観終わってからとんでもない作品を選んでしまったと後悔しました。
果たしてこのような馬鹿馬鹿しい作品をあらためて紹介する意味があるのか、
とすら考えずにいられなかったのですが、基本当ブログでは
そういう誰も取り上げないキワモノにこそ光を当てる、ということに、
一種の使命を勝手に感じておりますので、やっぱり取り上げることにします。
あらすじは冒頭のイラストを見ていただければ、
柳家金語楼扮する三等水兵が、なんの因果か海軍大将の格好をして
本物と入れ替わり、怪しげな中国人の悪漢と絡む、
というものであることはお分かりになろうかと思います。
本作品は、あの大倉貢制作による新東宝らしさ満点の喜劇で、
終戦後、雨後の筍のように製作された軍隊ものです。
終戦によって日本人の権威に対する価値観が全く変わり、
軍を批判、あるいはパロディにしても叱られなくなった創作界では、
反戦ものや、この作品のような軍隊喜劇が作られ、人々は
記憶にまだ新しい戦争と軍隊を笑い飛ばすのを大いに楽しみました。
本作は、既に落語界の重鎮となっていた柳家金語楼演じる三等水兵が、
海軍大将に入れ替わってしまうという「入れ替わりもの」です。
1901年生まれの金語楼は映画製作時、既に58歳。
海軍大将役はともかく流石に三等水兵は無理すぎ、と思うのですが、
そこはそれ。
思い切ってこの不条理を楽しんでしまいましょう。
タイトルは、水兵風味のコスプレをしたお姉さん方が、
軽やかなルンバのリズムの「軍艦行進曲」をバックに、
それらしいポーズを決めて「静止」しているというものです。
スチル写真を使えばいいのに、なぜか静止画像風にじっとしているので、
時々片足上げたお姉さんがフラついているのがわかります。
けしからんことに、映画は実写の艦隊航行シーンから始まります。
艦橋に立つ海軍大将、その姿は紛れもなく柳家金語楼。
「皇国の荒廃この一戦にあり!各員一層粉糖努力せよ!終わり」
Z旗が翩翻と翻り、今度は普通に「軍艦」が鳴り響きます。
尾翼越しに見えているこの空母、なんだかお分かりですか?
「参謀!空母信濃より通信が入りました」
「長官!第一次攻撃隊は敵地爆撃に成功し、損害を与えました」
「長官!第二次爆撃隊により全市火の海であります!」
この参謀、丹波哲郎じゃないですかー。
相変わらずいいところだけちょっと出てくるいいとこ取りの丹波である。
それにしても、なぜ軍艦の上なのに、全員陸戦隊の兜着用なのか。
その理由はこれが夢だからですが、それはともかく。
「長官!第三次攻撃隊の原子爆弾により敵軍事施設は全滅!」
おいおい、原子爆弾落とすなよ。
「長官!第四次攻撃隊により敵戦艦50隻轟沈!」
「ちょーおかん!敵国は早くも降伏を申し出たようであります」
「いや、しかし無条件降伏以外は」
「絶対にダメでありますか!」
「そうだ・・イエスかノーか!」
もうわたしはここで爆笑だったのですが、普通は笑うところじゃないかも。
そして場面はいきなり戦勝凱旋祝賀会に。
会場にはアメリカ合衆国を含む万国旗が飾られています。
記者会見もそこそこに綺麗どころに囲まれる海軍大将。
山下元帥のお目当ては「ミチコ」こと「みち奴」ですが、
髭の千葉という男もちょっかいをかけてきます。
ダンスをするうちに積極的に次の間に強引に連れ込まれ、
強引に押し倒されたと思ったら、
それは上海陸戦隊三等水兵山下源太郎の夢でした。
夢で邪魔だった髭の千葉三等軍曹に叱られながら釣り床収めです。
上海陸戦隊がいるくらいなのでここは上海。
なのですが、ロケを横浜中華街で行った可能性が微レ存。
ここで真昼間から銃撃事件が起こりました。
さて、ここは上海方面指令長官水原権五郎海軍大将の官舎。
ここに、先ほどの銃撃事件の報告をしてきた人物、それは
光機関の(なんかわかりませんが諜報機関的な?)杉浦大尉。
殺されたのは重慶に暗躍するテロ団の情報を持っている人物でした。
(さすこの頃の映画、ちゃんと『だいい』と発音してます)
電話を受けているのはやはり光機関の杉浦大尉の部下、巴静香。
どこかでお見受けした女優だと思ったら、万里昌代。
確か「スパイと貞操」で水責めされていた女スパイの役の人じゃないですか。
この大将、どうも女に見境がなく、つい手を出さずにいられない体質らしい。
特務機関に務める巴御前相手についやっちまって、投げ飛ばされる始末。
かくすればかくなることと知りながら已むに止まれぬ助平魂。
そしてこの困った性癖が水原大将の危機を招くのです。
海軍大将になろうかという軍人であれば、いかに好きであっても、
「ホワイト(素人)に手は出すな、ブラック(玄人)とさっぱり遊べ」
という海軍の掟を若い頃から叩き込まれている上での出世でしょうから、
こんな醜態を世間に曝すこと自体あり得ないのですが、
そこはそれ、映画はこうでなくては話が進みませんからね。
ところで、杉浦、水原といえば、この頃の野球に詳しい方なら
ピンとくる名前ではないでしょうか。
杉浦清、水原茂。いずれもプロ野球選手です。
この映画の登場人物の多くは野球選手から名前を取っています。
そこに大将官舎の雑用をする当番兵が連れて来られました。
山下敬太郎と桑田三等水兵の二人です。
最初の仕事はお洗濯。
大将の3人の妾、一筒(イーピン)二萬(リャンワン)三竹(サンソウ)
の下着です。
大将の現地妻一筒(小桜京子)は餃子屋。
他の男の面倒を見ながら電話で砂糖の横流しを頼んでます。
酒保から砂糖を持って来るのも登板兵の役目。
次に電話した美容師の二萬(リャンワン)も怪しげなマッサージ中。
女優の三竹(サンソウ)は歌手で女優です。
若い男とイチャイチャしながら、電話では
「ワタシパパが恋しくて恋しくて死にそう・・・」
なんだよこの助平親父(死語)とうんざりする山下水兵。
さて、ここは横浜埠頭・・・じゃなくて上海の港のどこか。
特務機関の杉浦大尉と巴の元に、中国人の垂れ込み屋、
清一色が情報を持ってきました。
今日、重慶の秘密工作員がテロ団の仲間と会うというのです。
杉浦大尉のグループはテロ工作を追って活動していました。
清が外に出た途端、
車から銃撃されました。
ちょっとお待ちください。
ここに見えているの、横浜税関本間庁舎(通称クィーンの塔)ですよね?位置関係から見て、現在の象の鼻パークから見ている感じかな。
その夜、横浜中華街の?ナイトクラブに出演する
歌手の三竹のステージを、山下三水をお供に見にきた水原大将です。
このナイトクラブで剣舞を行う芸人の白飯(パイパン)は、
どういうわけだか山下三水に瓜二つの男でした。
ショーを観ている大将に、清は妖艶な女性を引き合わせました。
有名な伯爵の未亡人、紅明蘭というその女は、
美人に目のない大将にあからさまなアプローチをかけて・・。
カルメンをステージで踊っている愛人の三竹がそれを見て怒り心頭。
おいおい、あんた大将のこと嫉妬するほど好きだったのかい。
三竹、舞台裏でアイロンがけさせられていた山下に八つ当たり。
とばっちりもいいところです。
その頃、山下公園埠頭(でロケしたところの上海港という設定)では、
情報を元にデート中の恋人同士を装った杉浦と巴が張っていました。
ターゲットに男が近づいてきます。
こちらを見られたので慌てて抱き合う二人(笑)
見ていると、ターゲットは埠頭で大勢の怪しい人たちに囲まれていました。
ところで、ここに写っている建物はついこの前までありました。
今ガンダムがあるのと同じ埠頭です。
実は、清のナイトクラブの裏では悪巧みが進行していました。
彼は親日家のふりをして、嘘の情報を流し、最終的には
上海陸戦隊に食い込んでこれを壊滅させるのを目的としていたのです。
そこで集めた仲間ですが、まず明蘭は女好きの大将を色仕掛けで落とす役目。
今入ってきたリーチ(李痴)という男は、さっき埠頭で
清を襲うふりをして杉浦大尉らを欺く手助けをしていました。
要するに日本軍を追い出す組織の手先というわけです。
次の日、門限を過ぎて帰隊した山下水兵を、
鬼軍曹の千葉(巨人軍の千葉茂より)が叱責していました。
千葉軍曹も山下も酒保の「おばさん」みち子が大好きです。
「あたし、一眼でいいから山下さんが海軍大将の軍服着たとこ見たいわ」
つい雑談からそんな伏線を敷くみち子。
「夢じゃいつも海軍大将なんだけど・・」
それはいいのですが、せいぜい18歳くらいしか見えないこの女優に、
「いつも山下さんと夫婦になっている夢見るのよ」
「あたし夫婦になったら毎日甘いもの作ったげるわ」
なんて言わせるのは、あまりに無理がありすぎです。
何度も言いますが、金語楼、この時58歳ですよ?
下手したら孫ってくらいの娘相手に何やってんだ。
しかし、お汁粉を作ってもらったという設定で、
お椀の餅を伸ばして食べる所作は、さすが落語家の風格(笑)
・・・という風に、この映画は、筋書きをこのように述べても
そのおかしさというのは微塵も伝わってきません。
落語家金語楼のちょっとした所作や表情、
おそらく当時は流行語であったらしい言葉の端々から、
当時の空気を思い、今も残る昔の横浜の映像を楽しみながら観る、
これが正しい鑑賞の仕方だと思う次第です。
紹介しておいてなんですが、実際見ないと何も伝わらない映画ですので、
ぜひ機会があったら一度死んだ気でご覧になることをお勧めします。
本作における悪者中国人一味は、重慶からの指令で帝国海軍陸戦隊を
一刻も早く爆破するというフェーズに入っていました。
そして、上海全体を混乱に陥れるという作戦です。
全員中国人なのに、なぜか皆片言の日本語で会議しています。
同じ大倉貢の作品でも「北支那海の女傑」(だっけ)では、
主人公の女性が中国人という設定もあって、何人もの日本人役者が
頑張って中国語で会話していたものですが、ずいぶん手抜きです。
彼らは一味の清が経営するナイトクラブに、
特務機関の巴静子が潜入しているのを発見しました。
この頃の上海は文字通り「魔都」であり、
若い頃、父上(政治家犬養健)の秘書役として大陸におられた
犬養道子氏によると、ダンスパーティで、
ダンサーの手のひらに仕込まれた小さなピストルが
音もなくターゲットの胸に撃ち込まれるなどということが
ほぼ日常的に起こって問題にもされないというような物騒な都市でした
犬養氏の父上犬養健氏は、当時大陸で政府の命を受け、
秘密裏に和平工作を行なっていた時期がありましたが、
有名な美貌のスパイ、鄭蘋茹(ティンピンルー)が丁黙邨の暗殺に失敗し、
処刑された事件にも関わったことが、氏の著書に書かれています。
この頃の新東宝系の映画には、やたら上海を舞台に、
中国人の怪しいグループが登場しますが、その頃の混沌の中に、
大衆が嗅ぎ取っていた一種の浪漫みたいなものを映像で表すのが、
創作の世界では流行っていたということなのかもしれません。
それはともかく、中国人グループは、特務機関の巴を
とりあえず始末する計画を立てました。
その方法というのが斬新です。
一味の催眠術師、四(スー)アンコー(平凡太郎)が、
その辺の男に催眠術をかけると、あら不思議、
男はインプットされたターゲットを殺したいほど憎み初め、
さらに自分は不死身であると錯覚し始め、結果、
「不死身の殺人マシーン」となって、殺人の任務を遂行するというもの。
どうでもいいけど、もう少し簡単な方法はなかったんかい。
ここは現在横浜の観光スポットと成り果てたところの赤レンガ倉庫です。
当時は本当の倉庫だったので、全く人気はありません。
撮影のために人払いしたのかもしれませんが。
ここに巴静子が一人で歩いてきました。
何者かに追われる気配を感じ、足早です。
そしてその後を思い詰めた風の男が追ってきます。
大変お節介ながら、同じ場所の写真を撮っておきました。
右側のビル一階はパンケーキカフェ「ビルズ」(美味しい)があります。
赤煉瓦の前に大きなキャプスタンのようなものが並んでいます。
催眠術をかけられた男に襲われる巴。
マシーンとなっているので、ピストルの弾が当たっても、
しばらく気づきません。
ってそんなわけあるかーい。
不死身のように見えましたが、巴に投げ飛ばされ、
銃弾を2発くらって初めて昏倒。(ってか死んだんだよね)
さて、というわけで一味は巴暗殺に失敗したことになるのですが、
この後どんな手を使ってくるのでしょうか。
というか、この連中の悪巧みって、全く方向性がなく、
行き当たりばったりで計画性もないんだよな。
こいつら一体何がしたいのか(笑)
続く!