イギリス映画「潜水艦シータイガー」、
原題「We Dive at Dawn」最終回です。
映画のボリュームから言って、だいたい当ブログでは
これくらいだと2日分の掲載で収まるのですが、
なにしろ当方にとって初めてのロイヤルネイビーもので、
製作に異常にテンションがあがってしまいました。
さらに、これまでに知らなかった海軍スラングや俗語、
なにより英国海軍協力による実写映像も興味深く、
最初から3回に分けることを前提で作成したほど力が入りました。
今検索したら、古い映画なのでYouTubeでも見放題。
項末に挙げておきますので、実写シーンだけでも是非ご覧ください。
潜水艦乗員を演じる役者たちは、海軍で実地に訓練を受けていますので、
立ち居振る舞いや機械の操作など、本物に近いのではと思わせます。
バルト海まで戦艦「ブランデンブルグ」を追い、ついに確定し、
魚雷を放った潜水艦「シータイガー」。
全弾6発が発射されていくのを数える「ナンバースリー」ジョンソン少尉。
発射後はすぐさま潜航です。
同時に艦内に爆雷警報が鳴り響き、
水密ドアを閉める作業が行われます。
駆逐艦の見張りが早速魚雷に気づきました。
ほとんど同時に爆雷が投下されます。
爆雷の破裂は早速潜水艦を揺さぶりました。
魚雷が命中したかどうかも爆発音でわからなくなってしまいました。
またしても地下からポンプのおっさんが顔を出しました。
「黙ってポンプだけ気にしてろ!」
「わかったよ。でも死ぬなら何が起きたかくらいは知りたい」
底の方勤務は艦内放送でしか状況がわからないからなあ。
魚雷の到達時間を測っていたら、
海上にはすごいスピードで駆逐艦が来てしまいました。
これから確実に爆雷が降ってくるでしょう。
ドイツ軍駆逐艦を演じているのは、
HMS「フューリー」Furyということです。
HMS Fury (H76)
炸裂する爆雷、立っていられないほどの衝撃が襲いました。
続いて照明が消え、漏水にビルジ排出が追いつかない事態に・・。
さっそくバケツリレー発動です。
ちなみにバケツリレーのことは、
「Get a bucket team going」(バケツチームを行かせる」
と言っています。
「ブランデンブルグ」の居場所を艦長に言おうとしてハンスに殴られ、
死にかけていた捕虜A(フリッツというらしい)が、
この混乱時に瀕死状態になってしまいました。
「おい貴様、ハンス!フリッツが死ぬぞ」
(平然と)「だからなんだ?」
「この獣め!」
横をバケツリレーがガンガン通っている中、ハンスがマイクに、
「君らはあまり興味ないかもしれんが、病人が死にかけだ」
マイクはバケツの手を止めて、フリッツの様子を見に行きますが、
「残念だがご臨終だ」
その足でマイクは艦長に捕虜の死亡を報告しました。
艦長は「ああ、後で行く」と関心なさそうに答えましたが、
これは後になって重要な意味を持ってきます。
この時不思議なやりとりが行われます。
艦長がベテランチーフのディッキーに、
「皆に菓子(スイーツ)を配らなくちゃな」
というのです。
聞き返したチーフも、すぐもののわかった様子で、部下に
「マガジンに行って弾薬の隣の『ホワイトリード』と書いた缶を取ってこい。
これは『サッカー』(甘いもの)だ」
鉛白が「甘いもの?」
鉛白の白粉さえ死をもたらすほどなのに・・。
改めて調べてみたら、古代ローマ人は、鉛の鍋でブドウの果汁を煮詰め、
できたシロップをワインの甘味や果物の保存に使っていましたが、
特にイギリスでは1940年代には完全に鉛毒の害は知れていたはずです。
甘い鉛白・・・潜水艦関係の隠語だったりするのかな。
そのとき機関長のジョックが燃料の残存が少ないと報告に来ました。
「ジェリーズは俺たちを仕留めたと思うまで攻撃を止めないだろうな」
「Jerries」ジェリーズは戦争中のドイツ人のあだ名です。
第一次大戦時の独軍のヘルメットがゼリーの形に似ていることから来ています。
ちなみに、独軍ヘルメットには「おまる」という別名もあったとか。
「待てよ・・・ジェリーズだと?」
自分の言った「ジェリーズ」という言葉が、
ジェリーズ=ドイツ兵=捕虜=さっき死んだ
と繋がり、ピコーンと何かが閃いた艦長。
さあ、もうお分かりですね。
元祖(かどうかは知らんけど)「潜水艦死んだふり作戦」の開始です。
死んだふりのため外に放出するものが魚雷室に運ばれていきます。
フライパンを持っている男に、先任が
「あほか、そんなもの浮かねえだろうが」
「洗おうかなと思って」
回収もできないけどな。
死んだフリッツにはイギリス軍の制服を着せ、念の為
ポケットには英語の書類と、ストップウォッチまで入れて偽装完了です。
捕虜Bがフリッツの遺体を見て何をする気だ?と気色ばむと、
先任は軽〜〜〜く、
「大丈夫、心配すんな」
魚雷の発射を行うのはマイクです。
敵の魚雷が破裂したタイミングで1番発射管に全てを入れて吹き出します。
発射と同時にバルブを放出し、できるだけ派手に飛沫を立てて、
次は艦尾を上に、急角度(15度)で後ろに滑るようにして沈んだふり。
遺体が浮いてきたこともあって、駆逐艦は騙されてくれました。
潜水艦撃沈!と一斉に歓声が上がります。🎉
ほどなくドイツのプロパガンダラジオ番組が、
「シータイガー」を撃沈したとしてイギリスに向けてそれを公表しました。
海軍下士官クラブの支配人が聞いているのは
もしかしたら「ホーホー卿」のプロパガンダ放送かもしれません。
支配人は「ツケリスト」から、黙ってダスティの名前を消しました。
マイクの婚約者エセルは外していた婚約指輪をはめ、
ホブソンの妻は息子の寝顔を見つめ、
海軍本部では、本作戦を伝達したブラウニング大尉が
専用ポストから「シータイガー」の名札を外しました。
さて、その「シータイガー」は、今や海の中に鎮座したままでした。
燃料を奪うため洋上をタンカーが通るのを待っていましたが、もう限界です。
食料ももはや底をつきました。
艦長は、この近くにあるデンマーク領の島に辿り着き、
全員が上陸したらボートを爆破する計画をアナウンスしました。
第二次世界大戦時、デンマークは枢軸側でしたから、
これはつまり全員で捕虜になることを意味しています。
艦長はこの事態に導いたことを詫びつつ皆に感謝を述べました。
そのときです。
思い詰めたようにホブソンがある計画を打ち明けました。
彼は戦前世界中に行った経験があり、その島のことも知っていました。
港があったので、きっと燃料もどこかにあるはずだというのです。
作戦とは、自分がドイツ軍パイロットに化けて上陸し、偵察の結果、
もし燃料があったら合図するから、皆で燃料を強奪するというものです。
「もしドイツ軍の制服を着て捕らえられたら、捕虜では済まないぞ」
「どうせ誰も涙なんか流してくれませんから」
艦長、黙ってフォローせず。
彼の艦内での孤立と家庭事情を知っているだけにね。
「一緒に行きたかったが・・・」
「艦長のドイツ語ではいざというとき役に立ちません」
ボートで一人港の桟橋下に漕ぎ着いたホブソンは、
小さな懐中電灯で潜水艦に信号を送りました。
「埠頭の突き当たりにタンカーを発見」
しかしこの光は、離れた場所にいる見張りに見らいました。
ホブソンは見張りの前に姿を現し、流暢なドイツ語(多分)で
自分が撃墜されたパイロットであり空軍大尉であることを申告します。
警衛の事務所に連れて行かれ、責任者は大尉に向かって敬礼しましたが、
ちょうどそのとき信号を発見した見張りから電話がかかってきました。
電話に向かって「いますぐ確認します」と言ったところで、
背後からホブソンは素早く彼を殴打し、制服からナイフを抜いて一突き。
外の見張りもやっつけて、武器をあちこちから集めました。
警報の鐘が鳴り響く頃、彼はすでに機関銃のセット完了。
たった一人でやってくるドイツ軍を迎え撃ちます。
そのころ「シータイガー」の上陸部隊が到着しました。
上陸部隊は、潜水艦内で来ていたセーターなどの私服ではなく、
士官下士官兵全員が軍服にテッパチで統一しています。
陸戦では敵味方を識別する必要があるため不可欠なのでしょう。
強襲部隊はデンマーク船籍のタンカー「インゲボルグ」に乗り込みました。
連れてこられた「インゲボルグ」船長に、テイラー艦長は
「イギリス海軍だ。石油と物資をいただきたい。
そして我々には議論する時間はない」
すると船長は
「デンマークはイギリス海軍ならいつでも歓迎しますよ」
そういうと、挙げていた両手を微笑みながらおろし、
艦長の手を両手で握ってくるではありませんか。
デンマークは、国境を隔てているドイツとは、
いつも気を遣って関わってきた(触らぬ神に祟りなし的な)国ですが、
第二次世界大戦でドイツ側であったとはいえ、それは
攻め込まれたくないからというだけの消極的な理由が大きく、
ドイツに戦争参加を求められてもほとんど逃げ腰でした。
政府は当初ドイツに従いレジスタンスを取り締まっていましたが、
ドイツが不利になるとレジスタンスが臨時政府を樹立したほどですから、
民間にもかなりドイツに反感を持っていた人が多かったと想像されます。
このシーンはそのようなデンマークの立ち位置が垣間見えますね。
さあ、これで燃料と食料、修理は確保できました。
上陸部隊のマイクとナンバースリー、ジョンソン中尉。
孤軍奮闘のホブソンと合流成功。
しかし激しい撃ち合いでマイクもホブソンも軽傷とはいえ弾を受け、
そろそろこちらの弾薬が尽きてきました。
こちらに銃撃戦による死者も出て、負傷者も増え、
限界か?と思った時、「シータイガー」は燃料補給を完了し、
帰還命令の笛の合図が鳴り響きました。
テイラー艦長が上陸部隊の帰りを今か今かと待っています。
そして、ドイツ軍が沿岸に迫る中、ギリギリのタイミングで
舫を解いて出港を完了しました。
「グッドラック!」
タンカーからは船長が手を振ってお見送り。
イギリス軍に物資供給したことがバレて酷い目に遭わないといいですね。
さて、某所航行中の漁船が、浮上する潜水艦からの信号を受けました。
「報告願う シータイガー基地に帰投せんとす・・・
すぐにCインC(本部)に伝えろ!」
ニュースはすぐにイギリス本土に報じられました。
領海に入ると、すれ違う軍艦が信号を送ってきました。
「なんて言ってる?」
「おめでとう・・・・撃沈」
「何だって?」
「B・・・『ブランデンブルグ』です艦長!」
「まじか!おいコントロールルーム!
『ブランデンブルグ』を沈めたぞ!」
瞬時にして艦内にニュースは伝えられます。
コントロールルームのゴードン中尉から、伝令によって、
腕を負傷して寝ていたジョンソン中尉にも。
湧き上がる歓喜の声。
そして「シータイガー」は生きて基地に帰ってきました。
港の艦船が一斉に汽笛を鳴らして彼女を労います。
骸骨の凱旋旗を立てての入港。
民間船の上からも皆が手を振っています。
母艦には信号旗が揚げられました。
ホッブスが艦長に信号旗の意味を伝えます。
「WELL DONE P-61」
そして出撃した時と同じ、P-211の横に着舷。
艦長が報告に向かう母艦の艦上には溢れんばかりの乗員がお出迎え。
(ロイヤルネイビーの皆さんエキストラ出演)HMS Forth
1937年から1979年まで就役した潜水艦デポシップです。
テイラー艦長は、待っていた潜水艦隊司令(イアン・フレミング)と
隣のP-211の艦長に任務終了報告を行います。
前回の意趣返し?か、
「オールドムーアのアルマニャックを使っただろう?」
と揶揄うハンフリー大尉に、
「うん、実は魔法の鏡を使ったんだ」
とテイラー大尉。
そして岸壁には、夫、婚約者、息子を待つ家族たちが・・。
マイクは誰よりも会いたかった婚約者に。
マイクの上司でかつ未来の義兄、チーフ・ダブスは、
ミス・ハーコートと再会しました。
「ハロー、アラベラ!」
「はい?」
すると、タグが横から彼女を掻っ攫い、
「”グラディス”に新しい刺青見せてあげて」
これどうすんのよ。
「アラベラ」という名前の人が現れるまで待つ?
そしてホブソンは息子のピートを抱き上げました。
「ぼく潜水艦見たよ」
「入ってくるところも見た?」
「見たよパパ」
「お前は知らないと思うけど、潜水艦は戦艦を連れてきたんだ」
「そんなのいなかったよ」
ホブソンはカバンから戦艦「ブランデンブルグ」の模型を渡しました。
そこに柔らかい微笑みを湛えた妻が・・。
「やあ、アリス」
「家に帰ろう」
妻には異論はありませんでした。
「Aye.」
セーラー風の答えに、妻の夫に対する理解が込められています。
艦長はまだ艦隊司令に捕まったままでした。
艦隊司令はこの時も、前半に続き2回目となる謎のセリフを口にします。
それは、
「(君の)おばさんに会うことになると思うよ」
I suppose you will be seeing your aunt.
というものなのですが、この「おばさん」のことを、
なぜ艦隊司令が毎回いうのか、最後までわかりません。
予想ですが、この艦隊司令は実はテイラー大尉の「叔父」で、
「おばさんに会う」つまりうちに来たまえと言っているのでしょうか。
テイラー大尉が金持ちであるらしいことは執事の存在で明らかですが、
これをパクった疑いのある後発のアメリカ映画「クラッシュダイブ」では
主人公がまさに執事持ちの金持ちで、叔父さんが海軍の上官でしたよね。
そのとき艦長は、通りかかったゴードン中尉に声をかけて、
「士官室に行くならグロブナー2777番を」
おそらくまた執事に無理を言って、ミスシーモアだかジョーンズだかと
連日デートの約束をさせるのでしょう。
艦隊司令は、またも出撃していく潜水艦を見やりながら言います。
「また魔女が行くぞ。
ここにはただ通過するだけだ。
一隻入ればまた一隻が出ていく。
まるでバスの運行のようだ」
今年の潜水艦映画ナンバーワンの称号を捧げたい作品です。
終わり。
We Dive at Dawn (1943) WW2 submarine movie full length