映画「Uボート基地爆破作戦」、原題「The Day Will Dawn」後半です。
例によって派手なアメリカ公開時の同作、
アメリカタイトル「アヴェンジャーズ」ポスターがこれ。
「前線の新しい秘密を描いたスリリングなドラマ!」
という煽り文句。
「新しい秘密」って何だろう。
ノルウェーからイギリスに戻ったメトカーフは、本社での仕事を再開しますが、
日に日に飛び込む戦争による損失のニュースに触れるたび、
自分自身が戦線に身を投じて祖国を救いたい思いに駆られていきます。
そんな彼に、先輩記者は、武器を取ることだけが戦いではないといい、
報道記者にしかできない戦い方をするべきだと説きます。
例えばホームフロントで国民一人が心構えを持ち、
勝利のために「経済活動」を行うよう家庭に呼びかけるなど。
ごもっともでありメトカーフもそれに納得するのですが、
ところがどっこい、運命は彼にそれを許してはくれなかったのです。
その頃、イギリス海軍情報局では、ノルウェーのどこかにあるとされる
Uボート基地を探し出すために動き出していました。
「誰かこの辺に詳しい人物はいないか」
「ピットウォーターズ中佐を呼べ」
ピットウォーターズ中佐とは?
メトカーフが空襲下のバーで飲んでいると、彼をドイツ船から助けた
駆逐艦の艦長だったピットウォーターズ中佐が「偶然」現れました。
もちろんこれを偶然と思っているのはメトカーフだけです。
ピットウォーターズ中佐、にこやかに挨拶を済ませると、
いきなり何のスポーツをやっていたか聞いてきました。
メトカーフが学生時代にかじったスポーツを適当に答えると、
「それならもちろん泳げますよね?」
「?」
「あなたモールス信号は打てます?」
「・・・いえ・・何なんです?」
「なに、すぐ覚えますよ」
「グッドラック!」
「・・・あなたも」(?)
この人、目が全然笑ってなくてこわ〜い。
「ああそうそう、乗っていた船が銃撃を受けたっていう件、
あのことで私の友人があなたと話したいと言ってましてね」
「今からですか・・いいですよ。行きましょう」
「あ、ところで結婚してます?」
「いいえ」
「近親者とかは?」
「いませんが」
「それはよかった。家族なんてつまらないですからな」
イギリス海軍、メトカーフに何をさせようとしているのでしょうか。
ドイツ船が彼を攫った理由も謎のままですが。
ピットウォーターズ中佐に海軍司令部に連れて行かれ、
そこでメトカーフは情報部のウェイバリー大佐に紹介されました。
「君はいい記事を書きますね」
「ありがとうございます」
「愚者の後知恵って感じだけどね(Wise after the event)」
イギリス人らしい上から目線の嫌味にムッとするメトカーフを前に、
なるほど健康そうだね、はい近親者もいないそうですなどと、
本人を前に勝手に話を進めていく二人。
そしていつのまにか彼は、
「ノルウェーのUボート基地を探し出し、攻撃する」
という海軍の作戦に参加することになっていました。
なるほど、で、日本語タイトルがこうなったわけね。
なぜ彼に白羽の矢が立ったかは、彼がUボートの攻撃を受けたからですが、
だからって、ただ船に乗って攻撃を受けただけの人を、
ろくにその時の状況も聞かずに現場に放り込むかな。
次の瞬間、軍用機に乗せられた彼は、あれよあれよという間に
パラシュートを装着され、目的地上空で降下させられていました。
「三つ数えたらパラシュートの紐を引っ張ってください。
ハッピーランディング!」
ハッピーランディングじゃねえよ。素人になにさせるだ。
案の定、降下するところをドイツ兵に目撃され森の中を逃げ回ることに。
メトカーフ、自分を守る武器すら持たせてもらってません。
必死で身を隠しますが、そのうち一人に見つかってしまい、万事休す。
と思ったら彼はオーストリア人で、メトカーフを見逃すどころか、
イギリス海軍の作戦に通じているらしい?人物で、
しかも、彼の受け入れ先であるパン屋も教えてくれます。
どんな偶然だよと言う気もしますが、映画なのでもうどうでもいいや。
受け入れ先のパン屋の親父から、メトカーフは衝撃的なニュースを聞きます。
一つは、皆の意見を代表したアルスタッド船長が収容所に入れられたこと。
そして、もう一つは、カーリがグンター署長の権力と金になびき、
婚約したため、村人の非難の的になっているという状況でした。
パン屋はメトカーフを、村の学校で校長をしているオラフに紹介しました。
前半の結婚式シーンでカーリの友ゲルダと挙式した新郎で、
彼を目的地のラングダールに連れて行く役目を引き受けたのでした。
オラフを演じるのは、このブログでご紹介するのもなんと三度目、
すっかりお馴染みになったニアール・マクギニス(Niall MacGinnis)。
「潜水艦撃沈す」49th Parallel (1941)で、逃走中仲間に射殺されるドイツ軍水兵の役、
「潜水艦シータイガー」We dive at dawn(1943)で、
結婚したくない男CPOマイク・コリガンを演じていた人です。
オラフと歩いていてドイツ兵に誰何され、隙を見て逃げたメトカーフは、
ドイツ-ノルウェー親睦パーティに紛れ込みますが、
そこでグンターと一緒にいるカーリを見てショックを受けます。
そこに、体重0.1トンデブのドイツ軍司令官がやってきて、
この場にいる全員の身分証を点検すると言い出しました。
メトカーフが逃げたことが報告されたようです。
その時、カーリは会場の一席で目を伏せているメトカーフに気づきました。
彼が身分証を持たずここに忍び込んでいることも察したようです。
事態を混乱させるために彼女が咄嗟に取った行動、
それはコップでテーブルを連打することでした。
それは、内心ドイツ軍のやり方に鬱屈としたものを抱いている
周りのノルウェー人たちに、抵抗の形として伝播していき、
連打の速度はだんだん速くなっていきます。
ドイツ人たちはそれに苦い顔を・・。
司令官に命ぜられたグンターが連打をやめさせ、皆を取りなし、
楽隊に演奏を命じて何とか雰囲気が元に・・、と思ったら、
ノルウェー人の楽隊員がコップ連打のリズムを使ったアドリブを始めました。
残りのメンバーも調子を合わせてアグレッシブに盛り上げます。
騒乱状態の中、律儀に身分証確認の任務を遂行するさすがのドイツ兵士。
ドイツ兵がメトカーフに近づき、あわや、というとき会場は真っ暗に。
カーリが部屋の隅にあるブレーカーを切ったのでした。
暗闇の中カーリは素早くメトカーフに近づき、逃げ込む場所を指示しました。
その後落ち合った二人。
カーリは、グンターと婚約したのは父親の釈放が条件だったから、
と釈明し、メトカーフはこれまでの彼女への想いを打ち明けました。
父親のアルスタッドが逮捕された理由は、
イギリスのラジオが流していたノルウェー国王の言葉、
「私は国民を見捨てない」
という言葉を紙に印刷して人々に配ったからでした。
そして父親を逮捕したのは他ならぬグンターで、彼は
父親の釈放と引き換えにカーリに婚約を強いたのです。
程なくして、イギリス海軍にノルウェーからの暗号が入りました。
「Uボート基地確認 重厚な偽装あり ラングダルより22キロ南方
水曜22時半以降に大西洋攻撃の計画あり」
カーリの父アルスタッドが釈放されて帰宅しました。
「現場監督」(foreman) は船上での娘のあだ名です。
アルスタッドは、潜水艦基地を爆撃する連合軍機に位置情報を伝えるメトカーフに付いていくことになりました。
ドイツ海軍が艦隊出撃の準備を始めました。
このとき、ドイツ軍人の間でこんな会話があります。
「どうして海軍は総統に乾杯しないんだ」
「英国海軍を手本にしたため、伝統を受け継いでいる部分がありましてね。
我々も修正を試みているんですが」
映画はここで悪質な印象操作をぶち込んできます。
「生存者を救出するなどという騎士道精神まで受け継いてはいませんが、
とにかくドイツ海軍は総統に乾杯はしないのです」
アメリカとイギリスは、戦後もこの
「ドイツ海軍は生存者を救出しない」
という文言を好み、ドイツの「残虐ぶり」を強調しようとしてきましたが、
実際にはそうではなかったことは、「ラコニア号事件」が証明しています。ラコニア号の乗員を救出するU-156とU-506
この後、メトカーフが地上から発光信号で航空機を誘導し(!)
偽装が施されたドイツ潜水艦基地は見事爆撃されます。
この一連の爆撃シーンは、実際のストック映像からの流用多数。
役目を終えて帰ってきたメトカーフにカーリは父の安否を訊ねます。
「お父さんはもう帰ってこない」
作戦成功の知らせは海軍情報部にも入りました。
「マーシュのおかげだな!」
「メトカーフです」
「そう言っただろ」
「・・失礼しました」
Mしか一致してねーし。
しかしそれで済むほどドイツ軍は甘くありません。
首謀者がメトカーフであることも当局はすでに掴んでおり、
彼と協力者8名を逮捕し、処刑すると通告してきました。
次々と引き立てられていく人々。
その中には、ゲルダの夫、オラフもいました。
グンターは、メトカーフが見つからなければ、8人を処刑すると脅しています。
ゲルダはカーリに、人質になった人たちの命を救うために
メトカーフの居場所を教えるように懇願しにきたのでした。
その話を陰で聞いていたメトカーフは、警察に自首しました。
カーリの元にグンターが来て、メトカーフの自首を告げました。
彼は、それでもカーリがまだ処罰対象になっているため、
自分と結婚すれば命を助けることができると持ちかけます。
きっぱりとそれを拒否するカーリ。
父の釈放のために婚約はしていましたが、その父も亡くなった今、
こいつと結婚するくらいなら死んだほうがマシということですか。
それを聞くとグンターはいきなり外にいたドイツ兵に彼女を逮捕させました。
警察署で、捕えられた人々と一緒になったメトカーフは、
こんな演説をします。
「あなたはここに製油所と称して潜水艦基地をつくった。
部下はノルウェー語を話す。なぜか。
彼らは子供の頃、戦争でここに逃れてきた人々だからだ。
ノルウェーの人々が空腹だった彼らを助けた。
その彼らが今では侵攻する大隊を構成していて、
『親切な人々』を殺すことができる。
しかしここで我々を殺したとしても、ほんの少しに過ぎない。
他には何百万人だっているんですよ。
漁師、パン屋、商人、教師・・普通の人々がね。
あなた方はその全てを殺すことなんてできない。
『その日』は来ます。あなたが思うよりもはやく。
皆が立ち上がり、自由になる日が。
そのとき、あなたに神のご加護がありますように」
ヴェッタウ司令は鼻白んだ様子になりましたが、
それでも彼の意見には何も言わず、全員を逮捕させました。
同じ房に閉じ込められ、処刑を待つだけの8人。
夜明けと同時にドイツ語の掛け声が房の前で響き、
兵士たちが8人のうち「最初の4人」を処刑のために連れ出します。
そしてすぐそばの処刑場から聞こえる命令と銃声。
こういうとき最後に牧師を立ち合わせたりしないか?
ゲルダの夫、オラフと彼らを含む4人が息を飲んでその時を待っていると、
にわかに外が騒々しくなりました。
このとき、英海軍部隊が潜水艦基地に到達していたのです。
そしてコマンド部隊が基地を強襲。
基地からは彼らの強襲ボートが船着場に乗りこむまで、
ドイツ側から何の反応もなく、全く反撃もなかったようで何よりです。
さっさと基地を後に自分だけ逃げようとする基地司令(私服になってる)。
協力させるだけさせといて逃げる気か!とすがるグンター。
司令は面倒になって、利用価値のない彼をさっさと射殺してしまいました。
このとき、木造の家が爆破されるシーンがありますが、これは
実際にノルウェー海岸をイギリス軍特殊部隊が襲撃した際の映像です。
このときコマンド部隊が攻撃したのはノルウェーの魚油加工工場などで、
この映像は当時のニュースリールに残されたものでした。
この映画に挿入されている実写シーンは、
ニュース映画やその他の現実の映像から抜粋されています。
「・・・イギリス海軍が来たわ」
このデボラ・カーの凄まじい演技を見よ。
捕虜になったドイツ兵たちが船に乗せられるシーンですが、
これ、もしかしたら第一次世界大戦のこの写真を参考にしてる?
WW1 blinds soldiers
WW1 - Weapons and Technology
写真の人たちが目隠しして前の肩を掴んでいるのは、
彼らが戦闘で視力を失ったからなんですが・・・。
このシーンの人たちは、捕虜として目隠しされているようです。
ゲルダとオラフはイギリスに行って住むことになりました。
この短期間(数時間くらい?)になぜそこまで決まったのかは謎です。
イギリス軍が難民を受け付けてくれたのかな。
「子供はイギリスで生まれることになるが、血はノルウェー人だ」
ところで、いかにこの時代のノルウェーの状況について知らない我々も、
映画はイギリス制作であり、演じているのは全員がイギリス人、
全てがイギリスに都合よく描かれていることも知っておく必要があります。
ノルウェーはイギリス寄りであったとはいえ、中立国で、チャーチルは
ドイツより先にノルウェーを「占領」しようとしていましたよね。
ノルウェーはイギリスに占領された方がラッキーだったはず、というのは
あくまでイギリス人の考えにすぎず、ノルウェー人にすれば、
どちらかに占領されるならドイツよりはまし、程度だったと思うんだけどな。
放っておいたら中国かロシアに取られてしまうという理由で、
国内の偉い人に頼まれるようにして朝鮮を併合した日本が、
そのことをいまだに恨まれ続けているという例もあることですし。
(まあかの国の民族的気質がかなりの粘着質ってのもありますが)
占領される側から見たとき「良い占領」などは存在しない。
防衛上のいかなる正当かつ合理的な理由があったとしても、占領は占領、
国民主権が他国に奪われるという現実には違いないのですから。
そして、ノルウェーを離れる人々は、
村に残る人々に別れを告げ、船は岸を離れて行きました。
メトカーフはもちろんイギリスにカーリを連れて帰ります。
これからノルウェーはドイツに占領されることになるからですね。
最後に流れる字幕には、このようにあります。
「今、ナチスのくびきの下にひれ伏している12の有名な古代国家では、あらゆる階級と信条の人民大衆が解放の時を待っている。その時は必ず訪れ、その荘厳な鐘の音は、夜が過ぎ、夜明けが来たことを告げるだろう。」
1941年12月26日、アメリカ合衆国上院で首相チャーチルが行った演説です。
The night is past and that the dawn has come.
映画のタイトルはこの一節から取られました。
実際のノルウェーの「夜明け」は、この時点から4年後のことになります。
終わり。