さて、おそらくこれを読んでいる方々の9割以上が観たことがなく、
これを読んでもそのさらに9割9分が観ようとは思わないであろう戦争喜劇、
「金語楼の海軍大将」後半です。
さて、クラブで水原海軍大将に異常接近してきたのは美形未亡人明蘭。
本来ならば、自分のような男にこんな美人が近づいてくるかどうか疑ったり、
自分の立場を鑑みて、多少なりとも相手の下心に用心するものなのですが、
とにかく水原大将、世の中の女は全て自分に好意を持つものと信じています。
なので、ちょっと色目を使われたら、ホイホイと官舎にご招待。水原大将の官舎に呼ばれてやってきた明蘭は、
中国4000年の珍しい精力薬と偽って、睡眠薬を飲ませ、
あっさり大将を熟睡させてしまいました。
そして待ち構えていた仲間を呼び入れ、トランクに大将を詰め込んで
拉致しようとしていたら、誰かやってきました。
当番兵の山下三水です。
こいつも「精力薬」の偽パッケージに騙されて、ついつい
眠り薬を飲んでしまい、その場で昏睡。
てか精力剤飲んでどうするつもりだったんだ。
おかげで悪者たちはノーガードで大将の誘拐に成功してしまったのでした。
次の日です。
山下水兵は陸戦隊の分隊士、葛城中尉に呼ばれました。
(この名は当時オリオンズにいた葛城隆雄から)
葛城中尉を演じているのは、新東宝の「ハンサムタワーズ」
(なぜ"タワーズ"かというとご想像通り皆背が高かった《172-182cm》から)
として、菅原文太らと同時に売り出された、吉田輝雄という役者です。
この人もほんの一瞬の出演ですが、この士官たちを含め、
この映画は、脇役に無駄にイケメンを多用しています。
最初の山下水兵の夢にだけ登場する参謀役が丹波哲郎で驚きましたが、
これは、お正月映画と言いながら、主役が金語楼と坊屋三郎では
あまりにも茶渋のようなツヤのない画面になってしまうことから、
脇役にいい男を配して若い女性客に媚びているのでしょう。
さて、なぜ山下が呼ばれたかというと、彼が大将の当番兵だからでした。
葛城中尉は、司令長官が行方不明になった事情を山下に尋ねました。
拉致されたことを知らない山下は、てっきり水原大将、
雲隠れして未亡人の明蘭といいことしていると思い込んでいて、
「こればかりは事が事だけに、ここでは言えない!」
となぜか庇いだてを試みますが、葛城大尉は全くそれを相手にせず、
とにかく長官を連れ戻すよう頭ごなしに命令しました。
「それがどこかは知らんが、とにかく水原閣下を連れて帰れ」
「復唱!」
「復唱はいい!」
一国の軍隊の地方部隊司令官を拉致する。
これだけで、もうこいつらは日本軍の殲滅対象決定ですが、
逆にこんな簡単に拉致される海軍大将ってどうなのよ。
という感想はともかく、一体何のために彼らは大将を誘拐したのでしょうか。
明蘭は、縛られている大将に、
「陸戦隊本部にある機密書類をよこしなさい!」
と言い出します。
はて、確か彼らの当初の目的は陸戦隊を爆破することじゃなかったっけ。
機密書類どこから出てきた。
まあいいや。そんなことは突き詰めてはいけません。
こちら大将の捜索命令を受けた山下、
早速大将が(明蘭と)『シケこんで』いそうなところを探すことにしました。
とはいえ、思い当たるのは二人が出会った先日のキャバレーしかありません。
しかしキャバレーの門番がペーペーの水兵を入れてくれないので、
自分とそっくりの中華芸人、白飯のふりをして、堂々と正面突破。
入り込んだはいいものの、何をどうしていいかわからず
ウロウロしていた山下を、いきなり物陰に引き込んだ男がいます。
それは特務機関「光」の杉浦大尉でした。脊髄反射で敬礼してしまう山下。(まあ一応帽子は被ってるし)
そして大将が誘拐されたらしいと杉浦大尉から聞かされ、
てっきり明蘭と遊んでいると思っていた彼は仰天します。
その拉致された海軍大将水原ですが、
「一つ、至誠(すせい)に悖るなかりしか。
一つ、気力に欠くるなかりしか。
一つ、無精にわたるなかりしか。」
平静を保つため五省を唱えておりますと、明蘭がやってきて、
「情報を渡す決心はついた?」
だから何の情報なんだよう!
しかし腐っても海軍大将、自分の命と引き換えに陸戦隊を売るわけもなく。
「わすは日本人だ!
水原権五郎海軍大将、死して(すすて)護国の鬼(おぬ)となる・・っ」
彼らが去った後、監禁現場に山下が忍び込んできました。
どうでもいいけど見張りくらい置いておけよ。
二人の着ているものを交換し、自分が身代わりになってここにいるから、
脱出したら救援を寄越してください、と必死で頼む山下を尻目に、
「サイナラ〜〜!」
と軽やかに去っていく水原大将でした。
しかし水原大将、案の定、ナイトクラブの門を出たところで、
美女にウィンクされてしまったものだから、
せっかく出てきたキャバレーに戻って、飲み始めてしまいました。
アホなのかこの海軍大将は。
客を遠目に見てヒソヒソ言い合う悪者たち。
「あの男・・大将に似てね?」
大将の監禁現場を見に行くと、それらしい人影が。
「ちゃんといるじゃないか」
遠目には・・・いや、全く似てねーし。
そして悪人たち、海軍大将の有効活用法について会議しています。
日本語による会議の結果、大将のポケットに水素爆弾(!)を入れて
陸戦隊に返し、基地ごと爆破するということに決まりました。
そもそも最初から何のために大将を拉致したのか、
目的が全く定まっていなかったということですねわかります。
爆弾は金庫の中に「時限爆弾」と貼り紙されて格納されています。
はて、時限式爆発を起こす水素爆弾(金庫収納式)とは。
ところで水素爆弾って、アメリカの機密事項で、
いまだにどうやって作るのか正確にはわかっていないんですってね。(雑談)
爆弾を仕掛けられる運命となった、偽海軍大将の山下水兵、
水原大将が早く帰隊して救出してくれることを祈っています。
が、同じ頃、大将は同じナイトクラブの席で居眠り中。
さっきの女にサイフをスられていました。
山下水兵の財布ですから、お金が入っているわけもなく。
女はふん、とばかりに席を立ってしまいますが、
大将、今度は別のホステスにデレデレ。
悪者一味は、ここでまたしても催眠術師の四暗刻(スーアンコー)を使って
大将の格好をした山下に、陸戦隊を爆破する暗示をかけさせました。
四暗刻は大将を拉致するメンバーではなかったので、
いつの間にか大将が山下と入れ替わっていることに気が付きません。
明日の朝7時にセットした爆弾をポケットに入れられ、
すっかり自分を見失った山下、彼らの車で基地に送られて行きます。
そして車は陸戦隊基地の前に停められました。
ところで、この後ろの白いビルですが、
前にもお見せした、今ガンダムになっている場所です。
このGoogleマップの写真は少し前のもので、その後ビルは取り壊され、
ガンダムの隣はバス駐車場になっているということが判明しました。
それはともかく、この撮影は現在の山下公園付近、
マリンタワーの近くで行われたことがわかります。
舗装されていない道と草の生えた空き地。
当時の横浜ってこんなところだったんだ・・・。
車から下され、頭を覆っていた布を取られて、
ほれ、あっち、と指さされたところにふらふら歩いていく山下。
そこは上海陸戦隊でした。
警衛の水兵は、元帥の制服を着た山下を見てハッとして背筋を正し、
捧げ銃を行い、
喇叭手は将官に対し用いられる喇叭譜「海行かば」を吹鳴し始めました。
後年、映画「トラ!トラ!トラ!」では、三船敏郎演じる山本長官が
乗艦の際、楽団が楽曲の方の「海行かば」を演奏して、
心ある人々の失笑を買ったそうですが、さすがはこの頃の映画界。
腐っても軍隊経験者が社会に現役だったことから、
こんな無茶苦茶な喜劇でさえも、抑えるところは抑えています。
まあ、海軍大将が門を一人で入っていく状況が実際にあったのかとか、
その時にも喇叭譜は演奏されたのかとか、色々不思議な点はありますが。
喇叭譜が響く上海陸戦隊・・・・。
と言いたいところですが、どう見ても上海の建物じゃないよね。
皆が立ち止まって敬礼する中、腰のポケットをチクタク言わせながら、
ただ歩いていく山下三等水兵。
真っ先に気がついたのは山下の親友、桑田三等水兵でした。
「班長殿、あの大将は山下であります!」
「あれ・・このやろー!」
「こら山下!ふざけやがって!」
鬼の軍曹は山下を怒鳴りつけますが、その時、
新任の隊長中川大佐が飛んできて軍曹を逆に叱りつけました。
二日前転勤してきたばかりの大佐は、水原大将の顔を知らないのです。
叱責された千葉軍曹は慌てて大佐に、
「この男は山下三等水兵であります!」
と言いますが、中川大佐、聞く耳持たず。
「無礼者!閣下の軍服が目に入らぬか!」
「えっ・・・」
中川大佐は水原大将だと思い込んでいる水兵に向かって、
「閣下、御無礼を申し上げました。
してご用件は何でありますか」
「ソウイン、シュウゴウセヨ」
「はっ!」
♩ソドドミド〜〜〜ソドドドミドドドソドドドミド〜
爆発予定時刻まであと3分。
山下の同僚の水兵たちは皆ざわつきます。
「あの大将山下じゃないのか」
「山下だよ」
「じゃなんで敬礼しなくちゃいけないんだ」
そこで桑田水兵が一言。
「それは大将の軍服を着てるからだよ」
それはある意味至言・・・なのかな。
「大将閣下に奉り、かしら〜なか!」
「んぐ・・あ。」
挙動不審すぎる海軍大将。
何を思ったかその場を立ち去って行きます。
「?」
悪党の本部では爆破のカウントダウンが始まっていました。
爆発まであと1分。
水爆が爆発したら君らも確実に死にますけどね。
そこに、いきなり陸戦隊から姿を消した山下が
ばーん!と戸を開けて、
「陸戦隊は全員集合したんですが、後がわからないから帰ってきました」
「ひいいいいい〜!」
山下の上着を奪い取り、窓から下に投げたら、
そこはキャバレーの客席で、まだ水原大将が気持ちよく寝ていました。
上着は持ち主の元に帰ったというわけです。
それで目が覚めた水原大将、我に帰って、
「しまった!山下を助けなければ!」
ここで上着を持った大将と悪者一味のドタバタ追いかけっこが始まり、
このどさくさで壁で頭を打って正気に戻った山下でした。
それにしてもなぜ爆発しないのか。爆弾。
山下に向かって、
「ちょと上着見ちてくれまちぇんか?」
「どうぞどうぞ」
1時間、セッティングを間違えてたことがわかりました。
その時です。
中華街に・・・じゃなくてナイトクラブ前に、
上海陸戦隊の一個小隊がトラックで乗り付けました。
葛城中尉率いる上海陸戦隊が救出にやってきたのでした。
水原大将、何とか連絡をとったものとみえます。
杉浦大尉、葛城大尉、巴静子、そして桑田三水も駆けつけて、
救出作戦はあっさりと終了し、一味は一網打尽となりました。
そして年が明けました。
水原大将が訓示を行なっております。
そしてなぜか死んでもいない山下三水に、
二階級特進の栄誉が与えられる運びになりました。
海軍大将が訓示の時に腰に手を当てるのはいかがなものか。
新隊長はじめ杉浦大尉、葛城大尉、巴静子も顔をそろえています。
訓示が行われているのはどこかのビルの屋上で、
後ろに見えている風景はどう見ても戦後日本。
一筒、二萬、三竹、水原大将の3人の妾さんまで勢揃い。
今回の活躍のご褒美に、山下は、二階級特進だけでなく、
今日「一日大将」となることを許されました。
「海軍大将山下敬太郎閣下の号令のもとに、
祖国日本の方角に向かって新年の敬礼を行う!」
「日本全国の国民諸君に対し、ささげー」
「つつ!」
この年のお正月、この映画を見た人は、
さぞかしこの馬鹿馬鹿しいお笑いを楽しんだことでしょう。
そして、この種のパロディが許される世の中になったことを以て、
戦後を肌で感じ取ったのではないでしょうか。
終わり。