ミシガン州マスキーゴン湖に係留展示されている
潜水艦「シルバーサイズ」内部紹介、前回までに
第二区画となる「フォワードバッテリーコンパートメント」、
通称オフィサーズ・アイランドまでが終わりました。
前方から入って行って後方に抜けるこの見学順路に沿って歩くと、
区画を区切る2番目のドアが現れます。
この二つ目の水密ドアを潜りますと、
次はいよいよ、この部分となります。
ボートの真ん中に当たるコントロールルーム、
そしてその上に位置するコニング・タワーです。
■ コントロール・ルーム
まずは制御室、コントロールルームからです。
計器、ゲージ、スイッチ、およびバルブの塊が全体を埋め尽くす部屋、
それが制御室であり、ここでほとんどの艦体制御が行われます。
コンパートメントの大きさは長さ20フィート、幅約10フィートで、
両側を水密ドアで仕切られています。
潜水艦の中央近く、ボートの上にあるフィン型の構造物、セイル。
コントロールルームはこの真下に当たります。
「コントロールルームは、複雑な機械や装置を愛するすべての人に、
暖かくてファジーなフィーリングを与えます」
(『シルバーサイズ』パンフレットより)
まあ確かにそういう人もいるでしょう。
このゾーンで他の見学者とバッティング。そして、わたしは彼らとバッティングして遠慮しまったことで、
このパネルの向こうの写真を詳細に撮ることを忘れてしまいました。
痛恨のミスです。
ここには2基の直径18インチ、高さ2フィートのジャイロコンパスがあり、
ここからボート全体のレピータに情報を伝達しています。
ラダーウィール(かろうじて左端にジャイロが見えている)
コンパートメントの前方先端、艦首側は、あたかも
窓のないアナログ時代の飛行機のコクピットです。
操舵を担当する乗組員は、任務の際、この直径3フィートの舵輪
(または上のコニングタワーの舵輪)の前に立ちます。
彼の前には、ジャイロコンパスレピータ、速度を表すピトーメータ、
動力指令を操縦室に伝えるロータリーエンジン指令電信機、
深度音響機、その他のガジェット、チューブ、ワイヤーがあり、
何の気なしに訪れた見学者を完全に混乱させるでしょう。
(とパンフに書いてある)
右端にかろうじて見えているジャイロコンパス
この部分を「ダイブ・ステーション」と称します。
大体左舷にあることが多いようです。
舵輪からすぐ右下側に目を写してみましょう。
ずらりと真鍮のハンドルが並んでいますが、これは
油圧バラストタンクのベントを行うバルブです。
潜水艦では「ベントを行う」イコール「バラストタンク注水」です。
バルブは、引くことでオープンポジションになり、
バルブが開くと、同時にバラストタンクの上部の空気が抜け、
そうするとタンクの底に水が入るという仕組みです。
通称「クリスマスツリー」
そのレバーの上、舵輪の右側をご覧ください。
緑と赤のインジケーターライトのパネルがあります。
このスイッチは、それぞれが潜水艦の各ハッチ、
または開口部にあるマイクロスイッチに接続されています。
これらのインジケーターは、開口部が閉じているかどうかを見るもので、
このパネルを一眼見ただけで、ダイビング・オフィサーは、
艦の全てのドアとハッチが閉じられ、潜航の準備可能かがわかるのです。
ただし、これはハッチが開いていることを警告する役目しか持たないので、
これでボートの水没が防げるわけがありません。
万が一にも、ライトの豆球が切れて状況を把握できないまま
敵機襲来が来て急速潜航することにでもなったら大変ですから、
スイッチの通電状態はきっと毎日チェックされたものと思われます。
そして、緑と赤のランプから、いつの頃からか、この設備は
🎄「クリスマスツリー」🎄
と呼ばれるようになったということです。
実際に哨戒中にクリスマスを迎えたこともある、「シルバーサイズ」。
その夜のレッドアンドグリーンライトは、故郷のクリスマスツリーを思わせ、
乗員たちの郷愁を一掃掻き立てたことでしょう。
知らんけど。
左舷側のもう少し後方に、舵輪のような二つのウィールがあります。
これで、艦首と完備にあるダイブプレーン(潜舵)を
航空機のテールよろしく上下に傾けて艦の動きをコントロールします。
ちなみに、舵輪、潜舵、バラストタンクのベント。
これらは全て油圧式となっています。
潜舵を操作するのは二人の操舵手で、
彼らの前には三つの大きな深度ゲージ、
まるで大工が使うような泡水準器などの計基盤があります。
これらの手の込んだ?大仰な機械類について、博物館の説明は
「ルーブ・ゴールドバーグが自慢しそうなほどの付属レバー」
としているのですが、Rube Goldberg Machine、
これは何かと言いいますと、アメリカの
「ピタゴラスイッチ」とお考えください。
というか、「ピタゴラスイッチ」が実はNHKのオリジナルなどではなく、
こちらが本家だということはあまり知られていません。
わたしも知りませんでした。
Inside the Book: Rube Goldberg | The New York Times
そこであらためて「ルーブ・ゴールドバーグマシーン」の定義とは。
普通にすれば簡単にできることを、あえて手の込んだからくりを多数用い、
それらが次々と連鎖していくことで実行する機械・装置のこと
です。
前置きというか関係のない説明をくどくどと行いましたが、
潜水艦のコントロールルームにある、「ルーブ・ゴールドバーグ」的マシン、
その一例が「ネガティブ・タンク」であるということが言いたかったのです。
そもそもなぜ「ネガティブ」なタンクなのか。
その稼働の過程とは以下の通り。
→ネガティブ・タンクをオープンする。
→内部が水で満たされる。
→するとそれで負の浮力が発生する。
→ボートが引き下げられる。
→当然潜水の速度が早められる。
というわけで、これを負の浮力を発生させる=「ネガティブタンク」
と称するわけです。
日本語のウィキだと、ネガティブタンクのことは
「メインタンクの補助用の浮力微調整用小型タンク」
とだけなっていますが、このピタゴラ的説明の方が
名前の由来が分かりやすくていいですね。
潜舵コントロールの後方には、トリムバラストタンクにつながる
水バルブのマニフォールド(内燃機関の吸排気をする)があります。
これでボートの前部及び後部に水を送り、艦体のバランスを調整します。
二つの潜舵のこちら側には鋼鉄製の梯子が見えていますが、
梯子は部屋の中央にもあります。
コントロールルーム(制御室)の真上のコニングタワー(司令塔)には
中央にあるラッタル(はしご)からアクセスします。
この後方にあるのが、艦内の装備でも最も重要な、浮上ステーションです。
美しく完全に磨き上げられた真鍮の空気圧ゲージの列。
全てのバラストタンクと空気貯蔵庫の圧力を示します。
その下にはバラストタンクに高圧空気を入れるためのエアバルブがあり、
空気を入れることで、水を排出し艦をを浮上させます。
上部にも同じような磨き上げられた真鍮のパイプがあり、こちらは
低圧の空気をタービンブロワーからバラストタンクに導きます。
ブロワーはボートが水面にあるときに、
タンクから水を吹き飛ばすためのもので、
これによって圧縮空気の使用を節約することができるのです。
レーダー電子機器のラックがこのコンパートメントの後端の中央にあり、
ここが無線室となっています。
巨大な黒い無線送信機と受信機が、小さな机の周りに配置されています。
■魚雷起爆装置
ここで、見学中のわたしには気が付かなかったのが、天井です。
コントロールルームの天井こそ、重要な装置が満載だったのですが。
現地のパネルの一部にはその写真もありましたが、ご覧の通り。
ここには、インターコムやロラン無線ナビゲーションシステムなど、
さまざまな電子機器や機械制御装置が詰め込まれています。
そして、古びたコーヒーの缶そっくりの赤い円筒には、(どれ?)
魚雷の起爆装置があるのです。(だからどれ?)
コントロールルームの床にはグリッドのハッチがありますが、
これは下のコンパートメント、ポンプ室に通じています。
制御室の地下にあるポンプ室
この部屋の非常に狭い空間には、二つの3,000psi 空気圧縮機、
冷却及び空調コンプレッサー、二つの低圧ブロワー、
ビルジポンプ、トリムポンプ、油圧ポンプなどがあります。
潜望鏡のある位置の底部は、ネガティブバラストタンクの上になります。
ちなみに「シルバーサイズ」博物館の説明には、
この空間は、閉所恐怖症には絶対に適していません。
とありますが、そもそも閉所恐怖症は潜水艦に乗ってきませんよね。
続く。