防大生のご子息をお持ちの読者の方から、
「ニコニコ動画で防大の卒業式が放送されます」
という「親ばか情報」をいただきました。
何でも、式の当日夜にほとんどノーカットで流されるとのこと。
ちょうどうちにいてパソコンに向かっていることもできたので、
最初から最後まで時々写真を撮りながら見ました。
その方の当初のお話によると、去年起こった防大生の不祥事のため、
卒業式の帽子投げは自粛されるのではないかという噂もあったようです。
防大の恒例となっているこの帽子無げ(hat toss)、元はと言えば1912年、
アメリカの海軍兵学校の卒業式で始まった慣習です。
もちろん「もうこの帽子は必要ない」という意味が込められているわけですが、
わたしが思うに、最初は数人のお調子者がつい開放感から帽子を投げたところ、
乗りのいいアメリカ人の習性で全員がいえーい!と追随し、それからというもの
それを見ていた在校生が自分のときにもやるようになり・・、
という流れでいつの間にか定着した行事ではないでしょうか。
(あくまでも状況証拠による推理ですので本当のところを知っている方、
ぜひ教えていただきたく存じます)
一見お行儀の悪いこの慣習、勿論のこと戦前の海軍兵学校では行われませんでしたが、
この、それまでの厳粛な式典から一転してブレイクする、
いわば「ハレ」と「ケ」の対比を見るような演出がある意味日本人の感性にマッチしたのか、
防衛大学校のみならず一般の大学においても行われています。
わたしがこの一般の大学で帽子投げが行われているのを知ったのは最近で、
親族がとある学校での卒業式で帽子投げを目撃したという話を聞いたのです。
この一般大学で卒業生が投げるのは学帽、つまり卒業式のときにガウンとともに着用する、
いわゆる「アカデミックドレス」の四角い帽子です。
話が寄り道しますが、このアカデミックドレスでの卒業を行っているのは
日本ではキリスト教系の大学からはじまり、現在は国立私立問わず何校かあります。
最も早かったのが早稲田大学。
早稲田では1913年(大正2年)に制定され、大隈重信がそれを着て行進をしています。
面白いのは、アナポリスで帽子投げが始まったのとほとんど同じ年であることで、
勿論この頃の早稲田には帽子を投げるなどという文化はありません。
現在アカデミックドレスを着用するのはこの早稲田を始め、最近導入した
東大、阪大、東工大、千葉大などの国立大と、いくつかの私大です。
わたしの親族のひとりは卒業生ではありませんがアカデミックドレスを着る立場で、
式典の最後に皆が帽子投げをするのを眺めていたそうですが、わたしが
「どうして角帽投げないの?」
と聞くと、
「学生と違って、もし投げたら自分で拾いにいかないといけないから」
という返事でした。
それにしてもいつから学帽まで投げることになったのでしょうか。
アナポリスや防衛大の帽子投げは
「もうこの帽子とはお別れだ」
という象徴的な意味があります。
実際、防大生は帽子を投げてそこから走り去ったあと、各自が任官する陸海空の
新しい制服に身を包み、あらためて受閲をおこなうわけですから、
ストーリーとして?非常に理にかなっています。
しかし、この「学帽投げ」は・・・。
まず間違いなく防大の帽子投げから波及したものだと思いますが、
何らかの意味があるとしたらそれは「開放感」というくらいのものでしょうか。
決して非難するわけではありませんが、大隈重信が知ったらきっと怒ると思います。
さて、話を防大に戻します。
この象徴的な行事である帽子投げの実地が危ぶまれるとまで噂になったのは
防衛大学校で去年起きた不祥事が原因でした。
この不祥事とは・・・・・、
2013年9月、防衛大学校の学生5名が、実際はけがをしていないのに入院したなどと偽り
保険会社から保険金を騙し取ったとして詐欺容疑で書類送検された事件。
書類送検された5名は調べに対し「任官した先輩から教えてもらった」と述べたところから
組織的かつ継続的な犯行が行われているものとみて事件の徹底究明に乗り出した。
書類送検された5名は9月27日付で退校処分となったが、
学校側は学生の将来性を考慮するとして、氏名を公表しなかった。
先述の発言を受けて同校では卒業を控えた4学年を優先的に調査してきたが、
部内の治安維持を任務とする警務隊が2014年3月、新たに4年生5名を書類送検したことを
防衛省が発表したことから、同校はこの5名全員を退校処分とし、退校者は10名となった。
この5名の中に、先に退校処分された学生と同部屋で起居していた学生がいたことから
手口を共有していたと見られる。
なお、同校では今回の事件発覚以前にも同様の手口で退校処分を受けている者がいることから
長期間にわたりこの手法が継続しているものと見て再発防止のための調査委員会を設置、
調査を継続するとともに、今後は刑法上の公訴時効(7年)に満たない卒業生に対しても
捜査を拡大することを検討している。
その一方で事案を部内で短期に終息させようとする制服組と、
部外警察への引き渡しを含め徹底的な究明を図る背広組との対立が明らかとなっている。(wiki)
ご存じない方のためにwikiから引用するとこのような事件です。
事件が報じられたとき、案の定「心ある市民団体」(という名の左翼)らしき人たちが
「防大生を見れば詐欺師と思え」
などという酷い言葉で防大生全員が事件にかかわっていたかのようにこの事件を論じ、
野党もそれみたことかと鬼の首を取ったように国会でこのことを糾弾したそうですが、
ただでさえ鵜の目鷹の目で揚げ足を取ろうとする「反対派」に萎縮しがちな防衛省が、
こんな事件を起こした防大に対して、真意はともかく、当事者ならずとも
綱紀粛正を戒めているというポーズを世間に対して示そうとするのは当然で、
「帽子投げ禁止」
などという噂もそこから出て来たのかと思われます。
今年たまたま放映があることを教えていただいたのですが、このようなことがあった年度の卒業式、
防衛大臣、総理大臣、そして防大校長がどのように今年の式に臨むのか、
それらに対する興味もあってこの放送を見てみることにしました。
儀仗隊入場。
暗い講堂内の映像を、さらにニコニコ動画で放映されているものを
普通のカメラで撮った写真なので画像は無茶苦茶です。
ご存知のようにニコニコ動画はコメントが出るのですが、
今回はそれも写しておきました。
総理大臣臨席、栄誉礼に続いて国歌斉唱。
ちなみに国歌斉唱では、コメント欄でも皆が歌っていました(笑)
この後、卒業証書授与があったのですが、昔の「恩賜の短剣」はなくなり、
どうやら最初に呼ばれる「代表」が主席なのかなと思われました。
見ているといきなり画面にはラヴェルの「ボレロ」がかぶせられました。
「なぜボレロ」
とコメント欄では皆が不思議がっていましたが、実際はヘンデルの
「見よ勇者は帰る」(勝利を讃える歌)がずっと演奏されていたはずです。
ここのところはかつての海軍兵学校と全く変わっていないということですね。
そして卒業生の答辞。
この学生が「クラスヘッド」でしょうか。
「我々の在学中、一部の心無い学生の振る舞いにより、
防衛大学校の威信が傷つけられる事案が生起しました。
我々58期生はこの状況を踏まえ、今一度原点に立ち返り、
防衛大学校学生としての理想像追求に努力して参りました」
と、いう一文が入り、やはりその問題についての姿勢を明らかにしていました。
「帽子投げ禁止」
などという懲罰などではなく、学生の自主的な反省と自戒を見せることで
事件への姿勢を表に示したもの、とわたしは解釈しました。
しかしながら、後にも述べますが、この日の模様を報道したメディアの関心は
全くそんなことには無く、朝日新聞を筆頭とした新聞は、ただひたすら
安倍首相の訓示の中に集団的自衛権の改正につながる「核心的な」言辞を
それこそ砂金を探し出すような熱心さで抜き書きすることに腐心しており、
はっきりいって「不祥事」などどうでもよかったのではないかと思われました。
こういった防大側の「反省の姿勢」は、わたしのように最初から最後まで
この式典を意図的に注視している人間にしか伝わらなかったということになります。
(新聞が全く触れないのですからね)
つまり、「防大生を見れば詐欺師と思え」などと言っている人たちは
おそらく防大の卒業式を最初から最後まで見ることなどまずないでしょうし、
帽子投げをしている映像だけをどこかで見つけては
「全く反省の色がない」
などと憎々しげに決めつけるのが関の山なのではないでしょうか。
こういう持論の人たちにとって、自分に都合の悪い事実は存在しないのです。
因みに、ちょうどこれを書いていた28日、
横浜地検が、詐欺容疑で書類送検されていた21歳〜23歳の元学生の男性10人を
起訴猶予処分としたというニュースが入ってきました。
地検は理由を明らかにしていないということで、またしても左な人たちがこれに噛み付き
大騒ぎしないかが注目されますね。
さて、このあと、陸海空要員の代表が幹部候補生として宣誓し、
一人ずつ安倍総理と握手を交わしました。
このときに、幹部候補生は任官するということでしょうか。
このときに宣誓されたのは勿論
「自衛隊の服務の宣誓」です。
私は、我が国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、
日本国憲法及び法令を遵守し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、
人格を尊重し、心身を鍛え、技能を磨き、政治的活動に関与せず、
強い責任感をもつて専心職務の遂行に当たり、事に臨んでは危険を顧みず、
身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえることを誓います。
服務の宣誓は自衛隊法で
次の宣誓文を記載した宣誓書に署名押印して服務の宣誓を行わなければならない
と第39条ー第42条に決められています。
陸空海幕僚長からそれぞれの要員に賞状が与えられます。
そして、学生の代表が何事かを宣誓した後、
いきなり帽子無げ。
映像ではなく字幕をお楽しみ下さい。
とにかく帽子投げが廃止にならなくて良かったです。
わたしは事前に、廃止にするしないはあえて発表せず、その場の「のり」で
当然のようにやってしまうのではないかと予想していましたが、やはりその通りでした。
「一部の心ない学生のために」一生に一度の行事に水を差せば、
命じた方も命じられた方も後味が悪いだけですからね。
さんざん挨拶でもそのことについて言及したので、
それ以上の責任を罪も無い学生たちに押し付けるのはいかがなものかと思います。
帽子はどうなるのかとコメント欄では騒然となっていましたが、
どうやら後輩が拾って回収するようです。
あとでそれぞれの持ち主のところに返還されますのでご安心下さい。
明日は、この日の安倍総理始め各来賓の挨拶を中心にお送りします。