
たった今知ったばかりのニュースに驚かされたので、
本題とは離れますが、英語版の記事を挙げておきます。
USスチールCEO、売却阻止のバイデン氏の「恥ずべき」行動を激しく非難
USスチールの社長兼最高経営責任者(CEO)は金曜午後の声明で、
同社が日本企業の日本製鉄に買収されるのを阻止するという
バイデン大統領の決定は「恥ずべきこと」であり「腐敗している」と述べた。
「バイデン大統領の今日の行動は恥ずべき腐敗だ。
彼は組合員と疎遠な組合長に政治的報復を行い、
わが社の将来、労働者、そして国家の安全保障に損害を与えた」
とデビッド・バリット氏はソーシャルプラットフォームXに投稿し、大統領は
全米鉄鋼労働組合のデビッド・マッコール会長に恩義があると主張した。
「バイデン氏は、経済と国家安全保障の重要な同盟国である日本を侮辱し、
米国の競争力を危険にさらした。
北京の中国共産党指導者たちは小躍りしている。
そしてバイデン氏は、事実を知るために
我々と会うことさえ拒否しながら、これらすべてを行った」
と同氏は付け加えた。この取引は対米外国投資委員会によって1年以上検討されており、
委員らは米国の鉄鋼業界に影響を及ぼす大規模な変化の
潜在的なリスクと利益を検討してきた。
バイデン氏は、国家安全保障上のリスクと国際競争力への打撃を
決定要因として挙げ、この合意を阻止すると発表した。
「米国の国益のために戦いを主導し続けるためには、
米国の鉄鋼生産能力の大部分を占める大手米国企業が必要だ」
とバイデン氏は述べた。
「行政府の国家安全保障と貿易の専門家委員会が決定したように、この買収は
アメリカ最大の鉄鋼メーカーの一つを外国の支配下に置くことになり、
国家安全保障と重要なサプライチェーンにリスクをもたらすだろう。だから、私はこの取引を阻止するために行動を起こしているのです。」
トランプ次期大統領も、労働団体からの強い支持を得て
同様の発言を称賛しながら、この合意に反対する姿勢を示している。
しかし、バリット氏は、この決定は鉄鋼労働産業における米国の将来を妨げ、
長年の進歩を後退させるだろうと述べた。
USスチールの従業員のグループもこの取引を支持している。
「我々の従業員と地域社会は、より良い待遇を受けるに値する。
アメリカにとって最善の条件を得る方法を知っており、
それを実現するために懸命に働く大統領が必要だった」
とバリット氏は書いた。
「誤解しないでください。
この投資はUSスチール、当社の従業員、地域社会、
そして国家にとって素晴らしい未来を保証するものです。
私たちはバイデン大統領の政治的腐敗と戦うつもりです。」
なんと売却に反対していたのは政府であり、
企業側はそれを進めたがっていたのですね。知らんかった。なおこの新聞記事で労働者たちが持っているプラカードには
「We want Nippon Steel's investment」
と書いてありました。
さて、本題に戻ります。
平成6年度の映画ログより、タイトルイラストを振り返る企画、
年を跨いで三日目となりました。
最終日は、日米双方の隊員勧誘を目的とした宣伝映画です。
■ 嵐を突っ切るジェット機
前編
この映画の存在については全く知らなかったのですが、
知人のKさんが航空自衛隊の基地を訪問し、そこで撮った写真の中に、
空自の協力で制作された昭和の映画のポスターがあったわけです。
自衛隊を描いた、あるいは自衛官が主人公である映画は、昭和期には宣伝目的でそこそこ制作されていたようですが、
DVD化されている作品はあまりないため、ネットで検索しても
なかなかヒットしないので、この情報は大変ありがたかったです。
その中で現在なんらかの方法で視聴できる唯一の映画がこれでした。
空自のパイロットを主人公としたこの映画は、源田實が空幕長に就任し、
その肝入りでアクロバット飛行チーム、「ブルーインパルス」が
正式に発足した、まさにその翌年の1961年に公開されています。
時期的に見て、これはもう間違いなく、ブルーインパルス発足と同時に
広報を目的とした映画の企画が始まっていたものでしょう。
当時イカすヤングスターだったマイトガイこと小林旭を主人公に、
ブルーインパルスの宣伝とパイロットへの憧れを育てようとしたようです。
しかし、現代の視点でこれを見ると、色々と疑問を感じます。まず、主人公演じる自衛官像について。
当時の若者が「イカす」と思うような人物像は、
例えば石原慎太郎が描き、弟の石原裕次郎が主人公を演じた
「太陽の季節」から派生した太陽族のように、裕福な家庭に育ち、無軌道で、
「健康な無知と無倫理の戦後派」(太陽の季節の宣伝文句)
つまり、その時代のアンファン・テリブル=アウトローに属するような
「不良」であったとすれば、この主人公、榊は、
自衛隊で素行の悪さから叱責を受け、それが原因で左遷され、私生活では車をかっ飛ばしてジャズをやり、何かというと暴力を振るう、
という不良ぶりを遺憾無く発揮する人物なのですが、
そもそもそんな人物が自衛官というのはどうなのか。

後半
そしてこの映画の失策その2は、
主人公とその兄が立ち向かう敵が「第三国人」だったことです。
戦後のドサクサに麻薬を売買して儲けていた第三国人、
劉にヤバい商売の片棒を担がされていた榊の兄(元海軍パイロット)。
兄の犯罪に気づいた榊は、劉を追っていた刑事が
沖縄に逃げようとする劉を捕まえるため、自衛隊に出動要請したのを受けて、
最初はF-86で、それもダメならT-33に乗り換えて劉を追います。
そもそも、一介の警察官が自衛隊の出動を電話で要請できるなんて、
並行世界の日本かよとこの映画を見たおそらく全員が思うでしょう。
わたしは思うのですが、もし自衛隊がこの映画でジェット機を宣伝して、
自衛隊への関心を深め、あわよくば入隊者の増加につなげたいのなら、
まず、チンケな密売人との戦いではなく、自衛隊の出動要件である、
治安出動や災害派遣、警護出動を満たすアクシデントを据えるべきでした。
感想の最後に、
「よくこんな映画に自衛隊が協力を許したな」
と書いたのですが、それはあくまでも半世紀後の常識によるもので、
1950年台の自衛隊は今とは全く採用基準、そして構成人員、
その他もろもろが今とは全くちがっていたことを考えなくてはいけません。
今では考えられませんが、名前さえ書ければ入隊できた時代もあるのです。盛場でウロウロしている若者に、「ニイちゃんいい身体してるね」
と声をかける自衛隊の勧誘員がいたというのも伝説などではありません。

映画はこの時代(ヤンキー出現期)より遥かに昔であり、
そういう意味では、自衛隊に入隊しようとする若者の層もピンキリで、
それこそキリの方にはとんでもないのも紛れていたはずです。
もしかしたら、こんな映画でも「アキラの兄ぃイカス!」とシビレて、
パイロットになってジェットぶっちぎっちゃる!
と自衛隊に入隊する人もちょっとくらいいたかもしれない。
アメリカで「トップガン」を上映した映画館に窓口を設置しておいたら、
そこから海軍への入隊を申し込んだ人がたくさんいたという話もあったし。
■ HERE COME THE WAVES
(ウェーブスがやってくる)

アメリカの戦争コメディ(戦争中にコメディを作ってしまうアメリカ)
ばかりを集めた直輸入版のCDに収録されていた映画です。
日本では公開されなかった作品なので、邦題は直訳しましたが、
もし公開されていたら、その時はどんなタイトルになっていたでしょうか。想像してみます。
例1:「海軍の美人双子」
この作品の前にご紹介した陸軍WAC勧誘映画、
「Keep Your Powder Dry」(常に備えあり)
が、「陸軍の美人トリオ」になったことから類推してみました。
例2:「海軍女子がきた!」
〇〇女子、という言い方はちょっと今風ですがどうでしょう。
まあ、いずれにしても日本では「WAVES」という言葉は使わないでしょう。
何度かこのブログでもお話ししているように、海上自衛隊では
女性隊員のことを、語尾の印象が良くない「ウェーブス」ではなく、
「ウェーブ」と呼んでいるので、万が一この言葉を採用しても、
例3:「ウェーブがやってきた!」
になるはずです。
本作は英語字幕がなく、シノプシスも見つからず、
要するに翻訳の助けになるものが何もなかったので、
全ての理解を聞き取りで行いましたが、正直なところ、
一部どうしても聞き取れなかったセリフもあったりして苦労しました。
さて、「嵐を突っ切るジェット機」は、入隊希望者を増やすために
設定すべき「憧れられる主人公」「憧れられるシチュエーション」
をすっかり見誤ったとわたしは厳しく断罪しましたが、
戦時中のアメリカにおける女性軍人のリクルートを目的とした当映画は、
当時アイドル&カリスマ的人気があった歌手、ビング・クロスビーが
海軍に入隊してウェーブスと恋に落ちるという展開で、
海軍への憧れを実に軟派な方向から憧れを煽ってきています。
これはアメリカ人にとっては大変効果的だったと思われます。
日本と違ってアメリカの戦争映画は必ず男女の恋愛を取り上げますし、
軍公式のリクルート映画などでも、それは例外ではなく、
はっきりと「女の子にモテるよ」などという直接的な文言で
航空隊への参加を誘ってくるような作りとなっていました。
愛国心とか公徳心、公に殉じる覚悟とかはもちろん誰の建前にもありますが、
人間誰しも自分の人生を良く生きたいというのが古今東西本音にあります。
陸軍の「常に備えあり」にしても、この「ワックがやってきた」にしても、
そこでは軍隊での生活を女性のライフステージの一つとして提案し、
そこではちょっとワクワクした非日常な出来事が起こるかも?
それは素敵な男性との出会いかもしれないし、
一生付き合える仲間との出会いかもしれない、という具合です。
軍隊に参加することは、多少は厳しいこともありますが、
決して自分を殺したり、我慢をしたりすることはないんですよ、
それに、国のために働くのはこれだけ格好良くて尊敬されます、
と、まあ現在のリクルートとはあまり違いのない角度からのアプローチです。

本編のイラストは、白黒映画だったこともあって、
「陸軍の美人トリオ」と同じ、アメコミ風に仕上げてみました。
また今年も、皆様があまり観る機会のない、
このような日本未公開の作品も頑張って取り上げていきたいと思いますので、
どうかお付き合いください。