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クルーズ・メスとグルメな潜水艦〜潜水艦「シルバーサイズ」

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潜水艦「シルバーサイズ」の内部を前部から順番に紹介しています。
コントロールルームとその上部のコニングタワーまで来て、
(コニングタワーは公開していないことが分かりましたが)
4つ目の区画、それはアフター・バッテリー、通称クルーズ・メスです。

後部バッテリーと言いながら、こうして見るとここは
艦体のほぼ真ん中にあることがお分かりいただけるかと思います。
士官居住区であるオフィサーズ・ワードを取り上げたとき、
実はここが潜水艦の心臓であるバッテリーの上にあって、
その正式名称は「フォワードバッテリー」であること、
バッテリーの上はとりあえず重要な機器を置く必要がないので、
人間が「住まわせてもらっている」のが潜水艦であることが分かりました。

というわけで、今回のは後部のバッテリーです。
司令塔とコントロールルームを挟んだこの艦底部分に、
400個のバッテリーの半分があるので、正式名称はこちらも

「アフター・バッテリー」

その上の部分に乗員の居室を「置かせてもらっている」
ということも、もう説明する必要はないでしょう。

クルーズ・クォーターズ(Crew's Quarters)はいわば
ボートの中の「ホーム」というべき部分です。
鉛蓄電池のセルの上にプラットフォームデッキが置かれているので、
テクニカルな名前こそ「アフター・バッテリー」なのですが。

潜水艦のこのセクションは、制御室(コントロール・ルーム)の水密ドア、
そして前部エンジンルームの水密ドアの間と定義されます。

コンパートメントで言うと、前から4つ目となります。



これは「その辺り」の壁です。
壁に貼られたプレートの上には「バルクヘッド」(防災隔壁)とあります。

興味深いのは下の十字のプレートですが、
十字の縦部分に「センターライン」と記されているのです。

これはつまりボートのちょうど半分の位置を表しているのでしょうか。
なぜここがセンター、ということを厳密に記す必要があるのか。

重量の配分の関係かな?
■クルーズ・ギャレー(乗員用キッチン)



最初に現れるのが、ギャレーです。
このステンレススチールだけでできた区画は、
どんな小さなアパートのよりも、さらに狭い厨房です。

まあ、現地の説明にはそんなふうに書かれていますが、これは
アメリカを基準にしており、日本の住居でこれくらいは普通だと思いました。

わたしが結婚して、最初に東京山手線内で借りた家のキッチンは、
横に細長くて、人がすれ違うことすらできなかったのですが、
少なくともここは、作業をしている人の後ろを通ることくらいできます。

そして、ここには二人のシェフとパン焼き職人
(別名:毎日シャワーを浴びられる人たち)3人が働いていました。

何しろ、四六時中24時間、80名の乗員の誰かしらが
ものを食べたり、コーヒーを飲んだりするのが潜水艦です。

ただでさえ乗員の士気を落とさないように、
食べ物はふんだんに積まれているという、アメリカの船の中でも
まあ言うたら特殊な環境でしたしね。

3人の厨房係は、この、ほとんど電話ボックス3つ分の職場で
それこそ休む暇もなく、食べ物を提供し続けました。


前にもなんとなく挙げたこの写真のアフリカ系水兵さん二人。

実は彼らは「シルバーサイズ」で働いていた
3人のスチュワードのうちの二人です。

アンダーソン・ロイヤル(Anderson Royal)写真左

ウィリアム・レイピア(William Rapier)

1942年の第二次と第三哨戒の間に、真珠湾に停泊した艦上、
3"50口径デッキガン(甲板砲)の前で撮影した写真です。
このとき写っていないもう一人のスチュワードも、

ハーバート・オドム(Herbart Odom)
というアフリカ系アメリカ人で、この三人はある意味有名人でもありました。

1940年代には、人種隔離政策(Racial segregation)がアメリカでは存続していたので、艦艇乗組のアフリカ系の海軍要員は、
通常、食堂のスチュワードのような役割に任務が限定されていました。

もちろんスチュワードは潜水艦に不可欠のメンバーですし、
そもそも潜水艦乗組員は、たとえスチュワードであっても、最低限、
艦内の全ての任務について大雑把な知識を持っている必要がありました。

非常時のみならず、彼らは電話を操作し、魚雷を搭載し、
見張りの任務の順番にもちゃんと組み込まれていたのです。
「シルバーサイズ」においては、19歳だったアンダーソン・ロイヤルが
(しかしロイヤルっていうこのファミリーネーム凄すぎね?)
日本の軍艦に対する水上魚雷攻撃を行ったとき、
トラッキングを行って、艦の成績に貢献し、その後彼は
「ドルフィンマーク」の資格を取得していますし、
オディムは配置についた魚雷発射管で日本船を撃沈したこともありました。

ギャレーをもう少し詳細に見ましょう。

床はおそらく改装されて、別のものに変えられていると思いますが、
いずれにしても当時もこのような滑りどめの模様があったでしょう。

中のゴミを捨てたばかりらしいゴミ箱もありますが、
これは週末のお泊まりキャンプで出たらしいゴミの捨て場所です。
中で飲み食いしないのになぜゴミが出るのかわかりませんが。


潜水艦のキッチンでは、大量の料理を作るのに、フライパンは使いません。

右側の鉄板は焼き物、炒めものを作るためのグリル。
このグリルそのものがフライパンとして機能するというわけです。

酸素を消費する火を使うのはご法度なので、オール電化キッチンです。
ところで、最近人から、オール電化にしてしまったお家の人が、
一人暮らしなのに最近の電気代値上げで電気代10万越え、
という恐ろしい話を聞いてしまいました。

わたしは火がガスかどうかで食べ物の味(とくにご飯な)
が変わると固く信じているので、そもそも
オール電化など頼まれても選択しませんが、
こんなご時世になると、大変だなと思います。

キッチンで使わずとも、暖房やIT関係で死ぬほど使う電気、
これが今年の6月にまた値上げになるなんて、
地球どうなってしまうん?と心配になってきます。


閑話休題。
このグリルですが、直接炒め物をするだけでなく、
網のようなものを載せて料理できたようです。

グリルのサイドにはそういう器具を装着するためのスリットがあります。

80名の食事を作るのに、水道管が一つしかないのが潜水艦のギャレー。
ちなみに「シルバーサイズ」にはアイスクリームメーカーもあったとか。
アイスクリームはアメリカ人の士気の源ですからね。
(公式にもそれが認定されていたという)



グリルとグリルの間にも何やら熱が出そうな器具が・・。
シチューなどの鍋を乗せるためのコンロかもしれません。

グリルの下にあるにはオーブンかな。
コンロの横には、一度に4枚が焼けるトースターもあり。

キッチンの上部には一応小さな扇風機があります。
時計は10時を指して止まっていました。
■クルーズ・メス(乗員食堂)


ギャレーに隣接して、小窓でつながっているのが乗員食堂。
クルーズ・メス、クルーズ・ダイニングといわれるところです。
居住空間にはテーブルが4つしかなく、6人しか座れません。
どんなに詰めても、同時に24人しか座れないのですが、よくしたもので潜水艦で全員一緒にご飯を食べることなどないので無問題。
ギャレーの床のハッチを開けると、そこは冷蔵貯蔵庫と武器弾薬庫。
ジャガイモと弾薬が一緒にあるわけですね。
甲板砲の弾薬の貯蔵場所で、ここから甲板に弾薬は手で運ばれます。

逆にギャレーの頭上は、メインの吸気バルブと人間が呼吸する空気を
供給する廃棄バルブのコントロールシステムがあり、
これはボートが浮上すると、開きます。
上部から突き出た大きなパイプは、
長さ3フィートの甲板砲の弾薬を上面に移動するための導管となります。


これを「ポテトハッチ」というのですが、甲板につながっています。海の中ではもちろんどちらもハッチは閉じてあります。


これはクルーメスの左舷壁となります。
反対の右舷側にも、これと同じ大きな折り畳み式の回転ハンドルがあり、
これは安全バラストタンクのフラッドバルブを手動で制御します。
そして、食べ物!

潜水艦部隊に所属する、最も有難い理由の一つがそれです。

閉所恐怖症を克服し、澱んだ空気に耐え、
常に敵の存在にピリピリしていなくてはなりませんが、
とにかく潜水艦の潤沢な食べ物は、若い彼らには大変な魅力でした。

そこで出されるのはプライムリブステーキ、照り焼きステーキ、
シュリンプクレオール、ロブスターニューバーグ風、そしてピザ。
いうまでもなく、獲れ獲れの新鮮な魚。

魚はわざわざF作業(自衛官のあなたならご存知ね)しなくても、
潜水艦が浮上した後、甲板に乗っかっていたりします。
デザートに至っては、フランス風の滑らかなチーズケーキ、
チョコレートケーキ、乙女心をくすぐる素敵なプリンに、
艦内のアイスクリームメーカーで作ったばかりの新鮮なアイスクリーム。

食事と食事の間には、お好みならサンドウィッチがいつも食べられますし、
温かいコーヒーももちろんのこと飲み放題。

わざわざ積み込まれた60ガロンものコーク・シロップから、
コーラを作る機械で、ソーダもいつでも飲むことができました。
キッチンこそこの狭さですが、食べ物に欠くことはなく、
欲しければいくらでも制限なしになんでも食べられるのが潜水艦です。

パトロールに出発するときには、文字通り艦の隅々まで
極限に至るまで食べ物が詰め込まれているのが常でした。

パイプの間にはぎゅうぎゅうに詰め込まれた麺とパスタの箱。二段ベッドの下と通路の裏にはこれでもかと食品の缶詰各種。
エンジンの後ろにさえ、そこには小麦粉の袋が搭載されていました。

そして、ハッチを開けた床下の冷凍庫と二つの冷蔵室は
いうまでもなく限界までぎっちりと、食べ物が詰め込まれていました。
それでも、ついついしてしまうのがつまみ食い


第10回目の哨戒中、レコードで楽しむ乗員たち。

クルーズ・メスは乗員たちは食事をするだけの場所にあらず。
交流によって互いの親睦が大いに深まる生活の基点でした。
彼らは将校たちのように個室を持っていませんから、
手紙を書くのも、クリベッジやトランプをするのもここに来ます。
クリベッジというゲームは聞き覚えがないでしょう。

これは、畏れ多くもアメリカの潜水艦において、
「公式な」娯楽として特別な位置を占めるトランプゲームです。

やり方は興味のある方だけリンク先を見ていただくとして、
このゲームにはスコア用のボードが必要とされるのですが、

アメリカの太平洋艦隊で最も古い現役の潜水艦の司令官室には、
第二次世界大戦時の司令官である、あの
リチャード・オケインも使用していたクリベッジボードが置かれている。
このボードは、最も古い潜水艦が退役するときに、次に古い現役の潜水艦
(即ち新たに最古参となる潜水艦)に引き継がれる。(wiki)

という古式ゆかしい?ゲームだそうです。

そして、乗員たちはクルー・メスでおしゃべりしたり、ラジオを聴いたり、
写真のようにレコードを聴いて過ごしました。

おそらくクリベッジプレイ中

まあ、せめてこんな楽しみでもないとね。
何しろ潜水艦ですから。


続く。

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