MSIのU-505関連展示より、前回に続き、
艦内から見つかったいわゆる「戦利品」についてです。
■ 徽章など
階級章
無線室や管制室で働く下士官が付けていた記章です。
錨のマークに「無線」を表す矢印があしらわれたデザイン。
16)名誉の負傷バッジ
Verwundeten -Abzeichen
アメリカ軍の「パープルハート」に相当する名誉バッジです。
ドイツ軍では傷の重症度に応じて、黒、銀、金がありました。
このバッジは赤ですが、黒を上から塗ってあります。
本人が塗ったのか、渡す側が物資不足のおり、急拵えしたのかは謎です。
また、これを持っているということは、海軍に入る前、
持ち主がヒットラーユーゲントにいた、ということを意味しているそうです。
17)無線オペレーターのパッチ
二つ重ねたVと「電気」を表す雷状矢印。
これはU-505の乗員が着用していたものですが、
彼はアメリカ軍のA.スピロフに、
タバコ一箱と引き換えにこれを渡したということです。
捕虜と接触したアメリカ人が戦利品を本人にねだる、という図は
相手が日本軍であった場合にも多々見られました。
18)認識票
小さな楕円形のIDディスク(認識票)は、大きなドッグタグ状。
給料明細書の裏表紙に取り付けられていたそうです。
給与を管理するために会計の方で預かっていたのでしょうか。
このタグの持ち主は、Ewald Thorwestenという人で、
タグそのものは半分で二つに折れる仕様であることがわかります。
19)ベルトバックル(左下)
裏側のフックを艦上で修理した跡があるそうです。
なぜ艦上でやったかわかるのかは謎ですが。
ドイツ第三帝国のワシのマークの周りに書かれている文字とその意味は、
「GOTT MIT UNS」=神は我々と共におられる
20)肩章
ナビゲーターのアルフレート・ライニッヒが着用していた肩章。
21)階級章
U-505コントロールルーム勤務の下士官が付けていた階級章。
■ バッジ
22, 23, 24) 銅製Uボートバッジ
Uボート乗員は、戦闘哨戒を一回完了すると、この
U-Bootskriegsabzeichen
Uボート哨戒バッジを受け取ることができました。
22と23のバッジは、銅でできており、
初期の高品質バージョンだということですが、
同じようにみえる24番の方は、板金から打ち抜かれたもので
鋳造されたものではありません。
戦争終盤にはドイツも物資不足に陥っていましたから、
特定の金属の希少性と、資源を節約していた懐事情が反映されています。
25)ドイツ軍掃海メダル
Kriegsabzeichen Fur Minesuch-
U-Bootsjagd und Sicherungsverbande
=掃海艇、対潜&補助護衛章
これらの護衛艦に乗務経験のあるものは、
Uボートに配置されるということになっていました。
26,27)Uボート乗員章(ブロンズ)
階級の上から順にゴールド、シルバー、ブロンズがありました。
モンブラン製万年筆
技術工業国ドイツは、万年筆のブランドを多く生み出しています。
このモンブランを筆頭に、ペリカン、ステッドラー、ファーバーカステル、
ロットリング、シュナイダー、ポルシェデザイン、
これらすべてがドイツのブランドです。
(わたしはモンブランはスイスのメーカーだと思っていました)
この万年筆は、U-505の艦長だった、
ハラルト・ランゲ大佐のデスクから直々に略奪?されたということです。
【レコード】
映画「Uボート」でも、その他のアメリカ映画におけるUボートでも、
Uボート乗員というのは、レコードを聴いていたイメージがあります。
なぜなら実際潜水艦における大切なエンターテイメントは音楽でしたし、
アメリカ海軍でも、ある潜水艦87枚にはレコードが搭載されていた、
なんて話もあります(よっぽど音楽好きな艦長だったんでしょうか)
U-505で見つかったレコードのうち6枚が行進曲で、
残りはポピュラー音楽と軽クラシックでした。
上から:
A面)Schön ist die Nacht(美しきは夜)
Schön ist die Nacht - Rupert Glawitsch mit Schuricke Terzett - 1938
B面)Ganz leise die Nacht(静かに夜が近づく)
A面)Spanisher March(スペイン行進曲)
B面)Der Student geht vorbei(学生が通る)
A面)Tapfere,Kleine Soldatenfrau(勇敢な小さい兵士の妻)Wilhelm Strienz - Tapfere, kleine Soldatenfrau
B面)Wenn im Tal ale Rosen Bluhn(谷間のバラ)
しかし、戦争中にUボートの乗員が聞いていた音楽を、
日本で、家にいながらクリック一つですぐに聞ける今の状況って。
あらためてすごい時代に生きてるなあと感じる今日この頃です。
■煙草
U-505からは大量のタバコが発見されました。
潜水艦でタバコを吸うときは、必ずブリッジで火をつける前に
上に許可を求めなくてはならない決まりがありました。
そのとき誰がブリッジでタバコを吸っているかは、
かならずチョークで黒板に名前を書いておくことになっていました。
33)ゴールドダラー煙草
ゴールドダラー。英語です。
タバコのパッケージには「最高のアメリカンスタイル」とあります。
アメリカのタバコは戦時中のドイツでさえ人気があったようですね。
アメリカスタイルを謳ったこの製品は、ハンブルグのタバコ会社、
アゼット・シガレット製造会社の商品です。
34)ヤン・マート煙草
「最高のオリエンタル風とヨーロピアンバージニアをブレンドした
最高のバージニア風味」
とありますがバージニアってもしかしてこれもアメリカの?
「ヤン・マートJan Maat」はドイツにおける船乗りを表す言葉です。
下)カモメ印煙草
Möveとは「カモメ」を意味します。
Uボート乗員の間で一般的だった銘柄です。
ドイツ占領下であったポーランドのクラクフで製造されています。
リームツマ(Reemtsma)R-6煙草
R-6というこのタバコは、大変「強い」ことで知られていました。
湿気の多いUボート艦内では、煙草を乾いた状態で保つのが困難だったため、
乗員たちはバラバラにしたタバコをブリキ缶に詰めて、
ハンダ付けして封をし、吸う直前に缶を切る努力を惜しみませんでした。
ニル煙草
ミュンヘンにあった「オーストリアタバコ工場」の製品です。
他のパッケージよりちょっと高級な感じがします。
オーバル4 ペンニッヒ煙草
パッケージにある「Pst!Feind hort mit」という警告は、
吸いすぎはあなたの健康を害する・・・ではなくて、
「静かにしてください。敵は常に聞いています」
防諜メッセージでした。
マッチ
左)セキュリティストームマッチ
風が強いなどの困難な状況でもつけられます、というのがまんま商品名。
右側の「モーレンルシファース」マッチは、
捕獲後のU-505の中で発見されたものです。
■ お金とお菓子
このフランス、ドイツコインは、
ダニエル・ギャラリー大佐が記念品として持ち帰ったものだそうです。
ドイツ統治下のフランス、ロリエントにはUボートの基地がありました。
紙幣は、所属パッチと引き換えにタバコをもらった通信士が、
やはりタバコ一箱と引き換えにスピロフに渡したものです。
よっぽどタバコが欲しかったんだねえ・・。
「グリコレード」チョコレート
グリコって、あのグリコと同じ意味ですかね。
チョコレートバーには0.2%のカフェインが含まれており、
長時間の見張り中のエネルギー補充にたいへん重宝されました。
ベルリン・テンペルホーフのサロッティ社製。
■ 救命艇の一部
このイラストに見覚えがあるでしょう?
Uボート乗員が脱出した一人用救命ボートの部分です。
なぜこんな状態で残っているかというと、
大物をゲットできなかったタスクグループのメンバーたちが
自分達もちょっとでも何か「お土産」が欲しいので、皆で話し合って、
救命艇を小さく小さく切り刻んで、そのパーツを持ち帰ったのです。
アメリカ兵の戦場での「記念品好き」は有名ですが、ここまでするか・・・。
しかしここでつい考えずにいられないのは、
切り刻まれた布切れのほんの一部は、たまたま持ち主が名乗りを上げて
ここに展示され、人々の目に留まることになったわけですが、
ほとんどの「切れ端」(特になんのマークもないような部分)は
おじいちゃんが大切に保管していなければ、どこかに紛れ込み、
本人が亡くなったあとは散逸してしまったに違いないということです。
続く。
艦内から見つかったいわゆる「戦利品」についてです。
■ 徽章など
階級章
無線室や管制室で働く下士官が付けていた記章です。
錨のマークに「無線」を表す矢印があしらわれたデザイン。
16)名誉の負傷バッジ
Verwundeten -Abzeichen
アメリカ軍の「パープルハート」に相当する名誉バッジです。
ドイツ軍では傷の重症度に応じて、黒、銀、金がありました。
このバッジは赤ですが、黒を上から塗ってあります。
本人が塗ったのか、渡す側が物資不足のおり、急拵えしたのかは謎です。
また、これを持っているということは、海軍に入る前、
持ち主がヒットラーユーゲントにいた、ということを意味しているそうです。
17)無線オペレーターのパッチ
二つ重ねたVと「電気」を表す雷状矢印。
これはU-505の乗員が着用していたものですが、
彼はアメリカ軍のA.スピロフに、
タバコ一箱と引き換えにこれを渡したということです。
捕虜と接触したアメリカ人が戦利品を本人にねだる、という図は
相手が日本軍であった場合にも多々見られました。
18)認識票
小さな楕円形のIDディスク(認識票)は、大きなドッグタグ状。
給料明細書の裏表紙に取り付けられていたそうです。
給与を管理するために会計の方で預かっていたのでしょうか。
このタグの持ち主は、Ewald Thorwestenという人で、
タグそのものは半分で二つに折れる仕様であることがわかります。
19)ベルトバックル(左下)
裏側のフックを艦上で修理した跡があるそうです。
なぜ艦上でやったかわかるのかは謎ですが。
ドイツ第三帝国のワシのマークの周りに書かれている文字とその意味は、
「GOTT MIT UNS」=神は我々と共におられる
20)肩章
ナビゲーターのアルフレート・ライニッヒが着用していた肩章。
21)階級章
U-505コントロールルーム勤務の下士官が付けていた階級章。
■ バッジ
22, 23, 24) 銅製Uボートバッジ
Uボート乗員は、戦闘哨戒を一回完了すると、この
U-Bootskriegsabzeichen
Uボート哨戒バッジを受け取ることができました。
22と23のバッジは、銅でできており、
初期の高品質バージョンだということですが、
同じようにみえる24番の方は、板金から打ち抜かれたもので
鋳造されたものではありません。
戦争終盤にはドイツも物資不足に陥っていましたから、
特定の金属の希少性と、資源を節約していた懐事情が反映されています。
25)ドイツ軍掃海メダル
Kriegsabzeichen Fur Minesuch-
U-Bootsjagd und Sicherungsverbande
=掃海艇、対潜&補助護衛章
これらの護衛艦に乗務経験のあるものは、
Uボートに配置されるということになっていました。
26,27)Uボート乗員章(ブロンズ)
階級の上から順にゴールド、シルバー、ブロンズがありました。
モンブラン製万年筆
技術工業国ドイツは、万年筆のブランドを多く生み出しています。
このモンブランを筆頭に、ペリカン、ステッドラー、ファーバーカステル、
ロットリング、シュナイダー、ポルシェデザイン、
これらすべてがドイツのブランドです。
(わたしはモンブランはスイスのメーカーだと思っていました)
この万年筆は、U-505の艦長だった、
ハラルト・ランゲ大佐のデスクから直々に略奪?されたということです。
【レコード】
映画「Uボート」でも、その他のアメリカ映画におけるUボートでも、
Uボート乗員というのは、レコードを聴いていたイメージがあります。
なぜなら実際潜水艦における大切なエンターテイメントは音楽でしたし、
アメリカ海軍でも、ある潜水艦87枚にはレコードが搭載されていた、
なんて話もあります(よっぽど音楽好きな艦長だったんでしょうか)
U-505で見つかったレコードのうち6枚が行進曲で、
残りはポピュラー音楽と軽クラシックでした。
上から:
A面)Schön ist die Nacht(美しきは夜)
Schön ist die Nacht - Rupert Glawitsch mit Schuricke Terzett - 1938
B面)Ganz leise die Nacht(静かに夜が近づく)
A面)Spanisher March(スペイン行進曲)
B面)Der Student geht vorbei(学生が通る)
A面)Tapfere,Kleine Soldatenfrau(勇敢な小さい兵士の妻)Wilhelm Strienz - Tapfere, kleine Soldatenfrau
B面)Wenn im Tal ale Rosen Bluhn(谷間のバラ)
しかし、戦争中にUボートの乗員が聞いていた音楽を、
日本で、家にいながらクリック一つですぐに聞ける今の状況って。
あらためてすごい時代に生きてるなあと感じる今日この頃です。
■煙草
U-505からは大量のタバコが発見されました。
潜水艦でタバコを吸うときは、必ずブリッジで火をつける前に
上に許可を求めなくてはならない決まりがありました。
そのとき誰がブリッジでタバコを吸っているかは、
かならずチョークで黒板に名前を書いておくことになっていました。
33)ゴールドダラー煙草
ゴールドダラー。英語です。
タバコのパッケージには「最高のアメリカンスタイル」とあります。
アメリカのタバコは戦時中のドイツでさえ人気があったようですね。
アメリカスタイルを謳ったこの製品は、ハンブルグのタバコ会社、
アゼット・シガレット製造会社の商品です。
34)ヤン・マート煙草
「最高のオリエンタル風とヨーロピアンバージニアをブレンドした
最高のバージニア風味」
とありますがバージニアってもしかしてこれもアメリカの?
「ヤン・マートJan Maat」はドイツにおける船乗りを表す言葉です。
下)カモメ印煙草
Möveとは「カモメ」を意味します。
Uボート乗員の間で一般的だった銘柄です。
ドイツ占領下であったポーランドのクラクフで製造されています。
リームツマ(Reemtsma)R-6煙草
R-6というこのタバコは、大変「強い」ことで知られていました。
湿気の多いUボート艦内では、煙草を乾いた状態で保つのが困難だったため、
乗員たちはバラバラにしたタバコをブリキ缶に詰めて、
ハンダ付けして封をし、吸う直前に缶を切る努力を惜しみませんでした。
ニル煙草
ミュンヘンにあった「オーストリアタバコ工場」の製品です。
他のパッケージよりちょっと高級な感じがします。
オーバル4 ペンニッヒ煙草
パッケージにある「Pst!Feind hort mit」という警告は、
吸いすぎはあなたの健康を害する・・・ではなくて、
「静かにしてください。敵は常に聞いています」
防諜メッセージでした。
マッチ
左)セキュリティストームマッチ
風が強いなどの困難な状況でもつけられます、というのがまんま商品名。
右側の「モーレンルシファース」マッチは、
捕獲後のU-505の中で発見されたものです。
■ お金とお菓子
このフランス、ドイツコインは、
ダニエル・ギャラリー大佐が記念品として持ち帰ったものだそうです。
ドイツ統治下のフランス、ロリエントにはUボートの基地がありました。
紙幣は、所属パッチと引き換えにタバコをもらった通信士が、
やはりタバコ一箱と引き換えにスピロフに渡したものです。
よっぽどタバコが欲しかったんだねえ・・。
「グリコレード」チョコレート
グリコって、あのグリコと同じ意味ですかね。
チョコレートバーには0.2%のカフェインが含まれており、
長時間の見張り中のエネルギー補充にたいへん重宝されました。
ベルリン・テンペルホーフのサロッティ社製。
■ 救命艇の一部
このイラストに見覚えがあるでしょう?
Uボート乗員が脱出した一人用救命ボートの部分です。
なぜこんな状態で残っているかというと、
大物をゲットできなかったタスクグループのメンバーたちが
自分達もちょっとでも何か「お土産」が欲しいので、皆で話し合って、
救命艇を小さく小さく切り刻んで、そのパーツを持ち帰ったのです。
アメリカ兵の戦場での「記念品好き」は有名ですが、ここまでするか・・・。
しかしここでつい考えずにいられないのは、
切り刻まれた布切れのほんの一部は、たまたま持ち主が名乗りを上げて
ここに展示され、人々の目に留まることになったわけですが、
ほとんどの「切れ端」(特になんのマークもないような部分)は
おじいちゃんが大切に保管していなければ、どこかに紛れ込み、
本人が亡くなったあとは散逸してしまったに違いないということです。
続く。