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Channel: ネイビーブルーに恋をして
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映画「ザ・ファイティング・サリヴァンズ」〜USS 「ザ・サリヴァンズ」

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エリー湖にあるバッファロー海軍&軍事博物艦に展示されている
第二次世界大戦中の駆逐艦「ザ・サリヴァンズ」。

前回、真珠湾攻撃の時に「アリゾナ」と共に斃れた友の仇を取るために
三人の弟を誘って五人全員で海軍に入隊したという
「海軍サリヴァン兄弟」結成の経緯までをお話ししました。

戦没して駆逐艦に名前を遺した海軍軍人はそれこそたくさんいるわけですが、
この五人兄弟はその数だけでも特異であり、極めて稀です。

ならば、彼らの映画もあるんじゃないかと思って探したらやっぱりあった。
冒頭に貼ったのは、なんと2時間近くの超大作です。


タイトルは「戦うサリヴァン兄弟」(The Fighting Sullivans)。
テーマ音楽はアイルランドの「グリーンスリーブス」を勇ましく、
軍隊調?にしたもので、最初からもうやる気?満々です。

全体的に無名俳優ばかりですが、トップスター、アン・バクスター、
名脇役トーマス・ミッチェル(舞台『刑事コロンボ』の最初の俳優)
をキャスティングしたあたりに、力の入れようが見えます。


監督のロイド・ベーコンは、「42番街」「チャップリンシリーズ」
「北大西洋」などを手掛けた中堅どころの監督で、
映画は1944年に制作されました。

これで更なる戦意高揚が期待できるというところでしょう。
しかし、海軍の協力などがあったわけではありません。それがなぜかはおそらく映画をご覧いただければわかります。

とはいえ、2時間近いこの大作を翻訳なしで観る根気も時間もない、
という方々のために、不肖わたしが簡単に解説を行います。


サリヴァン家の兄弟は、次々と行われる洗礼式でその名前を紹介されます。


五人の男児、一人の女児(ジェヌヴィエーヴ/ジェン)は
すくすくと育っておりました。

彼らの父親は貨物列車の車掌です。



五人兄弟は、毎日線路脇の給水塔から父親に手を振って見送るのでした。



そしてわんぱくぶりを発揮していきます。
喧嘩は日常茶飯事。



手作りのボートで転覆し、溺れそうになる。
(母親から大人になるまでボートに乗るのを禁止される)



納屋でタバコを吸って見つかる。
(なんとびっくり、父親は五人兄弟に葉巻を吸わせて咽せさせて懲らしめる)


「プランク」を作るために家の壁を切り抜いて、



水道管を破り台所を水浸しにする。
あーもう、本当に男の子ってバカ。(実感済み)


1939年、長男のジョージは街のバイクレースで優勝するような
イケイケな青年に成長していました。

末弟のアルバートはまだ高校生ですが、兄のバイクレースの日に出会った
運命の女性、キャサリン・メアリーと恋に落ちます。


結婚したいという弟に、まだ若すぎると反対する兄たち。



キャサリン・メアリーを招待した食事の席で、兄たちは、
架空の女の子からの手紙が弟に来たことにするなど、
姑息な手段で二人を別れさせようとしますが、すぐに可憐で純粋な
キャサリン・メアリー(綺麗すぎアン・バクスター)の悲しみを目にし、
自分たちが間違っていたことを認め、二人を祝福しました。


そして二人は結婚。

すぐに子供に恵まれました。
これまた当たり前のように男児です。
男系・女系ってあるよね。

1941年12月7日。
この日曜日、サリヴァン一家が皆でくつろいでいるところに
ラジオから飛び込んできたのは真珠湾攻撃のニュースでした。

沈没した「アリゾナ」には彼らの友人の一人、
ビル・バスコム(ビル・ボールがモデル)が乗り組んでいたことを知り、
彼らは友の仇を取るために海軍に入隊する決意をします。


当初新婚子持ちだった末弟のアルは一旦入隊を諦めますが、
あまりに残念そうな彼の様子を見ていた妻は、驚くことに、
彼に兄と一緒に入隊事務所に行くようにと進めるのでした。


事務所受付は、来る男来る男、名前がサリヴァンなのでびっくりです。



募集担当官のLCDR(少佐)ロビンソンは・・・あ、この顔見覚えあるぞ。
「FBI vsナチス」っていう啓蒙映画でFBIの中の人を演じていた俳優だ。

彼らの「5人で同じ船に乗りたい」という切なる願いに対し、
海軍としてもそんな保証はできかねる、と答えるしかありません。
特に5兄弟ともなると、前例もありませんしね。
とりあえず海軍は当初長男のジョージにのみ入隊許可を与えますが、
兄弟は海軍省直々に手紙を書き、結局全員の入隊が実現しました。

そして五人の息子たちが家族と別れる日がやってきました。
ここから彼らの海軍での生活が始まるわけですが、
ふと気づけば、映画は2時間のうちあと30分残すのみ。
これは海軍協賛とかではなく、完全に民製作品だったと知った瞬間です。

予想通り、ここからサリヴァン兄弟はいきなり「ジュノー」に乗り込み、
あっという間にソロモン沖で戦死するのですが、その描写は
明らかにセットで撮影されたもので、全く写実性に重きを置いていません。

ですので、ここからは、映画の流れを無視して?
実際の「ジュノー」沈没までの経緯を書いておきます。


11月12日、「ジュノー」は、ガダルカナル沖の激しい夜戦を行います。

この戦闘で魚雷により艦は大破。
一旦総員退艦の命令が下されました。

翌朝、航行不可能になった巡洋艦は艦首を失い、
18ノットを出すのに苦労しながら戦闘海域から退却します。
なんとか艦体を帰還させようとしたアメリカ海軍でしたが、
当時の海域はもうほぼガラス張り状態。

穏やかな海をのろのろと進む「ジュノー」は、
近くにいた帝国海軍の潜水艦伊号26にとって魅力的な標的となり、
魚雷が1〜2本、損傷した巡洋艦の前方に命中すると、
それは弾倉に引火し、次の瞬間激しい爆発が船を引き裂き、
わずか42秒で沈没していきました。



次男フランシス(操舵手)と三男ジョセフ、四男マディソン2等水兵、
合計3名のサリヴァン兄弟は、退艦することもできませんでした。

彼らは艦上ですでに絶命していたと言われています。

ちなみにこのとき「ジュノー」乗組員中、沈没直後に生存していたのは
約140名と言われていますが、8日後、救助されたのはわずか10名でした。
海軍が無線の沈黙を命じたこともあり、多くの生存者は漂流中に負傷が元で、
そして風雨、飢え、渇き、サメの襲来に斃れていったのです。


映画では、負傷して艦内に寝かされている長男ジョージを
兄弟全員が救出に行き、全員一緒に戦死したということになっています。
生存者の証言によると、フランク、ジョー、マットは全員艦上で即死、
アルバートは救助艇に乗れず翌日溺死、長男ジョージは漂流し、
高ナトリウム血症によるせん妄を患うまで4、5日間生きていました。

彼は兄弟を失った悲しみで精神を追い詰められ、
自分が乗っていたいかだの側面を乗り越えて水に落ち、
それっきり姿を消したという証言もあるそうですが、
それはせん妄によるものということもできるでしょう。

映画に戻りましょう。


画面が暗転すると、次のシーンでは例のロビンソン少佐が
サリヴァン家を訪れてくるところです。
少佐がニコニコと愛想よく挨拶するものだから、
家族たちも悪い予感は何も持たずに握手などしていますが、
実際両親は、戦地の息子たちからぱったりと通信が途絶え、
そこに彼らの戦死の噂が耳に入ってきたこともあって、
海軍人事局に手紙を書いて彼らの安否を問おうとしていました。
軍艦沈没の情報を国民の士気を下げることから報道しない、というのは
決して日本だけのことではなかったようですね。


実際には、1月12日の朝、父親であるトムが仕事の準備をしていたとき、
軍服を着た3人の男性(中佐、医師、兵曹長)がやってきたとされます。
「あなた方の息子さんについてお知らせがあります」
と中佐がいうと、父親は尋ねました。

「どの息子です?」
 "Which one?" 

すると中佐は答えました。

「お気の毒ですが、5人全員です」
"I'm sorry, All five."

アルの妻であるキャサリン・メイと姉のジェンは、
少佐が広報を読み上げるのを聞き終わるやいなや、
ワッと泣きながら自室に姿を消しました。

わたしに言わせると、ここからがこの映画の見どころとなります。この映画のラスト15分、きっと当時、全米が泣いたに違いありません。
少佐の言葉に呆然とする両親。俯く中佐。
暖炉の上の写真(本物)に父親が見入った瞬間、列車の汽笛が鳴り響きます。
それは、車掌であるトムが仕事に行く合図でもありました。
「失礼します。
イリノイ中央鉄道の操車係になって33年間一度も休んだことがないもので・・すみません」

そして母親は・・。


ふと我に返った顔になり、「五人全部・・・」と呟きます。
少佐は、そんな母親に向かい、思いついたように微笑みを顔に装って、
「Five on second thought」

という言葉の後に、

「すみませんが・・・コーヒーを一杯いただけますかな」
と所望するのです。

それを聞くと、彼女は何かやらなければならないことを思い出した風に、
同じく微笑んでいそいそと立ち上がり、キッチンに向かうのでした。

母親の「All five..」に対し「5といえば・・」とは妙な返しですが、
この一見不思議なやりとりは、却って観る者の心を深く抉ります。

監督の非凡さを表すシーケンスだと思います。


そしていつものように仕事にかかる父親。



列車が動き出してしばらくすると、あの給水塔の横を通ります。





誰もいない給水塔に向かって、父親は小さく敬礼を送ります。


そして、USS「サリヴァン」の進水式がやってきました。



実は、兄弟が「アリゾナ」のビル・ボールと友人になったのは、
彼がジュヌヴィエーヴのボーイフレンドだったからでした。
実際にジェンはWACとして海軍で人事に勤務し、新兵募集に携わりました。
米国海軍予備役に入隊し、両親のトーマス・F・サリヴァン夫妻とともに
200以上の造船所や製造工場を訪問し、そこで働く労働者を激励しました。

映画でキャサリンが抱いている息子のジミーですが、成長して海軍に入り、
念願かなってこのUSS「ザ・サリヴァンズ」の乗組員になりました。


そして時は流れ、1995年、2代目USS「ザ・サリヴァンズ」DDG-68(運用中)の進水式スポンサーになったのは、アル・サリヴァンの孫、ジミーの娘であるケリー・アン・サリヴァン・ローレン(右女性)でした。




シャンパンの儀式は母親のアレッタが行いました。


シャンパンが割れると同時に汽笛を鳴らしながら進水する船。
(艦番号は450なので、この映像は『オバノン』の進水式。
日本海軍の潜水艦とジャガイモの投げ合いをした艦です)

それを見送る彼女は夫に向かっていうのでした。

「トム・・・あの子たちが生き返ったわ」” Tom, our boys are float again."

「錨を揚げて」Anchors Aweigh の調べの中、
朗らかに手を振り、光に向かって進んでいく五人兄弟。
このラストシーンには、恥ずかしながら涙腺をやられました。

サリヴァン兄弟の映画は、実は間接的に、スピルバーグの映画、
「プライベート・ライアン」に影響を与えています。

サリヴァン兄弟他何組かの兄弟の戦死事案が勘案された結果、海軍省は

ソウル・サバイバー・ポリシー (Sole Survivor Policy)
国防総省指令1315.15「生存者のための特別分離政策」

を制定しました。

ある兵士が軍務で失われた場合、同家族内の生存している兵士を
徴兵または戦闘任務に就かせず、保護することが定められています。

続く。

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