主演ケイリー・グラント本人はコメディ性を高く評価していたものの、
あまりにも設定(女装)が衝撃的すぎて、
世間の評価は散々だった問題作、「僕は戦争花嫁」後半です。
さて、散々苦労してようやくドイツ語、英語、フランス語による式を挙げ、
晴れて神のみ前では夫婦となった軍人カップル二人。
アメリカ軍の宿舎で結婚初夜を送ろうとしたそのとき、
無粋にも部隊に移動命令が出てしまい、追い出されて寝る場所がなくなり、
仕方がないので新婦同僚の部屋に泊まることになりました。
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新婚初夜に同僚と一つベッドで布団を取り合いながら嗚咽する花嫁。
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新郎のアンリはバスタブで寝るということに。
190センチの大男にはこれはきつい。キツすぎる。
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眠れぬ夜を過ごし次の朝、痛む体をギクシャクとさせながら、アンリのビザの件を領事館に申告にいきました。
しかし領事は、移民枠が実質上もうないので、
この際「戦争花嫁法」パブリックロー271を適用させようと言い出しました。
「戦争花嫁法って・・妻はアメリカ人ですよ」
「奥さんでなくあなたを花嫁ということにするんです」
書類では配偶者の欄で性別が問われていないので、この際
ロシャールが花嫁ということにすればいい、と領事。
アンリは必死で抵抗しますが、それしか方法がないので仕方ありません。
さて次は移民局に書類の提出です。提出のためには担当部署に行って書式に書き込んでもらうわけですが、
この担当官というのが明らかに面白がって、ニヤニヤ笑いながら、
書面通りにありえない質問をしてくるわけです。
絶対楽しんでるだろこいつ。
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「・・じゃひとつめです。あなたは妊娠してますか?」
「Ah -ha.」
「”はい”、と・・・で、今何ヶ月ですか」
「20ヶ月」
「何らかの・・何らかの婦人系疾患はお持ちですか」
「あるように見えますか」
「ぶふっ・・では出産の経験はありますか」
「つわりが酷くてね。であなたのときはどうでした?」
おもちゃにされているのに憮然として、せめて嫌味で返しますが。
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しかし、これですむわけがありません。
この後窓口に立って書類を出すたびに「ロシャール夫人」(書類上)は
自分が「陸軍が妻と認めた男」である説明を繰り返す羽目になります。
理解力のある人ばかりならいいですが、必ずしもそうではないのが世の常。
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移動の交通機関を待っている間には、アメリカ側から
「お客様」である外国人花嫁に、ちょっとした生活情報が提供されます。
曰く、売店には口紅ヘアネット靴下止めファンデがあり、
現在アメリカで最先端の髪型はベリーショート、スカートは長め、
ヒップのラインを強調するものでバストラインも自然がトレンド云々。
隣にいた見ず知らずの母親に赤ちゃんを預けられ、
膝に抱きながら「ロシャール夫人」がいちいちそれに反応していると、
アナウンスがあり、渡米する船にのるため港に出発する時間になりました。
バスに乗っている男性は運転手以外アンリだけ。
キャサリンとは到着地で合流です。
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かくして戦争花嫁たちと一人の戦争花婿を乗せたバスは港に到着しました。
ところが戦争花嫁用の宿泊施設は、花婿の宿泊を想定していません。
犬や猫なら泊まれるのに、男性はダメと厳しく撥ねつけられ・・・、
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そこのWACに提案されて、陸軍士官用宿泊所に行ってみましたが、
こちらはアメリカ軍の施設であるからして、自国軍士官以外お断り。
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もうこうなったらどこだっていいから潜り込んでやれ、
とその辺を歩いている二等兵を捕まえて、窮状を訴えて同情を買い、
兵舎のベッドに潜り込ませてもらう約束を取り付けました。
「ああ〜助かったよ・・・君の実家はどこ?」
「ブルックリンです」
「アメリカに行ったら絶対訪ねるよ!」
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ところがそれもすぐに上にバレて、追い出されることに。
泊まるところがない、と涙目で訴えるアンリに、兵舎警衛の軍曹は、
「家族用宿舎に泊まればどうですか?」
「だからそこを追い出されてきたんですってば」
「でも軍人はドイツのホテルに規則で泊まれませんよ」
「だからどこに行けば」
「わかりませんがとにかくここには」
アンリ「泊まれない」警衛「泊まれない」(シンクロ)
堂々巡りです。
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最終的に彼が辿り着いたのは陸軍女性軍人用宿舎。
「私はアメリカに帰還する女性軍人の外国人配偶者ですが、
パブリックロー271で決められているのに、泊まる場所がないんです!」
女性用官舎でいきなり立板に水の説明をしたところ、
夜間の受付に座っていた女性軍曹は同情してくれて、
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毛糸の巻き取りを手伝わせながら朝まで話を聞いてくれました。
女性軍曹も退屈な夜番の時間が潰れるし、毛糸も持ってもらえて皆ハッピー。
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さて、長かった夜にも明ける朝がやってきます。
岸壁にはアメリカに戦争花嫁たちを運ぶ船が待っていました。
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あとは船に乗りさえすればいいのですが・・。
まず、最初のボーティングチェックで
この船には女性と軍人しか乗ることはできない、と止められます。
「書類に僕の名前はあります」
「ロシャール『夫人』と書類にありますが」
「それが僕です。僕は戦争花嫁で、彼女は妻」
「お、おう・・」
押し問答の末、案外簡単に陸軍のチェックは突破しましたが、
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海軍の水兵さんたちはそんな簡単じゃないよ?
特に陸軍が絡むとね。
まず通り過ぎようとしたアンリが押し戻され、お約束の、
「この船には軍人と女性しか乗れません」
「はいはいわかってますよ、ロシャールと申します。
戦争花嫁ならぬ花婿です。話せばわかる」
「それはどうかな。『ロチャード夫人』はどこにいるんですか」
「ロシャ〜〜〜ルだ。僕がロシャールだ。
第一ヘンリーという名前の女がいると思うか」
「部屋は他の花嫁や子供と相部屋ですよ」
「それは困る。変更してほしい」
「変更はできませんな」
ここでアンリ、海軍の水兵に言ってはいけない一言を言ってしまいます。
「たった今、下で陸軍に説明して通してもらったんですが」
「陸軍が理解してあなたを通したと・・・ほう、それは素晴らしいですね。
貴様ら聞いたか、陸軍は物分かりがいいそうだ。
だ が こ こ は 海 軍 で す か ら」
「陸軍とは何週間も交渉してきた。(キャサリン:『ヘンリー!』)
もう僕にはアメリカ合衆国海軍との交渉も用意できてるぞ」
「そうですか!
アメリカ合衆国海軍も、あなたと戦う用意はできてますよ、ミスター。
では、この御仁に下船していただけ」
「ちょ、ちょっと待って!
だからヘンリーなんて女の名前聞いたことあるの?ないでしょ?」
「ああ、ヘンリー・ヤラー、サンフランシスコのパウエルストリートだ」
適当なことを確信的に言ってんじゃねえ(笑)
ちなみにパウエルはケーブルカーの通るストリートです。
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ここですっかり嫌気がさしたアンリ、アメリカ行きも諦めかけますが、
キャサリンの必死の説得で、ある作戦を試すことにしました。
とはいえアンリ、キャサリンが何をしようとしているのかわかってません。
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彼女は港から歩いて行けるところにあった厩舎にアンリを連れて行きます。
かくなるうえは彼を書類同様「夫人」に見せるために馬の尻尾で鬘を作り、
女装させてとりあえず入口を突破すればこっちのものと考えたのでした。
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WACの制服は、たまたまキャサリンが預かっていた
別のWACのトランクから一式拝借してあります。
(190センチの男にぴったりの制服を着る女性って一体)
「口紅も塗る?」
「いや、僕はアウトドアタイプだ。シービスケットみたいな」
このセリフは日本語字幕には翻訳されていません。
映画公開時、映画にもなったあの競走馬シービスケットは死没したばかりで、
話題になっていたことから、台詞に取り入れられたのでしょう。
シービスケットがいかに伝説の名馬だったかがわかります。
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カーラーもトランクに入っていたので、セットしていざ出陣。
「喋らないで黙っててね」
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慣れないスカート歩行でストッキングがずり落ち、治していると、
水兵さんたちにヒューヒュー!と口笛吹かれたアンリ、
「聞いた?僕モテてるよね」
「バカ言わないで。わたしに吹いたのよ」
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まずは陸軍のゲート。
「もうチケットのチェックは済んでるから入るわよ」
スタスタスタ
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「はて?大きな方に見覚えがない」
「強烈な顔なのにおかしいな」
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いざ問題の海軍のゲートへ、リベンジアゲイン。
「おかしいな。ロシャールなんて軍の名簿にない。中尉なのに」
「記載漏れかも。夫は海軍大将よ。アドミラル・ロシャール」
「・・・誰?」
「まさか提督を知らないっていうの?それは問題ね!」
「レッド、もちろん知ってるよな?」
「あ、ああ、多分あの・・・。思い出した。どうぞ」
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彼女?らの後ろ姿を見送りながら、レッド、
「・・・海軍大将に同情するぜ」
「でも脚は綺麗だよ」(本当)
「今はお前にも同情するぜ」
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乗艦に漕ぎ着け、キティ中尉(コネ出演)と今後の策を相談していると、
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その時運悪く、急患が発生してしまい、看護師の制服を着ていたアンリ、
オペ室に連れて行かれてしまいました。
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急患といっても、陸軍の男がアメリカに連れて帰る妻が産気づいたのでした。
しかし、このどさくさに出航してしまえばこっちのものです。
しめたとばかり、キャサリンは、
「あなたの赤ちゃんに感謝するわ」
「本当?ありがとう」
そうして船は岸壁を離れました。
うまくいったとキャサリンがほくそ笑んでいると、
シックベイで気分を悪くし、偽看護師であることがバレたアンリが、
艦長につまみ出されて出てきました。
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そして舷門の水兵、レッドに見つかってしまいました。
「やあ、フローレンスさん」
しかしもう船は出航後。
何の問題も・・・・ないはず。
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一人で船室に待機させられていたアンリ、腹立ちまぎれに
船窓からカツラを力一杯投げ捨てました。
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戻ってきたキャサリンは、士官と従軍司祭を連れていました。
「もう結婚式の必要はありませんが(3回やったし)」
しかしそうではなく、士官たちは、ロシャールが正式に
アメリカに帰る女性軍人の外国人配偶者と認められた、
ということを、公法271号の元に宣言しにきたのでした。
っていうか、それじゃ今までのは何だったんだって話ですが。
「艦長があなたに落ち度は全くないと申しております」
やっとか。やっとだな?
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男性士官と同じ部屋をお取りしましょうか、という彼らを追い出し、
アンリは外側から開ける部屋の鍵をカツラ同様窓から捨ててしまいました。
「外に出られなくなったわ」
「これで二人っきりだ。自由の女神が見えるまで」
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めでたしめでたし。
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自由の女神が見えましたが、二人は食事はどうしたのでしょうか。
映画のテーマが異色で、着眼点が他にないものであるだけでなく、
そのユーモアのセンスは立派に今日も通用するものです。
主演のケリー・グラントがこの役を大いに気に入っており、
「わたしが出演した中で最高のコメディ」
と呼んでいたというのが、またいいではないですか。
きっと女装を含め、撮影は思いっきり楽しかったんだろうな。
もちろん、本作品に対しては、肯定的な意見を上回る、
「圧倒的な駄作」という評価も雨霰のように降り注いでおりますが。
わたしはというと、全く期待しないで観始めた映画だったのですが、
正直、何回か声を出して笑ってしまったくらい楽しめました。
もしこの作品を見るという稀なチャンスがあれば、
ぜひこの時代のほのぼのしたお笑いを味わってみてください。
それにしても、今回わたしが一番驚いたのは、ケーリ・グラントの演じた
アンリ・ロシャール大尉にはモデルがいたという史実です。
そのモデルというのは、ニュルンベルクとダッハウの戦争犯罪裁判で
ベルギー政府の連絡係を務めていたベルギー陸軍少佐、
ロジェ・アンリ・シャルリエという人だったのですが、
彼は現地でたまたま車の事故に遭い、アメリカ陸軍病院に入院した際、
そこで未来の妻となるアメリカ陸軍の看護師、
マリー・ヘレン・グレンノン大尉に出会い、恋に落ちたのでした。
シャルリエ少佐は、退院すると同時に、ベルギー陸軍からも退役し、
米国陸軍省の民間人としてニュルンベルクに戻ったのだそうです。
詳しくはわかっていませんが、シャルリエ少佐とグレンノン大尉も
この二人のような・・とまではいかずとも、それなりに苦労の末、
(前例がないですから)結婚生活を手に入れたのでしょう。
彼らがアメリカに渡ったかどうかは記録に残っていませんでしたが、
「ハッピリー・エバーアフター」だったことをお祈りするばかりです。
終わり。