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Channel: ネイビーブルーに恋をして
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映画「海の底(The Seas Beneath)〜「レッサーフォード」作品

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ジョン・フォード初期の海軍映画、「海の底」後半です。
偽装船としてUボートを殲滅すべく敵地に乗り込んだ「ミステリーシップ」。
乗組員を待っていたのはドイツ軍の放った女スパイの甘いワナでした。

もっともあかんやつは、スペイン人の女スパイに籠絡されて眠らされ、
アメリカ海軍軍人であることがばれてしまったキャボット少尉です。

睡眠薬から目覚めた彼は、自分が港に置き去りにされたこと、
ロリータが最初から自分を騙すつもりで近づいたこと、そして
入港したアメリカ船が偽装であることをドイツ側に知られてしまい、
この失策によって味方が危険に曝されることに気づきます。

彼はその責任をとり、一人で後始末をつけるため、
Uボート乗員を乗せた船にひそかに忍び込みました。




U-172の艦内には、戦いの合間とはいえ、リラックスした空気の中
乗員が奏でるアコーディオンの「ローレライ」の調べが流れていました。

相変わらずドイツ人同士の会話は字幕なしですが、
全くわからずとも状況と画面でほとんど理解できるようになっており、
このときも、妹の乗った補給船が近づいた、という報告を部下から受け、艦長シュトイベンが潜望鏡を上げよ、と命じたとわかります。
トーキー移行以後、外国人の会話をどう観客に理解させるかということもこの頃は定型がまだ生まれていませんでした。
本作では外国語は流れで理解させ、要所のみサイレント時代の字幕をつける、
という方法でその解決を図っていますが、その後、誰が発明したか外国語っぽい英語と要所の単語で喋っている『ことにする』というアイデアが、ある時代までの戦争映画の「お約束」になっていきます。

さて、本作品に登場するU-172の内部の撮影は、

USS「アルゴノート」SS-166

を使って行われました。
「アルゴノート」は1927年に就役した当時最大の潜水艦で、
撮影時の1930年にはまだその名ではなくV-4と呼ばれていました。



妹とその婚約者の姿を近付いてくる補給船上に認めたシュトイベン艦長、
潜望鏡を覗きながらいつまでもニヤニヤ笑っているのがちょっと不気味。

シスコン設定?





妹アナ・マリーも兄の乗る潜水艦にいつまでも手を振らされています。
やたらこのシーンが冗長で退屈なのは、潜水艦が画面の中央に来るまで
カメラが撮影を中止できなかったせいだと思われます。



「アルゴノート」の甲板に見えるのは53口径6インチ砲です。



Uボートに敬礼するシラー中尉。



士官その2。(多分補給士官)



その3。(少尉)

フォードは敵ドイツ軍人の姿を歪めて描くようなことはしておらず、
彼らの佇まいは実に明朗で爽やか、いずれもキリッとした軍人ぶりです。
尤もハリウッドがドイツ軍を「絶対悪」として描くようになったのは、
第二次世界大戦のヒトラー登場以降であったと認識します。



そして最後に久しぶりに会う妹と抱擁する艦長・・・
って、ドイツ人は兄妹同士でこんなに濃厚なキスするものなのか?



兄妹の会話でなぜかこの一言だけが英語に翻訳されます。


補給船の甲板のドラム缶からホースで直接艦内に送り込んで給油開始。
本当にこんな雑な方法で給油していたんでしょうか。


さて、海中からこっそり補給船に忍び込み、
積荷の間に姿を隠していたキャボット少尉、行動を開始しました。




何をするかというと、船内のパイプを破壊して浸水させ、
ガソリンに火をつけて給油できなくしてしまおうというのです。

なぜ彼が濡れてないマッチを持っていたのかは謎です。



ガソリン缶に火をつけたり、燃えるそれを海に蹴落として消火する動作を、
俳優が実際に船上でやっているのには驚きです。

これ結構危険な撮影だったと思うぞ。



さらにパイプを破壊しようとしたキャボット少尉ですが、
警衛に甲板からライフルで撃たれてしまいました。

Uボートの少尉が倒れた彼の止血を試みますが、もう虫の息。



「僕は・・・リチャード・キャボット少尉。
合衆国の・・・セイラーだ。
どうか伝えてほしい。艦長に・・・
痛いよ・・・

艦長に・・・僕は・・僕は・・・」
「・・亡くなりました」

ここでキャボット少尉があっさりと死んだのには驚きました。
てっきり汚名返上のヒーロー的大活躍をすると思っていたので。

トーキーの黎明期、まだこの頃は映画的「お約束」などなかったし、
これも一筋縄ではない「フォード風」だったかもしれません。



目の前で死人が出たことにショックを受け、アナ・マリーは、
兄とフランツになぜ殺す必要があったのかを問い詰めますが、
兄は悲痛な表情で「クリーク・イスト・クリーク」(戦争は戦争だ)


キャボット少尉にU172の救命胴衣を付け、海に葬ることになりました。
遺体を沈まぬようにして同胞に発見させるために。



敬礼で見送る艦長以下幹部たち。



このときのアナ・マリーは作品中最も綺麗に見えます。
字幕のないドイツ語のセリフで彼女はこの時何か言いますが、

「大した戦争ね!」

とかじゃないかと思います。



それを聞いて悲痛な表情をするシラー中尉。



アナ・マリーを補給船に戻すと、Uボートはハッチを閉めました。



この映像からは、就役してまだそんなに経たない「アルゴノート」の
艦体の新しさが伝わってきます。



彼女が見守る中、潜水艦は実際に潜航して海面から姿を消します。



しかしちょうどそのとき、キャボット少尉が死ぬ間際に行った
パイプの破壊により、補給船は沈み始めてしまいました。



その日の「ミステリーシップ」のログには、
石油缶が燃え沈没した補給船と胸を撃たれたキャボット少尉の遺体を発見し、
少尉を深夜に水葬にしたことが記されました。



翌日、偽装船は沈んだ補給船の救命ボートを発見しますが、
乗員の中から女性だけを船に助け上げ、
残りは岸までの距離を指示して追っ払います。



ところが助けた女性を見て艦長びっくり。
最近どこかでお会いしましたよね?

艦長はキャボット少尉の死と彼女に何らかの関係ありと考えました。
しかし彼女は自分はデンマーク人で全く関係ないとしらばっくれます。


ところが次の朝、彼女は隙を見て救命艇を降ろし、脱走を試みました。
やましいことがないならなぜ逃げる?


艦長が問い詰めると、アナ・マリー、短気なのかあっさり馬脚を表しました。

ヒステリックに、偽装船という卑怯な手を使うアメリカ軍を嘲り始め、
兄のU-172とあなた方が戦って勝てるわけない、とせせら笑います。

この時の女優の演技が、下手の限界突破して笑ってしまうくらい酷い。
そしてついでに、このときの彼女、ものすごく不細工に見えます。

マリオン・レッシングという女優が結局この主役の後
ほとんど端役に甘んじ、映画界に名前を残さなかったのも宜なるかなと。


口汚く罵る彼女にうんざりする様子もなく、ボブは優しく彼女の手を取り、

「いよいよ君の願い通り、兄さんと対面できるよ」
そしてそのまま部屋を出て行くのですが、
あのー、外から鍵をかけておいた方が良くない?


Uボートが近くにいることが確認できたので「パニック作戦」開始です。
艦長は潜水艦のデイ艦長に作戦の準備を連絡。



パニックを起こして逃げ惑うお芝居をする部隊に作戦確認中。
ちゃんと「バーサ」もスカートを履いてスタンバイしてます。

ここで、
・「悲鳴を忘れるな」と揶揄った男をバーサ、いきなり殴り倒す

・小道具の赤ちゃん人形を抱き上げ「不正乗艦です」という水兵

という相変わらず全く面白くないシーンが挟まれます。


Uボートの方も偽装船を見つけました。

船名は「ジュディ・アン・マッカーシー」。
下士官コステロが勝手につけた彼の元カノ(体重130キロ)と同じ名前です。



シュトイベン艦長はUボートの浮上を命じました。





そして、監督渾身の潜水艦浮上シーン。
浮上した艦首の先にミステリーシップがピッタリと収まっています。
艦体に取り付けたカメラは海中に沈み、
波でレンズが洗われる様子も克明に映し出しています。
当時このシーンを見た人々はリアルな迫力に息を呑んだことでしょう。



Uボートのハッチが内部から開けられる様子も描かれます。

この二重になっている構造ですが、海自の潜水艦に入ったとき、
「ハッチ部分の下のはしごは見えないので、
足を伸ばして梯子段を確認しながら降りてください」
と注意されたのを思い出しました。


Uボートは海上で砲撃を行うことを選択しました。

はて、なぜだろう。

相手が偽装船かもしれないと疑っているこの状態で、わたしが艦長なら
こんな戦法を取らず、海中から魚雷で攻撃するけどな。

だって、偽装船とはいえ帆船が爆雷を落としてくる心配なさそうじゃない?
・・とか言っていたら、早速Uボートから撃ってきました。

口うるさいようですが、掛け声がいちいち「ファイア」なのは残念。
せっかくドイツ語で通してるんだからここは「フォイア」と言ってほしい。



偽装船、いよいよパニック作戦発動で、船員役の何人かが
船尾の救命ボートから慌てふためいて脱出を始めました。


ところがここで事件発生。
アナ・マリーが部屋から外に出て(閉じ込めておかないから当然)
フラッグブリッジに忍び込み、信号旗を揚げてしまったのです。
国際信号旗の意味と揚げ方を熟知する女性って、何者?



それは兄の潜水艦に警告を送る妹のメッセージでした。

「我が船に近寄るなと言ってます」

艦長は慌てて旗を引き摺り下ろして、ついでに彼女も引きずり倒し、
脱出するボートに強引に押し込みました。


こちらは当然相手が偽装船であることを疑っている風ですが、
アナ・マリーのスパイ報告とか、陸で会った米海軍士官とか、
疑うも何も、アメリカ軍の偽装船であることは確定してるんじゃないの。



Uボートは砲撃を継続していました。
で、このシーンですが、本当に海軍軍人に砲撃させています。



木造船なのでまだ浮いていますが、かなり浸水が進んできました。



ポンプでの水の汲みだしも見えないように低い姿勢で座って行います。


そのとき、艦長が思い詰めた表情で乗組員に総員退艦を宣言しました。
作戦はどうなったの?と顔を見合わせる水兵たち。



次の瞬間、砲弾がヒットし負傷者2名。


それを受けて、今度は海軍水兵の制服を着た乗組員が海に飛び込みます。
実はこれはパニック作戦の「フェーズ2」でした。

偽装船を装っていた海軍船が砲撃を受けて窮地に陥り、
ついには総員退船にまで追い込まれたと思わせる作戦です。



これに騙されたUボートが射程内に入ってきました。



その瞬間、満を持してラッパが鳴り響き、合衆国国旗が揚がり、
そして隠していた銃、砲弾の囲いが一斉に取り払われました。



いよいよ反撃開始です。
砲撃シーンは、下士官の俳優はそのまま、砲兵は本物で
装填と発砲を実際に行っています。



迫力の砲撃シーン。


この水煙の上がり方を見ると、水中で何か爆発させているんでしょうか。


そして、待機していた米海軍潜水艦が攻撃の準備を始めました。
右側があまり出番のなかったデイ潜水艦長です。



魚雷の装填も実際に行っています。
ここにいる全員は現役の潜水艦乗員だと思われます。

「ナンバーワン、ファイアー!」

そして会心の一撃がUボートにヒット。



艦内に海水が傾れ込んできました。


我が艦が撃沈されたことを知り、シュトイベン艦長は、
残った乗員に号令をかけ、ドイツ海軍旗に全員で敬礼を行いました。



互いに微笑んで「アウフヴィーダーゼーエン」と言葉を交わし、
肩を叩いて握手を・・・・・。



しかし、アメリカ軍の方は今や救助に全力でした。
何がなんでも相手を助ける気満々です。




同日のログより。

1918年9月7日沈没したU-172の生存者を救出
船は総員で排水の上同盟国港に入港させる
捕虜を借り収容所に引き渡す



そしてここからがラストシーンとなりますが、かなり微妙なので、
映画の評価としてここをマイナスポイントに上げる意見もあります。

ショボーンとしているアナ・マリーのところにやってくる艦長。
どうやら彼女は一連の工作で罪に問われることはなかったようなのです。

「さて、アナ・マリー。
我々は出発するが・・・何か言いたいことは?」

「いいえボブ、ないわ」

「違うな・・・お互い言うことがあるはずだ。
今言わなければ一生後悔することが」

「ボブ、何を言わせるの。あなたの勝ちよ」

「勝ち・・?いや、俺の負けだ。大事なものを失った」

「あなたは何も失ってないわ。これからも」

「そう思うか?」

黙ってうなずくアナ・マリー。

「だって君は行くんだろう?兄と、婚約者・・シラー中尉と」



「兄と行くのよ」
なんなんだこの流れ。
ボブ、いまだに彼女が諦められないのか?

「聞いてくれ、アナ・マリー。君は残るべきだ」

な、なんだって〜?

「あそこに小さな教会が見えるだろ。
僕らはあそこでこの世で一番幸せな二人になれる」
おいおいおいおい。甘すぎないかボブ。
この女と結婚した途端君の海軍での将来はないぞ。
というかいくらこの時代でも実際そんなことが可能か?

「ダメよボブ」(あっさり)

まあそうなるでしょうな。
っていうか、女の方は男が思うほど自分のこと好きじゃない。
気づけ。


「祖国は今苦境に陥って人々は希望を失ってる・・。
そんな人たちを見捨てていけないわ。
今こそ民族が寄り添う時なの。
あなたが行くからって一緒に行くわけにはいかない」

そう言う理由か。
というか、海軍軍人より彼女の方が公を憂えているのはどういうわけだ。



「わかったよ・・。
でも僕らには二人で撮った写真がある」

そういってボブはカメラごと彼女の手に握らせ、

「持っていてほしい」

彼女はそれがカメラそのものだったことにドン引きし(多分)
それをボブに押し戻しながら、去っていきました。

「また取りに来るから・・」
という心にもない言葉を残して。



そして彼女は、今から収容所に移送される捕虜の隊列にいる
兄、フランツの傍にぴったりと寄り添いました。

シラー中尉(腕を骨折して肩から吊っている)が指揮を執り、
アメリカ軍の太鼓手のドラムに合わせて、敬礼ののち、
アメリカ兵が手を振り見送る中、捕虜の隊列は行進していきます。

この頃の敵捕虜の扱いがどうだったのかを知る貴重なシーンです。


隊列の最後に、兄艦長と妹の姿がありました。



「大事なものを失った」(つまりふられた)
艦長ボブの絶望の表情で映画は終わります。



本日タイトルの「レッサー・フォード」というのは、
映画評論ページで見つけた、あるアメリカ人のこの映画に対する評です。

まだ経験もトーキーの撮影回数も少なく、映画界での力もないがゆえ、
撮影所のゴリ押しを受け入れて「たいせつなもの」を失った若い監督が、
その中で自分のできることをやりきろうとした感のある作品。

それでも至る所に確認できる、のちの大御所の才能の萌芽が、
その「海軍愛」と相まって本作を佳作にまで押し上げました。

文字通り「フォード未満」の作品だと思います。

終わり。





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