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Channel: ネイビーブルーに恋をして
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映画「海の底(The Seas Beneath)」〜ジョン・フォード初期の海軍映画

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名匠ジョン・フォード監督が若い時から海軍オタクだったことを証明する作品、
1930年の海軍映画「海の底」を紹介します。
本日のブログ扉絵ですが、映画で描かれた1918年ごろから映画制作時まで
欧米を席巻したアールデコ様式を取り入れてみました。

ジョン・フォードが売れない俳優から監督に転身したのが1917年のこと。
兄のフランシス・フォードの映画に俳優として出演していた彼が、
ある二日酔いで仕事ができなくなった兄の代わりに助監督を務め、
それが認められたのが後の名匠ジョン・フォードの誕生のきっかけでした。

デビューしてしばらくは流行りの西部劇を撮っていたヤング・フォードですが、
1929年、映画会社がこぞって無声映画からトーキーに移行し、
西部劇が下火になったこともあり、ドラマを手がけるようになっていきます。
「海の底」は、フォードが監督した7作目のトーキー映画です。
フォードはこの手法を取り入れたことで可能になったロケを、
念願だった?海上戦闘シーンに取り入れています。

ちなみにフォードは、オールトーキーになって2作目の「サルート」
(敬礼)という映画で海軍兵学校とネイビーアーミーゲームを取り上げ、
アナポリスでロケを行っていますし、1930年度作品の
「Men without Women」ではトーキー初の海軍映画を手がけています。
Salute (1929) 兄がウェストポイント、弟がアナポリスで恋の鞘当てフットボール対決
どちらの作品にも、無名時代のジョン・ウェインが端役で出演していますが、
自身がアイルランド系であるフォードは、俳優も同族で固める傾向があり、
ウェインが常連となったのもこのせいだったと言われています。

ただし、フォードは最後までウェインを木偶の坊呼ばわりしていたとか。

「Men without Women」(潜水艦もの)

もう一つついでに、第二次世界大戦中、フォード=海軍のように、
軍に協力した監督は、陸軍航空隊のウィリアム・ワイラー、
そして陸軍のフランク・キャプラが挙げられます。

キャプラとワイラーは陸軍の映画班に所属して、
新兵のための教育映画や戦意高揚映画を撮り、キャプラは陸軍中佐に、
そしてフォードも最終的には海軍少佐に任じられました。


ということはこれは少将のコスプレ



というところで早速始めます。
主演ジョージ・オブライエンはこの頃のフォード映画の常連俳優。
名前から彼もアイルランド系ということがわかりますね。
オブライエンは「敬礼」で陸軍士官候補生の兄役をしています。

彼はサイレント時代はフォード映画の常連でしたが、
トーキーに移行してから演技が気に入らなかったのか、
次第に「フォード組」から姿を消すことになります。


映画は3本マストのスクーナー船が海上に浮かぶシーンから始まります。



艦長ロバート・キングスレー、アメリカ海軍大尉の名が記された
USS「ミステリーシップNo.2」の航海ログの表紙がアップになります。
これは2番目の艤装船を意味します。


1918年8月18日

1)ヨークタウン港を秘密裡に出港
2)目的地は不明
3)任務の性質上、総員機密厳守のこと
1918年8月は、第一次世界大戦終結3ヶ月前です。
フォードは終戦から12年経って、大戦中の海軍を題材にしました。




さて、そのブリッジログです。

乗組員の構成について:
a)艦上経験のない海軍予備兵
b)USS「ミズーリ」の砲兵(優秀な者)

わざわざ「未経験者」を集めたのはどういうわけでしょうか。


海上で総員に集合がかかりました。
極秘任務ゆえ、陸を離れてから任務内容が伝えられます。



キングスレー艦長は乗組員たちを見回します。
ベテラン下士官の中には、やはり軍人であった彼の父親と
フィリピンで一緒だったという者もいますが、殆どの水兵とは初顔合わせ。

艦長はこれからこの船は民間船「Qボート」として敵潜水艦活動域に潜入し、
おとりとなってUボートに攻撃させ、油断させて
あわよくば返り討ちにする、という作戦概要を告げました。

それを聞いて、皆の顔に怪訝な表情が浮かびます。
こんな民間船でどうやって?



そこで艦長が砲兵に命じると、構造物に見えていた建物の壁がパカっと倒れ、



中から最新式の艦砲が現れました。



砲兵はもちろんベテラン下士官も見るのは初めての武器に興奮しています。



砲にいきなり元カノの名、「ジュディ・アン・マッカーシー」を命名。


艦長は今回の任務が特定のUボートの殲滅であると明かします。
ターゲットはドイツ潜水艦隊のエース艦長が率いるU-172。Uボート艦長のフルネームは、エルンスト・フォン・シュトイベン男爵です。

第一次世界大戦の撃墜王レッドバロンことリヒトホーフェン男爵のかっこよさに欧米の民衆は的にも関わらず大変熱狂したそうですが、同じ属性を負わせているあたりに、この敵キャラへのこだわりが窺えます。

さて、武装しているとはいえ、こちらも偽装船1隻で戦うわけではありません。
艦長は、当時先端技術だったに違いない艦同士の直通電話で今回同行する潜水艦を海底から呼び出しました。


この潜水艦浮上シーンは、現代の我々には見慣れたものですが、
潜水艦にカメラを取り付けて浮上させるという撮影は当時の映画としては超超超画期的だったはずです。



浮上した潜水艦の乗員と顔合わせ。
このまま5日間別行動することを打合せしました。



潜航する潜水艦に対しラッパが吹かれ、乗組員が総員でエールを送ります。
この丁寧な海軍描写こそがフォード監督のこだわりです。

この後潜水艦が潜航していく様子もマストの高さから丹念に撮影されます。



潜水艦が去ってから、あらためて艦長は作戦の詳細を語り出しますが、
なんかこの構図・・・海軍っぽくないですよね。
このあとも乗組員のガッツを褒め、横にいた水兵が力コブを見せると、
その筋肉をさわって感心するといった馴れ合いも海軍ぽくない。

わたしが見た英語の映画感想コメントのなかに、

「艦長は乗組員の司令官というより運動部のコーチかOBのようだ」
というのがありましたが、このあたりを言っているんではないかと思います。

さて、艦長が発表した今回の作戦名は「パニック作戦」。
商船を装い敵活動海域に進入、攻撃されたら逃げ惑ってみせ、一部が総員退艦、
隠れていた砲兵と潜水艦がおびき寄せた敵艦を攻撃、というものです。

「これを上手く演じなければいかん。ちなみに演劇の経験のある者は?」
「こいつです。サーストン」
「何を演じた?」



「”お針子バーサ”っていう劇で主役でした」

「お、おう・・・じゃ君は船長の妻の役だ。真っ先に騒げ」



マストで見張りをしていたキャボット少尉が降りてきました。
このシーンはスタントマンが実際にマストから滑り降りてきます。



代わりにマストにラダーで上がっていく水兵たちを見ながら、
俺が若い頃はラダーなしでマストに上ったと自慢話をするコステロ兵曹。
よせばいいのに煽られおだてられてその気になり、
この巨体で実演を始めたところ、運悪くラダーがちぎれ(なあほな)
海に転落してしまいました。



それを見るや間髪入れず海に飛び込んだのはキャボット少尉。
マストの最上部から・・あれ?さっき降りてきてなかったっけ?
いつのまにまた上に・・・。





このスタントマンに敬意を表して、連続写真を挙げておきました。

海上で撮影できるものはすべてやってみた感があるこの映画の中でも、
このシーンは海軍的な意味で歴史に残る瞬間だったと個人的に思います。

スクーナーのマストから海面までは、多分50m弱あると思うのですが、
(ゴールデンゲートブリッジから飛び込んだ場合、海面までの高さは67m)
これを本当に飛び込ませているあたりがすごい。
スタントマン、回転して背中から海面に落ちて大丈夫だったのか。


この派手な救出で、すっかり男を上げたキャボット少尉。



逆に恥をかいたコステロ兵曹ですが、この期に及んで負け惜しみ。

「誰か飛び込んで助ける勇気があるか試したんだ!」


残念ながら乗組員がネタのユーモアは全く笑えないのがほとんどで、

「 all the cornball humor from the brainless naval crew. 」
(頭の悪い海軍クルーの面白くないユーモア)

If their collective brains could be rendered into gasoline,
there wouldn't be enough to run a termite's chainsaw.
(彼らの脳みそを集めてガソリンに入れても白蟻のチェンソーすら動くまい)

などと感想サイトでも痛烈ですが、その一例がこれ。
(兵曹のために)ブランデーをとってこいと言われたこいつは、
なぜか「兵曹が水に落ちたら僕が酒を飲めと言われた」と思い込んで、クイっと飲み干して「訳わかんねー」。

わけわかんねーのは君の常識のほうだ。


ミステリーシップ=Qボートはカナリア諸島で補給のため寄港を行います。
上陸に関してはチーフから強くお達しがありました。

「酒と女禁止」

任務を考えると当然の注意ですが、


しかしなあ。女の方が放っといてくれないのよ。
若いキャボット少尉には上陸早々美女が思わせぶりに近づいてきますし、


下士官、兵、誰一人注意なんて守っちゃいねえ。


肝心の艦長までこのていたらく。
係留されている船の写真を撮ろうとして警官に撮影禁止を言い渡された艦長にいきなり接近して通訳と説明を始める妙齢の美女。

「ドイツの潜水艦にやられた船よ」
艦長、一応任務は忘れず、記念写真を撮るふりして船の撮影を強行しますが、全く相手を疑わず、自分からアプローチする始末。



場面は変わって、同じ港町の宿屋に3人のドイツ海軍士官が投宿しました。彼らこそがアメリカ軍が探しているU-172の幹部です。

彼らのドイツ語はほとんど翻訳されず、会話は要所要所このように、


(”フロイライン・フォン・シュトイベンはどちらに?”)
サイレント映画のような英語表記(フラクトゥール)で表されます。



こちらがそのフロイライン・フォン・シュトイベン。
例のフォン・シュトイベン艦長の妹なのですが、
なんと、さっき艦長に接近してきたばかりの女性ではないですか。

そしてアナ・マリーと呼ばれた彼女は海軍士官のうち一人、フランツ・シラー中尉と熱いキスを交わします。


アナ・マリーを演じたマリオン・レッシングという女優は、
ドイツ語が堪能というだけで選ばれた、というより、
フォード監督いわく、撮影所に「押し付けられた」大根女優でした。

その壮絶な演技下手さは日本人である我々にもはっきりとわかるくらいです。

フォードは後々まで、この映画はこの女優のせいでダメになった、とか、
この女がガムを噛みながら演技して撮り直しになったとか愚痴っていました。
シラー中尉を演じたのはジョン・ローダーという俳優ですが、
英国生まれで、父親は英国陸軍軍人、イートン校と王立陸軍士官学校で学び、
第一次世界大戦に参加中、ドイツ軍の捕虜になるという経験などを経て
戦後映画界を志し、のちにアメリカ国籍を取得しました。

ドイツ映画に出ていた関係で、ドイツ語はネイティブ並みだったことから
今回のドイツ人将校役に指名されたようです。

あの超天才科学者で女優のへディ・ラマーと結婚していたこともあります。


さて、シラーはアナ・マリーに昨夜入港した米船籍の帆船が怪しい、
我々を追っているのではと疑いを仄めかし、彼女は
何か思い当たる節があるのか、はっと顔を曇らせました。

婚約者を危ない目に遭わせそうで心配だというシラーに、彼女は

「それでは国に尽くせない。
女だから疑われないしスパイにだってなれるわ」
と太々しく微笑むのでした。



入れ替わりに宿にやってきたのは・・おや、先ほどのスペイン美人。
どうやらドイツのスパイとしてお小遣い稼ぎをしている悪い女らしい。



酒場で歌い、踊ってステージからターゲットを誘惑するのが得意技です。



狙われたのはリチャード・キャボット少尉。
うぶな若い士官を手玉に取ることなど赤子の手をひねるより簡単ってか。

このスティーブ・ペンドルトンという俳優についても書いておくと、
1970年まで多くの映画やテレビドラマに出演した脇役俳優で、
最後の映画出演は、「トラ!トラ!トラ!」の駆逐艦艦長役となっています。


そんな凄腕女スパイの活躍をじっと観察しているドイツ軍人たち。



舞台の上からアプローチされ、ふと気づけば一緒に踊っているという・・。



さらにふと気がついたら彼女の部屋で、しかもベッドに誘われているという。
ドイツ人たちはキャボット少尉が女性にふらふらついていくのを見て、

「見事な腕前だな」

みたいなことをドイツ語で言ってます。(たぶんね)


そして同じ頃、艦長もまた女に引っかかっていました。
BGMはストリングス演奏による「エストレリータ」。

この脚本の甘さ、ジョン・フォードもこの頃はこんなだったのね・・・。

以前ここでご紹介した「サブマリン爆撃隊」は1938年作品で、彼が監督として押しも押されもせぬ名声を築いた「駅馬車」は、
この映画の9年後、1939年の作品となります。



そして、ドイツのスパイ、ロリータに籠絡されたキャボット少尉は、
あっさりと睡眠薬で眠らされてしまいました。



ロリータは、軍帽から彼がアメリカ海軍の少尉であることを突き止め、
宿の主人(ドイツ側から金をもらっている)に報告しますが、
なぜか眠っている彼を悲痛な顔で見つめ、キスします。

これ、どういう意味?
オスカー・ワイルドの「ヨカナーンの首に接吻するサロメ」的な?



酒と女禁止を乗員に言い渡しておいて酒場に脚を運ぶ艦長ボブに、
ドイツ軍団は大胆にも声をかけてきました。
艦長の海軍兵学校の指輪を褒めてきたので、艦長もそれに応え、
「再会を期して」と挨拶を交わします。


艦長も彼らがU-172の乗組員であるらしいことに気づきました。
「あいつらだな副長」「そうですね」

お互い逃げも隠れもせず陸上で対峙する海軍軍人同士。
次に海の上で会ったらそのときは、という含みを持たせあうこの会話は、
まだかすかに騎士同士の対決的要素の残っていた
第一次世界大戦の戦闘機パイロット同士のようです。

第一次世界大戦において、陸軍は言わずもがな、
海軍の艦船でも実際は「顔の見えない」敵同士で戦いましたが、
この映画では、互いの存在を明らかにし実際に遭遇させることで、
戦いをより「個人的な」ものとして描き、物語性を持たせています。



艦長はすぐさま総員に帰艦(船)を命じました。


ところが、出航時間になってもキャボット少尉が戻ってきません。



ロリータに薬を盛られてすっかり眠り込んでいたからです。



眠りが覚めた彼が飛び起きて海を見ると、
自分の戻るべき船はすでに沖に出ているではありませんか。

ギリギリまで少尉の捜索を命じ、帰還を待った艦長でしたが、
潮目が変わってしまい、苦渋の決断ながら彼を置いて出港を命じたのです。



「キャプテンキングスレ〜〜〜イ!」

(字幕の『船長』は間違い。ここは艦長と訳すべきです)
届かぬと知りながら艦長の名を叫ぶキャボット少尉・・。



そして、キャボット少尉は、自分を罠に嵌めた憎き女が、
ドイツ語を話す男たちから金銭を受け取っているのを見てしまいました。

全てを知った彼は夢中で岸壁に走ります。


そして、物陰から海に飛び込み、
男たちを乗せた船(補給船)に船尾から忍び込んだのでした。

どうなるキャボット少尉!
続く。

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