出すことにしました。

クルーゼはその言葉をまるっと信じ、爆弾設置場所ツァーを行います。

ここで、最初に案内された船倉の樽の中身を尋ねられたクルーゼが、
沖縄で積み込んだラードだ、と答えるシーンがあります。

このラードの会話、一度見ただけでは気にも止めず忘れていましたが、
2度目に見たら、ラストの伏線になっていました。

ラード。これ覚えておいてね。試験に出ますよ。

ツァーさせたまではよかったのですが、当然ながら
カイルが破壊済みの機関室の起爆装置も見つかってしまいます。

「絶対やったのはドンキーだ。船長に報告せねば」

というクルーゼをカイルは必死で引き止めるのですが、
もちろんそんな彼の態度はクルーゼに怪しまれます。

この辺りの駆け引きの会話が無茶苦茶スリリングです。

そして駆け引きの結果、カイルは、爆博物のスイッチは船長室にあり、
鍵はミュラーが持っていることを遂に突き止めました。



さて、ここは「インゴ」からさほど離れていない別の海域。

ドイツ軍提督を乗せた日本海軍の潜水艦が、
単独で航行していたアメリカの民間船を撃沈しました。

米船から脱出した乗員は潜水艦に救出されることになりました。
この映画は1942年という設定なので、
「ドイツ潜水艦はいかなることがあっても敵乗員を救出しない」
とする「ラコニア・オーダー」はまだ発令されていません。



甲板でドイツ軍の士官が、救出した米船の乗員の尋問を始めました。



オーストラリアに向かう途中だったというこの船には、
外科助手として乗っていたドイツ系の名前の女性がいました。
彼女はドイツ軍士官に、

「なぜドイツ人がアメリカ船に乗っている」

と聞かれると、自分はドイツ人ではない、と声を震わせて抗議します。

「私はドイツ人の敵です」


こちらイギリス船に偽装し終わった「インゴ」号。

「ベンソン」級駆逐艦の護衛がついた大船団に周りを囲まれてしまいました。
無電で誰何されると、ミュラー船長は大胆不敵にニヤリと笑って、

「イギリス船籍のストーンヘンジ号だと混線させながら答えろ」



ところがこの船内に、連合国軍の接近を喜んでいる連中がいました。
護送されているドイツの囚人たちです。
捕まえてくれたらハワイで捕虜になれる、と喜ぶ奴もいます。

そのとき、政治犯の「ドンキー」は、あの親衛隊員=カイルが、
自分が教えてやった入口から船倉にこっそり入っていくのを目撃しました。

ドンキーはほくそ笑んで後を追いかけます。



ラードの貯蔵室の爆破装置を開けようとしているカイルの後ろから、
ドンキー、いきなり肉用フックを振り上げて襲いかかりますが、
逆にやられ、日本語で「豚の油」と書かれた樽の中に倒れ込みます。

はて、このおっさん、何のためにカイルを襲ったんだろう。
親衛隊が嫌いだから?それだけの理由?



さて、そのカイルですが、彼も「インゴ」が拿捕されてほしいのです。
その意味では囚人たちと同じ願望を持っているわけですね。

ところが、駆逐艦は「インゴ」の偽装にすっかり騙されて
英船だと思いこみ、転舵して行ってしまいそうになります。

それを知った彼は、とっさに煙突の梯子に素早くよじのぼり、
そこにある非常装置で汽笛を鳴らしたのです。

爆破技師なのによく汽笛の非常装置の場所なんか知ってたな。



汽笛を聴きつけた駆逐艦は、船脚を止め、
「インゴ」に臨検のための停止を命じてきました。

これを聞いたミュラー船長は即座に停船、総員退船の命令を下しました。
つまり、輸送船を積荷ごと自爆して沈める決断をしたのです。



瞬時にして出された命令を受けて着々と進む乗員の退船。
カイルはこの展開の速さに、自分でタネを撒いておいて呆然としています。

しかし、ここで船を爆破されては彼の任務は失敗です。

スパイがバレてドイツ側には捕らえられ、処刑は間違いなし。
万が一生きて帰れたとしても、イギリス政府にも処罰される運命。


さあ、どうするハンス・カイル!

続く。



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